さよなら2023年

 今年はnoteをはじめて1年経ちました。投稿ペースは落ちましたが、のんびりやっています。
 今年もまた、年間ランキングを肴に駄弁っていこうと思います。のんびりお付き合いいただければ幸いです。

1位:無季俳句と川柳を区別したい
https://note.com/da4_men2/n/n2967adda4623
2位: AI川柳の現在地
https://note.com/da4_men2/n/nd162758cb96f
3位: AI俳句をもう一度読む
https://note.com/da4_men2/n/nbf0a7fe44352
4位:俳句を何故詠むのか〜或る無名俳人の場合
https://note.com/da4_men2/n/nfe39f729f853
5位:俳句結社の良いところ、悪いところ
https://note.com/da4_men2/n/nc54dc91935b1
6位:不易流行について考えよう
https://note.com/da4_men2/n/n9e6494f6e5a0
7位:空調服かファンジャケットか〜新季語を作りたい
https://note.com/da4_men2/n/nfbcd5673eb40
8位:恋猫の恋する猫で押し通す  永田耕衣
https://note.com/da4_men2/n/n9440b190d7e4
9位:俳句で知る「わたしの武蔵野」
https://note.com/da4_men2/n/n6ec6fd1fb75a
10位:みを(くずし字判読アプリ)レビュー
https://note.com/da4_men2/n/n8f2f3d8b0003
(2023年12月21日現在)

3位: AI俳句をもう一度読む

 大まかにAI俳句やAI川柳の記事が、日頃の読者規模としてはよく読まれていました。AIについて考えることは、本質論よりも(主に商業的に)どう活用するかの議論の方向へ向かっているようで、商業の話は苦手なので、動向を追いかける以上のことは遠慮してきました。俳句総合誌はなんとなくチェックしているので、今回、押さえている動向を記してAIに対する見方を共有したいと思います。
 「AI一茶くん」は現在、選句研究に着手しているようです。選句には尤度測定という手法を用いているとのことです。なんのこっちゃと思って言葉を調べていると、最初に(測定する句のパターンで)理想の句を予め導き出し、実際が理想とどれだけ近いのかを数字にして導き出すもののようです。
 また、「AI一茶くん」は、億単位で究極的な多作多捨を行っていて、こうして我々がぼんやりしている間にも句を量産して、自選を行なっているようです。AI俳句の選句を読んでいると、AI一茶くんの句を選句する人間の方も選句の精度が向上しているように見えます。どうやら、作句と選句の精度が向上するのは時間の問題のようです。なお、作句データと自選データは、「AI一茶くん」の研究をしている北海道大学大学院情報科学研究院調和系工学研究室のウェブサイト上のデータベースに公開されています。
 現在、AI俳句研究の目指すものは、商業的な利用に向かっているようで、一例として、記念写真に添える句としての応用を考えているようです。写真に添える文言として好きか嫌いかというところで、読者が読み方を訓練する必要のある本格的?なタイプの俳句とは異なるタイプの、肩肘張らないで読めるキャッチコピーのような使われ方を想像しました。
 しかし、こうなってくると、俳壇の行く末が想像されてきます。今もそういう傾向はありますが、俳句を作ることと読むことが別々の趣味になっていって、純粋作者と純粋読者に完全に分断されることになると想像します。純粋作者の目指すものは新奇性からは遠ざかり、人の作品を顧みることなく、自分のことをより自分のために詠むことになるでしょう。また、純粋読者は、作品の意図や背景などを読む必要がなくなり、好き/嫌いのスイッチだけで自分の意志を表明すること(=表現すること)になるでしょう。それぞれの行為自体を否定はできませんが、少なくとも、作者も読者も、より孤独を深める方向へテクノロジーが押し出すことを想像します。
 この通りに作者と読者の分断が進むと、形式に本来必要とされている、これらを繋ぐ中間的な存在が希少になっていきます。わかりやすい形で言えば、選者や鑑賞者という人々の社会的評価が低下するでしょう。もちろん、立場を持続することはできるでしょうが、これらの境界的立場では、作者と読者を分断する構造を変えることはできないと思います。下手をすれば、AI技術によって、文学や表現そのものが作者(作り手)と読者(受け手)に分断されるかもしれません。そもそも、商業(表現)を突き詰めると作り手と受け手が分断されるのかもしれませんが、AIの普及で分断がより広がりそうに見えます。俳句形式がAI世界の先駆けを見ているとしたら、寂しい未来を先取りすることになるかもしれません。
 今のところのAI研究の記事を見る限りでは、このようなことを考えます。

2位: AI川柳の現在地

 余談ですが、報告を多く目にできて、研究の進み具合が分かりやすいので、俳句のことを中心に書きましたが、ふとX(旧Twitter)を見てみたら、AI川柳も技術が向上していますね。こちらは、学習データから想像するに、商業的な使い方を念頭に置いていて、「いいね」の数で句の成功が測れるので、SNSと相性が良さそうです。気になる句は以下の句です。

  年金で節約するは夫婦仲  AI川柳

 学習データに類句がありそうな句ですが、こういう句を作り選ぶことができることは、順調に成長していますね。句に添えられている句の解釈は、AIの発想がいい子の発想なので、まだ句を読み切れていないようですね。皮肉とか高度な言語情報がわかったら、生成AIも反抗期になるんじゃないでしょうか。<皮肉を学びAIの反抗期>なんて。

1位:無季俳句と川柳を区別したい

 AIの成長に触発されて、本質論的なものもたくさん書きました。俳句と川柳の比較文芸論もアクセスが多いですね。読み返すと、川柳論の中で俳句と川柳の比較が一番出来が良いので、ありがたいです。川柳について考えることはお休み中です。そもそも、今までの記事で大体書きたいことは書いてしまいました。
 俳句と川柳の比較は、記事が三つありまして、無季俳句と川柳を物と心で比較した記事がやたらアクセスが多いですが、有季俳句と川柳の比較、心を詠んだ無季俳句と川柳の比較もありますので、もしよかったらそちらもお読みください。

(関連)
・俳句と川柳の区別がつかない
https://note.com/da4_men2/n/nd90ee48911d6
・無季俳句と川柳を区別したい
https://note.com/da4_men2/n/n2967adda4623
・無季俳句からの反証と再検討〜無季俳句と川柳を区別したい(2)
https://note.com/da4_men2/n/naa0fff8cb392

4位:俳句を何故詠むのか〜或る無名俳人の場合

 今年は俳句の方の本質論も細々書いていました。マガジンに整理したら、去年の記事もじわじわとアクセスが増えてきました。俳句については、作る感覚、読む感覚を基準に論を立てています。論を基準に句に接しているわけではなく、論点や立場など、一つの固まった視点を持っていないので、読んでいるうちに矛盾もあるでしょうが、鷹揚に見ていただけると有難いです。
 何故俳句を詠むのかは、今年になって読まれるようになった記事ですが、主張するというより、みんなで考えようという目的の方が近い記事です。最初は純粋読者から提出された問いですが(所属誌のポリシーも「俳句を何故詠むのか」と知ったのは最近の話です)、俳句を詠む必然性は今やそれぞれに持っておかなければいけないテーマになってきていると思います。俳句を詠むモチベーションは書いた時からもまた変わってきましたが、変化の過程ということで読んでもらえるとありがたいです。

6位:不易流行について考えよう

 不易流行について書いた記事も読まれました。続きとして「かるみ」についても書きたいけれど、不精なもので、進行が遅れております。すいません。先行研究を知るために、書誌検索をしているのですが、図書館の技術更新によって、検索もとても便利になりました。ありがたいです。

8位:恋猫の恋する猫で押し通す  永田耕衣

 今年は鑑賞の記事を増やしました。鑑賞から学ぶことは多くて、鑑賞とは何だということも考えはしたのですが、ちょっとお見せできる形にはなっていないです。最初、構成を箇条書きして書いてみましたが、どうしても技術を書くと、ブラックボックスの部分が出てしまいます。他の人の鑑賞を真似していって、ある程度まで書けるようになってくると、日頃の読み書きや、人生をどう生きているかというのが鑑賞に全て生きてくるので、ある程度慣れてくると面白くなってきます。始めてみるのが大変ですが、数をこなしていると書けるようになってきます。選句と同じくらい鑑賞は重要だと思いますが、AIの成長次第では、選句と同じく顧みられることがなくなるのだろうと考えています(上述)。
 季語を読み込んでいく中で、例句を鑑賞するというパターンが最近は多いです。季語についての考察も書いていて面白いのですが、最近はこういう形でしか表に出てきていないですね。

9位:俳句で知る「わたしの武蔵野」

 武蔵野について詠まれた句を選句しながら、武蔵野という俳枕について考えていくという記事が読まれています。余談で遠回しに触れた「武蔵野エレジー」、嬉しくない理由で話題になりましたね。11月26日は暦の上では冬なので、冬の星がきれいに見えます。

5位:俳句結社の良いところ、悪いところ

 最近はアクセスも落ち着いてきましたが、結社についての言及も読まれた記事です。総合誌でも結社案内が特集されていますが、結社にどのような機能があるかは、きちんと言語化することが求められていると思います。上の記事で十全に言語化が実現したとは思えませんが、後悔のない選択の一助になれたのであれば、幸いに思います。

7位:空調服かファンジャケットか〜新季語を作りたい

 2023年はとにかく暑かったです。暑さを凌ぎながら、エネルギーを浪費しすぎないためにはどうしたらいいのかを追求して、空調服(ファンジャケット)を買いました。その使用感を俳句として発表するための一種の手続きのような記事ですが、季語として一つの語を整備するためには、使用方法や歴史などの背景知識、実際に接した感覚、そこから得られる感情を言葉にして共有した上で、ある一定数の社会的同意を必要とすることを思いました。社会的同意が得られないので、ファンジャケットはまだ季語として弱いけれど、歳時記などの権威が賛意を示したら、一気に逆転するかもしれません。記事を書くことで、季語の勉強になりました。

10位:みを(くずし字判読アプリ)レビュー

 くずし字アプリのレビューも見てもらえた方の記事です。学習データが増えてAIの精度が上がり、すらすらと読んでもらえる段階まで来ていますが、この記事の後で、石碑のくずし字を読み込ませたら、読み取りがあまり上手くできなかったので、まだ実用の課題はありますが、着実に成長していると思います。今の段階では、AIの精度を確認するために、多少人間でも訓練する必要があります。市民講座や動画講座などで手解きを受けたら、文章をたくさん読んでみてください。文章の正解の確認は、有名な作品なら叢書の本文で確認できます。そうやって地道に読みながらAIの正確さのレベルと比べてみると、今のAIのレベルが分かると思います。そういえば、最近は、くずし字の読み方を大学で丁寧に教えるところも減っているのでしょうか。僕の時代もまあまあ雑でしたが、論文を書くために数をこなしたので、その経験値がまだ残っています。数をこなすの、大事です。

 長くなってしまいましたが、今年も訪問いただきありがとうございました。
 良いお年をお迎えください。

(参照文献)
(AI俳句について)
栗林浩「特別寄稿 一茶くんと句会を楽しみました」(『俳句』2023年5月号)
山下倫央「AI一茶くんの進化」(『俳句界』2023年10月号)
大塚凱抄出・文「AI一茶くんテーマ別作品集」(『俳句界』2023年10月号)
キム・チャンヒ「AI俳句は敵か味方か」(『俳句界』2023年10月号)

(AI一茶くんの公開データベース)
「AI俳句検索用ページ」(https://ai-issa.jp/)

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