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なんかワキワキする(漲るやる気)

年明けから色々ありすぎてモンヤリとした何かが体に重くのしかかっていた。
逃げるように雪かきしたり薪運んだりしてとりあえず生きることに集中したら多少解消されたけど、タスクが減ってるわけじゃない。ニュースは胸が痛くなるようなことや怒りが湧いてくるようなことが多くて直視できないし、目の前はツルツル路面での事故で大渋滞だし、ボイラーは壊れて水は出ないし冬の燃料の在庫は無いし入金が無いのに出費が続く。
なんか今日の午後くらいから一周回ってやる気が出てきた。うむ、ある程度落ちるところまで落ちてきがすんだようだ。私の人生に比較的短期スパンで何回も訪れるモラトリアム。そろそろリズムとパターンもつかめてきたぞ。

実はこんなさなかにも良い出会いがいっぱいあったのだ。
ひとつは、「自分がやりたいこと」が明確になったこと。ひとりひとりの「人間」にフォーカスしてその人が属する地域の魅力を代弁させたい。これって、一つのサンプルを全体に当て嵌めようとする悪手にも成りうるけど、そうならないように、「こんな人を育んだ器」という側面を拾い上げたいのだ。私は狭い穴から広い世界を見たいのだ。広い世界を攫って一般論を追求したいのではない。それを確信した。

あと、私は最新テクノロジーとか、合理的で便利な道具やシステムが大好きだけど、それを使いこなせなくてよいと思ってる。むしろ、うまく使えないながらも工夫してどうにかしている人たちが好きだ。
今日、私がアルバイトをしている小さな個人事業所の上司(70歳近い)からLINE電話が来て、急遽いろいろとお仕事を頼まれた。この事業所はどちらかと言うとガテン系の事業内容で、今もFAXと手書きの紙書類が主流の業界である。フィジカルが非常に優れているその上司は、先代の急逝に伴って完全男社会で様々な格差と牽制が蔓延る中、女だてらに裸一貫からこの会社を支えてきた。
そんな上司のご家庭に不幸があり、書類などを私が代行で準備することになった。書類は上司のメールに添付されているのだが、上司はメールの転送の仕方がわからない。一生懸命私にメールボックスのデザインを教えてくれ、どこを押せばよいのか、と聞いてくる。

私「もしよろしければビデオ通話にしてください。画面を見ながら私が誘導します。」
上司「あらそう?ほんとに悪いわね…うーん。」
私「…(さてはビデオ通話の仕方分からないな)」
上司(娘さんが教えてくれた模様)「これだ。これだ。」ポチッ
私「ありがとうございます…って、うっ!!!(画面に押し当てているらしい上司の耳と髪の毛が見える)…(なんて言って誘導すればいいんだ…まずは画面を放してください、かな…?????)」
スマートフォンを一生懸命耳に押し当てて慣れないノートパソコンを開いてる上司の姿が想像出来て、焦りながらもフフフ、とほんわかしてくる。
上司「あ‼色々押してたら”転送”ってでてきた!」
私「良かったです!じゃ、紙飛行機マークをクリックしてそのまま私に送ってください。」
上司「えい!あら?宛先が空です、だって。」
私「あ、はい、私のメールアドレスLINEに送るので、それコピーして…」
上司「えー。今電話してるからLINE見れないから無理無理。メアド教えて。」
私「あ、はい。じゃ、全部小文字で…」

結局私は「データのデー、エレファントのイー、」とメールアドレスを一文字ずつ読み上げた。色々バタバタしたが、無事書類は私のもとに届いた。

私はこのやり取りが愛おしい。上司が近くにいるであろう娘さんを頼ろうとせず、自分のわかる範囲と手法で一生懸命課題を解決しようとしているのだ。私はこの会社でスケジュールや予約の受付をもっと効率的に管理するスキルや、情報を共有するスキルを持っているけど、それを実行するとこの上司の仕事を取り上げるだけでなく、彼女の把握能力すらも奪ってしまうことになる。

だから、予約が入るたびに紙に書いたスケジュールと照らし合わせ、その顧客のファイルを取り出し、進捗を確かめ、必要な配車を回し、契約しているアルバイト個々人にいちいち電話で連絡を取る上司のやり方に倣っている。

今まで散々大きな組織で働いては非効率だ、理不尽だ、非合理的で本末転倒だと騒ぎ立ててきた私がなんでこんなにここでは心穏やかに働けているのだろう、と自分でも不思議だ。…でもそれは多分上司個人の顔が見えていて、経験と思慮に基づく方法論が理論的だから。「人」を入れ替えた時にその方法論は突然無用の長物と化してしまうのだけど、私のこの上司には一番ベストな方法で回ってて、そのために仕事をしている上司が生き生きとしているから、私は嬉しいのだと思う。

様々な業務の引継ぎが一通り終わった。
上司「じゃ、よろしくお願いします。ほんとに助かるわー。おやすみなさい」
私「はい、承知しました。大丈夫です。おやすみなさい」
上司「…」
私「…」
上司からかかってきた電話で、上司が切るのを待つのが礼儀かな、と私の頭をよぎったので挨拶後も少し間をおいて黙っていると、
上司「あのね、切り方わからないから先に切ってくれる?ごめんねー」
私「あ、はい、かしこまりました!それでは!」

多分画面がビデオ通話のままになってたから切り方がわからなくなってしまったのだろう。
上司の幼少時代には電話も各家に備わっているわけではなく、よく近所のお宅へ電話の言伝に走ったりしていたらしい。テレビがカラーになった時も嬉しくて家族でお祝いしたそうだ。
ビデオやファクスが家庭に入ってきたときにはびっくりしたし、教育職に就いていた時にはワープロで主に仕事をしていたらしい。

そんな世代の先輩が急遽事業を引き継ぐことになってパソコンを一から習得し、スマホを持ち、業務をやりくりしている。独自の事務処理だから色々と不便なことや融通が利かないことも多いのに、上司はお客様から人気があって、細々とではあるが仕事が続いている。ひとえに、飾らない一生懸命な上司の人柄が、便利な機器はつかえなくても「わかりやすい」と安心できる雰囲気を伝えているからだと思う。

私が求めていた合理性や納得感が、人柄に依拠していたのだな、と初めて気づく。私も無理難題を今まで働いて来た大きな会社に要求してきていたのだな、と反省し、やはりフフフ、とほんわかしてしまった。

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