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「やりたいことはなんですか?」

「書類は一週間以内にあげてください。」

先日、上から言われたが
それがなかなかに難しい。

 
なんせ、それを言われた日がリーダーの退職を言い渡された日でもあるのだ。

上には話していないが
あの日から私は食欲が下がり、熟睡もできず、泣かない日はないくらいに心身ズタボロだ。
毎日定時まで仕事をしたらもう帰りたい。

 
更に、だ。
私の職場は残業しないで帰るようやんわり言われる職場だ。サービス残業が問題視されるからだろう。
それでいて、特別な場合以外は残業代は支払われない。

終わっていない仕事はキチンと上に言うように言われているが(日中時間を作るから、という理由で)
持ち帰り仕事をしていたり、忙しい先輩方を差し置いて言うのはなかなかに勇気のいることだった。
更に、誰かが有給だったり、何らかの用事があると、時間を作ることさえなかなかに難しかったりする。

 
更に言い訳すれば、うちの職場は一人一台パソコンがなく、正職員は一台のパソコンを代わる代わる使わなければいけない。
それがなかなかにネックだ。やりたい時にパソコンが空いていない。

予備のノートパソコンならば何台かあるのだが、たまにしか使わないため、立ち上がりが10分以上かかるのはザラで、立ち上がっても動作がすこぶる遅い。更にこちらはネットが使えないため、できる業務が限られている。

 
「明日は金曜日ですが、書類作成はどうなっていますか?」

上からそう問われ、「今日やろうとしましたがノートパソコンの調子が悪く(他の同僚が同じタイミングでパソコンで仕事していた、とは言えない)、思ったより進まなかったので今夜と明日残業してやります。」と伝えた。

 
上「それで終わりますか?」

私「頑張ります。」

上「そうではなくて、日中時間がほしいですか?」

そりゃほしいが、職員が休むから代わりに送迎に行かなければいけないし
ポスティング作業も残っている。明日は雪予報だ。時間がかかる。今日も雨予報だったが、予想より降り出しは早いし、予想外に雨から雪に変わったしで予定が変わった。
更に、私の仕事は書類作成だけでない。細々とした、やらなければいけないことが山積みだ。

 
そのやりとりを聞いていたリーダーはパソコンを足早に終わらせ、調子がいい方のパソコンを空かしてくれた。ありがたい。

集中してパソコンで仕事をやろうとしたが
リーダーが退職した後、年度はじめにどんな仕事をどんな風に進めていくかを来週にでも話し合おうと上と話し合い始め
そのやりとりが気になったりもした。

 
リーダーは先に帰った。
私がパソコンを使う以上、リーダーは帰るしかない。申し訳ない。

 
リーダーが帰って五分としない内に上が「真咲さん、仕事の邪魔をしていいですか?」と話しかけてきた。
これは上の口癖で、仕事の相談や意見を聞きたい時にこう言う。

 
いや、邪魔をするなよ。明日までに終わらないって。

とは言えず、従うしかない。

 
 
「真咲さんは、来年度何を(どんな業務を)やりたいですか?」

愚問だと思った。

 
リーダーがいなくなり、人事が変わる以上
何をやりたいかではなく
「リーダーや他の同僚がやっていた業務で引き継がなければいけないものでこれとこれがあるんですが
その内のどれをやりたいですか?」の方が妥当ではないか。

リーダーの代わりの人がいつ決まるか分からないし
どんな人が入るかも分からないが
春から課題が見られる利用者が入ったり
送迎希望の利用者が増えることが確定している。

 
今やるべきことは新しいことを始めることではなく
質の低下を防ぐべく、慣れた業務を続投することではないか。
リーダーがいなくなった後、利用者の不穏や保護者の信頼感の低下は想定内なのだから。

 
私「リーダーがいなくなったり、人事異動で皆さんゆとりがないでしょうし、業務は継続でいいのではないでしょうか?」

上「いえ、皆さん大丈夫でしょう。」
 
 
話にならない、と思った。
リーダーの退職の発表時、職員は葬式参列のような暗さがあり、春から常勤になる人は「不安しかない。」とこぼしていたのに。

 
上「真咲さんは委託販売に向いていると思うのですが、どう思いますか?」

最初から委託販売お願いします、と言えばいいのに。
内心そう思った。

 
「委託販売、興味ありますね。」

私はそう返した。
ものづくりをするより、私は散歩やポスティング作業といった野外活動や作業、ダンスや音楽といったレク、下請け作業、運転業務、書類作成がよかった。
 
ものづくり主体の施設で、なるべくならものづくりがしたくない私は
つくづく異端児だと思う。
本当に、退職すべきはリーダーより私なのだと思う。

 
上「では今まで担当していた業務に委託販売もお願いしていいですか?仕事が増えるだけですよ?」

愚問だと再び思った。
リーダーがいなくなる以上、仕事は間違いなく!絶対に!増えるしかないのだ。

 
 
私は逆に振ってみた。

誰がリーダーの跡を継ぐのか、だ。

求人で管理者の資格を持つ人を募集するか尋ねたら、NOだと言われた。
私も同意だ。
ただ、管理者の資格を持っているだけの人では現場リーダーはダメなのだ。
現場や利用者や保護者との信頼関係が築けていないとダメなのだ。

個人的にはそう思う。
どうやら新施設長も同意のようだ。

 
管理者の資格を持っているのは、新施設長、前施設長、私、パートさん。

とりあえずは新施設長が兼務するようだが、今でもハードワークだ。新施設長の心身が心配だ。

もともとは前施設長がリーダーをやっていたし、多分適任なら前施設長なのだが、今は子育ての関係で時短勤務であり、また休みも多い。

パートさんはパートなので常勤にならない限りできない。

 
消去法なら私になる。
私は春から四年目になるし、福祉歴も長く、しかも前の職場では責任者をやっていたのだから。

 
 
「去年新施設長は私にリーダーの仕事に未練はないか尋ねましたよね。逆に新施設長はリーダーの仕事に未練はないと言っていました。」

そう、去年の話では、私はリーダーのサブとして頑張ってほしいと上から言われていたし
私もそう思っていた。

 
正直私はリーダーの仕事が好きだった。
転職してつくづく思う。
私はリーダーが向いていた。

自分なりにやりやすいように工夫して、みんなと協力して進めていくことや
書類作成や
他施設や利用者や保護者や学校との連携役が楽しかった。

 
ものづくりがやりたくて転職したり、福祉職になったわけではない。

 
「でも、リーダーになると、言いたくないことや言いにくいことを言わなければいけないですよね。」

「前の職場は、リーダーになった方は次々に辞めていきました。」

 
上は、配慮してくれているのか。
私がリーダーがいなくなった後に新リーダーになると潰れてしまうと。

実際、リーダーも前施設長からリーダーを引き継いでから二年で退職になってしまったし
リーダーになってから明らかにサービス残業は増えた。
リーダーが夢に踏み出したのは、リーダーになったから、と思わなくはない。

 
実際、私はリーダー業務には興味があるが、すごくやりたいかと言ったらNOだ。

私は前の職場で責任者をやり続けたかったわけだし
今の職場ではリーダーの右腕になりたかっただけだ。

もしも私が最初からリーダーに執着していたならば
転職活動中、様々な施設でリーダーをやらないか声をかけられたわけだし、その時にやっていた。

 
リーダーの跡を継ぎたかったわけではない。
こんな未来を夢見ていたわけではない。

 
 
何故今の職場で働き出したか。

給料を減らしてでも、休日を増やし、残業時間を減らしたかったから。
そして婚活に力を入れたかったから。

直感でここを気に入り
ずっとここで働きたかったわけではない。
条件がよかっただけだ。

 
むしろ三年目に入ってもなお
私はここの仕事が向いているとは思えなかった。

婚活でもそうだが
条件がいい人を好きにはなれない。

むしろ条件で選ぶと、条件が変わった時に冷めてしまうのだ。

 
私はずっと、リーダーがいたから働けた。
リーダーに支えられた。

だからリーダーがいない今、前以上に揺らいでいる。

 
 
新施設長と一時間半話した。

多分だが、今一番揺れているのは新施設長だ。

新施設長は将来事務長となるべくして採用されたのに
成り行きで新施設長になり
成り行きで今度はリーダーも兼務になった。
思い描いていた形とはだいぶ変わってきたはずだ。

どうしていくのがよりよいか頭を悩ませているだろう。

 
人生、思い描いていた形とは違っても上手くいくケースや幸せなケースもあるが
リーダーを失うことは誰にとっても想定外な事態だったはずだ。

 
 
 
結局この日は、今後の仕事について話し合い、書類作成はちっとも進まなかった。

「書類作成は月曜日まででいいですよ。」

上からそう言われたが
一日期限がのびても、やはり厳しいのが本音だった。

 
 
翌日、私は朝早く出勤し、リーダーに書類作成が残業をしても進まなかったと話した。

リーダーは日中私がパソコンができるように職員体制を考えてくれた。
その日は新施設長も前施設長も休みだったから
リーダーの思いのままだった。

実際、こうして上がいない方が現場は極めて上手く回った。
人手が足りなくても上手く回った。

 
朝早く出勤して、尋常じゃない集中力でパソコンに向かう私を見たり、昨日書類作成について上から責められた私を見て
周りの同僚も協力してくれた。ありがたかった。

 
おかげで書類作成は全ては終わらなかったが
予想以上に進んだ。
最低限、週末に終わせばいい分は無事終わった。

 
その日は朝から雪が降っていた。

私がパソコンで書類作成ができるように
リーダーは二日間雪の中ポスティングに行った。

送迎にしても、利用者の移乗を当たり前のように手伝ってくれた。

 
 
雪の日は寒くて嫌いだ。
仕事も送迎も大変だ。

でもだからこそ、リーダーの優しさや配慮がより身に染みる。

 
「雪の日はみんなで定時に上がろうよ。」

リーダーが言う。

リーダーのおかげで、書類作成がはかどり、みんなで定時に上がれた。

 
 
やりたいことがないと働いてはダメなのだろうか。
上は気持ちを尊重してくれているのだろうけど
夢ややりたいことがない私を否定されたような気分にも感じてしまう。

定時に上がりたい。
もしくは、残業代がほしい。

その条件を望むのならば、私も立ち去るしかないのだろうか。









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