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イラッとして、反省して、感謝して

お客様に多いのは中国語を喋る方々。
中国本土の方なのか、香港なのか、台湾のお客様なのかもしれません。

バイトを始めて数日目、接客したくないと思ったのは この中国語を話す団体のお客様。

それぞれに我 先にと腕や服を引っ張り、計算中にも そのカゴの上に別のお客さんが商品をガサっと積み上げてきて悪びれることなく、結果、どれがどのお客様の商品なのか混ざってわからなくなってしまう

品物を見ては"新しいものと取り替えて欲しい"と言い、倉庫から探して持っていくと、中と箱を確認して、箱が少し潰れていたとしても別の新しいのを持ってきてくれと言い、持っていくとやっぱりいらないと言ったりもする。

なので、中国語を話すお客様を対応することになると、当たりが悪かったなとがっかりしていました

ある日、中国語を喋る女性に当たりました
・・今日は運が悪いと思いました。

彼女は落ち着いた印象で、たくさんのお客様から離れたところに1人ポツンと立っていました。

彼女は少し大きめの招き猫が欲しいと簡単な英語で話してきたので、陶器の招き猫を倉庫に急いで取りに行きました

中国語を喋るお客様の中には早く持っていかないと怒る方や、腕時計を人差し指で叩きながら『時間がない』と騒ぎ出す方も少なくないからです。

戻って彼女に手渡し金額を伝えようとメモをポケットから取り出そうとすると、メモと一緒にペンと計算機も一緒に飛び出し床に落ちてしまいました

早く箱から出して中の招き猫を見せなきゃいけない。『Sorry!』と謝ってすぐに拾おうとしゃがみ込むと、彼女はゆっくりと『イッツオッケー、イッツオッケー。アーユーオーライ?』と言って、しゃがんでいる私の背中をポンポンと叩いてきました。

彼女は、ポンポンと背中を叩きながらもう一度同じ言葉を言ってきました。

大丈夫よ、大丈夫。
それよりあなたは大丈夫?

なんでしょう?

なぜかわからないのだけれど
しゃがんで下を向いたまま涙が出そうになりました。

お客様は絶え間なく、急いでも急いでも。
何度も何度も持っていっても"これじゃないのをみせて"と言われ、残ったものを積み上げてはまた倉庫に戻す。
エラー、エラー、またエラー、そんな気持ちになっていたからかもしれません
彼女の言葉にほっとしたのかもしれません

高まった気持ちをグッと我慢して『大丈夫です』と答え小物をポケットに入れた後、招き猫を箱から出したのですが、彼女はそれを受け取ることも、じっくり見て確認することもしませんでした。

中国語を喋るお客様はみんなひっ掴むように手にとって、商品に顔を近づけ細かくチェックして、表面をこすったり叩いたり、時には爪でひっかいたり、品定めをします。

彼女は確実に中国語を喋っているお客様でしたから
似たようなことをすると思っていました。

そうするはずだと思っていました。

彼女はただ、私が持つ招き猫をみて『ありがとう、いただくわ、ありがとう』とゆっくり言いました。

そしてこちらの目を見て『あなたは疲れてない?大丈夫?』と心配顔で言ってきました。

びっくりしました。
そして、その瞬間、この人は違うんだと気が付きました。
そう思うと、すぅーっと肩の力が抜けてきました。

すると彼女は招き猫の箱ではなく、私を軽く抱きしめるように大きく両手を広げて『大丈夫よ、大丈夫だから。あなたはとても疲れてみえる。あなたは元気?大丈夫?』と、ふわっと抱きしめてくれました。

なんだかすーっと呼吸が楽になりました。
そして申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

ごめんなさい、ごめんなさい。
中国語を喋ってる人みんなを色眼鏡でみて、身構えて、今日は当たりが悪いなんて思いながら接客してました。

あたたかな彼女にふんわりと包まれながら
心の中で、何度も何度も彼女に謝りました。

彼女は体を離し『(お釣りは)急がなくても平気よ』とお金を渡してきました。

そして・・
彼女を見送った後は、救われた気がしていました。

バイトを始めて張り切りすぎていたんだ、もっと肩の力を抜いていいし、もっとゆっくりでも構わないんだ

あの日が過ぎて数日
中国語が喋れたら、どれたけ感謝の言葉を彼女に伝えられただろう?と考えます

中国語を喋るお客様たちに嫌気がさしてきていた時に、中国語を喋るお客様に助けていただいて、癒やしていただきました。

中国語を喋るお客様の中には大変な人も多いけど、あたたかな人もいる、困ることもあるけど癒やされることもある、一括りではない

あの日から、文化の違う中国語を話すお客様の接客が苦ではなくなりました。

どこの誰かわからない彼女に感謝です。



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