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「燃えよドラゴン」を理解した、喜びの話

突然ですが、私は父親と仲が悪いです。
酒癖が悪く、酔うと暴言、暴力が日常茶飯事だったので子供の頃から嫌っていました。何よりシラフだとほとんど喋りもしない、のがとても格好悪く見えていたんですね、アルコールが無ければ物が言えないのかと。
私が酒を飲まないのも、そんな父の醜態を見て育ったからです。

また、父は私の好きなものをよく馬鹿にしてきたんですね。
細かくは挙げませんが、とにかく「お前が好むものなんかたかが知れてる」と言った論調でした。これは飲んでいない時も同様です。

そして人間、好きな人の好きなものなら自分も好きになりたいと思うように、嫌いな人間が好きなものは受け入れにくくなってしまうものだと思います。
そんな前置きから、ある映画の話をします。

50周年を迎えた、カンフー映画の金字塔

嫌いな父が、学生時代に一緒に行く友人を変えて3回、映画館に観に行ったとよく武勇伝の様に語っていた映画があります。
「燃えよドラゴン」です。

映画好きとして、DVDを持っています

説明の必要がないほど有名な、名作です。
私自身はとにかく父親が嫌いだったので、よく名前は聞くものの観たいとは思わなかった映画です。母も、ジャッキー派でありブルースリーはあまり好きではない、と言っていたのが手伝っています(母との関係は良好です)。
私もジャッキー映画は凄いし、笑えるしで大好きですが、ジャッキー自身が「ブルースなくして、昨今のカンフー映画はない」と語っていることから関心を持ち始めてついに、観る機会を得たのが二十代の頃だったと思います。

で、率直な初見での感想を言うと…

・暗い。アクションは確かに凄いけど、悪者を倒して終わり、の単純なストーリー。世間で言われている程絶賛に値する作品とは思えない。

といった感じでした。ここも父親への反発心があったのか、認めてたまるか、的な意地もあった気がする…と、今なら思います。

さよならおじさんの言葉

20世紀を生きた日本人なら知らない人はいないであろう、映画解説者の淀川長治さん。出典は忘れてしまいましたが、淀川さんの言葉に…
「解説をするならその映画を必ず3回は観る」
というのがあったと記憶しています。
また、どんな映画も素晴らしいシーンが必ず一つはある。それを見つけることが大切、とも仰っていたそうです。

実家を出て十数年、父とは一切コンタクトを取っていませんが彼は3回観た「燃えよドラゴン」の良いところを解説出来るのでしょうか。
淀川さんの言葉を思い出すと、ふとこんなことが頭をよぎったりします。

私は、十年前に配信サービスを活用し始めた時に様々な映画が見放題なことに躍って、古今東西映画の旅を始めました。その時にブルース映画も全て観よう、と一作目「ドラゴン危機一髪」から観ていきました。ブルースは早世してしまったので片手で足りる程の作品しかないのですが、その流れで「燃えよドラゴン」も再び観ました、これが二回目です。
この時は「映画としては「~危機一髪」や、他の作品の方が面白いかも」という感想でした。とにかく数をこなしていたので、リピートなのも相まって印象が薄かったのかもしれません。
それがほぼ十年前の話です。

今回、「#映画にまつわる思い出」を書こうと思い立ったのですが、年中映画を観てる人間ゆえにチョイスが難しい。
そこで今回、満を持して「燃えよドラゴン」3回目の鑑賞を敢行したんですね。これで解説もできますよね、淀川さん(そうではない)。

3回目で感じた、その熱量

私は今では、映画館でリピート鑑賞を当たり前のようにやっています。父は3回で誇らしげにしていましたが、私からすれば3回など入口です。ですが確かに3回、は内容の咀嚼という意味では節目だな、とも感じています。上映形態の影響が大きいですが、上の記事に書いたように3回目が一番見応えがあった、という作品もあるほどです。

経緯は忘れましたが、燃えよ~のDVD、買ってたんですよね

そして3回目の「燃えよドラゴン」、これはどうだったのかと言いますと…。

相当、面白かった。

おそらく父親絡みで付いていた色眼鏡がようやく外れ、純粋に一本の映画として観られたのではないかと自己分析しています。
DVDの映像特典も一通り観ますと、この映画にはブルースの哲学「マーシャルアーツは自己表現の手段」が如何なく描かれており、役名も主演作の中で唯一「リー」であったりと等身大の武闘家の姿が映されているんですね。劇場公開の際にカットされていたシーン(主に哲学的な場面)が収録された完全版であるディレクターズカット版を観たのも初めてでしたし、ようやくこの映画の真価に気付けた気がしています。アクションシーンの絶対的な魅力は、言うまでもなく。

彼はこの映画が日本で公開された頃にはこの世にいませんでした
そういう意味でも集大成、遺言のような作品だと言えます

ブルースはこの映画の撮影直後に一度倒れてもいますが、おそらく製作中から健康面に不安を抱えていたのではないでしょうか。自らの考え方、意志を色濃く反映させたこの作品を遺作の覚悟で世界に向けて放ち、伝説的マーシャル・アーティストとしてこの世を去ったその生き様そのものが、この100分の中にはあります。

おそらく父は、アクションシーンに魅せられてリピート鑑賞していたのであり、この映画の根幹にあるブルースの哲学、までは理解していないでしょう。そんな殊勝な心掛けがあればもっとマシな人間だったはずです。


今回私は、「燃えよドラゴン」を深めに味わう事によって、「名作と呼ばれる所以」を自分的解釈で受け止める事が出来ました。
あるのかどうか分かりませんが、仮にこの先の人生で父と話す機会があればこの映画の何を知っているか、聞いてみようかと思います。そして、マウントを取ってやりたい。

我ながら捻くれていると思いますが、映画の楽しみ方は人それぞれですよね。


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