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さくら、咲く

バイト先からは満開の桜を観ることができます。
雅な建物と咲き誇る桜、こういう景色を待っていました。

土産物屋では、桜のキーホルダーなどが入荷して桜コーナーができあがり、お店の一角も さくら色一色です。

そのせいかお客様は、桜よりお店の品物に興味があるようで、桜の写真を撮るよりお買い物に夢中です

さて、満開の桜の下、アジア系のお客様がいらっしゃいました。

彼女は桜のデザインがトンボ玉に描かれたキーホルダーを手にとって「これの赤がほしい」と仰いました。

こちらは桜のデザインなので、赤はありませんと答えました。

彼女は「私は赤が好きなの、このデザインに赤はないの?」と聞いてきました

通じてなかったのかしら?

なので「これは桜の花のデザインです。
桜の花はピンクです。
なので、このデザインもピンクしかありません」と
満開の桜の木を指さしながら、拙い英語で説明しました。

お客様は「赤はないのね?こっちも赤はないの?」と別の桜のキーホルダーを指さします

「うーん、桜はピンクのデザインなんで、赤は・・・・作ってないですね」そう答えました

拙い英語が伝わってなかったでしょうか
それとも桜はピンク色という概念がないのでしょうか。
もしかしたらそもそも桜に興味がないのでしょうか

桜のキーホルダーをみて"赤がほしい"と言われるのは、なかなかビックリな出来事でしたが
「桜だからピンク」とは、
お客様にピンと来なかったでしょうか

午後になって、小さな女の子が桜のキーホルダーを手に近づいてきました。

彼女は、こちらがしゃがみこんで ちょうど目線が合うくらいのご年齢です。

黒い髪と黒いクリクリの瞳をしていて、小さな手でピンク色のキーホルダーを差し出してきました

キーホルダーはピンクの台紙ごと袋に入ったもので、彼女はそれをお皿のようにして、その上に道で拾ったらしき桜の花を1輪乗せていました。

桜のキーホルダーの上に本物の桜の花を添えて渡してくるなんてかわいいし素敵だなぁと思っていると、彼女の後ろからついてきたご両親らしき男女の女性が彼女に何か言いました

小さなお客様はその声を聞いて、慌ててこちらが持ったキーホルダーの上の桜を左手で大切そうにそーっとつまみ、右手でポケットから千円を取り出して渡してきました

小さな左手は小さなピンクの桜の花から出ている茎をつまんでいました

「ありがとうございます。400円ですので、お釣りは600円です」と伝え

しゃがんだまま小銭を取り出し、小さな手の平に500円玉を乗せ、その上に100円玉を乗せ、少し彼女の指を触って軽くコインを握っていただきました。

小さなお客様は後ろの母親らしき女性に振りかえりお金をわたしました。女性は小さなお客様に「アリガト」と日本語を交え何か言いました。お礼を言うのよ、というような言葉を(外国語で)言ったのだとおもいます

小さなお客様はこちらを向き、言われたとおりに「アリガト」と言ってキーホルダーを受け取ると、右手にギュッと握り、左手には桜の花を優しく持って、もう一度母親らしき女性に振り向きました。

女性の隣には父親らしき男性がいて、そのお二人もこちらに向かって「アリガト」「アリガト」とそれぞれ頭をさげ、小さなお客様と一緒に桜の景色の中に溶け込んでいきました。

小さなお客様にとって、この空気が変わるほどに咲き誇る桜と ご両親がいる景色と、あのキーホルダーが、子供の頃の懐かしい思い出になりますように

ニコニコしながら小さなお客様たちを見送ると、隣のお店のパートさんが声をかけてきました

「お疲れ様です。桜、すごいねー。
外国人は花よりダンゴだけどっ!」あはははは

ほんと、今年の桜もきれいですね








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