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入院33日目:誕生日

昨夜、お父さんに話をした。

人間役割がないと辛い。
お母さんをかわいそうな、何もできない人扱いしてはいけない。
モップとか、掃除は手伝ってほしい。
料理もできるのではないか。

私はそう力説した。

 
そして夜な夜な調べた。
キッチンの高さだ。

テーブルで料理はできるだろうが、キッチンでは高さの関係で難しい気がした。

 
キッチンの高さは今は80、85、90㎝のどれからしい。
我が家は85㎝だった。

 
車椅子に乗って調理となると、73~85㎝くらいがよいらしい。
車椅子専用の台所もあるようだが、リフォームが必要だし、私の身長では逆にやりにくくなる。

お母さんは150㎝、私は166cmと既に16㎝の差があったのに
車椅子により更に差が出てしまう。

 
こういったものもあるらしいが、太ももから補装具をつけているお母さんには厳しいだろう。
背もたれがない。

 
テーブルの高さは72㎝だった。

やはり料理をするなら、テーブルにまな板を置く形になるだろう。
野菜等をカットし、冷凍ストックを作っておいてくれるだけで私は助かる。

もしくは、テーブルにカセットコンロやホットプレートを置いて調理だろうか。

 
 
 
 
朝6:30、チャイムが鳴る。
近所の人がお見舞い金を持ってきた。どうやら4日後に近所の人が代表でお見舞いに行くことに決まったらしい。

勝手に決めないでほしい。
朝から来るなんて非常識極まりない。

 
 
今日はお母さんの67歳の誕生日。
去年の今頃、まさか来年は誕生日を病院で迎えるとは思ってもいなかっただろう。

 
今日、同僚は利用者と脊髄損傷の会主催の福祉イベントで出店販売をしている。
地域でこの福祉イベント開催は初めてらしい。
お母さんの誕生日に、脊髄のイベントがあるとはなんという偶然か。
私は行きたかったが、翌日の出店販売に行ける職員がいなく、そちらになった。

かつての私ならば、自分が出勤ではなくとも様子見に行っただろうが
今の私は体力と時間がない。
翌日出勤でお母さんの面会に行けないのだから、今日面会に行きたいし、掃除等も今日やってしまいたい。

 
 
面会は午後からだ。
出発前、眠くて少しウトウトしてしまった。お父さんと車に乗り、病室へ向かった。

揃えたわけではないが、ペアルック感がある父と娘。

 
面会制限が緩和され、初めて病室に行く。
受付にて面会者シールをもらい、時間を書いて部屋に行った。

 
お母さんはベッドにいた。
午前中リハビリで疲れたとのことだったが、一休みして今は元気そうだった。

 
まずは持ってきたものを棚にしまったり、洗濯物を預かる。
そして家事についてなどの確認。

 
そうこうしている間に看護師さんが来た。
美人で若い方だった。

看護師さんと共にトイレに行き、お母さんが車椅子でどの程度自力でできるかを見た。

日常的な生活動作では補装具は必要なく 
歩行訓練時は必要らしい。
補装具は自力でつけられないらしいが、つける頻度が少ないならば、退院後、たいした手間ではなさそうだ。

 
…驚いた。

 
ベッドから車椅子への移乗も一人でできるし
トイレも一人でできていた。

検査入院時は下着の上げ下げは看護師さんにやってもらったらしいが
一人でサッサとやっていた。

短時間ならばバーから手を離して下着の上げ下げもできていた(医師からバーから手を離さないように言われるらしい。そりゃそうだ)。

 
排尿の際は一旦トイレから出たが
「見ていけ。」と母。
恥じらいがまるでない。
見ろと言われたら必要に応じて見るが、見る必要がないなら見ない。排泄とは尊厳だ。

父親にも排泄を見るよう言っていたが、父は遠慮して見なかった。
介護で必要なのかもしれないのだから、見るべし、と思うが。

 
その後、ズボンの着脱を見た。
ベッドでスルスルと一人でやってのけた。スピードが早い。
車椅子ならもっと早いらしい。すごい。靴下も自力で可能らしい。上の着替えも両手が使えるので問題なし。

寝返りも上手だ。
棒のように動かなかった右足も、自分の意思でベッド上で多少は曲げられていた。

 
階段を張っていけないか練習したが難しい、とのこと。
ぬいぐるみはクッション代わりに腰や足下に入れて姿勢を楽にすることもあるらしい。

 
また、ベッド柵に掴まりながらの立位も見た。
右足をカバーしているため、ピシッと真っ直ぐ立つことはできていなかったが、大幅にぐにゃりとバランスは崩さなかった。
 
手すりに掴まりながらなら、長時間立位保持が可能らしい。
手すりに掴まらなければ、10秒程度ではないか、とのこと。
 
  
私は感動した。
先日初めてリハビリの様子を見た父が落ち込んでいたからよっぽど悪いと思っていたが
想像以上によい。

トイレと着替えが自力でできれば、万々歳だ。

 
補装具をつけてのリハビリは今日は時間オーバーで見られなかったが
お父さんや看護師さんの話から察するに

立位や移動は自力で可能だが
歩行が難しいのだろう。

  
入院中、調理実習があるらしい。
立位がもう少し保持できたら、キッチンで調理も可能かもしれない、という話で盛り上がる。

テーブルやキッチンの高さを伝えたら、看護師さんがササッとメモっていた。
高さをはかっていってよかった。やはり大事な情報だ。

 
しかし、歩行が難しいとなると
やはり自宅での難点は玄関上がり口かもしれない。

上がり口の高さも帰宅後に調べようと思った。 
なお、平均的な玄関は18cmだが、我が家は16.5cmだった。

 
 
お母さんが入院してから一番今日希望を感じた。
私は何回も拍手して、「すごいね!すごいね!」と喜んだ。
入院時の状態、脊髄梗塞という病気を考えてみても
軽症だし
驚異的な回復力だと思った。

 
今の病院がリハビリ特化型というのもあるが
相当お母さんがリハビリを頑張っているのが伝わった。
リハビリはやる気に左右されるところがある。

リハビリに前向きになれない方もたくさん仕事で見てきた。

 
お母さんは愚痴ったり弱音をあまり吐かない人だけど
言わないだけで
相当頑張っているのだろう。
右足は痺れも感じる、とのこと。

 
ベッドで鍛えられるようにタオルをまいて引っ張ったり、車椅子上で足上げもやっているらしい。偉い。

 
 
明日の出勤を前に現実を見て落ち込んだらどうしようと思ったが
心はとても軽くなった。
トイレと着替えが自力でできれば十分過ぎる。

 
「あたしンち、面白いね。」

そういった雑談もできるのが嬉しい。

 
 
お母さんは誕生日を病院で迎えたけど
今日家族みんなで少しでも一緒に過ごせてよかった。 

希望を感じる誕生日で、よかった。

 
病院では、ささやかな誕生日祝いがあったらしい。

 
相変わらず質素だ。

我が家は今日はアヒージョやネギトロ丼等を食べた。



 
お母さんが退院したら、おいしいものをみんなで食べたい。

 
お母さん、お誕生日おめでとう。









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