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フランスのトイレ

 前回、フランスの家庭では結構前から洗濯機といえばドラム式だったというような話を書いた。それがかっこよかったので日本の我が家でもドラム式洗濯機を買って10年来使っていたが、最近になって縦型に戻したという話だ。

 最後にフランスに行ったのがもう10年くらい前の話だが、その時は洗濯機だけでなく、ちょっとしたことで家電や水まわり品の様子は日本とフランスの家庭では異なっていた。

 たとえば家電では、電子レンジがあんまり普及していなかったり、あとエアコンがほとんどない。

 あんなに共働き世帯が多くて、電子レンジがなくてどうするのかとも思うのだが、レンチンする食品のかわりにフランスでは冷凍食品がめちゃくちゃ充実している。ピカールというフランスの冷凍食品専門の店が日本にもあることをご存知の方も多いかもしれない(クロワッサンが有名なところ)。スーパーでも、冷凍食品のコーナーはものすごく巨大で種類も豊富である。レンジ食品やお弁当が多いコンビニというものが存在しないというのもちょっと関係しているのかもしれない。

 エアコンに関しては、これは気候が圧倒的にフランスの方が恵まれていて、特に夏場がそこまで暑くならないので、あんまり必要ないというのが不要な理由である。冬は寒いが、寒い分には他に暖を取る手段はいくらでもあるのであって(その分一軒家なんかでは暖炉がある家が多かった気がする)、正直なくてもそんなに困らなかった。やっぱり、夏の暑さが凶悪だと、これは東南アジアの国々などでもそうだが、エアコンなしではいられないのだと思う。
 ちなみにフランスの家では暑い時にエアコンなしでも窓を開けない。窓を開けたほうが暑い空気が入ってくるから、というのがその理由だ。石造りの家で日陰でおとなしくしておいた方が涼しいのである。カフェなんかでも、エアコンがある店はわざわざ「エアコンあります」と表示したりしている。エアコンはそれくらい珍しかった。

 一方、水回りで言うと、お風呂は基本的にいわゆる西洋式のシャワー前提のバスタブなので、全く様子が異なる。シャワーカーテンがついているやつである。まあでもこれは想像の範囲内かとも思う。
 トイレはシャワーと同じ部屋の時もあれば、独立している場合もあるが、トイレの便器システム自体も若干日本とは様子が違う。
 フランス独自のトイレというと、よく公衆トイレ(あんまり見かけないけど)なんかで、ただしゃがんで足を乗せるところの真ん中に穴が空いているだけで、足元に大量の水を激流で流しかけてくる危険なタイプのトイレがあるが、これは家庭で目にすることはほとんどない。だいたいこんなの家にあったら掃除が大変である。
 家庭用のトイレは、見た目はいわゆる普通の洋式トイレなのだけれど、やっぱりちょっと日本のTOTOやINAXのものとは仕様が異なっていて、まずいわゆる手を洗う、タンクの上のあの水が出るところがない。
 ぱっとトイレの部屋に入って、「8番出口」みたいな微妙な違和感を感じるのがこの手洗い場所のないタンクである。
 かわりに何がついているかというと、その手洗いがあるべきタンクの上部に、丸いつまみがついていて、これをひっぱるか押すかすると水が流れる仕組みになっている。日本のように、あんまりタンクの横のレバーを回すタイプを見たことはなかった。

 また、これはよく言われることだしフランスに限ったことではないと思うのだけれど、ウォシュレットもまず見ることがなかった。
 手洗いがついたタンクも、ウォシュレットも、自分の家族のフランス人に言わせると両方とも大変気に入っているようで、なぜフランスでは手に入らないのかと疑問に思っていたようだったので、早く普及したらいいんじゃないかと思う。
 あと、なんかトイレットペーパーのサイズが小さいのと、やはり日本の誇る製紙技術は肌触りから何から素晴らしいのだということをことを再認識する。そういえば、フランスってティッシュペーパー(クリネクスっていいます)をそんなに使わない。食事中なんかは普通に布のナフキンを使うので、これはこっちの方がいい気もする。

 ちなみに、フランスのトイレは、そのタンク上部のつまみを引っ張って水を流すと、とんでもない轟音で水が流れる。これはそのタンクの構造が違うからなのかどうかはわからないが、ものすごい迫力のある音が家の中に振動を伴って流れていく。
 そのせいか、フランスの家にいる間、なんか夜中にトイレに行っても流さない、というのがなんとなくマナーというか暗黙の了解だったように記憶している。
 実際家人に訪ねたわけでもなく、申し合わせたわけでもないのだが、結局正解はどうだったのか、いまとなっては真相は藪の中である。

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