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『セブンでイレブン‼~現代に転移した魔王、サッカーで世界制覇を目指す~ 』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「昨日の記者会見の動画、かなりバズっているわね……」
 ななみが端末を述べながら呟く。レイブンが尋ねる。
「バズっているとはなんじゃ?」
「反響が大きいってことよ」
「それは重畳……」
 レイブンが満足気に頷く。
「魔法を使ったのが大きかったわね……外国語でもコメントが多く書き込まれているわ」
「ほう、この国に留まらずか」
「そうよ、海を越えたわ」
「やはり異世界でもワシの威光は留まることを知らんか」
「……」
「なんじゃ?」
「いや……」
 英語で『どうせトリックを用いているんだろう』、『魔王だって? この男、ド〇ッグでもキメているんじゃねーか?』といったようなコメントが多数書き込まれていることについては、ななみは黙っておくことにした。もちろんジパング語でも否定的なコメントがほとんどなのだが、それについても当然告げないでおこうと思った。
「しかし、便利なものだな……」
「え?」
「そのような小さい板で世界に向けて情報を発信することが出来るとは……」
「あ、ああ、確かに便利ね」
「それをいくつか所望する」
「え? これを?」
 ななみは端末を指差す。レイブンが頷く。
「ああ」
「何のために?」
「そんなことは知れたこと、元の世界に戻ったとき、ワシの威光を全世界に轟かせるために必要になるからじゃ」
「い、いや、その場合、相手もこの端末を持っていないと通信出来ないと思うわよ……」
「ワシの傘下には優秀な技術者や鍛冶職人が数多おる。奴らの手にかかれば、素早く量産することなどたやすいことだ」
「はあ……まあその内に用意しておくわ」
「頼むぞ」
「ところでレイブン」
「貴様、魔王相手に堂々と呼び捨てじゃのう……」
「あなた、なんでその椅子に座っているの?」
 ななみは背もたれ付きの椅子に腰かけるレイブンを指差す。
「ふむ、この建物の中では一番魔王にふさわしい椅子だと思ってな……」
「それ、社長席。本来なら私が座る席だから」
「貴様にはまだ早い……」
「まだ早いってなによ、今は私が社長なのだから、私に座る権利があるはずだわ、ほら、どいてどいて」
「うおっ⁉」
 ななみはレイブンを無理やり押し退ける。
「ま、魔王から椅子を奪い取るとは、良い度胸か、よほどのアホか、多分後者じゃな……」
呆れた様子で呟くレイブンを尻目にななみが椅子に座る。
「あ~この背もたれの感触……上り詰めたって気がするわ~」
「上っていないじゃろう、どちらかというと落ちてきたんじゃろう」
 レイブンが冷静に指摘する。
「zzz……」
「おい寝るな、起きろ」
「……はっ! あまりの座り心地につい……」
「ななみ」
「しゃ、社長を呼び捨て⁉」
「貴様も呼び捨てにしとるじゃろう……様々な課題についてはどうなっている?」
「魔王会見動画が世界的にバズって、スポンサー契約を継続したい、または新規に結びたいという物好き……もとい、ありがたい企業様が何社かあってね、当面の活動における資金面はなんとか目途が立ちそうなのよ」
「ほう」
 レイブンが腕を組んで頷く。
「ただ、肝心のクラブとしての活動にあたってなんだけど……」
「うん?」
「レイブン、一昨日も説明したけど、サッカーって11人でやるものなのよ……」
「ああ、そうじゃな」
「でも、現状選手はあなた1人なのよ……スタッフや球団職員などをやりたいという方々はいるんだけど、あなたとプレーしたいという人が今のところ現れなくてね……」
「それに関しては問題ない」
「も、問題ないって……」
「昨日ワシはこのルールブックを熟読した」
 レイブンは本棚から一冊の本を取り出す。ななみが驚く。
「えっ⁉ あなたジパング語読めるの?」
「翻訳魔法を使った」
「え?」
「魔王たるもの、歴史など、あらゆることに通じていなければならんからな、古文書解読に用いていた魔法が役に立った」
「そ、そんな魔法が使えるの?」
「ああ、魔力が戻ってな」
「戻ったの?」
「部分的にじゃがな……しかし、この部屋でも魔力がある程度戻ったと感じたり、まったく己の魔力を感じられない場所がある……」
 レイブンが部屋をウロウロとする。その様子を見てななみが笑いそうになる。
ワ、WiFi探しているみたいね……
「なんじゃ?」
「い、いや、なんでも……」
 ななみは口元を抑えて首を振る。
「……まあいい、このルールブックには大事なことが書いてあった」
「大事なこと?」
サッカー競技規則、第3条……
「え?」
 ななみが首を傾げる。レイブンが呆れる。
「なんじゃ、知らんのか?」
「ま、丸暗記まではしていないわよ……」
 ななみの答えにレイブンはため息をつく。
「はあ……まあよい、第3条の各項目には競技者について明記してある」
「競技者について?」
「そうじゃ……」
「それがどうかしたの?」
「各項目を照らし合わせた結果……サッカーは最低7人いれば、試合を行うことが出来る
「!」
「よって、後6名集めれば、体裁は整う
「で、でも6名集めるのも大変よ?」
「心配には及ばん、既にワシと同様にこの世界に転移してきた者たちを感知した」
「え⁉」
「数は6。恐らくワシが信頼を寄せる強力な6の軍団長じゃろう。恐怖の象徴たる奴らさえ揃えば、たとえ最低人数でも問題はない! 早速合流するぞ!」
「ええっ⁉」
 レイブンの言葉にななみは驚く。
「6軍団長がいれば、なにも恐れるものはない」
「そ、そんなに強力なの……?」
「ああ」
 レイブンが自慢気に頷く。
「ど、どういう人たちなの?」
「人というか……」
「というか?」
モンスターじゃな」
「モ、モ、モンスター⁉」
 ななみが目を丸くする。
「ああ、ワイバーンなどがおるぞ」
「ワ、ワ、ワイバーン⁉」
「うむ……」
「思いっきりファンタジーの世界ね……」
「忘れていた、人もおるぞ」
「ああ、そうなんだ……」
 ななみはホッとする。それを見て、レイブンはニヤリとする。
「ただし、一つ目の巨人じゃがな」
「きょ、巨人⁉」
サイクロプスという奴じゃ」
「サ、サイクロプス……」
「あやつに『ゴールキーパー』とやらを任せよう」
「ええ……」
「まさに鉄壁を誇るはずじゃ、なんせゴールが隠れてしまうからな」
 レイブンがいたずらっぽく笑う。ななみが呆然とする。
「それはもはや鉄壁ってレベルじゃないでしょう……」
「11名揃わんでも、この世界で後れは取らんじゃろうな……」
「まあ、そういう方々がいるなら……」
「むしろ、頭数が少ないのがハンデじゃ」
「ハンデありで世界に挑むの?」
「ああ、負けることはまず考えられんからな。違うか?」
「それはそうかもしれないけど……」
「ああ、そうじゃ」
 レイブンが両手をポンと叩く。
「ん?」
「チーム名もこの際、『船橋モンスターズ』に変更したらどうじゃ?」
「それは却下」
 ななみは即答する。
「な、何故じゃ?」
「ダサいから」
「ダ、ダサい……」
「チーム名は変えないわよ。アウゲンブリック船橋! これだけは譲れないわ」
「何故に?」
「名前を変えたら、それはもはや別のチームじゃないの」
「そういうものか」
「そういうものよ」
「まあいい……さっさと連中と合流せねばな。しかし……」
 レイブンが顎に手を当てる。ななみが尋ねる。
「どうしたの?」
「いや、ひとつ気になるのが……」
「気になるのが?」
「発している魔力が微弱なことじゃな……」
「微弱?」
「ワシと同様、この世界に転移した影響で魔力が弱まっているのかもしれんな……」
「大丈夫なの?」
「なに、それくらいでちょうどよかろう」
「そう……それでその軍団長諸君はどこにいらっしゃるの?」
「……この辺の地図はあるか?」
「え? ええ……」
「それを持ってくるんじゃ」
 ななみがクラブハウス周辺の地図を持ってきて、机に広げる。
「……はい」
「ふむ……」
「ちなみにここが、私たちが今いるクラブハウスね」
 ななみが地図を指差す。
「……ここは?」
 地図を眺めていたレイブンが地図のある地点を指差す。
「え? そこは商店街よ」
「ここに三名いるな」
「ええっ⁉ 急がないと!」
 レイブンの言葉にななみがびっくりする。
「何をそんなに慌てている?」
「ワイバーンやサイクロプスが商店街にいたらパニックでしょう⁉ 回収しに行くわよ!」
「回収とは随分な言いぐさだな……」
 約十分後、レイブンたちは商店街に到着する。


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