ポール・オースターを偲ぶ
好きな作家にポール・オースターの名前を挙げると「どんな作家?」と聞かれます。「僕にとってポール・オースターがどのような意味を持つ作家か」と聞かれているのだとしたら、僕はこんなことを言うと思います。
「あなたが真っ黒で巨大な立方体の中に閉じ込められたとしましょう。前後も左右も分からない、ただのっぺりとした闇だけが広がっている。そんな暗闇に、ふと錐でつつかれたようにポツリと小さな穴が開く。その穴から光が差し込み、ああ私は前を向いているのだと初めて分かる。暗闇から抜け出すことはで