見出し画像

『ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「という訳でさ……」
「ああ……」
「連絡先も交換したわけで……」
「うむ……」
「今度はアタシの部屋でお泊り会をしなくちゃね~」
「お、お泊り会って! ま、まさか泊まって行く気か⁉」
「うん!」
 凛が力強く頷く。ポニーテールが縦に揺れる。
「い、一点の曇りもない眼!
 輝が眩しそうに眼を逸らす。
「今後としての方針を確認したいし……」
「ほ、方針ってなんだ?」
「いや、同じ戦隊なんだし……」
「同じ戦隊って⁉」
「うん」
「そんなこといつ決まった?」
「さっき」
「さっき⁉」
「言ったじゃん」
「了解はしていないぞ!」
「え~」
 凛はぷうっと頬を膨らます。
「え~じゃなくてだな……」
 輝が頭を掻く。
「それじゃあ代わりにさ……」
「代わりに?」
「アタシはeスポーツチームを立ち上げようと思うんだ」
「あ、ああ……」
「それについてのミーティングをしようか」
「同じことじゃないか!」
「え?」
「え?じゃない! 大体なんでお前のeスポーツチームにわたしが関係あるんだ⁉」
「え~だって輝っちが言い出しっぺじゃん」
「あくまでも提案しただけだ! あと輝っちってなんだ⁉」
「あだ名」
「それは分かるが!」
「だってさ、所属チーム決まっていないんでしょう?」
「ああ、そうだな……」
「もうアタシのところで良いじゃない」
「良くはないだろう!」
「FPS・TPS部門は任せるから」
「一人しかいないのに部門も何もあるか!」
「そうか、分かったよ……」
「ええ……?」
 凛が輝の左肩にポンと手を置く。
「輝っちには我がチームのアンバサダーをお願いするよ」
「いらん!」
 輝は肩を突き上げ、凛の手を払う。凛が首を傾げる。
「え~ダメ?」
「肩書の問題じゃない! 大体、アンバサダーとか曖昧だろう!」
「バレたか……」
 凛が舌を出す。
「バレるわ!」
「う~ん、でもさ~」
 凛が首を傾げる。
「……なんだ?」
「同じようなコントローラーとコネクターが送られてきたわけじゃない?」
「!」
「これはなにかあると思うんだよ」
「まあ、それは確かにあるかもな……」
 輝が腕を組む。
「でしょ? きっと前世からの運命的なやつがさ~」
「そこまで大げさなものじゃないだろう」
「え~そうかな?」
 凛がガッカリする。
「そうだ。何らかの作為的なものは感じるが……」
「それで思ったんだけどさ……戦隊って5人くらいでしょ?」
「例外もあるにはあるが、まあ、それくらいだな……」
 輝が頷く。凛がパッと顔を明るくする。
「つまりだよ!」
「さっきから声が大きいな……近所迷惑だ!」
 輝が凛を注意する。
「え~輝っちの方が叫んでいると思うけど……」
「誰が叫ばせているんだ、誰が……!」
「とにかくアタシらの他に後3人はいるってことだよ」
 凛が指を三本立てる。
「む……」
「そう思わない?」
「いや……案外2人だけかもしれんぞ」
「ええっ⁉ ……まあ、それはそれで良いか」
「良いのか⁉」
「目立つじゃん、この戦隊ヒーロー飽和時代にさ」
「そういう目立ち方は嫌だな……」
 輝が苦笑する。凛が勝手に話を進める。
「2人だとコミュニケーションは取りやすいと思うけどね」
「既に大変なのだが?」
 輝が凛をジト目で見つめる。凛が首を捻る。
「2人だとマズいことある?」
「純粋に戦力が不足気味だろう」
「あ、そうか……やっぱり後3人を探した方が良さそうだね……」
「どうやって探すんだ?」
「そりゃあ、SNSでさ」
 凛が輝の端末を掲げる。輝が慌てる。
「ま、待て! 何を人のアカウントで発信しようとしているんだ⁉」
「いや~自分のアカウントだとさすがにちょっと恥ずかしいし……」
「人のでやるな、乗り気なのはお前の方だろうが!」
「う~ん、別アカウントを作るか~」
「ああ、まあ、それが無難じゃないか……」
「えっと……『夕餉戦隊エキセントリックフィフス』……」
「『遊戯戦隊エレクトロニックフォース』だ! 全部間違っている!」
「……まあ、その辺は追々考えようか?」
「飽きるの早いな! っていうか帰れ!」
「だって、もう終電終わってるし……」
「む……し、仕方がないな、今回だけだぞ? 私は明日早いから……」
「よっし、『金鉄』の99年モードで対決しよう♪」
「全然寝る気無いだろう!」
 輝の声が虚しく響く。
「いやあ、京都はやっぱり交通機関が充実しているよね~」
「……ふああ~」
「おいおい輝っち~? ちゃんと寝ないとダメだよ~?」
 あくびをする輝を凛がからかう。
「誰が言っている、誰が! お前がなかなか寝かせてくれないから!」
「え……?」
「ん? はっ⁉」
 輝は周囲から視線が集まっていることに気付き、顔を赤くする。
「いや~輝っち、これまた大胆な発言を……」
「う、うるさいな! 大体……」
「うん?」
「なんでお前がここにいるんだ⁉」
「いや、用事があるんだよ」
「誰に?」
「輝っちに」
 凛が輝を指差す。
「わたしはないぞ!」
「アタシはあるから」
「勝手なことを言うな、大体わたしは専門学校の授業があるから……」
「大変だね~」
「そういうお前だって、短大はどうした?」
「あ~それはちゃんと出るよ、ご心配なく」
「そうか……」
「ってかさ、昼休みは空いてるんでしょ?」
「ま、まあ、それはそうだが……」
「じゃあ、その辺りでまた集合しようよ」
「どこにだ?」
「昨日言っていた場所だよ」
「ああ……」
 輝が思い出したかのように頷く。
「行ってみる価値はあるでしょ?」
「適当に言ってみただけなんだが……」
「いや、案外いい線突いていると思うんだよね……」
「そうか?」
 輝が首を傾げる。
「そうだよ」
「今日じゃなきゃ駄目なのか?」
「やっぱり人が多いのは平日でしょ?」
「まあ、それはそうだな……」
 輝が頷く。
「それじゃあ、後でまた集合しよう!」
「そんなに時間は取れないぞ?」
「大丈夫、大丈夫♪」
 2人は一旦別れる。
「……ったく……」
「ごめん、ごめん、お待たせ~」
 凛が謝りながら集合場所に現れる。
「まったく、言い出しっぺが遅れるな……」
「いやいや、輝っち、そこは違うでしょ~」
「ん?」
 輝が首を捻る。
「『わたしもちょうど今来ばかりだから……』って、ちょっと恥ずかしがりながら応えるところでしょう?」
「な、なんでそんなカップルみたいなことをしなくてはならんのだ!」
「え~誰もカップルなんて言ってないんだけど~?」
 凛が悪戯っぽく口元を抑える。
「う、うるさい! ふざけるなら帰るぞ!」
「ああ、ごめんごめん、ちょっと待って……」
 その場を離れようとする輝の前に立って、凛が両手を合わせて頭を下げる。
「ふん……」
「機嫌治った?」
「別にそこまで機嫌を損ねてはいない……」
「それなら良かった」
 凛が笑顔を浮かべる。
「ただな。提案しておいてなんだが……」
「え?」
「ここを探すのは大変なんじゃないか?」
 輝が指し示した先には広大なキャンパスが広がっていた。
「お~さすが、名門女子大だね~建物も立派だし~」
 凛が感心する。
「学生数も桁外れに多い……わたしたちと同様にコントローラーをもらった者を見つけ出すのは困難だ……」
「でも、輝っちの推測はあながち間違ってはいないと思うんだよね~」
「そうか?」
「うん、アタシたちと同世代の女の子にコントローラ―やコネクターが配られた可能性は十分に考えられると思うよ」
「ふむ……しかし、この規模ではな……」
 輝が後頭部を抑える。
「なんでお昼に指定したか分かる?」
「そういえばなんでだ?」
「それは行けば分かるよ!」
「あ、お、おい!」
 凛が大学構内に入っていく。輝が慌ててついていく。
「……」
「なるほど、学生食堂か。いや、この場合はレストランと言った方が良いか……」
「ここなら多くの学生が出入りするよ」
「まあ、それは分かるが……この後はどうする?」
「え?」
「まさかずっと周囲の話に聞き耳を立てているのか?」
「う~ん、片っ端から聞き込みする?」
 凛が親指を立てて横にする。輝が首を振る。
「やめろ、つまみ出されるのがオチだ」
「どうしよっかね~?」
 凛は腕を組む。
「そこからはノープランだったのか……」
「一応eスポーツ同好会みたいのはあるみたいだけど……」
 凛が端末を取り出して、検索画面を輝に見せる。
「ほう、お堅いイメージがあったが、そういうのがあるのか」
「とりあえず、この同好会の方にDMを送ってみようか?」
「……なんて送るつもりだ?」
「『エレクトロニックフォ―スですか?』って……」
「即ブロックされて終わりだろう!」
「あ、送っちゃった……」
「おいおい……」
 輝が呆れる。
「あ、返信来たよ……」
「ええっ⁉」
 輝が驚く。


この記事が参加している募集

スキしてみて

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?