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残業と幽霊と優しさ

私の職場は私が一人で残業することは許されない。

私が残る時は新施設長か事務長かリーダーも必ず残る。

 
前の職場は一人で残業もザラだった。
もしくは他の人も残業で、一緒に帰る日も多かった。
その感覚で10年以上仕事してきた。

だから私のために誰かがあえて残る今の職場のシステムは気を遣った。

 
その日は人手不足の日で仕事は立て込んでいた。
仕事は相変わらずたまる一方だったが
その日の内にやらなければいけない仕事があった。
次の日は振替だったので、なんとしてもやるしかなかった。

新施設長も事務長も予定があって帰り、リーダーが私の残業に付き合っていた。

 
リーダーは体調不良で連日休んでおり、久々に出勤してきたものの、中抜けして点滴をしていた。

せめて定時に帰らせてあげたかったのに、申し訳なくて仕方なかった。
早く仕事をおわさなければ、と焦るほどにミスり、なかなか上手くいかない。
更に、不具合もあり、なかなか思うようにいかなかった。

 
「慌てなくていいよ。俺、待ってるから。」

そう優しく言われるほどに申し訳なかった。

残業が終わり次第、マッハで片付けをして
二人で職場を出た。

 
リーダーは昔、深夜に一人で施設に来て仕事をしたことがあったと教えてくれた。

幽霊が怖い、防犯上怖い、夜一人は怖い、と私が言うと、リーダーは言った。

 
「真咲さん、幽霊は電子なんだよ。」

私は「へ?」となった。
そこからリーダーは幽霊やポルターガイストと言われる現象やなんやかんやは電子の関係だとベラベラ語り出した。

幽霊トークから電子の話になるとは思わず、私は驚いた。
初めて聞く説だった。

 
リーダーは物知りだ。
私は初めて聞いた話に聞き入った。
のちにGoogleで調べると、確かにそんな説もあるらしい。
科学の分野になるのだろうか。リーダーはリアリティ追求型だなぁと思った。

 
「リーダーと真咲さんはいいコンビよね。」

日中保護者から言われた。
確かにリーダーと一緒だと私は仕事がやりやすかった。

 
リーダーは優しい。
気が利いて色々できて、優しくて、冗談が上手くて、それでいて言いにくいことも上に言っていて
すごいなといつも思う。

具合が悪くても機嫌が悪くならず
こうして残業に付き合ってくれて
本当に優しい。

 
だけど、だからといって優しさに甘えてはいけない。

今夜は無理をさせないで帰らせてあげたかった。

 

 
 
あの日から、三ヵ月が経った。

保護者は知らない。
近々、いよいよリーダーの退職が利用者と保護者に発表される。

コンビは解消となるのだ。

 
リーダーがいなくなったら、施設長と残業する日が増えるだろうし、いよいよ一人で残業する日もあるのかもしれない。

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