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『ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「ここだってさ……」
 凛と輝は牛丼チェーン店の前に立っている。
「女子大内にもこういう店があるとは知らなかったな……」
「お嬢様たちは街中の店には入り辛いんじゃない?」
「それにしてもだな……まあいい、ここにいるのか?」
「えっと、『もしかしたらいるかもしれまへんな~』だって」
「なんだそれは……」
 輝が目を細める。
ザ・京都って感じがするよね~」
「何に京都を感じているんだ……」
「とりあえず入ろうか」
「あ、ま、待て……仕方ないな……」
 2人は店に入る。店員が挨拶してくる。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「2名です」
「お好きな席にどうぞ~」
 店員が案内する。
「ボックス席に座ろうか」
「カウンターで良いだろう……」
「いや、ここはボックス席が正解な気がするんだよね~」
 凛が顎に手を当てる。
「なんだ、正解って……」
「ボックス席でも良いよね?」
「ああ……」
 2人が向かい合って座る。店員が水を持ってくる。
「お冷になります。ご注文お決まりになりましたら、お声がけ下さい」
「牛丼大盛を……」
「待って!」
「え?」
 凛が注文しようとした輝を制する。
「すみません、決まったらお呼びします」
「は、はあ、失礼します……」
 店員がその場を離れる。輝が怪訝な目で凛を見つめる。
「……どういうつもりだ?」
「甘いよ」
「牛丼はどこもわりと甘口だろう」
「牛丼の話はしていないよ」
「何の話だ?」
 輝が首を捻る。
「心構えの話だよ」
「心構え?」
「うん……」
 凛が真面目な顔つきで頷く。
「……さっぱり分からんが」
 凛がテーブルに肘をつき、両手を顔の前で組んで呟く。
「……もう駆け引きは始まっているのだよ」
「なんのだ」
「その……エレクトロニックフォースのメンバーかもしれない人とのさ」
「駆け引きをする意味が分からん」
「信用出来るかどうかを見極めたいんでしょ」
「ふむ……」
「警戒心がかなり強い人みたいだね……」
「それならそもそもDMに返信しないと思うが……」
「輝っちから見てどう?」
「何を見てだ?」
 凛が人差し指を立てて、左右に振る。
「チッチッチッ……アタシが何も考えないでこのボックス席に座ったと思う?」
「思う」
「そ、即答⁉ そ、そうじゃなくてさ、この席からなら店内を見渡せるわけだよ。どう、『和歌山みかん大好きスナイパー』の目から見て怪しそうな人はいる?」
「変な二つ名を付けるな」
「みかん好きでしょ?」
「みかんは好きだが……問題がある」
「え? なに?」
「……店内を見渡せる奥の席は、今お前がどっかりと座ってしまっている。わたしは手前の席だからな、出入口すら見えんぞ」
「!」
 凛がハッとした表情になる。輝が戸惑う。
「いや、そんなリアクションをされてもだな……」
「しまった……」
「席を変われば良いだろう」
「ここで席替えをするのはあまりにも不自然だよ!」
「考えすぎだ」
「他の手を考えないと……」
「聞いていないな」
 輝が呆れる。しばらく間をおいてから凛が口を開く。
「……やっぱりさ」
「うん?」
「注文が関係あると思うんだよ」
「何を言っている?」
「わざわざ牛丼屋さんを指定してきた意味もそこにあるはず……きっと、注文次第でフラグが立つんだよ!
「本当に何を言っているんだ、お前は……」
 輝が困惑の目を向ける。凛がメニューとにらめっこする。
「この注文は大事だよ……」
「お店に迷惑だからな、さっさと食べて帰るぞ」
「う~ん……」
 凛が腕を組む。輝が手を上げて店員を呼ぶ。
「……すみません」
「は~い、只今! ……ご注文は?」
 席に来た店員が尋ねる。
「牛丼大盛一つ」
「かしこまりました」
「……う~ん」
「おい、早くしろ」
「……すみません、三色チーズ牛丼の特盛に温玉付きをお願いします
「え⁉」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 店員が奥に向かう。しばらくして、注文した品が届く。
「ゲーム、牛丼屋……これでいいはず……」
「何がどう良いんだ」
「これで信頼を得られたはず」
「はっ、そんなわけあるか……」
「……エレクトロニックフォースの方々どすか?」
「ほ、本当に来た⁉」
 隣のボックス席から声が聞こえ、輝が驚く。
「え、えっと……」
「こちらは?」
 声の主が隣の席からコントローラーだけを見せてくる。
「ア、  アタシたちも!」
「う、うむ……」
 凛たちもコントローラーを取り出し、隣の席に見えるようにする。
「ふむ……失礼しますえ」
 白いロングワンピースに薄紫色のジャケットを羽織った、紫色のショートボブの女性がトレーを持ったまま、輝の隣に座る。輝が戸惑う。
「お、おお……」
「そ、それは三色チーズ牛丼特盛!
温玉付きどす……」
「やはり……」
「ええ、見事正解にたどり着かれました」
「やったあ!」
 凛がガッツポーズを取る。
「あ、当たっていたのか……」
 輝が困惑する。
「あらためて……どうも初めまして……」
 女性が丁寧に頭を下げる。
「初めまして! 天津凛です!」
「ほほっ、元気の良いお嬢さんどすな~」
 女性が笑う。
「……どうも、橙山輝です」
「こちらはクール&ワイルドなお嬢さんどすな」
「ワイルドかどうかは知りませんが……」
「輝っちは山で狩りとかしてそうだよね。迷彩服的にも」
「イメージで決めるな! 迷彩が好きなだけだ」
「ほほっ……」
「……貴女の名前を伺っても?」
「これは失礼しました……わたくしは紫条院心(しじょういんこころ)どす」
「紫条院心……」
 輝が心と名乗った女性を見つめる。心はおどける。
「あまりの綺麗さに見とれてしまいましたか?」
「いいえ、全然」
「ぜ、全然⁉ ご、ご挨拶な方どすな……」
「どこかでお見かけしたことがあるような……」
「ふふっ、どこか初々しさのあるナンパどすな……」
「ナ、ナンパ⁉ 節操がないよ、輝っち!」
 凛が声を上げる。
「誰もナンパなどしていない!」
「アタシというものがありながら!」
 凛が自らの体を抱きしめる。
「何を言っている!」
「一晩をともにしたのに!」
「誤解を招く発言は止めろ!」
「ふふっ、なんや愉快なコンビどすな~」
「コンビじゃありません!」
 心の言葉を輝は否定する。
「あ、そうなん?」
「そうですよ、それよりも……」
「きゃあ!」
「!」
 店員の悲鳴がしたかと思うと、牛の頭をした怪人と、黄色の全身タイツを着た戦闘員たちが店に入ってくる。
「ウ、ウシ怪人さま⁉」
「なんだモー⁉」
「この女子大を占拠するのが狙いでは⁉」
「そうだモー!」
「そ、それなら、もっと人が多いところに行った方が……」
「その前にこのふざけた店をぶっ潰すモー!」
 ウシ怪人が金棒を振り回す。
「きゃあ⁉」
「牛丼屋で逆上している! 下手に刺激するとマズいぞ!」
 輝が声を上げる。凛が立ち上がって叫ぶ。
「ウシさんと黄色……卵入り牛丼だ!
「ああん⁉」
「うおいっ⁉ 言った側から思いっきり刺激するな!
「良い度胸しているモーね……」
 ウシ怪人が凛たちに迫ってくる。
「お、お客様、お逃げ下さい!」
 店員が震えながらも声をかける。
「お姉さんこそ裏口から逃げて、他のお客さんもよろしく……」
「ええ?」
「アタシらは大丈夫……ヒーローだから!」
「‼」
「輝っち!」
「ああ! ちょっとお行儀が悪いが……」
 凛と輝が座席の上に立ち、コントローラーを装着したコネクターに繋いで叫ぶ。
「「『コントロールOK! ゲームスタート!』」」
「⁉」
 凛と輝が眩い光に包まれ、仮面とタイツで顔と体を覆う。
EFシアン!
EFオレンジ!
「やった、カッコよく変身出来たね、輝っち!」
「あ、ああ……」
夜通し練習した甲斐があったよ!」
「そ、それは言わなくていい!」
「こ、こんなところに戦隊が!」
「うろたえるな! 排除してしまえ!」
「は、はい!」
「う、うわあっ!」
 迫ってくる戦闘員を見て、シアンが戸惑う。
「お前がうろたえるな!」
「! う、うん! それっ!」
 シアンが飛び上がり、戦闘員たちの前に着地する。
「むっ!」
「『弱パンチ』!」
「どわっ!」
「『弱キック』!」
「おわっ!」
 シアンが戦闘員たちを倒す。
「いいぞ、シアン! ただ……」
「なにさ、オレンジ?」
「技のネーミングはなんとかならないのか⁉」
「『小パン』とかにした方が良い⁉」
「いや、それもどうかと……」
「弱パンチは弱パンチなんだからしょうがないじゃん! 確実に効いてはいるよ!」
「印象としてだな、弱いパンチって……ま、まあいい! ウシは任せろ!」
 オレンジが銃を放つ。
「ふん!」
「なにっ⁉」
「……なにかやったモー?」
「じゅ、銃弾を金棒で弾いただと……?」
「それで終わりモー⁉」
「くっ! ん?」
「ええっと、こうやって……」
「紫条院さん、ひとまず避難して下さい!」
「なんやったっけ? ああ、せやせや、『コントロールOK! ゲームスタート!』」
「なっ⁉」
 心が眩い紫色の光に包まれ、紫色の仮面とタイツで顔と体を覆う。
EFパープル!
「も、もう1人いたモー!」
「パ、パープル! 変身出来たのは良いが、下がった方が良い!」
「いやいや、わたくしの大学で暴れてもらった落とし前はつけさせてもらいますえ……」
「し、しかし、武器が無いようだが⁉」
「説明書によれば、これどす!」
 赤い球体がどこからか現れ、パープルの手に乗る。
「そ、それは……?」
「投げてみまひょか。えい!」
「ふん! なんだそんなもん!」
 ウシ怪人が球体を弾き飛ばす。
「あ、打たれてもうた……」
「パープル、一旦下がれ!」
「いや、大体分かりましたわ……これを四つ集めれば……!」
 パープルの手に、赤い球体が四つ重なる。赤い炎になる。
「むっ⁉」
「それ~!」
「うおおっ⁉」
 ウシ怪人が火だるまになり、力なく倒れる。オレンジが呟く。
「そうか、パズルゲーム、中でも『落ちものパズルゲーム』で有名プレイヤーだったか……」
「きっちりと落とし前つけさせてもらいました、落ちものだけに……ふふっ」
 パープルは優しい声色で物騒なことを呟く。


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