見出し画像

『ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~ 』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「じ、実験?」
「聞いてないのか?」
 女性が首を傾げる。ダテが声を上げる。
「マル!」
「こ、これから説明しようと思ったのです!」
「おいおい、なんなんだよ?」
 イロが尋ねる。マルが答える。
「……新たな恐竜たちの育成に成功しました」
「! いつも思うけど早くね?」
「遺伝子情報の解析などがスムーズに進んだことによって、卵の孵化から成長までのプロセスを一挙に短縮することが出来ましたから」
「なるほどね……」
「……分かっていないだろう、イロ」
「う、うるせえなあ、ダテ。そこは流せ」
「今回はその恐竜たちの実力を測る為に来てもらいました」
「実戦テストか」
「そうです」
 マルが頷く。イロが首を傾げる。
「どこでやるんだ?」
「ここから見えるそこの実験場です」
 マルが指し示した先に、一面が壁に覆われた大きい部屋がある。マルたちがいる部屋とは隣接していて、ガラス窓からのぞくことが出来る。
「さあ、最初は誰が行く?」
 女性が笑みを浮かべながら尋ねる。イロが手を挙げる。
「俺が行きますよ」
「イロか、お手並み拝見といこうか」
「どうぞお楽しみに」
 イロが実験場に移る。マルが尋ねる。
「準備はよろしいですか?」
「いつでもいいぜ」
「それでは……」
 マルが助手に目配せをする。助手がスイッチを押すと、壁の一部が開き、恐竜が出る。その恐竜は四足歩行で頭部の後ろに大きな襟飾りがついている。
「トリケラトプスか?」
「いいえ、あれは『トロサウルス』です」
 ダテの問いにマルが答える。女性が楽しげに声を上げる。
「デカい頭してんな!」
「全ての陸棲動物の中で最大の頭を持っていますから……」
「あの頭で頭突きを喰らったら堪らねえな!」
「おっしゃるとおりです。トロサウルスの名前の意味は『突き通す爬虫類』……あの角で貫かれたら……む!」
 トロサウルスがイロに向かって突進する。ダテが声を上げる。
「イロ!」
「へっ、心配ご無用!」
「……!」
 イロとトロサウルスが交差したかと思うと、トロサウルスが倒れ込んだ。イロがいつの間にか取り出した刀をポンポンと手のひらで叩く。
「俺のスピードの前では無力だぜ……」
「ちょ、ちょっと、イロさん⁉」
「心配すんな、峰打ちだよ」
 イロがマルに応える。ダテが感心する。
「すれ違いざまに高速で何度も斬りつけたな……さすがの速度だ……」
「いいじゃねえか、イロ! お次は誰だ?」
「私が行きます……」
 ダテが女性の問いかけに答える。助手がマルに伝える。
「……トロサウルスの回収完了……準備、整いました」
「ダテさん、よろしいですか?」
「ああ……!」
「それでは……」
 壁が再び開くと、二足歩行で鋭い鉤爪を持った恐竜が現れた。イロがマルに聞く。
「なんだ、あいつは?」
「あれは『デイノニクス』です」
「あの爪で切り裂かれたらヤバそうだな!」
 女性が声を上げる。マルが説明する。
「あの鎌のような爪、シックル・クローは斬撃に適したもので……あ!」
 デイノニクスがダテに向かって突進する。イロが声を上げる。
「結構早えな!」
「時速40キロほどで走れます! ダテさん!」
 マルがダテに呼びかける。
「……慌てることは……ない!」
「‼」
 ダテが両手に持った銃で発砲し、デイノニクスは崩れ落ちた。
「~♪ やったのか?」
「実弾ではない、麻酔弾だ。心配するな……」
 イロの問いにダテは淡々と答える。マルが感心する。
「速度には高い技術で対応……さすがです」
「いいねえ、ダテ! さて、お次は?」
「次で最後です……僕が出ます……」
 マルが実験場に入る。しばらく間をおいてから、助手に目配せする。
「……デイノニクス回収完了……では、投入します」
 ひときわ巨大な首の長い恐竜が入ってくる。イロが驚く。
「デ、デカっ⁉」
「ブラキオサウルスか?」
「いえ、あれは『ドレッドノータス』です……」
 ダテの問いに助手が答える。女性が笑う。
「ははっ、こいつはデカいな! おっ!」
 ドレッドノータスがマルに向かって突進する。
「ふん!」
「⁉」
 マルが手を振ると、ドレッドノータスの体が吹っ飛ばされる。息を切らしつつマルが呟く。
「はあ、はあ……どれほどの巨体であっても僕の念力の前では意味をなしません……」
「へっ、相変わらず厄介なサイキックだぜ」
「科学者然とした恰好とはミスマッチだがな」
 イロとダテがそれぞれ素直な感想を口にする。
「……ドレッドノータス、回収完了しました、主任」
「はい……以上で実戦テスト形式の実験を終了します」
「ははっ、良いものを見せてもらったぜ!」
 女性が実験室に入ってくる。マルが居住まいを正して話す。
「戦闘面に改善の余地がありますが……」
「お前ら相手だったらこの結果も無理はない」
「では……?」
「このまま進めてくれて構わないぜ」
「実戦配備に向けて準備します。ん⁉」
 その時、実験場に凶悪そうな面構えの恐竜が入ってくる。
「あ、あいつは⁉」
「ティラノサウルスか⁉」
 驚くイロの横でダテが問う。その問いに助手は答える。
「『ギガノトサウルス』です!」
「なぜ入ってきた⁉」
「そ、装置の誤作動で! 閣下、主任! 逃げて下さい! はっ⁉」
 助手の呼びかけよりも早く、ギガノトサウルスが動き出す。
「行くぞ! イロ!」
「ああ!」
 ダテとイロが実験場に駆け込む。その時既にギガノトサウルスが女性たちに迫っていた。
「くっ、僕の念力は連続での使用は難しい……!」
「閣下! マル!」
「あ~問題ない!」
「!」
 女性が高く飛び、ギガノトサウルスの頭上あたりにまで到達する。
「スピード、テクニック、サイキック……どれも悪くはねえが……結局!」
「‼」
「最後に物を言うのはこれだぜ!」
「⁉」
 女性がいつの間にか取り出した棍棒――薄着の恰好のどこに入れていたのか――を取り出し、ギガノトサウルスを殴る。次の瞬間、ギガノトサウルスは地面にその頭と体をめり込ませていた。女性が着地して一言。
「パワー!」
「す、すげえ……」
「規格外……」
 イロとマルが感嘆とする。
「……これが我々を惹き付けてやまない、エカテリーナ双葉(ふたば)様の圧倒的な強さ……!」
 ダテが呟く。エカテリーナは三人を見て笑顔で話す。
「長所ってもんはそれぞれだ」
「は、はい……」
「イロ、あのスピードは目を見張るものがあったぜ」
「あ、ありがとうございます……」
「ダテ、銃撃技術をどんどん磨け」
「は、はい、精進します……」
「マル、念力の使い方をもうちょっと工夫してみろ」
「え、ええ……」
「まあ、そんなとこだな、お前らが相変わらず頼りになるということが分かって良かったぜ」
「もったいないお言葉……」
 イロが頭を下げる。
「さてと……」
 エカテリーナがギガノトサウルスの顔面にドカッと座る。マルが慌てる。
「あ、危ないです!」
「大丈夫、気を失っている。それよりも……」
 エカテリーナが左手で頬杖をつきながら、右手を掲げる。三人はその場に跪く。
「はっ……」
「今後の方針を説明するぜ」
「はい」
「新潟県の部隊に山形県か福島県を攻めさせろ。どちらか守備が手薄な方で良い。その辺の判断は任せる」
「分かりました」
 イロが頷く。
「山梨県の部隊には静岡県を攻めさせろ、富士山も取っちまえ」
「はっ」
 ダテが頷く。
「長野県の部隊には引き続き、関東へ侵攻させろ」
「かしこまりました」
 イロが再び頷く。
「福井県の部隊にも、引き続き滋賀県への侵攻を継続させろ、琵琶湖の景色を見てみたい」
「は、はい……お言葉ですが、閣下!」
「なんだよ、マル?」
「四方面同時作戦となりますが、さすがに戦線を拡大し過ぎでは⁉」
「ふふっ……」
 エカテリーナが笑う。
「?」
「話は最後まで聞けよ」
「え?」
 エカテリーナが指をもう一本立てる。
「……もう一つだ、五方面同時作戦だ!」
 エカテリーナが右手の指を全て広げる。
「ええっ⁉ そ、それはあまりにも……」
「おいおい、忘れたのか、マル。あいつらの大量生産に成功したんだろう……」
「! そ、そうでした……」
「待望の機動力が手に入った。そして……正気の沙汰とは思えない多方面の同時作戦展開……周りはワタシの気が狂ったのだとでも思うだろう……その油断を突く!」
「……っ!」
「気が付けば、あっという間にこの国の半分がワタシのものになるって寸法だ……」
「な、なんと……」
 エカテリーナは静かに立ち上がり、棍棒を掲げて叫ぶ。
「この混沌とした世をさらなる混沌でもって支配してやる! お前ら、ついてこい! 新しい景色を見せてやる!」
「う、うおおっ!」
 ダテたちはつられて、手を突き上げて叫ぶ。この圧倒的な強さを持つエカテリーナについていけば、どんなことも可能になるのではないか。ダテは心からそう思った。
「しかし……」
 眼鏡の種類だけで認識するのは止めて欲しい。いい加減名前を覚えて欲しいとも思った。
――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――
 日本は十の道州と二つの特別区に別れた。
 十の道州の内の一つ、北陸甲信越州には恐竜が突然現れた。人々はパニック状態になりかけたが、窮地に追い込まれた者の強さか、恐竜たちを自分たちに従えさせることに成功した。
 巨大な生物兵器とも言える恐竜の出現は外に対しては大きな衝撃を、内に対しては大いなる希望をもたらした。
 時をほぼ同じくして、圧倒的なカリスマ性を持った女性が突然現れた。敵対する者はその強さを恐れ、味方する者はその美貌を敬った。その女性が州のトップの座に君臨することに時間はそうかからなかった。
 金髪碧眼の女性は圧倒的なまでの強さを誇る。
 細腕で振るう棍棒は地割れをも起こせるほどだ。
 余談だが極度の眼鏡男子フェチである。余談だが。
 強さと美貌、カリスマをカリスマたらしめるには十分過ぎるほどであった。
 『恐竜女帝(きょうりゅうじょてい)』
 エカテリーナ双葉(ふたば)
 北陸の地でかつての支配者たちを従え咆哮を上げる。
 最後に笑うのは誰だ。

この記事が参加している募集

スキしてみて

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?