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クラウドサイン 事業戦略部長 小林 誉幸「世の中の真理より、現実社会の方が面白い。」#CloudSign_Astronauts

クラウドサインを創っている社員を、クラウドサイン責任者・橘がインタビューする企画「Astronauts(アストロノーツ)」。第3回目はクラウドサイン事業戦略責任者 小林 誉幸さんをインタビュー。

SaaSビジネスにおける戦略とは

橘:4月からクラウドサイン事業本部の事業戦略部長に就任した小林さんにインタビューしたいと思います。小林さんは入社して4ヶ月でマネージャーになり、コミュニティを立ち上げ、PMMチームを率いて、その1年後である今日に事業戦略部長と順調に成長してきましたね。

小林:入社してから様々なことを経験させていただきましたが、ひとえに他部門の皆様のご協力のおかげだと考えています。

橘:随分と謙虚ですね(笑)

小林:でも実際そうだと思ってます。事業戦略を練る際に重要なこととして、戦略立案段階で事業部門とのコミュニケーションやフィードバックをもらうことです。事業部門との対話なく企画部門だけで練る戦略は、いざ実行段階になってから「現場を知らない絵空事だ」などと言われ、事業部門により実行が徹底されないということが少なくありません。

橘:戦略立案時の最も重要な点でもありますね。特にスタートアップ企業や、私たちのような急成長する事業を展開していると、外部環境も含めて変動要素が多すぎて戦略段階で未来を適切に見通すことなど不可能に近いですよね。定量的な情報より、現場を知る定性的な情報の方が信頼に値することも少なくない。

小林:そうですね。クラウドサインで戦略立案する際には本当に救われます。戦略立案して、営業やカスタマーサクセスなどの各部門に相談に行くと鋭いフィードバックがある、恵まれた環境にあります。戦略がブラッシュアップされますし、いざ戦略が固まると凄まじいパワーで実行を徹底してくれます。

このような環境がなければ、企画部門が結果を出すことは難しく、私の今の評価もなかったと思います。だから本当に他部門の皆様のおかげです。

橘:重要な観点です。いかなる戦略も、現場で徹底されなければその戦略が正しかったのかも検証もできませんもんね。その部門の責任者を担う今日からの心境の変化はありますか。

小林:正直不安もあります。事業戦略部門のトップとして明確に位置付けられることで、自分が道を誤ると事業全体に混乱をもたらしてしまうという不安があります。

だけど今、ワクワク感が勝っています。これだけポテンシャルあるクラウドサイン事業に対し自分の行動が、戦略に直接繋がる事にワクワクを感じずにはいられません。

橘:ここからは戦略について話していければ。ずばり小林さんの考える事業戦略とはなんですか?

小林:如何に「戦わずして勝つ」ことでしょうか。SaaS事業などのインターネット事業は初期投資が少なく済むため比較的参入障壁が低いです。SaaSにおいても、同一マーケットで資金力のある企業が後発で参入する現象が続いています。

日本のインターネット企業はどの企業も、海外のTech Giant(テックジャイアント)が参入し、一気に市場を支配される懸念に常にさらされています。体力勝負になる前に如何に先行者優位の状況を作りだせるかが重要な戦略だと考えます。

橘:確かにビデオ会議システムやチャットツールサービスなど、海外のテックジャイアントが一気に日本市場を席巻したこともありました。

小林:先行者優位の状況で、後発で資金力やプロダクトの機能面だけでひっくり返すことができない状況を作り出すことを戦略的に考えていきたいです。

橘:ちなみにSaaS事業についての戦略の位置付けはありますか?

小林:戦略が重要なことは前述のとおりです。しかしながらSaaS事業は他の様々なビジネスモデルと比較しても、成功のための方程式が確立している状況であるとも考えています。戦略が優れているだけで一発逆転は狙えない事業ともいえます。結局は組織の一人ひとりが戦略を徹底できる強い組織が勝負を制すると考えています。

橘:それは自分自身も感じています。7年前は解約率を意識して「カスタマーサクセスに投資する」だけで競合よりも優位な状況を作り出せていました。インサイドセールスもThe Modelも浸透していない時代のアービトラージ。しかし昨今はSaaS事業が注目を浴び、様々な戦略/戦術の知識が汎用化され、ある種のコモディティを迎えました。

その知識自体はどの企業も知っているので、一朝一夕では真似できない強い実行力ある組織を作ることが重要なのはそのとおりだと考えます。

真理の探究からの卒業

橘:小林さんは東京大学法学部から新卒で日本銀行に入行するというクラウドサイン事業部の中でもユニークなキャリアを歩んでいますね。

小林:大学時代の同期もほとんどが官僚になるか日本銀行のような準公的機関になるかのような選択をしていた環境でした。自分自身、研究が肌にあったこともあります。

橘:その理由はありますか?自分自身も法科大学院から司法試験を志すに当たって、純粋な法理論の研究にのめり込んだ記憶もありますので共感します。

小林:当時は会社法の神田秀樹教授のゼミに所属していたりと金融商品取引法を学ぶのが好きだったりと、法学部に所属しながら経済活動に属した理論を学習するのが楽しかった記憶があります。

そのため新卒時のキャリア選択する上でも、在るべき真理の探究を志したかったんだと思います。様々な利害調整の元に図られる政策決定よりも、理論上正しい理論や真理の探究にのめり込みました。

橘:その後は大手コンサルファームに行きましたね。

小林:はい。コンサル時代の経験も今の仕事に役立ってる部分は多分にあるかと振り返ります。経営コンサルタントという仕事は、経営者に対していかに自社では描ききれない「What’s New(新しい事実)」を提示できるかに尽きます。

経営判断に資する「What’s New」の提示は一朝一夕にはいきません。そして社内では3ヶ月毎のプロジェクトで評価されるシビアな世界でもあり、その経験ができたことは大きいです。

橘:今思えばそこからクラウドサインに入社もだいぶチャレンジですね。

小林:事業会社に入りたいという強い意欲がありました。その中で自分自身、法務部出身ですし、契約業務を担っていたこともあって、自分自身クラウドサインの事業には強いペインを感じてたこともあります。

急成長するクラウドサインに入社して、様々な事業開発を行いたいという意欲がありました。

橘:事業会社に入ってみて、真理を探究したいと願った小林少年は今生きてるんですか?

小林:今は変わって、世の中の真理よりも現実社会をいかに動かしていくかの方に野心的です。クラウドサインを通して社会を良くしたい。クラウドサインという事業はそれが実現できると考えてます。

2人で駆け抜けたクラウドサインの2021年

橘:入社後は本当に様々な経験をしましたね。2021年は小林さんと新規施策は全て二人三脚で実行して、自分自身小林さんと過ごした年だったなと思います。まず象徴的なのはクラウドサインユーザーコミュニティの「Re:Change」を立ち上げることに。

小林:クラウドサインの2021年の戦略の1つと銘打ってコミュニティを立ち上げました。

橘:実際自分で手を動かしてみてどうでした?

小林:そうですね。SaaS各社でもユーザー企業とコミュニティを始める施策が流行っています。今回立ち上げるに当たって、そのSaaS各社と意見交換する機会も多かったのですがまだまだ日本でのコミュニティ成功事例は決して多くないのが実情でした。

そのため橘さんからユーザーコミュニティの責任者に任命された当初は、本当にユーザーの協力が得られるか懐疑的でした。その中でコミュニティ内のユーザー企業の皆様とクラウドサインに関する書籍作りも始まりました。その時も尚、上手くいくか懐疑的だったことも内心ではありました。

小林さんがユーザーと作った書籍

しかし動き出してみると、ユーザー企業の中でも、高名な法務部責任者の方々、弁護士の皆様に書籍作りにお声掛けさせていただきましたが、誰一人断られなかったことにまず驚きました。その後も、出版まで1年かがりで執筆活動、書籍の販促に御協力頂くなど、ユーザー企業の皆様からこれほどの協力を得られる事にこれまでのビジネス観を根本から覆されました。

自分の名前が入った書籍を出版できたことは当然嬉しいのですが、それ以上にユーザーの皆様と1つのものを作り上げていくプロセスそのものが自分の仕事人生にとって掛け替えのない経験になったと思います。

橘:直近では予算策定を共に策定しましたね。予算策定のノウハウは世にあまり出ていませんが、意識したことはありますか?

小林:SaaSは積み上げ型のビジネスモデルなので、短期と長期の投資バランスを意識する必要があります。(注:具体的すぎたので、編集により省略。読者の方すいません。)

長期的な成長の源泉をどこで獲得していくかが極めて重要です。

橘:投資には回収サイクルがあるので、翌月の収益エンジンとなるものや中長期に渡ってアセットとなるものなどが混在し、同列のROI算出が難しい性質のものもあります。それでも責任予算であり、全てを数値的に語れなければならないと戒めています。

話は変わりますが、小林さんはPMM(プロダクトマーケティング・マネジメント)も所管していますね。ビジネス側から見てのプロダクト開発は初体験だと思いますが、プロダクト開発で考えていることはありますか。

小林:まだまだ初心者という前提でですが、顧客ファーストでありながらも顧客の声を聞きすぎないことが重要だと考えています。特に私たちの電子契約市場ではまだ本格的な普及期に入ったばかりで、利用ノウハウも確立されていません。

そのため顧客が電子契約に求めている機能が、実際には顧客課題の解決につながらないことも少なくありません。時に顧客から非難されることがあったとしても、顧客や社会のためになるプロダクト作りをする責任感と覚悟が問われます。自分たちが必要だと信じるプロダクト作りをしていくことが真の顧客ファーストだと考えています。

橘:本質的なことを言いますね。アライアンスプロダクトはどうですか?

小林:アライアンスの場合は、細かい戦略論よりも、アライアンスパートナーのプロダクト特性やビジネスモデルを理解し、協業案を本気で考え抜く姿勢に尽きると考えています。相手のプロダクト特性も理解しないようでは良い連携ソリューションは生まれませんし、双方にビジネス上のメリットがない関係は途中で頓挫してしまいます。

クラウドサインでお付き合いが長く、ビジネスが成功しているパートナー企業の場合、そのパートナー企業の出身者が社内にいるなんてこともあり、腹を割って話せるような関係性が築けているのではないかと思います。

橘:最後に、これから小林さんはどうなっていきたいですか?今後の野望とクラウドサイン のこれからを語ってもらい、終わりにしたいと思います。

小林:クラウドサインで私が成し遂げたことの多くは、橘さんやクラウドサインの仲間がこれまで積み上げた財産に大きく依存しています。

インタビューの冒頭にお話したとおり、戦略立案や予算策定、アライアンスは事業部門の皆様のご協力や橘さんの豊富な経験・ネットワーク抜きには成り立ちません。また書籍出版やコミュニティもクラウドサインのブランドやユーザーネットワークの力が大きく、私自身はあくまで事務方の責任者として携わっていたに過ぎません。

こうした状況には正直悔しさも覚えます。いつか橘さんやクラウドサインのブランド力に頼らずに事業や現実社会に大きなインパクトを与え、「自分がいなければクラウドサインはここまでの事業にならなかった」と言い切れるようになりたい。

そのためには、これまでの事業の延長線上にない非連続的な成長の実現と、その成長を支える誰にも真似できないプロダクトを作り上げること、今はそれが私の目標です。

小林 誉幸
twitter: @yuki_koba8

編集後記

良い戦略とは、何だろうか。

バークシャー・ハサウェイ副会長で、ウォーレン・バフェットの盟友であるチャールズ・トーマス・マンガー氏は以下のような言及を行う。

「The only duty of corporate executives is to widen the moat. We must make it wider. Every day is to widen the moat. (経営陣の唯一の義務は「Moat」を広げることである。Moatを広げなければならない。日々、Moatを広げていくのだ。)」

SaaS事業の基本戦略は、Moatを築くことにある。Moatとは直訳すると「堀」のことで、城が外敵から攻め込まれた際、容易に攻め込むことのできない「堀」を用意できているかのことを意味する。要するに、競合企業が容易に模倣不可能な独占的な事業活動ができているかを説く。不敗の兵法を描いた孫子も「善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ」と同様の戦略の重要性を説き、現代経営者の愛読書になっている。

SaaS事業はMoatが該当する典型的なビジネスモデルである。だからMicrosoft、Salesforce、Adobeといった企業群はとてつもなく強く、隙がない。MicrosoftはOffice製品を中心としたパッケージングにより、SalesforceはAppExchangeにより、Adobeは強固なExperienceに対するブランドにより、Moatを築いた。

これからの企業には果てしない試みにも思える。でもそれは、辿り着く。クラウドサインのMoatは強固なユーザーとの信頼関係にある。時に厳しい指摘を受け、時にお酒を共にし、喜怒哀楽を共にした強固な信頼関係がある。形だけ真似できても、企業理念に基づく組織的行動を断続的に行うことは極めて難しい。ユーザーコミュニティを立ち上げ、ユーザーと苦楽を共にした小林さんが描く事業戦略はきっと正しい。これからもユーザーと共に歩む日々を、戦略と呼ぼう。それが、クラウドサインの戦略だ。

総合企画・ライター・編集:橘 大地
デザイナー:笛田 満里奈、佐伯 幸徳
写真撮影:長浜 裕子
テーマソング:ARIANNE「Komm, susser Tod(甘き死よ、来たれ)」

お読みいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ