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#34 公共建築と住宅建築とでは、なぜ断熱性能がこんなに違うのか?(・・・の解決編)!!

さて、前編と後編の2回に渡って、公共建築と住宅建築とでは、なぜ断熱性能がこんなに違うのか?というテーマで書いてみたが、今回はその「解決編」をお届けする。

前回までは、どちらかというと「なぜ?=Why」の部分にフォーカスし、両者の間で起きている分断を中心に書いてきた。
今回はその「解決編」ということで「どうすれば?=How」について掘り下げてみたい。

僕は仕事柄、普段は公共建築と接することの方が圧倒的に多いが、昔から住宅建築も大好き人間なので、両者の間にある分断(断熱だけでなく色々)についてはなんとかできないかな?と思うところも多々あった。
今回「断熱」をキーワードとして、改めて資料を収集したり、文章を書いて感じたのは、思った以上に分断の溝が深くなっているということ・・・再発見(笑)

これは、東京と地方との分断にも良く似た構図のようにも感じるが、これについては、また機会があったら書いてみたい。


解決編に入る前に、まだ読んでない方は、前編と後編を先に読んでおくことをオススメしたい。

必要のない窓やガラスは出来るだけ排除

解決策の一つはガラス面積のコントロールだ。
後編を読んでもらった方は気づいてもらえたと思うが、窓という機能の主たる目的から逸脱した、デザイン優先のサッシやガラスは極力減らした方が良い。

こと、断熱性能だけを考えるのならば、窓のない建築が一番性能値が高いのは言うまでもないが、そういうことではない。
僕が言いたいのは、過剰なまでのガラスデザインは、ある意味では設計者のエゴイズムであり、発注者やユーザーにはそれほど求められていないというギャップの存在である。
そのことに設計者も気づいて欲しい。
窓(ガラス)と断熱性能は完全にトレードオフの関係にあるから、闇雲にガラスを多用するのではなく、建物全体の断熱性能からしっかりとバックキャストしながら、建築計画を進めていける設計技術こそ、これからの世の中に求められる職能である。

ガラスを使わなければ、カッコいい建築デザインができない?
ロジック的には分かっていても、確かにガラスの少ない建築は派手さに欠けるし、デザイン面での制約も受けるだろう。
ただ、これを両立できてこそ、有能な建築デザイナー(設計者)だと思う。

断熱を一生懸命頑張っている建築はなんだかカッコ悪い?
カッコ悪いのは、そんな建築を設計している建築家の方だ!!

時代は常に変化しているのである。

収益性を前提とした商業施設や絶景のパノラマビューを楽しむ建築ならともかく、少なくとも通常使用に供される一般的な公共建築において、過剰なまでのガラスデザインは必要ないと断言しておく。
とにかく、ガラス好きの建築家(設計者)に、発注者(行政)は気をつけた方が身のためである。

樹脂サッシを公共建築に使ってみる

さて、ここからはもう少し技術的な内容について触れていく。

後編で、ビル系サッシと住宅系サッシの体系の違いについて書いたが、ビル系サッシには未だオール樹脂サッシという商品は登場していない。

ではどうするか?

先に答えを書くが、公共建築に住宅系サッシを使えば良いのである。

ただ、これについては前編でも触れたように、設計者のフィールドの違いや業界の棲み分けによって、まだまだ実例としては少ないし、その有用性について認知もされていないのが現実である。

現在では、公共建築のバイブルともなっている国土交通省大臣官房官庁営繕部発刊の「公共建築工事標準仕様書」にも樹脂サッシはしっかり明記されているし、真正面から使えるのに、実際に使う人はまだまだ少ないというのが実情である。

公共建築工事標準仕様書にも樹脂サッシは載っている

確かに、ビル系サッシと住宅系サッシでは作法の違いというか、ラインナップも違いがあり、注意を要する部分も多いが低層建築(しかも木造ならなお良し)であれば十分に代替が効く。
サイズをミリ単位でオーダーメイドできなかったり(→サイズの規格が決まっている)、複雑な開閉構造のものが少なかったり(→例えば排煙窓)、防火性能が弱かったり、といったハードルはあるものの、設計の時からちゃんと両者の違いを理解しておけば、なんら困ることなく使用可能である。

ビル系設計者があまり見ない住宅系サッシのカタログ(YKK APカタログ)
住宅系サッシのトップページには断熱性能のことが記されている(YKK APカタログ)
サッシ自体ではなくガラスの断熱性能しか触れていないビル系サッシ(YKK APカタログ)

ビル系サッシのカタログを眺めていても、住宅サッシのような断熱性は全く書かれていないし、これほど断熱性能が違うことに、多くの設計者は気づいてもいない気もする。
知らないというのが一番の罪である。

アルミサッシと樹脂サッシの断熱性能の差は歴然としている

コストをどうコントロールする?

そもそもLowーE(熱移動を抑制する特殊な金属膜)入りのペアガラスでも相当に高価なのに、トリプルガラスなんてコスト的に使えるわけないでしょ?
こんな反論が聞こえてきそうである。

では、実際のとこどうなのか?

確かにガラスだけを捉えてみると、Low-Eのペアガラスより、LowーEのトリプルガラスの方が高いに決まっているが、サッシを含めて考えると、そのコストは完全にかつ圧倒的に逆転する。
後編でも触れたが、そもそもサッシの製造工程や施工体系が違っており、ビル系サッシに比べ住宅系サッシは、ずっと安価である。
同じ商品で比較することはできないが、窓に要するコストはおそらく数分の1程度まで抑えられるし、施工の手間も圧倒的に住宅サッシの方に軍配が上がる。

仮に、ビル系サッシを住宅系サッシに全て代替したとすれば、建築コスト全体に占めるサッシの比率はグンと下げられるはずだ。
その浮いたコストでトリプルガラスを使うことなんて造作もないし、余ったお金はふんだんに断熱材に使うこともできる。
さらに、全体の断熱性能が飛躍的に高くなるから、エアコンのサイズダウンも可能である。

住宅用の樹脂サッシ(+トリプルガラス)を使い、外壁や天井までしっかり断熱してやれば、空調のサイズ(馬力)を半分くらいに落としても十分な能力を発揮するし、できた建築は超高性能な省エネ建築となり、ランニングコストも相当に下がるはずだ。

住宅用の樹脂サッシを使えば、そんなコストコントロールも難しくない。

耐候性や耐久性などのことを理由に樹脂サッシに難癖をつけそうな人も現れそうだが、多くの公共建築では代替も可能なはずだ。

ガラスを多用したカッコいいけどペラペラな建築と、そんな省エネ建築と、どっちがこれからの世の中に求められているかは一目瞭然である。

繰り返し言うが、そういった制約の中でも良質なデザインができる設計者こそ有能な建築デザイナー(設計者)だと僕は信じている。

窓に要するコストを下げれば断熱を増やすことは造作もない

情報の非対称性を出来るだけ埋める

こんなにお得な話で、道理が通った話なのに、なぜそうならないのか?

前編でも書いたが、結局のところ情報の非対称性が発生していることに尽きるのではないかと感じている。

ガラスを多用する建築デザインは、こんなに省エネが叫ばれる時代であってもまだまだ主流だし、本気で省エネ建築を追求する設計者もほとんどいない。
現状の省エネ基準は、ガラスを多用した建築(アルミサッシ+Low-Eペアガラスくらい)でも十分にクリアできるようになっているし、意匠系設計者が設備系設計者より上位に立っているという構造も変わらない。
建築雑誌を見ても、ガラスを多用した建築で溢れている。
(見るだけなら僕も好きであるw)

とするならば、やはり発注者である公務員(特に建築系公務員や設備系公務員)がこれらの情報をしっかり身につけていくことが最も効果的な道であると考える。
業界の分業化が進み、公務員の技術レベルも年々低下傾向にあるが、しっかりとしたインプット活動をしておかなければ、後世に負の遺産を残すことになりかねない。
このあたり、役所の中における標準仕様の見直しなども含めて、自分ごととして捉え、有益な情報をしっかりとキャッチしておく必要があるのではなかろうか。

でも、何から始めたら良いか分からない?
そんな人にうってつけのセミナーがあるので、最後にお知らせを。

絶対に聞くべきセミナーですよ

5月15日(水)の21:00〜22:30に「あなたの町の「公共施設」キチンと、服着てますか?」という内容のオンラインセミナーをNPO自治経営の主催により開催します。
講師には、長野県庁舎ZEB化にアドバイザーとして関わり、ドイツや日本で最先端の省エネ建築に取り組まれている金田真聡さんをお迎えし、各地で公共FM に取り組んでいるNPO法人自治経営のメンバーが本音で語ります。
目指したいのは、役所の中でZEBの計算とかを内製化できる仕組みです。


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