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CBC⑭「全部やらなきゃお父さんが壊れちゃう」

僕がするカウンセリングの型の1つに『小野田さんを迎えにいく』というものがあります。

あの小野田少尉です。第二次世界大戦後、29年間に渡りフィリピン・ルバング島で孤独な戦闘を続けていた小野田さんです。

あなたの中にも、もう『戦争』は終わっているのに、何十年もそのことを受け入れずに、一人戦い続けている自分がいるかもしれない。そんな自分を迎えに行く。僕はそのお手伝いをしたいのです。

※若い人にはまったくわからない例えでごめんね。僕も全然世代ではありませんが

何年も前の話です。コーチングスクールでのデモンストレーション。その日のクライアントはマリちゃんという女性。自分のチームを率いて、国内外で活躍するスーパーコーチ。底抜けに明るくて、前向き。そして、どんな問題でもとことん受容的に関われるコーチです。

そんな彼女の相談は「あれもこれもとやりすぎてしまうこと」でした。やれることは全てやらねば!と思っていて、とにかく予定がパンパンになる。そして時間が足りない。。。余裕がない。。。

僕は最初に、彼女の状態を可視化することを提案しました。だから、仕事とプライベートで

・いま取り組んでいる案件
・それ以外に、やりたい/やれたほうがいいと思っていること

を付箋に一件一枚でドンドン書き出してもらいました。細かいものも出してもらったので、なかなかのボリュームでした。

そこから
①自分が何に時間を使っているのは洗い出して見える化
②それ以外にやりたい/やれたらと考えていることの見える化
③人生や仕事の大目的と短期目標(この1年、この3ヶ月など)の見える化
④目的や目標に基づいて、何をやるか、やめるかを取捨選択
⑤やろうと思うものでも、タイミングの後ろ倒しを検討
⑥自分でやるのではなく、人に任せることができるものがないか検討

のようなプロセスを経て、彼女に身軽になってもらいたいと思っていたのです。

いつでもパンパンな人生も充実感があって良いかもしれません。けれど、本当にやりたいことをやりたい水準でやれなくなるなら勿体ない。自分に余裕がなくて、自分の状態がいまいちになるのも勿体ない。

だから、大目的を明確にして、仕事もプライベートも本当に大切なことに、余裕をもってしっかり取り組めるようになって欲しいのです。

さてこの後、プロセスは③まで終わり、あらためて『今やってること/本当はさらにやりたいこと』の膨大なリストを見ている彼女に、僕は問いかけました。

僕「目的に照らし合わせたら、やらなくてもいいものもあるんじゃない?」
彼女「うーん。。。。全部必要ですね」
僕「本当に?」
彼女「。。。。。どれも外せません」
僕「全部いまあなたが、やらなきゃいけないの?」
彼女「。。。。。どれもやらなきゃいけないこと。。。ですね」

コーチがよくする質問に「それは、やりたいの?それともやるべきと思っているの」があります。(『たいべき質問』とでも覚えてください!)

人は、他者からの期待や、自らの思い込みから生まれた「やるべき案件」のためにエネルギーを費やしてしますことがある。

コーチは「べき」を全否定はしませんが、「べき」のために「たい」が犠牲になるのは勿体ないと思っているのです。

やりたいことをやる。だからこそクライアントの人生に喜びがあるわけです。

そして、そう生きることがクライアントにとっても、社会にとっても意味があることだと思っています。

マリちゃんだって、自分のクライアントに対しては「やりたいことをやろう!まずはそれを優先しよう!」と言っているはずです

僕「やらなきゃいけない。。。と思ってる。。。」
彼女「はい。。。。」
僕「ねぇマリちゃん。。。あなたはいつから、全部やらなきゃいけない。。。って思ってるのかしら。。。」
彼女「うーん。。。。。昔から。。。かな」
僕「昔。。。。いくつくらいから、かな。。。。だって。。。生まれたときは、そんなこと考えてなかったはずだから。。。。」
彼女「うーん。。。。。小学校に入ったら、そんな感じだった」
僕「そうなんだ。。。どんな思い出があるかな。。。小学校1年生の頃。。。。全部やらなきゃって、思った自分。。。。」

※いまさらですが、僕が書くスクリプトの「。。。。」は『間』の部分です。クライアントが内面を探索するのには、この『間』というやつが極めて重要です

自分の内側を探っていた彼女が、とつぜん何かを思い出しました。

彼女「1年生の頃、とにかく一生懸命宿題をやっていた。。。。」
僕「そっか。。。。何があって、そうなったんだろうねぇ。。。。」
彼女「。。。。。。あ。。。。。。」
僕「何を思い出した?」
彼女「お父さんに怒られた。。。びっくりするくらい」

NLPにReimprinting(再刷り込み)と言われるワークがあります。自分の思い込み(この場合だと「全て自分でやらねば」)が刷り込まれた出来事まで遡り、その思い込みを別のものへと再刷り込みするのです。

そのために、この件でいえば「全部やらなきゃ」という強迫感のような感情、それを手がかりに過去へと遡り、最初にそんな風に考えるきっかけになった出来事を特定していくのです。

マリちゃんのケースも核心に迫ってきました。

僕「椅子を二つ置いてみよう。怒っているお父さんと、怒られているマリ
ちゃん。そのときの二人の状態を椅子で表現してみて」
彼女「。。。。。。。。」

椅子が配置されたので、それを見ながら、ぼくは質問します

僕「お父さんどんな風に起こってる?」
彼女「狂ったように。。。。お父さん壊れちゃったんじゃないか、と心配になるくらい」
僕「あら。それはびっくりしたね。。。何をそんなに怒ってたの」
彼女「わたしが、帰ってきても宿題をやらずに、遊んでいたから。それで」

うーん。小学校1年生の子が帰ってきて遊んでいたからといって、狂ったように。。。お父さんの内側では何が起こっていたんだろう

僕「では、お父さんの椅子に座って」
彼女「はい。。。」
僕「いまからちょっと頑張ってもらいますよ」
彼女「。。。。はい」
僕「あのときのお父さんみたいに、狂ったように怒ってみせてください」
彼女「。。。。。。」
僕「お父さんは何て怒ってました?」
彼女「なんで宿題をせずに遊んでるんだ」
僕「あとは」
彼女「そんなんじゃろくな大人になれない」
僕「あとは」
彼女「なんでそんなにいい加減なんだ」
僕「オーケー。まずはそのくらいセリフがあればいいので、今度はあの時みたいに怒鳴りながら言ってみて。僕がストップをかけるまで。セリフが出てこなくなったら同じセリフの繰り返しでもいいので」
彼女(父)「。。。。。。なんで!!!なんで宿題もせずに遊んでるんだ!!!!」

マリちゃんは本気でやってくれました。良かったです。これはお父さんの「気持ち」を理解したくてやっているのです。相手の気持ちを理解するには相手と同じことを同じようにしてみるのが有効です。コーチがするカウンセリング⑩の「僕がYouTubeコメントに凹んだ話」も参考にどうぞ

彼女(父)「そんなんじゃ、ろくな大人になれない!!!!!なんでなんだ!!!なんで、そんなに!!。。。いい加減なんだ!!!!」
僕「そのままのエネルギーを保って。。。。。叫んでいる感覚を感じ続けながら。。。。。。お父さん!!!!お父さんはホントウは何を言いたいの???」
彼女(父)「。。。。。。」
僕「お前はろくな大人になれない!って言いたいわけじゃないでしょ?」
彼女(父)「。。。。。やってみなさい!!!。。。算数は苦手かもしれないけど。。。。」
僕「けど。。。。」
彼女(父)「まずはやってみて欲しい。。。。。」
僕「どうして?」
彼女(父)「やってみなきゃわからないから」
僕「どういうことですか?」
彼女(父)「まりこは、苦手意識をもっているからやらないで遊んでいるのかもしれないけど、やってみたら案外できるようになるかもしれない」
僕「そっか。。。。お父さん。さっきまで大きな声でそれを伝えようとしていましたが。。。そのエネルギーはどこから出てきたのかしら。。。なにがあそこまで激しく。。。。」
彼女(父)「。。。。おれは。。。学校に行けなかったから。。。。」

まりちゃんのお父さんは家業を継ぐために、義務教育が終わるとすぐに修行の道に入ったそうです。ベテランの職人に負けないように仕事に励む毎日。そして5代目を継いでからから何十年、80をとうに過ぎた今でも同じスタイルで朝から現場に立ち続けています。

だからこそ。娘には広い世界を体験してほしかった。そんな想いが背景にあったのです。


僕「。。。。。お父さんはまりちゃんにどんな大人になってもらいたいのかしら。。。」
彼女(父)「いろんなことを試して。。。。そこから自分に向いていることに出会って。。。。」
僕「出会って?」
彼女(父)「。。。。。多くの人の役に立てるような人物になって欲しい」
僕「。。。。。どうして、まりちゃんに、それを期待するのですか」
彼女(父)「。。。。この子は明るくて。。。この子がいると、みんな笑顔になる。。。。。だから」
僕「。。。。。。」
彼女(父)「。。。。。」
僕「この子が持っているものを活かして、世の中の役にたって欲しい。。。。」
彼女(父)「。。。はい」


昭和のお父さんって不器用な人多いですよね。(令和のお父さんも同じかもしれませんが)

帰ってきて子どもが宿題やらずに遊んでいても

「楽しそうだね、何やってるの?」
「宿題は終わった?」
「まだなんだね。いつやろうと思ってるの?」
「そっか算数苦手で、あんまりやる気が起きないのか」
「お父さんも手伝ってもいいから、ちょっとやってみない?」
「お父さんも苦手だったけど、やれようになったらきっと面白くなるから」

みたいに関わったら、いいのかもしれないのに。

そしてどこかのタイミングで
「お父さんはね。まりちゃんに、とっても期待してるんだよ。まりちゃんと話すとみんな笑顔になるし、元気になる。だから、まりちゃんが大きくなったら、どんな素敵な大人になるんだろう。って思ってる。だからね、これからもいろんなことにチャレンジしてみて欲しい。そうやっているうちに、きっと自分が本当に好きなものに出会えるから。自分が本当に好きなものに出会えて、それで誰かを喜んでもらうこと。それが一番幸せなことだとお父さんは思うんだ」

とか言ってみるのはどうだろう。

若くして家業のため職人の道に入ったお父さん。最初から楽しいことばかりじゃなかっただろうけど、やっているうちに、やり甲斐に気づき、自分の仕事の素晴らしさを理解したのだと思います。そんなお父さんがこう言ってくれたら説得力がある(実は彼女のお父さんはプロ中のプロで、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』で取り上げられたこともあります)

さて、

まりちゃんの中にも「小野田さん」がいたのです。小学校の「お父さんが壊れそう事件」からずっと。もう戦争は終わっているのに(そもそも戦争でもなかったのに)。ずっと歯を食いしばって「欲しがりません!勝つまでは!」みたいに、頑張っている。周りの人のちょっとした不安や苛立ちが、空襲警報のように、彼女を緊張させ「もっと完璧にやろう。じゃないと大切な人がおかしくなっちゃうかも知れない」と駆り立ててきたのです。

ちょっと大袈裟な書き方になりましたが。。。

昔の辛かった体験。そんな思いを二度としないために、私たちは自分にルールを課すのです。(脳科学の発展によって、私たちの脳は、子ども時代のネガティブな体験をさけるようにプログラムされることがわかってきました)

もう、すでに大人になったマリちゃん。大好きな仕事に出会って、それによって多くの人を助け、勇気を与え続けているまりちゃん。それなのに彼女の中にいる「小野田さん」は未だに、鳴ってもいない空襲警報に怯えて、日々「私が全てやりきらないと。。。」と生きていたのです。

だから僕は、彼女と一緒に迎えにきました。

僕「大人になったまりちゃん。コーチであり、クラウンであるマリちゃん。そんなまりちゃんとして、お父さんに伝えましょう」
彼女「はい。。。。」

彼女は背筋を伸ばして、お父さんの椅子に目を向けます

僕「まずは僕がいうセリフを繰り返してみて。。。お父さん!ありがとう」
彼女「。。。。お父さん!ありがとう」
僕「やりたいことが見つかって、たくさんの人に喜ばれています」
彼女「やりたいことが見つかって。。。。。たくさんの人が。。。喜んでくれてるよ。。。。。」

彼女の心が動いています

僕「お父さんの気持ち。よくわかってなかったよ」
彼女「お父さんの気持ち。。。わかってなかった。。。」
僕「でも私。お父さんが願ってくれたように生きてると思う」
彼女「。。。。。。」
僕「違う?」
彼女「。。。。そうだと思います」
僕「お父さんは何て言ってくれそう?」
彼女「嬉しいよ、って。お前が立派に育ってくれて。。。。ちゃんとお前らしく、人の役に立ってる、って。。。」
僕「お父さんは『全部、いま、お前がやらなきゃダメだ!』って言った?」
彼女「言ってません(笑)」

もう一歩です。

僕「じゃあ、今度はあなたの番ですね」
彼女「??」
僕「小学校1年生のまりちゃんを見てください。大好きな人が壊れちゃう!って必死になんでもやろうとしている」
彼女「。。。。。。」
僕「あなたはいつまで彼女にそれをやらせ続けますか?」

われながら厳しい言い方です。でもここで自分に向き合って、再決断して欲しいのです。

しばらくの沈黙。。。。そして

彼女は、子どもの自分の椅子に駆け寄り、泣きながら声をかけました

彼女「怖かったね。。。。大丈夫だよ。。。。お父さんは壊れたりしないよ。。。。大丈夫。。。。一緒にいるから。。。。私いまでも算数得意じゃないけど、一緒にやろう。。。。できるようになるよ。。。これからね。いっぱいいろんなことあるよ。。。最初はちょっと苦手かなって思っても、好きになるものもあるから!!素敵な人にもいっぱい会えるよ。。。だから、一緒に、いろんなことやってみよう」

彼女の内側で、小さな女の子が癒されていくのがわかります。まりちゃんの愛情が、こころの内側から滔々と流れる温かいエネルギーが、幼い自分自身を癒しています。

僕「必要なことが言えたら、言葉を止めて。。。。。そして、ゆっくりと。。。。あの子に必要なことが起こるまで。。。。待っています。。。。この癒しのプロセスが完了するまで。。。。」

しばらくたって、癒しのプロセスが終わったようです。彼女はゆっくりと顔を上げました。

僕「では、伸びをして気持ちを切り替えよう!声を出して!!!あああああ」
彼女「あああああ!」

一緒に気持ち良い伸びをしました。そして

僕「あと2つです。1つ目」
彼女「はい」
僕「今日から何をやめますか?」

彼女は笑いました。
そして改めてたくさんの付箋が貼られて紙を見て、一枚、また一枚と付箋を剥がし始めました。

魔法は解けたのです。

YOさんという昔からのコーチ仲間がいます。彼は日本トップのアスリートコーチです。あるときクライアントから「YOさん。僕にどんな魔法をかけてくれたのですか?」と訊かれたことがあるそうです。

あまりの自分の変わりぶりに驚いての質問だったのでしょう。

YOさんの答えはこうです「魔法なんてかけてませんよ。。。きっとあなたにかかっていた魔法が、解けただけなんじゃないかな」

私たちはそもそも、なんでもできる。何にでもなれる。勇気と知恵と行動力をもった存在なのです。けれども過去の出来事が、自分を制限する魔法を自分にかけてしまう。そしてその魔法が解かれたとき。本来の自分にクライアントは再会するのです。

まりちゃんは付箋を剥がしながら、どんどん輝いていくようでした。

さぁいよいよ最後です。

僕「身軽になった?」
彼女「はい!」
僕「じゃあ。これから小さいまりちゃんと一緒にしたいこと。今度はそれを教えて!!」

まりちゃんの中にいた小野田さんは帰ってきてくれました。その自分と、これから何がしたいのか?

まりちゃん!!
人生の中で、やらずに来たことをやってみよう!それが仮に子どもじみたことであっても!!もしくは今の自分にはちょっと勇気が必要なことでも!!

いろんなことを体験を自分にさせてあげよう!!そのこと自体に価値がある!!
生きているからこそ体験できる、いろんなことを体験してみよう!!
その中から、次にやりたいこと、本当やりたいことに気づくかも知れない!!

そのためにも、自分を身軽な状態にさせてあげよう!!いい状態でいさせてあげよう!!

続く













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