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「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」感想…日本を見て来た作品の、残酷な答え合わせ

AmazonPrimeVideo万歳、早くも見放題になったので「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」を観ました。

鑑賞候補ではありましたが、映画館に行くタイミングが取れなかった作品でした

2月頭に、友人と会った際に猛プッシュされた作品でした。
ですが観に行くタイミングが難しく映画館での鑑賞叶わず。その後4月にアマプラで配信…というニュースに「よっしゃ!」と思い楽しみにしていたんですね。先日自宅鑑賞したのですが、薦めてきた友人の審美眼は確かでした。

Filmarksより、初見感想

見放題になったので鑑賞。
ゲゲゲの鬼太郎の前日譚、昭和30年代のある村を舞台に繰り広げられるミステリー。

都会の人間が仕事で辺境の村を訪れ、そこで旧家の跡継ぎ争い、そして殺人事件に巻き込まれるという王道ミステリーながらそこに妖怪が絡んできて人の業を赤裸々に映し出していく。
鬼太郎はしっかり観た事のない人間だが、戦時を生き抜いた人間たちの傷や野心を描いた物語として、図らずもゴジラ-1.0と同系統の人間ドラマな側面を感じて充分楽しめた。

決して愛嬌のある見た目ではない妖怪たちが、人間よりマシに見えてくる程の龍賀一族の醜悪さ。これも東映が別作品で描いているテーマと被っているなと思ったが、「大義」という言葉の裏に終わらない戦争の影を見せるところが巧かった。
水木は、この時代によくいた上昇志向の人間なのだろう。ある意味戦時中の経験により人間不信になった被害者でもある。しかしそれがゲゲ郎と関わり変わっていく。

幽霊族のゲゲ郎は、一途な愛に生きた男として「もう一人の主人公」だと思わせるがキャストクレジットでは一番上だった。
この物語はゲゲ郎の物語だったのだ。

この二人の友情が最後まで貫かれた事で、醜悪な人間たちに翻弄された中での筋の通った活劇として胸に落とし込めた、良い作品である。
一方で、明るいはずだと信じていた未来が、そうはならなかった一抹の悲しみも残る、風刺の利いた着地点が見事。
鬼太郎が、戦後の日本を辿ってきた漫画であるからこそ刺さるものがある。日本人は皆ひとしく、ゲゲ郎の言葉に想いを馳せる価値がある。


PG-12であるので残酷描写もあるが、それを踏まえても時弥の世代にこそ見せたい作品だと思った。
個人的には、沙代には報われて欲しかった…。

「あんた、つまんねぇなあ!!」
水木の言葉に、人の生き様にまつわる答えがある。


しかしゲゲ郎はここから、どうやって目玉だけになったのだろう?

スコア…4.2

56年の歴史を持つ、作品の言葉

ミステリー、ホラー、アクション、ロマンス、ヒューマンドラマ。
様々なジャンルの要素が満遍なく詰め込まれた妖怪のような作品でした。個人的に一番胸に残ったのは、上記の感想にも書いたように昭和の人々が思い描いた明るい未来ではないけれど…という現代風刺の部分ですね。

私は鬼太郎はほぼ観ていなかったのでこの度、調べたのですがアニメ一作目は1968年とのこと、昭和43年ですね。半世紀以上新作が作られている、コンテンツとしては最古参の部類なんですね。
日本初のテレビアニメであった鉄腕アトムが1963年だったことを鑑みても、戦後のサブカルチャーの歴史に鬼太郎あり、と言って良い作品だと思います。そんな鬼太郎が令和の時代に「昭和」を伝えてきたことに、単純な前日譚以上の意味を感じるのは大袈裟でしょうか。

このワンカットだけでも、昭和を感じますね

戦争に敗れ、焼け野原からのスタートとなった日本人は身を粉にして働き、経済大国と呼ばれる国にまで押し上げた…それが昭和という時代です。ですが当時から「豊かだが、心は貧しい」という揶揄があったように個人の尊厳を棚上げして社会的に富むことを盲信していたという落とし穴もありました。昭和40年代に公害病が社会問題化したこともその一端ですね。

この「ゲゲゲの謎」は、そういう「行き過ぎ」を痛烈に描いており、現代の人間からすると爽快な面もあります。一方で人間的な問題は変わらず残っており、手放しで良い時代になったとは言えない引っかかりを残す社会派作品でもありますね。

テレビアニメ黎明期の作品が夢溢れるものとして描いた未来は、まさに今この時代であります。2020年代は、煌びやかなものとしてイメージされていました。しかし実際は昭和の頃と(変わった部分もあれど)、生活様式はそこまで変わっていませんし、問題も変わらず山積していますね。

ゲゲ郎が夢見た未来は、まだ遠いのが現状でしょう

しかしそんな中でも龍賀一族のような、人の皮を被った妖怪のような連中が忌避される「人の心」が尊重される世の中に傾いてきていることは、悪いことではない…そう感じることも出来ました。バランスが全てではありますが、富・名声が幸福のバロメーターの全てではいけないと思います。

沙代さんは気の毒なキャラでしたね
現代話なら水木が本気で惚れ込んで救う展開もあったのでしょうか

50年以上続く鬼太郎という作品が描く、昭和の物語。
令和の時代と照らし合わせて、「人の心」をしっかり持って未来に向かっていかねば、というメッセージが、天国の原作者、水木先生から向けられている気もしましたね…。


前提として、とても面白かったです。
個人的には、幼少時に少しだけ実体験として残っている昭和の時代が「時代劇」として描かれる事に自分の年齢を実感する、そんな作品でもありましたね(笑)。

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