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『キラキラ!~美人七姉妹とのドキドキ同居生活!?※キラキラしたものとは言ってない~ 』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「いや~悪いですね~放課後付き合わせちゃって……」
 オパールと山田は並んで廊下を歩く。
「別に構いませんが……何の御用でしょうか?」
「えっと……」
 オパールが立ち止まってモジモジとする。山田が首を傾げる。
「?」
「ちょっと恥ずかしいな……」
「恥ずかしい?」
「いや、なんていうか……」
「なんていうか?」
 オパールがなにかを決意した顔で両手を合わせ、山田に頼み込む。
「ボ、ボクを女にしてください!
「えっ⁉」
「⁉」
 廊下を通っていた生徒たちが驚いた顔で振り返る。
「ちょ、ちょっと、こちらへ!」
 山田がややうろたえながらも、とりあえずオパールをその場から連れ去る。
「……いやいや、本当申し訳ないです~」
「……“勉強の出来る”女にしてくださいということだったんですね……」
 図書室で向かい合いながら、山田は頭を抱える。
「ちょっとテンパっちゃって、大事なところが抜けちゃいましたね~」
「テンパらないで下さい。周囲に人が少なかったのが幸いでした……」
「幸い?」
 オパールが首を傾げる。
「……いえ、もはやどうでもいいことです。それにしても、勉強が苦手とは……」
「へへっ……」
 オパールが後頭部をかく。
「こう言ってはなんですが……」
「なんですが?」
「よくこの学校に受かりましたね」
「ストレートですね、物言い」
 オパールが苦笑する。
「この学校は結構偏差値が高いのですが……」
「一世一代の勝負の一夜漬けでなんとかなりました」
「そ、それは凄いですね……」
「でしょ?」
 オパールが笑顔で胸を張る。
「……入ったは良いものの、授業のレベルの高さに戸惑っていると……」
「はい、その通りです……」
 オパールが俯く。
「……そう言えばそんなことおっしゃっていましたね……まあ、力になれるのであれば……お教えしましょう」
「本当ですか⁉」
 オパールが顔を上げる。
「なんでも聞いてください! と、大見得を切りましたからね」
「助かります~」
「なにが分からないのですか?」
「えっと、古文ですね」
「古文ですか」
「はい」
「例えばどこが?」
「助動詞の接続ですね、未然形とか連用形とか終止形とかもう……言葉の勉強で形ってなに?って感じで……」
「ああ、それなら簡単です」
「え?」
「歌で覚えれば良いんです」
「歌?」
「未然形、未然形♪」
「⁉」
「『る』、『らる』、『す』、『さす』、『しむ』ときて~♪」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「どうかしましたか?」
「いや、い、いきなり何を?」
「桃太郎の歌に乗せて覚えるんですよ」
「も、桃太郎……?」
「ええ、そうです。最初から歌い直しますよ……未然形、未然形♪ 『る』、『らる』、『す』、『さす』、『しむ』ときて~♪ 『む』、『むず』、『ず』、『じ』、『まし』、『まほし』、『り』~♪」
「へ、へえ……」
「連用形、連用形♪」
「つ、続くんですか⁉」
「それは……はい」
「そ、そうなんですか……」
「続けますよ……『き』、『けり』、『つ』、『ぬ』、『たり』、『たし』、『けむ』と~」
「ほう……」
「『なり』、『たり』、『ごとし』は連体形~♪」
「あ、連用形と連体形は続くんですね」
「そうです」
「へ~」
「終止形、終止形♪」
「ま、まだあった⁉」
「『らむ』、『らし』、『まし』、『べし』、『めり』と『なり』~」
「ほうほう……」
「ラ変につくとき、連体形~♪」
「いや、そのラ変が分からん!」
 オパールが頭を抱える。山田が呟く。
「ラ変はラ行変格活用です……」
「ああ……」
「『あり』、『をり』、『はべり』、『いまそかり』の四語しかありません」
「え、四語だけなんですか?」
「ええ」
「そ、それなら覚えられるかも……」
 オパールの顔が明るくなる。山田が告げる。
「まずは最初のつまずきを克服しましょう」
「つまずき?」
「ええ、助動詞の接続です」
「ああ、はい……」
「今歌った桃太郎の替え歌を体中に染み込ませるんです」
「か、体中に? ど、どうやって?」
「……歌うんです。さあ、どうぞ」
「えっと……未然形、未然形♪」
「そうです、恥ずかしがらずに!」
「『る』、『らる』、『す』、『さす』、『しむ』ときて~♪ 『む』、『むず』、『ず』、『じ』、『まし』、『まほし』、『り』~♪」
「おおっ、良いですね!」
「おっほん!」
「!」
「盛り上がっているところ悪いけど、そういう勉強はよそでやってもらえる?」
 図書室の先生が、二人に睨みをきかせる。
「ははっ、図書室、追い出されちゃいましたね~」
「すみません……」
 下校しながら山田が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえいえ、騒いでいたのはボクも同じですから」
 オパールが手を左右に振る。
「しかし、上級生として、まったく恥ずかしい振る舞いを……」
「い、いや、でも、楽しかったですよ」
「楽しかった?」
「ええ、中学のときまでは基本詰め込み型だったので」
「ああ、一夜漬けですか」
 山田の言葉にオパールが頷く。
「そうなんです、だから勉強が楽しいって、どうしても思えなかったんですよね~」
「なるほど」
「だから、歌って覚えるなんて衝撃的でした! 良いですよね、未然形、未然形♪」
「気に入ってもらえたようでなによりです……」
「『なり』、『たり』、『ごとし』は連体形~♪ ここが良いですよね」
「良いですか」
「はい、響きにエモさを感じます」
「エ、エモさ?」
 山田が首を傾げる。
「はい、とってもエモいです!」
「そ、そうですか」
「他にはないですか? 歌で覚えるの、それならボクでも覚えられそうだなと思って……」
「そうですね……」
 山田が顎に手を当てて考える。
「え? 結構ある感じですか?」
「まあ、それは大体ありますよ」
「大体あるんだ……」
「例えば……他に苦手な科目などはありますか?」
「え? そうだな……日本史かな」
「日本史?」
「人名が多くて覚えるのが大変なんですよ、どうしても頭がこんがらがっちゃって……」
「いくやまいまい、おやいかさかさ……」
「!」
「やおてはたかやき……」
「‼」
「かわたはわい……」
「⁉ ちょ、ちょっとストップ!」
 オパールが山田を止める。山田がオパールを見る。
「どうしました?」
「い、いや、それはこっちのセリフですよ! いきなり奇妙な呪文を詠唱しないで下さい!」
「奇妙な呪文?」
「今まさに唱えていたじゃないですか⁉」
「呪文ではありません」
「じゃあ意味不明な五十音の羅列をやめて下さい!」
「……意味不明というわけではありませんよ」
「え?」
「今のは、歴代内閣総理大臣の頭文字を順に言っていたんです」
「か、頭文字?」
「そうです」
「え? いくや……」
「まいまい」
「おやい……」
「かさかさ」
「いや、その辺りの呪文感が凄いんですよ!」
「伊藤博文、黒田清隆、山県有朋……」
「ん?」
「ここが“いくや”です」
「は、はあ……」
「松方正義、第二次伊藤博文内閣、第二次松方正義内閣、第三次伊藤博文内閣……ここが“まいまい”になります」
「あ、ああ……」
「大隈重信、第二次山県有朋内閣、第四次伊藤博文内閣……ここが“おやい”です」
「で、では、かさかさは⁉」
「桂太郎、西園寺公望、第二次桂太郎内閣、第二次西園寺公望内閣……ここが“かさかさ”に該当します」
「お、おう……」
「歌というか、語呂合わせですかね」
「ふ、ふむ……」
「これで内閣総理大臣の順番と名前が覚えられます。もちろん、それぞれ付随するトピックまで覚えないといけないんですが、ある程度紐づけはしやすくなるかと思います」
「な、なるほど……」
「いかがですか?」
「……」
 オパールが腕を組んで黙り込む。
「どうかしましたか?」
「……ぷっ、あはは!」
 オパールが笑いだす。山田が驚く。
「あ、あの……?」
「まいまいって! かさかさって! まさかそんな語呂合わせされるなんて思わなかったでしょうね?」
「そ、それはそうでしょうね……」
「あ~面白い……あ、コンビニ寄って良いですか?」
「ど、どうぞ……」
「ちょっとすみません……お待たせしました。はい、どうぞ」
 オパールが紙パックを差し出す。
「これは?」
「おすすめのスムージーです、美味しいですよ」
「ありがとうございます。あ、お金を……」
「いいです、これはお礼ですから」
「お礼?」
「ええ、勉強も楽しめば良いんだっていうことを教えてくれたので、そのお礼です」
「そ、そうですか、では、いただきます……うん、美味しいです。ごちそうさまでした」
「あの……敬語じゃなくていいですよ? ボクは後輩なんですから」
「え? で、ですが、雇われているわけですから……」
「それはエメお姉ちゃんにでしょう? ボクには関係ないです」
「そうは言われても……」
「じゃあ、学校の時はタメ語で! それなら良いでしょう?」
「ま、まあ、それなら……」
「決まり! あらためてよろしくね! ガーパイセン!」
「あ、ああ、よろしく、オ、オパール……」
「ふふっ! これからも勉強見てもらえます?」
「構いません、いや、構わないが……図書室はしばらく利用しづらいな……」
「じゃ、じゃあ、これからはボクの部屋で……」
「え?」
「家庭教師よろしくお願いします! それじゃあ、お先!」
「ええっ⁉」
 山田は走っていくオパールの背中を呆然と見つめる。

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