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DVDを見ながら行う仕事

その日、私は利用者とDVDを見る担当だった。

DVDの日は利用者が見ている間
職員は製品の仕上げをしたり、書類を作成するのが通常だ。
稀に利用者と一緒にDVDを見ながら部屋全体を見る、ながら支援の時もある。

 
だから私は前施設長に、何か作業はあるか確認した。

すると前施設長は「作業はやらないで、利用者とDVDを見ながら盛り上げてほしい。」と言った。

 
盛り上げる。

まさかのワードに私は一瞬驚いたが
前施設長の話によると
DVDを見る利用者は耳が不自由+知的障害故に理解が難しいから
私がリアクションをすることでDVDの内容を分かりやすくし、楽しませてほしいとのことだった。
耳が不自由なその利用者と一緒にDVDを見るのは初めてのことだった。

 
「分かりました。」

そう答えた後に私は
DVDの台詞や場面をざっくり通訳し始めた。

 
その日見たDVDは私も初見であり
コメディで
台詞量もなかなかに多かった。

 
だから私は見ながら簡単に通訳しつつ
オーバーリアクションをした。

 
利用者は笑った。
映画に笑ったのか、私に笑ったのかは分からないが
楽しそうに笑った。

 
この時間を盛り上げ、利用者を笑わせることが仕事なんて
もはや私もコメディだ。

 
私と利用者のやりとりを前施設長が後ろから見て笑った。
上司の前でコメディアンは恥ずかしいが
命じられたからにはやるしかない。

 
この仕事をしながら
私は自分の成長に驚いた。

 
全てをスラスラ通訳はできないが
かいつまんで手話や指文字通訳をできる自分に驚いた。
まして手話や指文字で笑いをとるのはなかなかに難易度が高い。

以前の私ならばこんなことはできなかった。

 
だけど今は
例えばリーダーの話を手話や指文字でかいつまんで聾者の利用者に通訳できるまでになった。
まだまだレベルは低いが
スピードも本当にあがった。驚くくらいに。

手話や指文字をもっと上手くなりたい。
その思いは昔よりも強くなった。

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