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『ゲートバスターズー北陸戦線ー』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「~~♪」
 軍服を着た金髪を丁寧にセットした少年が楽しげに鼻歌を歌いながら、ゲートバスターズ日本支部富山管区の基地の構内を歩いている。両手ともポケットに突っ込んで歩いており、お世辞にもお行儀が良いとは言えない。少年はとある施設の入口前に立つ。警備に当たっていた者が尋ねる。
「なんだ?」
「合同訓練で来ました♪」
「? そんな予定は聞いていないが?」
「そうなんですか?」
「ああ」
「う~ん、急遽決まったからかな……?」
「第三部隊から貴様だけというのも妙な話だな……」
「あれでしょ、要は」
「あれだと?」
 警備の者が首を傾げる。
かわいがりですよ、かわいがり……」
 少年が笑顔を浮かべ、ものを撫でるような手つきをする。
「ああ、そういうことか……」
「そういうことです」
「貴様、配属以来なにかと第一部隊の連中に目を付けられているな……」
 警備の者が気の毒そうな視線を向ける。
「もう慣れました♪」
「慣れたって……上に相談するべきなのではないか?」
「いやいや、そこまでのことではありません」
 少年が右手を左右に振る。
「むう……」
「入ってもよろしいですか?」
「……所属と氏名を」
「え~それいちいち言わないとダメですか?」
「決まりだからな」
「う~ん……」
「早くしろ」
「はいはい……富山管区第三部隊所属、雷電天空(らいでんてんくう)です♪」
 少年は敬礼しつつ、自らの氏名を名乗る。
「……確認した。入っていいぞ」
「は~い♪」
 天空と名乗った少年は施設の中に入る。
「……どうにもチャラい奴だからな、ついに第一部隊の古株連中からも呼び出されてしまったか……軽傷で済めばいいがな」
 警備の者が天空の背中を見つめながら、淡々と呟く。それから十数分後……。
「ど~も~♪」
「なっ⁉」
 特に怪我をした様子のない天空が戻ってきたのを見て、警備の者が驚く。
「なんですか、その驚きよう……」
「い、いや、随分と早かったな……」
「ああ、まあ、そうですね……」
「あれか? 単なるお説教で済んだのか?」
「……まあ、そんなところです」
「それは運が良かったな。だが、お前さんもそろそろその態度を改めた方が良いぞ?」
「え?」
「チャラチャラしているから、こうして呼び出されるんだ」
「そんなつもりはないんですけどね~」
 天空が後頭部をポリポリと掻く。
「つもりは無くてもそういう風に見えるんだよ」
「まあ、一応気をつけます」
「一応って……」
「人ってそんなに簡単には変わらないものですよ、僕は僕です」
「それはそうかもしれんが……」
「それじゃ、お疲れ様で~す♪」
 天空が右手をかざしながら、その場を去る。警備の者がため息をつく。
「一度痛い目を見ないと、分からないか、ああいうタイプは……第一部隊の方々、遅いな? シャワーでも浴びているのか? ……⁉」
 警備の者が何気なく道場の方を覗きにいってみると、そこには血まみれになった男が数人、畳の上に転がっていた。警備の者が驚く。
「くっ……」
 警備の者が慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか⁉ 一体何が⁉」
「あ、あの野郎……」
「えっ⁉ まさか雷電が……だ、第二部隊の者を呼びます!」
 警備の者が端末を取り出し、連絡を取る。
「天空!」
 ポニーテールの髪型をした少女が前方を歩いていた天空を呼び止める。
「なに?」
 天空は首だけ振り返って問う。
「なに? じゃないわよ、第一部隊の人たちと揉めたでしょ!」
「あ、バレた?」
 天空はペロっと舌を出す。
「バレるわよ! わたしも駆り出されたんだから!」
「そりゃあ、どうもご苦労様でした」
 天空は少女に向き直り、頭を下げる。少女は額を抑えながら、呆れ気味に呟く。
「まったく……なんてことをしたのよ」
「ただ楽しく遊んだだけだって……」
「楽しそうに遊んだ後とは思えない光景だったけどね」
「僕は楽しかったけどね♪」
「あれはいくらなんでもやりすぎでしょ」
「だって、遠慮するな、本気で来いっていうからさ……」
「それにしたって……」
「おい!」
「!」
 天空と少女に対し、小柄な女性が声をかけてくる。軍服ではなく、袴姿である。天空は頭を軽く下げる。
「ああ、どうもです、巫女パイセン……」
巫女ではない、神職、いわゆる神主だ
「同じようなものでしょ」
「全然違う。袴を見ろ、巫女の袴は赤だ」
 女性が袴を指し示す。浅葱色である。
「は~そうなんですか……」
「そんなことはどうでもいい……宙山雪(そらやまゆき)隊員」
「は、はい!」
 小柄な女性よりは背の高い――平均より少し大きいくらいだが――雪と呼ばれた少女が体勢をビシっとさせる。小柄な女子は笑顔を浮かべる。
「第一部隊の隊員に対する貴官の迅速な処置、感謝する」
「い、いえ……」
「問題は貴様だ、雷電天空隊員……」
 小柄な女性が笑顔から一転、厳しい表情で天空を見上げる。
「え? 僕、何かやっちゃいましたか?」
 天空が腕を組んで首を傾げる。
「すっとぼけるな……先輩隊員どもをやったのは貴様だろう?」
 小柄な女性が睨みつける。
「やったって……訓練の一環ですよ」
「訓練だと?」
「ええ、そのようにお誘いを頂いたので……」
「ふむ……だが、あそこまでする必要があったのか?」
「遠慮するな、本気で来いって言われたものですから……」
「そうか……」
「ご納得頂けました?」
「まあな……」
「それは良かった」
 天空は笑みを浮かべる。
「だが……」
「だが?」
「このままやられっぱなしでは第一部隊の沽券に関わる……」
「コケン?」
 天空が首をやや傾げながら傍らの雪を見る。雪が小声で囁く。
「プライドのようなものよ……」
「ああ……」
 天空が頷く。
「やられたらやり返さなければな……」
「神職がお礼参り……逆じゃないですか?」
「ふっ……本官は神職でもあるが、ゲートバスターズの一員でもある……」
「ふ~ん、そういう論理ですか……」
「不服か?」
「いえ、別に……」
「ならば……」
「ええ……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 雪が二人の間に割って入る。天空が首を捻る。
「なんだよ、雪っぺ?」
「ゆ、雪っぺ言うな!」
「じゃあ、雪」
「! よ、呼び捨てすんな!」
 雪が顔を赤らめる。
「どっちだよ……」
「ア、アンタの好きなように呼べばいいわ……」
「う~ん、じゃあ、雪之丞」
「第三の選択肢⁉」
「あだ名のセンス良くない?」
「良くないわよ!」
「そうかな……それじゃあ……」
「あだ名はやめて!」
「雪っぺで良い?」
「あ~良いわよ、それで!」
「そっか」
「って、そんなことはどうでも良いのよ!」
「自分から話をそっちに向けたんじゃん」
「うるさい! アンタ、あの人が誰だか分かってんの?」
「……誰だっけ?」
 天空が首を傾げる。
佐々美葉(ささみよう)さんよ! 第一部隊の次期エースとして期待されている人よ!」
「巫女さんのコスプレイヤーじゃなかったんだね」
「なんてことを!」
「それに次期エースって……今エースじゃなくていつエースになるのさ?」
「黙りなさい! 本当に強いのよ⁉」
「へ~人は見かけによらないねえ~」
 天空が雪の肩越しに葉を覗き見る。
「そうよ!」
「なんか、マスコット的な感じじゃない?」
「ま、まあ、ちっちゃくて可愛らしい感じだけど……」
 雪が振り返りながら同意する。
「……聞こえているぞ」
 葉が顔をしかめながら呟く。雪が首を傾げる。
「へ?」
「へ?じゃない。急に痴話喧嘩じみたものを始めたかと思えば、人をマスコット扱いとは……揃って良い度胸をしているな」
「い、いや、そういうわけでは!」
 雪が慌てて両手を左右に振る。
「ではなんだと言うのだ?」
「え、えっと……」
「今のは夫婦漫才です」
 天空が口をはさむ。葉が頷く。
「なるほど……」
「め、夫婦って! そ、そんな……」
 雪が先ほどよりも顔を赤くする。元々色白なだけに、変化が分かりやすい。
「雪っぺ、何を照れてんの?」
「て、照れるでしょ、それは……!」
「冗談だって」
「じょ、冗談?」
「そっ……うおっ⁉」
「冗談でわたしの心を弄んだのね……」
「ゆ、雪っぺ……まるで鬼のような顔になっているよ……」
 天空が狼狽える。
「それは鬼にもなるわよ……!」
「ちょ、ちょい待ち! ちょい落ち着こうか!」
 天空が雪をなだめる。雪が天空に迫る。
「それは無理な話ね……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待て! 宙山隊員! 雷電隊員に用事があるのは本官だ!」
「!」
「ここは大人しく引き下がってもらおうか?」
「そういうわけにも参りません!」
 正気を取り戻した雪があらためて、二人の間に立って、両手を広げる。
「なんだ、止めようというのか?」
「やめとけ、雪っぺ、巻き込まれて手足がもぎれるぜ」
「ひっ⁉」
「さすがにそこまではしないが……」
 葉と天空の距離が徐々に近づく。気を取り直した雪が声を上げる。
「こんなところでケンカとは、上にバレたらマズいですよ!」
「バレないようにやるさ……」
「同感ですね……」
 雪と天空が向かい合う。


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