『認知再構成法』をコーチングに応用しよう
コーチングのよく知られたモデルであるGROWモデルは行動を変えることで未来を変えようとしています。
G 理想の未来を描いて
R すでにできていることを明らかにし
O 理想の未来へと続く行動の選択肢を広げ
W 新しい行動を決断する
というように、未来を変えたかったら行動を変えようというアプローチなのです。
ところが「行動を変えたらいい」と分かっていても動けないこともありますね。
今回の記事では、行動ではなくまずは思考パターンから変えてみるというアプローチの解説をします。
SPACEモデルで変化をつくる
知っている方には復習ですが、SPACEモデルというものがあります。これは
S 人間関係
P 身体
A 行動
C 思考
E 感情
の5要素は相互に影響し合っているというモデルです。だから変えやすいところから変えていったらいいのです。
すぐに行動(A)が取れないようなら、人間関係(S)を変えてみる。例えば行動的な友達と一緒に過ごしてみるとか、勇気づけをしてくれるような仲間と繋がってみる。そうしたらその影響で気分(E)が明るくなったり、前向きな思考(C)が生まれて、少しずつ行動(A)が取れるようになる。そうすると「自分にもできる」と思える(C)ようになり、ますます行動的(A)になる。
のような連鎖が起こる可能性がありますね。別に人間関係から変える必要もなく、感情から変えても、思考から変えても、身体から変えてもいいのです。
ということで今回は思考から変えてみるアプローチの中から「認知再構成法」というものをご紹介します
認知再構成法=認知行動療法の技法の一つ。ネガティヴな感情や不適切な行動と関連する認知(思考)を検討し、よりバランスの取れたものにする
認知再構成法の全体像
上図は、会社でランチに自分だけ誘われなかったので、嫌われていると考え(C)落ち込んでいる(E)クライアントに認知再構成法を行うイメージです。
①自動思考 とは、頭の中に勝手に浮かんでくる思考のことです。それらの自動思考の中から、自分の気分を落としたり、適切な行動を取りにくくしている思考を選びます。この場合は「自分は嫌われている」を選びました。
次に
②根拠 です。「自分は嫌われている」と考える根拠となる出来事を探すのです。もちろん何らか根拠があるので、思考が生まれるわけですから、根拠は見つかります。ただこの段階で、案外根拠希薄なことに気づくこともあります
そして
③反証 です。反証というのは仮説「自分は嫌われている」が真実でないことを立証する証拠のことです。「嫌われている」とはいえないような出来事を思い出すということですね。最初はそんなものはないというクライアントもいますが、よく探せばいつでも例外は出てきます。
最後に
④バランス思考 を発見します。根拠と反証の両方を参考にしてよりバランスのとれた考え方をいくつか考えてみます。そしてその中から納得のいくものを発見していくのです。
このようにして、思考(C)が変わると気分(E)がかわり、行動(A)にも影響が生まれ、クライアントをとりまく状況(S)も変わっていきます。時には身体(P)の不調にも好影響がでることもあります
ただし上は中心部分の構造なので、実際のセッションの流れ(構造)はもう少し複雑です。以下の図で確認してみてください
①困っていることをきいて
②そのときの気分(E)を確認
③そのときとる行動(A)と結果を確認
④そのときの自動思考を確認。影響の大きなものを1つ選ぶ
ここまでできたら、さきほど説明したとおり
⑤根拠を明らかにする
⑥反証に気づく
⑦バランス思考の発見
ですね。そのあとは
⑧バランス思考(C)を持つと、気分(E)が変わることの確認
⑨目標(今後の方向性)の設定
⑩新しい行動(A)を決める
このようにして最後は行動まで結びつけています。
※この⑨で目標を設定し⑩で行動を決めるパターンはコーチ用に改変したパターンです。本来の認知行動療法のやり方とは少し異なります
コーチングに慣れている方は、この流れ通りに何度か練習すれば、使えるようになると思います。(最初はセルフコーチングから始めるといいですね)
関連書籍も多数ありますし、ネット上にもたくさんのリソースがありますから、参考にすると良いと思います。
本来は記入用のシートを使ってワークすることが多いのですが、今回はコーチングの流れの中で、質問と傾聴によって、認知再構成をしているパターン(応用例)を紹介します
実践例「やっぱり自分には無理」
クライアントは20代男性。仕事がつまらない。なんとかしたいというのが当初の相談でした。コーチの働きかけで、仕事に関して本当にやりたいことを思い描いてもらったのですが。。。。
クライアントが描いたゴールは、コーチからしたら現実的なものだと思えましたが、クライアントのメガネ(認知)でみると、「自分には無理」という結論になるようでした。
とりあえず、これだけではよくわからないので具体化してみます
「これまでも途中であきらめてきちゃったから、結局できないだろう」は自動思考ですね。そして諦めてきた具体的な出来事が根拠になるわけです
他にもないか探っていきます。発散→収束(たくさん出して、その中から絞ることで質を上げる)はコーチの基本動作です
思考と根拠が混じった形で出てきているのを、コーチは整理しています。
結果として「どうせやらないんだから、(やると)言うだけ恥ずかしい」という考えが影響しているということになりました
標準的な流れとは前後しますが、感情も確認します
思考と感情をおさえたので、根拠へと進みます
何があったから「〜」と思うようになったの?
で根拠となる出来事を聞き出しています。
そして答えが抽象的な場合は「例えば」などつかって具体化していきば良いのです
そして「他には?」という網羅の質問をつかって発散させていきます
認知再構成法の基本形では収束させなくても良いのですが、このケースでは収束させて(1つ選んでもらって)、その上で、次のように展開しました
このように「受験で頑張りきれなかったこと」に根拠を収束させた上で、そのときの状況を具体化することで
・自信がなかった
・どうしたらいいのかわからなかった
という2つの要因を取り出しました。
これはヒットですね。
どうしたらいいかわからなかった→だから頑張れなかった
ということは
どうしたらいいかがわかる→それなら頑張れる
可能性があるからです。HOW(やり方)の問題であるなら、今後のコーチングでゴール達成のやり方を具体的にすることがクライアントの助けになりそうですね
では、つぎに反証にいきましょう
「どうせやらない」というクライアントに反証を探してもらうためにコーチがつくった質問が
「これまで諦めなかったことにはどんなことがありましたか?」です
他にも「最後までやれたことは?」「きめてやれたことは?」「思ったよりやれたことは?」などいろんな質問ができますね
マラソンという結構すごいものが出てきたので、コーチは大きくリアクションしています。このリアクションによって、クライアントの心の状態があがりました。
コーチングを進めていく上で、クライアントの心の状態(E)は大切です。心の状態(E)はクライアントの思考(C)に直結するからです。
当然ですがコーチングにもSPACEモデルが関係しています
1つ出たので、発散にいきます
すぐに出てこなかったので「諦めなかったことは?」→「比較的長く続けたこととかでもいいよ」とハードルを下げています。
これも大切な工夫ですね。おかげでいろいろ出てきました
クライアントは「意味ない(関係ない)」と言っていますが、オンラインゲームは面白そうなので掘り下げました。仲間がいたり、チャレンジしたりがありそうだからです。
そしてさらに発散させたところ、
「こうやって学んでいるのもそうだけど、もっと役に立てる自分になりたい」
クライアントはコーチングなどコミュニケーションを学んでいて僕に出会ったのです。
「もっと役に立てる自分になりたい」とWANTを語ってくれたので、ここを膨らませることにしました
クライアントは「もっと」成長したい、と言っているのです。これはすでに成長していることを示唆しています。
だから「最近の成長を教えて」と関わった上で、今後の成長の方向性(未来)へと展開してみました。
今も成長しているし、これからも成長する
これも「自分は結局やらないんだから、やると言うだけ恥ずかしい」という考え方への反証ですね
そしてクライアントの
「(来年は)もう少し頼られたりしてるといいかな」
の言葉を引き出した上で、
「チームでチャレンジするのは得意」であることを指摘しました。ゲームの話が役に立った瞬間です。
そして畳み掛けるように「やってみたいことはコツコツ続けてきた」と繋げています。この辺りはマラソンの話などもイメージして言っています
準備が整ったので、いよいよバランス思考を作っていきましょう
このケースでは「自分に厳しすぎない?」という質問でしたが、他に僕がよく使うのは
「もう少しフェアな言い方にしてあげて欲しいんだけど」
みたいな言い回しです。さまざまな事実を踏まえて、フェアに考えられるとよいですよね
これはとても僕らしいやりとりです。クライアントの「期間を決めなければやれる」を具体化することを続けながら
「3年スパンくらいで考えたら、やりたいことをコツコツやれる。でいい?」
というところに落とし込みました。クライアントにはそれぞれ取り組みやすい期間というものがあるんですよね。それを探したわけです。
そして最後に
未来予測まで踏まえて、感情の変化を確認できました。
そしてその良い感情でいるためにも「これからは3年くらいコツコツやるイメージでいかない?」とバランス思考をすすめています。
クライアントの同意が取れたので、ここからはまたGROWモデルの路線に戻っていきました。
今回は、認知再構成法のコーチングへの応用をお見せしました。GROW的なコーチングだけでうまくいかない場合に向けて、認知再構成法の練習をしておくとよいと思います。
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