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日記:トーストを読む

日曜日。ドトールで小説を読む。石坂洋次郎「金の糸・銀の糸」注文したクロックムッシュが出来上がるまでの時間に本を開いて、気づく。本がずいぶん茶色い。寝る前のベッドで小さな電球をつけて読むことが多いから気にしていなかった。昭和55年12月15日・第4刷。もうすぐ40年経つ。表紙の下の方が緑色になっている。カビ。ベッドの下にしまいっぱなしだったから。「番号札1番でクロックムッシュをご注文のお客様」店員の声がする。受け取って席に戻る。机の上にクロックムッシュとその横に小説。似ている。クロックムッシュと小説の見た目が。一番茶色くなっているページの外側は、クロックムッシュの耳のよう。サイズと厚さも同じくらい。なんだか小説は美味しそうに、クロックムッシュは文学の匂いが濃くなったような気がした。本の主人公、加奈子と民子が、矢口と坂本(ボーイフレンド。付き合ってはいない)と一緒に散歩に出かける。木陰で休んでいる時、加奈子の和服の中、背中の方に山蟻が一匹入る。悲鳴をあげた加奈子の背中に腕を差し入れて山蟻を取る坂本。坂本は蟻に言う。「こら、お前ご婦人の身体に侵入して、人間だったらワイセツ不法侵入罪に問われるところだぞ。生かしてやるから、こんど加奈子さんの身体に入るんだったら、背中でなく、胸の方にもぐりこむんだな。そこだと山あり谷あり、お前も散歩のしがいがあるというものだ・・・」加奈子と坂本、民子と矢口はそれぞれ別々の場所で休んでいたから、悲鳴を聞いた矢口が何かあったのかとたずねる。坂本は加奈子の背中に手を入れて山蟻を取ってあげたこと、加奈子は坂本が背中でなく胸の方にしろと蟻に訓戒したことを話す。しばらく沈黙がある。矢口「おい坂本、お前ンとことおれンとこと場所を変えたいんだが」坂本「なんでだ?」矢口「オレ達ンとこには、山蟻が一匹もいないんだよ」何度読み返しても良い。(メモ:喫茶フッコでジャバ・ロブスターを飲みながら書いた)

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