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『ゲートバスターズー北陸戦線ー』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
ゲート』……21世紀も四半世紀を経過しようとしたその頃、世界各地に突如として現れるようになった空間に生ずる大きな黒い穴を人類はこのように呼称するようになった。
 そのゲートからは様々なもの、『イレギュラー』が出現するようになった。大別すれば、三種の恐るべき力を持った存在である。これらイレギュラーは世界各地で暴虐の限りを尽くした。戸惑いながらも人類は連携を取りながら、これらの敵性的存在の迎撃に当たった。人類はその為に構築した迎撃組織を『ゲートバスターズ』と呼ぶようになった。
 これは日本の北陸地方でゲートバスターズに所属する三人の少年とその仲間たちの物語である。

本編

「……パターン黒です」
 通信機から女性の冷静な声が聞こえてくる。
「あ~それはこちらでも確認しました~」
 軍服をだらしなく着る。ボサボサの黒髪で細目の青年が通信に気だるげに応える。
「……危険度はCです
「う~ん、これは各地のリーダー三人をわざわざ揃える必要は無かったかな?」
 青年の視線の先の空間には黒い大きな穴が空いており、そこから黒く小さな影が現れた。影は地上に着地した後、しばらくよちよち歩きのような動きをしていたが、急に大きい四足歩行の獣のようになる。青年の顔色がやや緊張したものになる。
「……危険度がBに上昇……Bならまだ慌てる事態ではないかな。まずは君に任せようか」
「ひっ! お、俺ですか?」
 青色の髪を長く伸ばしている少年が泣きそうに――ほとんど泣いている――尋ねる。
「ああ、君の射撃は良い牽制になる」
「は、はあ……あまり期待しないで下さい……よ!」
 青髪の少年の射撃が獣と化した黒い影の頭部を中心に射抜く。黒い影は動かなくなる。
「全弾命中……実に正確な射撃だ。ところで何故頭部を中心に?」
「……生き物ならば、頭部が損傷すると動けなくなる可能性が最も高いと考えました」
「なるほど……理には適っているね……だが、そう簡単にはいかないようだ……」
 青年が指し示すと、影が姿を変化させる獣よりは小さめな人型の姿に変化する。
「ならば、僕が! おらおらおらっ! もう一つおまけにそらっ!」
 黄色髪を丁寧にセットしている少年が――どこか楽し気に――影の胸部を殴りつける。最後には強烈な回し蹴りをお見舞いする。黒い影は再び動かなくなる。青年が呟く。
「頭部がダメなら胸部……見事な判断だ。こちらの指示を待てなかったのは頂けないけど」
「すんまぜん、ついつい楽しくなっちまいまして……」
「恐怖に足がすくむよりはマシだけどね……見事なラッシュだったよ」
「結局信じられるのは己の拳です!」
 黄色髪の少年が高々と拳を突き上げる。青年はため息をつく。
「その割にはフィニッシュがキックだったけどね……!」
 黒い影が形状を化物のように変化させ、青年たちに迫ってくる。
「はああっ!」
 赤髪を無造作にした少年が――何故か怒り気味に――手に持っていた刀で影を斬る。
「影が霧消した……そうか、単に首を刎ねれば良かったんだね。それにしても見事な剣だ」
「私は満足しておりません、まだまだ精進あるのみです!」
「向上心があるね。ゲートの混線でもあったのか、珍しい影だった。思わぬ収穫だね」
 青年が自らと同じ軍服を着た少年たちを引き連れ、周囲を入念に確認後、帰投する。


ゲート』……21世紀も四半世紀を経過しようとしたその頃、世界各地に突如として現れるようになった空間に生ずる大きな――その大きさはまちまちであるが――黒い穴を人類はこのように呼称するようになった。
 そのゲートからは様々なもの、『イレギュラー』が出現するようになった。大別すれば、三種の恐るべき力を持った存在である。これらイレギュラーは世界各地で暴虐の限りを尽くした。戸惑いながらも人類は連携を取りつつ――100パーセント万全なものとは言い難いが――これらの敵性的存在の迎撃に当たった。人類はその為に構築した迎撃組織を『ゲートバスターズ』と呼ぶようになった。世界各地の大都市だけでなく、地方都市に至るまでゲートバスターズは配備され、彼らの懸命な働きによって、最初期の遭遇から二十年ほど経過した現在となると、大規模な被害は食い止められるまでにはなった。
 ただし、肝心のゲートに関する調査についてはほとんど進んでいなかった。ゲートは出現場所がいつもバラバラで、開いている時間も極めて短く、なによりどこに繋がっているのかほぼ不明な為、こちらからの突入はあまりにもリスクが大きすぎるのである。それでも調査に赴いた勇敢なものたちはいたが、いずれも戻ってきてはいない……。
 ゲートの出現と関連してなのかどうかは不明だが、世界中で特殊な能力を持った子供たち、乳幼児の存在が数多く確認されるようになった――大人でもそういった能力を開花させる者はいたが、そのほとんどは若年層に偏っていた――その為、世界中の為政者たちは非人道的・人権無視であるなどという非難を受けながらも、そういった特殊な能力を持った子供たちを手厚く保護し、ゲートバスターズの新世代を担うべき存在として英才教育を施すこととした。たった今、通っている学校から、最寄りのゲートバスターズの基地にランニングで向かう赤髪の少年もその『新世代』の一人である。
「はっ、はっ、はっ……到着……!」
 若さには似合わぬ重々しさを感じさせる軍服から、情報端末を取り出した少年は基地の門横に設置された出入管理システムに端末をタッチさせる。機械音声が流れる。
「不定期の確認です。お手数ですが、お名前を伺います……」
疾風大海(はやてたいかい)です……」
「……はい、確認しました。ゲートバスターズ日本支部金沢管区第四部隊所属の疾風隊員で間違いありませんね?」
「え? 第四部隊? そんな部隊はありませんが……」
「どうぞお通り下さい」
 門が開く。大海は首を傾げながら、門をくぐった。
「システムエラー? ……報告した方がいいですね」
「大海―!」
「ん?」
 大海が目をやると、大海と同じ軍服を着たショートカットの少女が駆け寄ってくる。おでこを出した髪型が特徴的だ。
「ぶえっ!」
 ショートカットの少女が思い切りつまずき、おでこを派手に地面にぶつけた。
「だ、大丈夫ですか?」
大海が心配そうに声をかけながら、手を差し伸べる。
「だいじょばないけど……あ、ありがとう」
 少女はおでこをさすりながら、大海の手を取って立ち上がる。
「どうかしたのですか?」
「また学校からランニングで来たでしょ、バスから見えたよ」
「ええ」
「交通機関というものを利用しなさいよ」
「体力作りの一環です。鍛えておくことに越したことはないですから」
「それにしてもね……」
「それじゃあ……」
「あ~ちょい待ち、ちょい待ち!」
「え?」
「アンタもこっちだから」
 少女は大海が行こうとした方向とは別の方向を指差す。
「どういうことですか?」
「アタシもよく知らないけど、急な配置変換が入ったのよ」
「! 第四部隊とはそういうことですか?」
「ああ、そうそう、それそれ」
 少女が頷く。
「なんだってまた配置転換に……」
「アタシも驚いているわ」
「ええ?」
 大海が驚く。少女が首を傾げる。
「なにをそんなに驚くのよ?」
「いや、問題ばっかり起こしているじゃないですか……」
「な、なによ! アタシの配置転換は妥当って言いたいわけ⁉」
「極めて妥当かと」
「うるさいな、人よりちょっとドジっ子気質なだけよ!」
「そういう気質がちょっとでもある時点でわりと致命的ですよ……」
「ぐっ……言いにくいことをはっきりと言ってくれるわね……」
「そういう性分なもので」
「まあいいわ、さっさと行きましょう」
 少女が歩き出し、大海がそれに続く。二人はすぐに目的の部屋までたどり着く。
「ここですね……旧会議室……」
「ど~ぞ~♡」
 大海がドアをノックすると、部屋の中から気持ちの悪い猫撫で声がする。
「失礼します! ……疾風大海です!」
星野月(ほしのつき)です!」
 二人は部屋に入るなり、敬礼をする。
「なんだよ、一人は野郎かよ……」
 椅子に座っていた大柄な坊主頭が天を仰ぐ。
「貴方は確か……」
「……古前田慶(こまえだけい)だ」
 古前田と名乗った男がゆっくりと立ち上がり、やる気のない敬礼を返す。一応軍服は着ているが、派手な装飾を施している。月が尋ねる。
「古前田さんも……」
「オイラのことは慶でいいぜ、月ちゃん♡」
 古前田が月の両手を取る。月が戸惑う。
「え、ええ……?」
「一瞬で距離を詰めた……さすがガールハントにのみ本気を出す男……!」
「感心しているようでディスってんな……後、そういうのは思うだけにしろよ」
 古前田が大海に向かって告げる。
「あ、す、すみません……思ったことをつい口に出してしまうもので」
「直した方がいいぜ」
「気をつけます」
 月がさりげなく両手を振りほどいて問う。
「……古前田さんもこちらに呼ばれたのですか?」
「あら、心の距離は縮まんなかったか……」
 古前田が苦笑する。月が重ねて問う。
「どうなのですか?」
「……ああ、そうだよ。誰が集めたのやら……」
「ボクだよ」
「!」
いつの間にか部屋の中に入っていた軍服をだらしなく着たボサボサの黒髪で細目の青年に三人は大いに驚く。
「あ、貴方は……」
「こうして挨拶するのは初めてかな? 夜塚梅太郎(よづかうめたろう)だよ……って、知らないかな?」
 夜塚が敬礼してからおどけてみせる。大海は首を振る。
「知らないなんてとんでもない! 数々のイレギュラー討伐に功を挙げた、『最強の梅太郎』のことはこの辺の子供だって知っています!」
「そうですよ! 金沢管区が日本に、いや、世界に誇る、『ジーニアス梅太郎』!」
「泣かした女は数知れず! 『プレイボーイ梅太郎』!」
梅太郎を強調するのやめてくれない⁉ 後、どっちかというと馬鹿にしてるでしょ⁉」
 夜塚が細目をガっと見開く。
「そ、そんなつもりは無かったです、梅太郎さん」
「ごめんなさい、梅太郎さん」
「マジですんません、梅太郎さん」
 大海たちが揃って頭を下げる。
「君たちわざとやってるでしょ⁉ ボクのことは夜塚隊長って呼んでくれない⁉」
「はい、了解しました……隊長?」
 大海が首を傾げる。
本日付けで君ら三人はボクを隊長とする第四部隊に配属されることになったから
「は、はあ……」
「不満ある感じ?」
「い、いえ……ただ、急な話だなと……」
「出向先の面倒な任務が結構唐突に片付いたからね、それでも本当は前もって通告しておくべきだったのだけど……」
「だけど?」
「サプライズ感があっても良いかなと思ってさ♪」
 夜塚が大げさに両手を広げる。
「そ、そうですか……」
「あれ? 驚いていない?」
「驚いています……」
 夜塚が大海の顔を覗き込んで、重ねて尋ねる。
「……もしかして怒ってる?」
怒ってはないです、こういう顔つきなだけです
「ああ、そう。それなら良かった」
「よ、夜塚隊長!」
 月が手を挙げる。
「うん? 何かな?」
「こ、これで全員ですか?」
「後方支援などサポートをお願いする人も何人かいるけど……いわゆる前線に出張るのはボクも含めたこの四人で全員だね」
「……少なくないでしょうか?」
「まあ、上に結構無理を言って作ってもらった部隊だからね。遊撃隊みたいな立ち位置と認識してもらったら良いかな?」
「遊撃隊……」
 大海が呟く。月がもう一度手を挙げる。
「も、もう一つ質問よろしいでしょうか?」
「ああ、いちいち挙手しなくても良いよ」
「は、はあ……えっと、何故このメンバーなのですか?」
「あ、そういうの知りたい系~?」
 夜塚が笑いながら月を指差す。月は戸惑いながら頷く。
「そ、それはもちろん……」
「第一部隊から第三部隊、それぞれの隊長さんに相談させて頂いてね……」
「はい……」
「ある意味強力な推薦を頂いたんだ」
「す、推薦! ……ある意味?」
 月が首を捻る。
「うん、問題児をあげるって
「も、問題児って! 誰がですか⁉」
「君ら」
「ど、どこが問題なんですか⁉」
「えっと、協調性に乏しい……」
「むっ……」
 大海がわずかに顔をしかめる。
「ドジっ子過ぎる……」
「てへっ♡」
 月が舌をペロっと出して、片手の拳を頭に添える。
「はみ出し者……」
「そこはかぶき者って言って欲しいですね……」
 古前田がムッとする。
「まあ、とにかく君らの名前が挙がったので、ボクの部隊に入れさせてもらった」
「そ、そんな……」
「不服かい?」
「そ、そうではありませんが……要らない子扱いされたのはちょっと……」
 月が悲しげに顔を伏せる。
「まあ、環境が変われば、またパフォーマンスも変わってくるさ」
「そ、そうでしょうか?」
「案外そういうものだよ。君らもゲートバスターズの一員なわけだから、ポテンシャルは十分なはずだ。要らない子って、自分を卑下するものじゃないよ」
「は、はい……!」
 月が顔を上げる。古前田が口を開く。
「質問があるんですが……」
「どうぞ、古前田隊員」
「このボロい会議室がオイラたちの拠点ですか?」
「そうだね、ここしか空いてなかったもので……」
「希望が持ちにくいな……」
 古前田が苦笑しながら部屋を見回す。
「まあまあ、住めば都って言うでしょ?」
「はあ……」
「私からも質問よろしいですか?」
「どうぞ、疾風隊員」
「今日は何をするのでしょうか?」
「自由」
「えっ⁉」
 大海が驚く。
「いや、顔合わせだけだから……」
「せっかくですからトレーニングをしましょう! 最強と名高い梅……夜塚隊長と手合わせしてみたいです!」
「却下」
「な、何故ですか⁉」
めんどい
「め、めんどい⁉ し、しかし、隊員の練度が上がらないのはマズいのでは⁉」
「! それなら……」
「?」
 夜塚が端末を取り出して確認し、画面を大海たちにも見せる。
「早速イレギュラー討伐といこうか」
「ええっ⁉ 通知が早いですね⁉」
「指令部に頼んで、他よりちょこっと早く情報を回してもらうよう手配してもらったんだ。ボクは現場でひたすら実践主義なんだよね~それじゃあ、早速だけど出動!」
 夜塚が両手をポンと叩いて、三人に出動を促す。
「ゲート開放反応があった地点に到着しました」
「運転ご苦労さん♪」
「ご武運を!」
 夜塚たちを下ろすと隊員が車を後退させる。
「わざわざ兼六園付近に来るとは……よっぽど観光したいのかね?」
「……」
 夜塚の問いに対し、大海は反応しない。
「あれ? 面白くなかった?」
「え? 冗談だったのですか?」
「まあ、ほんの軽口だったんだけど……」
「イレギュラーの気持ちは分かりませんので……」
「……疾風隊員」
「はい」
「君はアレだな、真面目過ぎるんだな」
「だ、駄目でしょうか?」
「いや、駄目ってことはないけどさ……」
 夜塚が頭を軽く抑える。そこに通信が入る。
「ゲート開きます……」
「来たか……」
「……ポワアン」
 かなり大きい綿毛の塊がいくつもゲートから飛び出してくる。
「……パターン赤、『妖魔(ようま)』です」
「ふむ、この金沢市を中心とした石川県エリアっていうのはどうにもあの種のイレギュラーが多いよね……何故だろうか?」
 夜塚が首を傾げる。
「古都金沢の雰囲気が引き寄せるんじゃあないでしょうか」
「古前田隊員、もっともらしいことを言うね」
「いや、適当に言ってみただけですが……」
「案外、そういうのが当たっているんだよ」
「そういうものですかね」
「そういうものだよ」
「……夜塚隊長、よろしいでしょうか?」
 通信手が尋ねる。
「ああ、すみません、どうぞ」
危険度ですが……Cです
「Cね……見るからに害は少なそうだ……」
「ご健闘を祈ります……」
 通信が切れる。夜塚が腕を組む。
「まあ、放っておいてもいいか……」
「ええ?」
 大海が驚く。
「冗談だよ」
「では、討伐しますか」
「まずは出方を伺ってみよう……」
「! ぽわああん!」
 綿毛が急に膨らむ。
「おっ!」
「ぽわ、ぽわ、ぽわあん!」
 綿毛が膨らみながらこちらに向かってくる。
「こちらの存在に気がついたか……共存はやはり無理なようだね」
「どうしますか⁉」
 大海が問う。
「古前田隊員!」
「おっしゃあ!」
 古前田が長い槍を取り出す。
「君の好きなように討伐してみてくれ」
「よっしゃあ!」
「!」
 古前田が飛びかかって、槍の柄で綿毛を殴る。大海と月が驚く。
「な、殴った⁉」
「突かないの⁉」
「突くのではなく、叩くとは……これは意表を突かれたね」
 夜塚が頷く。月が声を上げる。
「何をちょっと上手いこと言っているんですか!」
「いやあ……」
 夜塚が後頭部を抑える。
「褒めてないですよ!」
「あ、そう……」
「ぽわあん!」
「おっ⁉」
「ぶ、分裂した⁉」
 綿毛がいくつかに分裂する。古前田が舌打ちする。
「ちっ、マズったか!」
「打撃を選択したのは決して悪い判断ではないよ」
「隊長……」
「槍だからといって、刺突にこだわらないひねくれぶり……もとい、柔軟性は良いと思う」
「はい……」
「まあここは選手交代といこうか……星野隊員!」
「はい!」
「任せたよ!」
「ええ!」
「ぽわっ⁉」
 月が高く舞い上がる。それを見て夜塚が淡々と呟く。
「彼女の特殊な能力……というか、その卓越した身体能力は時にイレギュラーたちをも圧倒することが出来る……」
「はっ!」
「‼」
 高い位置から月が弓矢を次々と射る。矢は分裂した綿毛を正確に射抜いていく。
「思った以上に精度の高い射撃だ……」
 夜塚が満足気に頷く。
「よっと! ……とっとっと……あららっ⁉」
 月が着地をミスして転がる。
「ドジっ子気質はなんとかしていかないといけないけどね……」
 夜塚が苦笑する。古前田が声を上げる。
「隊長!」
「うん?」
「ぽ~わ~!」
 残っていた綿毛が集まり、一つの大きな綿毛と化す。
「ほう、合体か……集合と言った方が良いのかな?」
 夜塚が首を傾げながら大きくなった綿毛を見上げる。古前田が槍を構える。
「もう一度オイラが行きます! 今度は地面ごと叩き割るつもりでいきます!」
「突くという選択肢の優先度は低いのかな? 君のフルパワーも見てみたいけど、それはまたの機会にしよう……疾風隊員!」
「はい!」
「君のお手並み拝見といこう……」
「はい……!」
 大海が刀を構える。
「ぽわっ……」
「はあっ!」
 大海が綿毛に斬りかかる。大きな綿毛の塊が半分になる。月が声を上げる。
「やった!」
「いや、オイラの二の舞だ!」
「えっ⁉」
「古前田隊員の言う通り……このままなら塊が増えるだけだね……」
 古前田の言葉に夜塚が頷く。
「そんな……」
「さあ、どうする?」
「はああっ!」
「⁉」
 大海が目にも止まらぬ速さで刀を振るい、綿毛の塊を細かく切り刻んでみせる。
「は、速い!」
「ふむ……まさに疾風の如き剣速だ……」
 驚く古前田の横で夜塚が感心する。
「どうです!」
 大海が刀を鞘に納める。綿毛はバラバラになって、地面にハラハラと落ちる。
「凄いよ、大海!」
「へっ、やるじゃねえか……」
 月と古前田が大海を称賛する。
「もったいないお言葉です……」
 大海も二人に向かって頭を軽く下げる。夜塚が口を開く。
「水を差すようだけど……」
「え?」
「気を抜くのはまだ早いよ」
「!」
 大海が振り向くと、地面に落ちた綿毛から花が生える。月と古前田が驚く。
「こ、これは……」
「むっ⁉」
 花が集まり巨大な花となる。大海が唖然とする。
「な、なんと……」
「避けるんだ、危ない!」
 夜塚が声を上げる。
「ぽわっ!」
「うおっ⁉」
「きゃあ⁉」
「どわっ⁉」
 花が飛ばした花びらが鋭い刃と化し、大海たちを襲う。それを回避しようと大海たちは横っ飛びして、倒れ込む。夜塚が声をかける。
「大丈夫かい⁉」
「な、なんとか……」
「か、間一髪、服が破れただけです……」
「隊長の声が無ければ危なかったぜ……」
「とりあえずは無事なようだね……」
 夜塚がほっと胸をなで下ろす。大海が問う。
「あいつは……花の妖魔ということですか?」
「こういうケースは珍しいからね……ちょっと待ってて、もしもし、指令部?」
 夜塚が通信を繋ぐ。
「……はい」
「状況は把握していますよね?」
「モニタリングしておりますので……」
「奴の危険度は?」
 夜塚が巨大な花に向かって顎をしゃくる。
「こちらとしても珍しいケースですので、現在データ照会中です……該当データがあった場合、そちらと照らし合わせて、危険度を改めて算出します」
「急いでね」
「……出ました」
「早いね」
「緊急を要しますので」
「いいね、頼もしい」
 夜塚が笑みを浮かべる。
危険度は……Aです
「! ほう、一気に跳ね上がったねえ……どうも」
 夜塚が通信を切る。
「隊長、ここは私に! 私の詰めの甘さが招いた事態ですので!」
「いや、すべてはボクの油断だ……」
「隊長!」
「落ち着いて」
「……!」
 夜塚は大海の眼前に手を広げて、大海を落ち着かせる。夜塚は再び笑みを浮かべる。
「良い子だ」
「隊長……」
「ここはボクに任せてもらうよ……」
 夜塚が前にゆっくりと進み出る。
「ぽわあっ!」
 花が葉を長く伸ばす。古前田と月が声を上げる。
「あ、あれで包み込む気だ!」
「隊長! 危ない!」
「ふん!」
「ぽわっ⁉」
 夜塚が手を掲げると、周囲に巨大な木が何本も生える。すると、葉の伸びは止まるどころか、花自体が萎れてしまう。古前田が口を開く。
「水生木……木は水によって養われる。翻って木は水が無いと枯れてしまう……」
「……どういうこと?」
「木を生やして、花の水分を強引に吸い取ったのです!」
 首を傾げる月の横で大海が声を上げる。夜塚が大海を指差す。
「そういうこと♪」
「ぽ、ぽわあ……」
「大きな花の太い茎……まるで木のようだね。ならば、これだ!」
 夜塚は巨大な斧を出現させ、それを手に取る。大海が驚く。
「あんな巨大な斧を軽々と!」
「驚くのはまだ早いよ! それっ!」
「ぽわあああん!」
 斧によって切断された花は霧消する。古前田が呟く。
「金剋木……金属製の斧は木を切り倒すか……」
「その通り……」
五行の力を全て使いこなすのが、夜塚梅太郎の強さの秘密か……」
「五行にピンと来るとは、なかなか物知りだね……さて、片付いた……指令部?」
「確認しました。事後処理はお任せ下さい」
「任せたよ♪」
「……」
「あれ? みんなどうしたんだい?」
「結局隊長にお任せしてしまいました……」
「まあまあ、三人ともよくやったよ、後は経験を積めばもっと良くなるさ」
「そうですか?」
「ああ、ボクの見立ては間違っていなかったよ……さあ、帰投しようか」
 夜塚が笑顔で三人に声をかける。


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