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ハゲとカッパ

年齢と共に分け目が薄くなってきた。
分け目に白髪も増えた。

以前は髪の量に悩まされた私も
気がつけば毛の量に悩まなくなった。
段々と量が減っているのだろう。

 
「ともかちゃん、ハゲてる。」

利用者が私の分け目を見ながら軽々しく言う。

 
バセドウ病の影響で髪をかき分けると円形脱毛が五つもある私は
ハゲの言葉に一瞬ドキリとする。洒落にならない。

 
「バレては仕方ない。秘密だよ、秘密…………ともかちゃんのご先祖様にはね、実はカッパがいるの。」

利用者は私の予期せぬカミングアウトに大喜びした。

 
「ともかちゃんはカッパなの!?」

「カッパの血を引いてるの。だからハゲがあるし、泳ぎが得意だし、キュウリが好きなんだよ。
これは秘密だよ、秘密。二人の秘密。」

シィーッと指を口に当てる。
利用者は大ウケして喜んで去っていき 
今度は他の女性職員の分け目を片っ端から見ては「ハゲてる!」と言って回った。

 
勘弁してほしい、と言わんばかりに
みんな嫌がり
分け目を見ないでほしい、と正論を言った。
だけど、正論に利用者はふざけ、ますます分け目を見てはハゲハゲ笑った。

ハゲや薄毛に悩むのは男性だけではない。
女性も年齢と共に分け目は薄くなる。

 
「ともかちゃん、カッパなの?」

「シィーッ。二人の秘密だよ。秘密。」

嘘も方便。
利用者は私の大袈裟なリアクションやカッパに食いつき
もう分け目を見たりはしなかった。

 
内心ホッとした。
咄嗟に言ったカッパに救われた。

 
ハゲよりはカッパの方がマシだ。
円形脱毛症が治るまではじっくり誰かに髪は見られたくない。

利用者に円形脱毛症がバレるわけにはいかない。

 
こうして私はカッパの設定ができた。

カッパの件は嘘だが
泳ぎが得意でキュウリが好きなことは嘘じゃない。

嘘じゃない。

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