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『キラキラ!~美人七姉妹とのドキドキ同居生活!?※キラキラしたものとは言ってない~ 』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 
極々普通などこにでもいるハイスペック男子高校生、山田
 彼は東京、世田谷の三軒茶屋に建つ立派なビルを訪れる。そこには個性豊かな美人七姉妹が住んでいた……。
 ドキドキな同居生活が今始まる!※かといってキラキラしたものではない、悪しからず。

本編

 四月上旬のある日、もう夜にさしかかろうという時間、男子高校生は心身ともにボロボロの状態で歩いていた。今の彼は杖を必要とするくらいだ。
 彼は山田。高校二年生。平凡な姓である。だが、その体つきは細身で、平均的な身長よりは少し高いくらいだが、ガッシリしており、鍛えていることが伺える。武芸のたしなみもあるようだ。それならば、今日の朝から彼の身に降りかかった数々の災難をいくつかは回避することが出来たのではないかとも思うのだが、彼はひたすら耐え忍んだ。
 平凡な姓とは裏腹に、彼のルックスだが、短すぎず、長すぎない髪を綺麗にまとめている。所々赤いメッシュが入っているが、清潔さは失われていない。目鼻立ちも整っている。街を歩いていると、女の子の方が声をかけてくることが多い――もちろん、毎回必ずというほどではないが――十分にイケメンにカテゴライズしても文句は出ない顔立ちだろう。女難の相が出ているのか、これまでそういうことも無かったのに、本日はそういう事態に立て続けに見舞われた。
 もう一つ、平凡な姓とは裏腹に、彼の学校生活についてだが、品行方正、文武両道である。その品行方正さは他の生徒の模範とされ、立候補してないのに、さらに入学して半年であるのにも関わらず、生徒会の役員選挙に推薦され、ほぼ満票で合格したのだ。自らの学校のみならず、他校の不良生徒も彼の前ではほとんどが借りてきた子犬のように大人しくなるようだ――何らかの事件があったのかと思われるが、彼はそれについては語ろうとしない――文武両道に関してだが、成績は優秀。赤点などとは無縁で、このまま順調に行けば、難関の国公立大学も、有名私大も問題なく受かるであろうというのが、教職員一同の共通見解だ。特定の運動部には所属していないが、いわゆる“助っ人”を依頼されることが多く、陸上部では東京都の記録更新、野球部では強豪校相手にノーヒットノーラン、将棋部では全国大会出場に貢献するなど、多くの好結果を残してきた――これは文化部方面でも同様――皆は部活への所属を勧めるが、彼はそれを頑なに固辞し、無所属を貫いている。
 以上のように、平凡な姓だが、完璧と言ってもいいほどのスペックを備えた山田少年。そんな彼がなぜボロボロになっているのか。それについて説明する前に、彼の目的地に着いた。東京、世田谷の三軒茶屋。彼の家から電車三本乗り継げば、すぐに到着したはずなのに、どうしてこんなに時間がかかったのか……。もう遅いとは思ったが、彼はインターホンを押す。
「……はい」
「あ、遅くなって大変申し訳ありません、山田です……」
「……ちょっとお待ちください」
 しばらく間が空いて、建物のドアが開く。中から、ショートヘアーに所々、緑色のメッシュを入れた、ピシッとしたスーツ姿の美人の女性が出てきた。山田は彼女の顔を見て驚く。
「⁉」
「……男の子? って、あなたは……」
 女性はまた別の意味で驚いたようであった。


「また会うことになるとはね……」
「い、いや……」
 緑のメッシュの女性が呟く。山田は恐縮する。
「どうぞ、座って」
「え、えっと……」
「座りなさい」
「は、はい……」
 緑メッシュの迫力に圧され、山田は席に座る。
「しかし……」
 緑メッシュがその対面に座り、山田を見据える。
「はい……」
「今朝がた以来ね」
「そ、そうですか?」
「ええ、そうよ、君が我が社の社員に駅で痴漢行為をして……」
「そ、それは!」
「まさかビデオ通話している女を狙うとは……大胆不敵ね」
「いや、それは……」
「あの後、だいぶボコボコにされていたようね。それで社員の溜飲は下がったのかしら? 警察に突き出したりはしなかったようね」
「えっと……」
 山田は頭を軽く抑える。
「ところが、君は今ここにいる……」
「はい……」
「もしかして……」
 緑メッシュが顎をさする。
「はい?」
「逆恨みってこと?」
「え?」
「だいぶ筋違いだと思うのだけど……」
「い、いや……」
「まあいいわ、商売敵に恨まれるのは仕事柄慣れているから……」
「ちょ、ちょっと!」
 山田が立ち上がろうとする。
「座っていなさい!」
「は、はい!」
 山田はまたも迫力に圧され、席に座る。
「……おかしな行動を取ったらすぐ通報がいくようになっているから……」
「え?」
「周りを見てみなさい」
 緑メッシュが部屋のいくつかの場所を指し示す。山田は周囲を見回す。
「カ、カメラ⁉」
「そう、逐一記録させてもらっているから」
「記録……」
「万が一のときの為ね」
「ど、どうして……」
「うん?」
「どうして俺と会うつもりに? 追い返すなりなんなりすれば良かったのに……」
「……興味が湧いてね」
「興味?」
「うん、痴漢で捕まった若い男のお礼参りってどういうことをしてくるのかと思って」
「い、いや、それは……」
「お礼参りだって⁉」
「うおっ⁉」
 部屋に別の女性が勢いよく入ってくる。その女性はミディアムロングでウルフカット、カラーリングは水色で、上を黒いジャケット、下はジーンズを身に着けている。顔は緑メッシュの女性とよく似ている。
「マリ……アンタ、いちいちやかましいのよ……」
 緑メッシュがため息交じりで注意する。
「それはそうなるだろう! 危機感足り無さすぎなんだよ、エメ姉は!」
 水色ウルフがすかさず反論する。
「余裕の表れよ、社長たるもの、何事に対してもドンと構えていないと……」
「だからって、お礼参りなんて穏やかな話じゃねえよ!」
「高校時代を思い出して血が騒いだ?」
「! だからアタシは元ヤンじゃねえ!」
「冗談よ」
 緑メッシュが笑みを浮かべる。
「ったく……ってお前!」
「!!」
 山田を見た水色ウルフがビシっと指を差す。山田はビクッとなる。
「あら? お知り合い?」
 緑メッシュが首を傾げる。
「知り合いじゃねえよ! こいつ、今日の昼、トパ姉のバイトしているラーメン屋で無銭飲食をしてやがったんだよ!」
「ほう……」
「しかも、逃げるときにどさくさ紛れに、通行人の女に抱き着いてやがったんだぜ!」
「それはそれは……また懲りないわねえ、君……」
「いや、それもですね……」
「ちょっと黙っていて」
「あ、はい……」
 緑メッシュの迫力に三度圧され、山田は黙り込む。
「それで? 警察に突き出されたの?」
「いや、追いかけてきた店員やら、他の通行人やら数人ともみくちゃ状態になったところまでは見ていたんだが、アタシも急な用事があったからな、そこから先は知らねえ」
 緑メッシュの問いに、水色ウルフが答える。緑メッシュが視線を山田に戻す。
「でも、君はここにいる……また警察に突き出されなかったのかしら? 運が良いわね」
「い、いや、なんというか……」
「君への興味が増してきたわ」
「は、はあ……」
「おかしいかしら?」
「おかしいわよ」
「!」
 山田たちが視線をやると、部屋にいわゆる姫カットの女性が入ってきた。基本は黒髪ロングだが、主に毛先の部分に紫色が入っている。服装はとてもガーリッシュである。顔立ちは緑メッシュと水色ウルフによく似ている。
「なんでこいつがこんなところにいるのよ……」
「あらら? お知り合い?」
 緑メッシュが紫姫カットに尋ねる。紫姫カットが鼻で笑う。
「そんなわけないでしょう。さっき、ウチらのストアイベントで騒ぎ起こしたんだから」
「騒ぎ?」
「女性ファンへの痴漢行為よ、同姓のファンなんて貴重なのに……彼女がトラウマで来られなくなったらどうしてくれるのよ。なんでここにいるのか知らないけれど、警察呼んでよ」
「!!!」
 紫姫カットの言葉に山田の顔色が変わる。緑メッシュが端末を手にしたその時……。
「イエーイ♪ 緊急生配信!」
「‼」
 またまたまた別の人物が部屋に入ってきた。
 ミディアムロングのボリュームある髪型で髪色がピンク色、ラフな服装の女性が端末片手に入ってきた。こちらも顔立ちが緑メッシュや水色ウルフ、紫姫カットとよく似ている。緑メッシュがため息交じりで注意する。
「……生配信は自分の部屋以外禁止って言ったでしょう」
「いや~痴漢行為を目撃された男が、お礼参りに凸ってくるなんて、そうそうないレアイベントだって、これはバズるよ~」
「やめなさい……」
「いやいや、インフルエンサーとしてはこのチャンスは逃せないって~」
「……何度も同じことを言わせないで」
「あ、はい、ごめんなさい……」
 緑メッシュの迫力にピンクミディアムはすぐに端末をしまった。水色ウルフは苦笑する。
「ビビるくらいならハナからやるなよ……」
「つい……」
 ピンクミディアムは舌をペロッと出す。
「映像だけ止めて、配信はそのままっていうことはしてないわよね?」
「嫌だなあ~アメちゃんみたいにそんな腹黒なことしないって~」
「は、腹黒って! 計算高いと言って!」
 紫姫カットが若干ムっとする。ピンクミディアムが山田の隣に座る。
「!!!!」
 いきなり距離感を詰めてきたことに山田は驚き、俯き加減になる。ピンクミディアムがそんな山田の顔を覗き込む。
「どれどれ、凸者くんのお顔は……結構イケメン寄りのフツメンじゃん♪」
「それ褒めているの?」
 紫姫カットが冷ややかな視線を向ける。
「うん?」
「どうかしたのか?」
 水色ウルフがピンクミディアムに尋ねる。
「この子の顔、どこかで見たような……」
「まさか、お知り合いだって言うの?」
「う~ん、やっぱ違うかな♪」
 ピンクミディアムの言葉に緑メッシュはため息をつく。
「なによそれ……なんだか興が削がれたわ……やっぱり通報かしらね……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 山田が声を上げる。
「待たない」
「そ、そんな……」
「ただいま……」
「お姉ちゃんたち、何やっているの?」
「!」
 そこにショートボブで若干青みがかった髪色の眼鏡の女性と、ストレートロブの少し明るいオレンジの髪色の女性が部屋に入ってきた。二人とも学校の制服を着ている。顔立ちは二人とも、緑メッシュ、水色ウルフ、紫姫カット、ピンクミディアムに似ている。
「あら?」
「あれれ?」
「二人ともお帰りなさい。もう済んだから、部屋に戻りなさい」
 緑メッシュが声をかける。青ショートボブが首を傾げる。
「済んだ?」
「ええ」
「生徒会の人がうちに何か用?」
「! オパ、今なんて言った……?」
 緑メッシュがオレンジロブに尋ねる。
「え? その人、ボクらの学校の生徒会の人だけど……」
「!!!!!」
 山田が顔を上げて、オレンジロブを見る。青ショートボブが再び首を傾げる。
「そうでしたか?」
「もう、サファちゃんは学校のことに興味無さすぎ!」
 オレンジロブが呆れる。緑メッシュが二人と山田を見比べて呟く。
「そういえば、同じ学校の制服ね……」
「生徒会が痴漢行為とか、世も末ね……」
「色々とストレスが溜まるんじゃない?」
「だからって許されるもんじゃねえよ」
 紫姫カットが呆れ、ピンクミディアムが自分の考えを述べる。それについて、水色ウルフが反応する。青ショートボブが三度首を傾げる。
「痴漢行為……?」
「あっ! 思い出した! 今朝の駅のホームで!」
 オレンジロブが山田を指差す。緑メッシュが呟く。
「そう、我が社の社員に痴漢行為をしてくれたのよ……」
「そういえば、そんなこともありましたか……」
 青ショートボブが顎に手を当てる。緑メッシュが尋ねる。
「なに? アンタもその場に居合わせたの? 電車を使うなんて珍しいわね」
「そちらの彼は、痴漢を咎めたのです」
「!!!!!!」
 山田の顔が驚きの後、パッと明るくなる。
「え? ボコボコにされたんでしょ?」
「本当の犯人が上手く逃げましたから、間違われたのです」
「ほう……」
「その犯人も構内で駅員さんが捕まえたようですが」
「ふむ……」
「社員さんに詳細を確認したのですか?」
「……ちょっとバタバタしていたから」
「社員のケアも大事な仕事でしょう。キレ者女社長が聞いて呆れますね」
「う、うるさいわね……」
 青ショートボブの言葉に緑メッシュがたじたじになる。その傍らでオレンジロブが満面の笑顔を浮かべて話す。
「よく分からないけど、良かった! 誤解が晴れたんだね!」
「いや、まだだ……」
「え?」
 水色ウルフの言葉にオレンジロブが首を傾げる。
「昼間のラーメン屋での無銭飲食、その後どさくさ紛れの痴漢行為がある!」
「どういう状況ですか?」
 青ショートボブが眼鏡の縁を触りながら首を捻る。
「みんな~そろそろご飯出来たわよ~」
「‼」
 黄色いセミロングの髪をポニーテールにまとめたエプロン姿の女性が部屋に入ってきた。顔立ちは緑メッシュ、水色ウルフ、紫姫カット、ピンクミディアム、青ショートボブ、オレンジロブに似ている。
「あら、あなたは……」
「ちょうどいい! 昼間にトパ姉のバイトしている店で無銭飲食かました野郎だぜ!」
 水色ウルフが山田を指差しながら声を上げる。黄色ポニーテールは首を傾げる。
「無銭飲食?」
「わ、忘れたのかよ⁉」
「ランチタイムは忙しいから……」
「そ、それでも忘れるか⁉ 結構な事件だろ!」
「待って……ああ、思い出した、この子は無銭飲食の方を追いかけて捕まえてくれたのよ」
「なっ⁉」
「ありがとう、店長さんも助かったって言ってたわ」
「い、いえ……」
「そ、それでもどさくさ紛れの痴漢行為がまだある!」
「痴漢行為? ああ、勢い余って、通行人の女性とぶつかって転んじゃったのよね~」
「んなっ⁉」
「!!!!!!!」
 山田の顔がさらにパッと明るくなる。黄色ポニーテールが笑う。
「誤解は解けたかしら?」
「まだよ……」
「あら?」
 紫姫カットの言葉に黄色ポニーテールが首を傾げる。
「私たちのストアイベントでの痴漢行為がまだ残っているわ!」
「痴漢行為とは?」
「女性ファンのスカートの中を盗撮したのよ」
 青ショートボブの問いに紫姫カットが答える。オレンジロブがびっくりする。
「ええっ⁉ そんなことをする人には……」
「人は見かけによらないものよ!」
「それなんだけどさ~」
 ピンクミディアムが手を挙げる。紫姫カットが尋ねる。
「何?」
「そのニュースに興味を示したら、ウチのSNSにさっき詳細報告のDMが来てさ、どうやらこの子は犯人を取り押さえたお手柄少年みたいだよ~」
「えっ⁉」
「そうでしょ?」
 ピンクミディアムが山田に問う。山田が頷く。
「は、はい、そうです……」
「なんでアニメショップに?」
「妹がアニメファンなので、頼まれていたものを買いに行こうと……」
「そうなんだ、まあ、それはいいや。これで全ての誤解は解けたね」
「ちゃんと確認したのですか?」
 青ショートボブが呆れた視線を紫姫カットに向ける。紫姫カットがぶつぶつと呟く。
「い、いや、ドタバタしていて……あのマネージャー、ちゃんと説明しなさいよ!」
 青ショートボブが山田に向かって頭を下げる。
「……不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」
「い、いえ……」
「しかし……貴方自身ももう少し釈明すれば良かったのに」
「い、いや、綺麗な女の方が多くて緊張しちゃったと言いますか……」
「綺麗はともかく……何故男性がここに?」
 青ショートボブが緑メッシュに尋ねる。全員の視線が緑メッシュに集まる。
「えっと……」
 緑メッシュが鼻の頭をポリポリとかく。青ショートボブが追及する。
「募集していたのは女性では?」
「そ、そうね……」
「なんでここに……」
「山田パイセン」
 オレンジロブがボソッと補足する。
「……山田君がここにいるのですか?」
「……えた」
「え?」
「……間違えた」
「よく聞こえませんが」
「ええい! 間違えたのよ! てっきり女の子だと思って!」
 緑メッシュが机をバンと叩いて、立ち上がる。
「間違えたって……」
 水色ウルフが苦笑を浮かべる。
「どんな間違いよ……」
 紫姫カットが冷ややかな視線を向ける。
「エメ姉、そういうところあるよね~」
 ピンクミディアムが笑う。
「写真とか確認しないのですか……」
 青ショートボブが呆れたように呟く。
「ボクに一言でも聞いてくれれば良かったのに~」
 オレンジロブが腕を組む。
「エメちゃん……ドンマイ♪」
 黄色ポニーテールが両手で握りこぶしをつくり、前に突き出す。
「え、ええい、うるさい! どうせケアレスミスに定評があることでお馴染みなダメダメ女社長ですよ!」
 緑メッシュが机に突っ伏す。
「あ~あ、スネちゃった……」
 紫姫カットが髪をいじりながら呟く。黄色ポニーテールが近寄って、そっと声をかける。
「エメちゃん、間違いは誰にでもあるわよ」
「トパ……」
 緑メッシュが顔をわずかに上げる。
「だからと言って……」
「ああ、そんな間違うか?」
 青ショートボブの言葉に水色ウルフが反応する。
「だって、こういう名前よ!」
 緑メッシュが画面を表示した端末を皆に見せる。オレンジロブ一人を除いて皆が驚く。
「!」
 緑メッシュが対面に座る山田を指差す。
山田ガーネット! 女の子だって思うでしょう!」
「あ~これは確かに……」
 黄色ポニーテールが遠慮気味に頷く。
「くっくっく……山田という平凡な苗字からまさかのキラキラネームw」
 ピンクミディアムが笑いを堪える。
「ま、まあ、無理もねえか……」
 水色ウルフが腕を組む。
「オパ、知っていたのですか?」
 青ショートボブがオレンジロブに尋ねる。
「学校の有名人じゃん、入学したてのボクでも知っていたよ」
 オレンジロブが頷く。
「こほん……まあ、あらためて……」
 緑メッシュが咳払いをひとつ入れてから立ち上がり、山田を見つめる。
「?」
「この度は不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
 緑メッシュが深々と頭を下げる。山田は慌てて両手を振る。
「あ、い、いや、大丈夫です。誤解は解けましたから……」
「ですが……それはそれ!」
「うわっ⁉」
 緑メッシュが急に顔を上げた為、山田は驚く。
「今回はご縁がなかったということで……」
「え?」
「ご期待に沿えず申し訳ございませんがご了承ください……」
「ええ?」
「今後の山田ガーネット様のご活躍を心よりお祈り申し上げます……」
「え、ええ……」
「……はい、お疲れ~」
「ええっ⁉」
 体勢を戻した緑メッシュがひらひらと手を振る。山田は戸惑う。
「えっと……どういうことですか?」
「どういうことも何も、今回は女性を募集していたんだからね、男性は対象外よ」
「だったらその旨をきちんと書いておいてくださいよ!」
「うん、それは……正直スマン」
 緑メッシュが顔の前に両手を合わせる。
「い、いや、謝られても!」
「さあ~飯だ、飯……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 部屋を出て行こうとする緑メッシュを山田が必死で引き留める。
「うん? まだ何かあんの?」
「ありますよ! ここの求人がすごい良い条件だから応募したんです!」
「ああ、そう……」
「だからここで働けないと困ります!」
「そう言われても……」
 緑メッシュが頭をかく。山田が立ち上がって頭を下げる。
「お願いします!」
「君ならいくらでもバイト見つかるでしょ?」
「その辺のバイトの給料ではたかが知れているんです……」
「え?」
 山田が淡々と述べる。
「俺の両親はどうしようもないクズで……方々でとんでもない額の借金を作って……いわゆる闇金にも手を出しちゃったみたいで……」
「ああ、そりゃあどうしようもないな……」
「とにかく、借りたものは返さないといけません」
「まあ、そうだね……」
「期限も迫っているんです。分割返済ですけど、額が額で……それを返せないと……」
「ふむ……いわゆるあれだ? 借金の片に……ってやつ」
「はい……」
「妹さんが気の毒ね……」
「いえ、妹は関係ないです」
「え?」
借金の片に売られるのは俺自身なんです!
「ええっ⁉」
 緑メッシュが驚きの声を上げる。
「ですから……なんとかお願いします!」
 山田が再び頭を下げる。緑メッシュが額を抑えながら尋ねる。
「そ、それはあれかな? 名前で君を女の子と勘違いして……」
「いえ、そういうわけではありません。そんなケアレスミスするわけないじゃないですか」
「そ、そうだね……」
 緑メッシュの胸がちくりと痛む。
「はい」
「ちょっと待て、ということは……?」
「先方は男がお望みだそうです」
「そ、そういうパターン……」
「このままでは俺の貞操の危機です!」
「聞いたことのないことを言うね……」
「お願いします! 働かせてください!」
「そうは言っても……」
「お願いします!」
 山田がその場で土下座する。緑メッシュが困惑する。
「男が簡単に頭を下げんなって……」
「すみません! なりふり構っていられないんです!」
「必死だね……貞操がかかっているからか」
「どうか!」
「う~ん……」
「そういえば……」
「なに?」
 緑メッシュが黄色ポニーテールの呟きに反応する。
「おかずを一品作るのを忘れちゃったのよ」
「は?」
 黄色ポニーテールがしゃがみ込んで、土下座する山田に尋ねる。
「あなた、お料理出来る?」
「出来なければ、そもそも応募していません!」
 山田が顔を上げて答える。
「今からお願い出来る? 冷蔵庫の余りものしかないけど……」
「十分です!」
「力強いお返事♪ それじゃあ、キッチンに行きましょうか」
 黄色ポニーテールが山田を連れて部屋に出る。
「……いかがでしょうか?」
 食事が済んだ後、山田が緑メッシュに問う。
「うん、旨かった。まさか冷蔵庫の余り物でここまでのものを作るとは……」
「わたしも色々忙しくなってきたから、誰か料理が出来る子が欲しかったのよ」
「む……」
「これは合格で良いんじゃないかしら?」
「ちょっと待て、トパ」
 緑メッシュが黄色ポニーテールを制す。
「あら」
「君、アタシの部屋を掃除して」
「かしこまりました!」
「まあ、すぐに音を上げるだろう……」
「出来ました!」
 山田が掃除の成果を見せる。緑メッシュが唖然とする。
「ば、馬鹿な、あの汚部屋を……」
「自分で汚部屋って言うなよ……」
 水色ウルフが苦笑する。緑メッシュが呟く。
「これは……合格……か?」
「ちょっと待って、私は美容にも気を使っているの、バスルームの掃除を……」
「……出来ました!」
「こ、この短時間で、ここまで完璧に……」
 紫姫カットが驚愕する。水色ウルフが問う。
「料理、掃除は良い、問題は洗濯だ……」
「やります! 下着類などはご自分でお願いすることになると思いますが」
「お、おう……」
 水色ウルフが山田の勢いに圧倒される。
「配信をよくやるんだけどさ~ネットに関しては……」
「詳しいです!」
「おおっ、頼もしいね♪」
 ミディアムピンクが笑う。
「トレーニングに付き合ってもらうこともあるかもしれませんが……」
「体力には自信があります!」
「ふむ……」
 青ショートボブが頷く。
「高校に入ってから勉強が分からなくて……」
「なんでも聞いて下さい!」
「ほ、本当ですか⁉ パイセンに教えてもらえるなら助かる~」
 オレンジロブが笑顔を見せる。やりとりを見ていた緑メッシュが頷く。
「うん、決まりだね」
「え? 本気?」
 紫姫カットが怪訝な表情を見せる。緑メッシュが笑う。
「最初はあくまでもお試し期間だよ」
「まあ、エメ姉さんがそう決めたのなら……」
「よし、山田ガーネット君」
「は、はい!」
「採用、これから我が家の家政夫をお願いするわ!」
「! あ、ありがとうございます!」
 山田が深々と頭を下げる。
「早速、明日から仕事をしてもらおう。2階の空いている部屋を使って。問題ないよね?」
「は、はい……」
「エメちゃん、自己紹介しないと……」
「ああ、そうだな、アタシは天翔(あまかける)エメラルド
「は、はい⁉」
 緑メッシュが名乗る。山田が面喰らう。
「わたしは天翔トパーズです、よろしくね」
 黄色ポニーテールが笑顔を浮かべる。
「ウチは天翔ダイヤモンド、よろしく~」
 ピンクミディアムが手を振る。
「……オレは天翔アクアマリンだ」
 水色ウルフが腕を組んで呟く。
「私は天翔アメジストよ……」
 紫姫カットが髪の毛を指でいじりながら呟く。
「自分は天翔サファイア……」
 青ショートボブが眼鏡の縁を触りながら名乗る。
「ボクは天翔オパールです! よろしくね、パイセン!」
「え、えっと……トパーズさん、ダイヤモンドさん……って、皆さん苗字一緒?」
「そう、アタシら『天翔七姉妹』、三茶では結構有名なんだけどね」
「七姉妹……」
「それじゃあ、これからよろしく」
「は、はい、よろしくお願いします!」
 山田は頭を下げる。キラキラネームってレベルじゃねえだろうという台詞は飲み込んだ。

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