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1/f ゆらぎ,フィボナッチ数列と黄金比

【まえがき】何故,「1/fゆらぎ」は心地よいのか,何故,「黄金比」で創られたデザインは美しいのか,ということの理由について考えてみました.フィボナッチ数列を使って,「1/fゆらぎ」と「黄金比」をつなげてみました.論文ではないので,気楽に書いてみました.

 もし,興味がございましたら,先にお進みください.そうそう,言い忘れておりました,ここから先に行くには,「好奇心」というチケットが必要です.お忘れなく.それでは,時間旅行が始まります.

 静寂な時の流れの中を,夕陽は3時間ほど前に,西の海に沈んで行きました.今,赤坂見附の駅から少し入り込んだバーにいます.初めてここに来たのは35年も前になります.店の雰囲気はあの頃と何も変わっていないように感じますが,もちろんバーテンダーは別の人に代わりました.確かに昔と変わったことは私が野心を持った若者ではなく,老人になったこと,気持ちは何も変わっていないのですが.そして,カウンターに座って,同じようにタプロースウィスキーを飲んでいます.もうすぐ,店の扉を騒がしく開けて,ゴーギャンとゴッホが入ってくるなどと,有り得ないことを考えながら,私は時間の浪費を楽しんでいます.そうそう,タプロースは樽からグラスに注がれるまで熟成するそうです.人も同じですね.あなた方の明日に乾杯.
 ところで,時間はたゆみなく同じ速さで流れているのでしょうか. 最近,あっという間に時間が過ぎたりすることが多いように感じます.壊れそうなのは,私の頭の中の時計なのでしょうか.時は同じ速さで進んでいないように思うことがあります.生きる速さは残り寿命に反比例しています.残り寿命が少なくなればなるほど,生きる速さは早くなります.最後に生きる速さは無限大になります.それで終わり.境界条件が合うからこの仮説は正しいと考える理系の自分がいます.文系とか理系ということはそもそも人が区別したものであって,はじめはどちらも一緒のものであったはずです.カテゴリーに分けることによって人の思考が妨げられているのかもしれません.学ぶべきことは知識ではなく考えること思考であることに人々は気が付かなくてはならないのではないでしょうか.自由を我らに! だよね,ゴーギャン.

 タヒチ島で描かれたゴーギャンの最も有名な絵画のひとつに『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』(ボストン美術館所蔵)と題された作品があります.人の一生を描いた,感慨深い作品です.

 「人は何処から来たのか」ということを考えてみます.この世界にある規則は2つしかありません.調和振動(物理法則)とランダム性です.もし,あなたが途方もなく非常に速い速度でボールを投げることが出来るならば,前方に投げたボールは,暫くすると物体の落下運動によって,あなたに背後から迫ってきて,あなたの背中にぶつかります.もし,あなたがそれをよけることができればボールは地球の周りを回り続けることになります.実際はそんなに速くボールを投げることは出来ないし,空気の抵抗や,途中の障害物によって異なる経路を運動することになります.人工衛星を考えていただければより分かり易いと思います.人工衛星が地球の周りを回り続けるのに燃料を使って推進しているわけではありません.地球の重力による連続した落下運動によって地球の周りを周期的に回っています.

 もうひとつはランダム性(ホワイトノイズ)です.サイコロを振った時にいつも同じ目が出たら,それはイカサマです.どの目がでるのか誰にも分からないからギャンブルが成立するのです.古の頃から,大勢の人々が,一攫千金のひと時の夢を見るためにギャンブルをしてきました.

 この世の中は,調和振動(物理法則)とランダム性の2つからできています.大きく見れば,どちらかが強いということはなく,この2つの力の加減は同じです.そして,この2つはいつもせめぎ合っています.その落ち着くところが「1/fゆらぎ」です.「1/fゆらぎ」がこの世の中を支配しているのです.シンプルな物理法則とランダム性の2つから,自然界の複雑な現状が創りだされているのです.複雑であるということは多様であることです.すべての生き物にとって,多様であることは,この世界で生き残り,生存してゆくための最も重要な戦略です.もし,「1/fゆらぎ」が無ければ,この世界に生物は生まれなかったかもしれません.

 心地よい風が吹いている広大な草原にいることを想像してみましょう.もしそこが「物理法則」だけの世界ならば,一定に吹く風によって,大地から生えている全ての草はメトロノームのように,同じ方向に,同じタイミングで斜めに傾き,戻り,反動で反対側に傾くことを繰り返すはずです.何かがおかしい,一見すると美しい草原かもしれませんが,その動きはつまらなく,時として恐怖を感じるかもしれません.現実の世界の草原は,風も強く吹いたり弱く吹いたりして揺らぎ,草の葉も揺らいでいます.

 太古の海の波うち際で生物は生まれたといわれています.太古の海で,月の潮汐力が働き,吹く風によるさざ波や地形の影響も受けた「1/fゆらぎ」に従った波が海岸に寄せては返していたのでしょう.そこにできた泡が,想像もつかないような時間をかけて,最初の細胞になったのでしょう.そして,進化して様々な生物になっていったのでしょう.海岸でできた泡を見ていると,生物の細胞のように見えるのも,無縁なことではないのかもしれません.幼いころ,人の血液の成分は海水とほぼ同じと聞いて不思議に思ったことがあります.人も海岸で生まれた細胞が進化した存在ならば,血液と海水の成分がほぼ同じというのも容易に理解できます.人はモバイル・オーシャン,ちょっとかっこいいでしょ.

 受け継いだのは海水だけではありません.波のもっている「1/fゆらぎ」の特性も持っています.脳波にも「1/fゆらぎ」があります.「1/fゆらぎ」の特性があるものに,人は心地よさを感じるそうです.海に行くとワクワクしませんか.海に続く坂道を上り,海が見えると理由もなくワクワクして嬉しい気持ちになります.海岸は人が生まれた場所なのですから,懐かしい気持ちになるのは当然のことかもしれません.若いカップルが「海にいこう」とデートに誘うのも納得できるでしょう.理由があるのです.ですが,私がここで話したことを言って誘うのは野暮ですよ.理屈ポイのは嫌われます.お気をつけて下さいね.

 歴史の流れの中に天才は沢山います.もし一人の天才を選べと言われれば,私はアマデウス・モーツアルトを選びます.多分,彼の耳に聞こえた自然の音たちが,彼によって音符になり,楽譜となって音楽になっていったのでしょう.いな,自分では意識することなしに,耳から聞こえるものだけではなく,自らの存在の全てで感じたものを表現していたのかもしれません.天の与えた才能でなければできないことです.  演奏家たちはモーツアルトの楽曲の演奏は難しいといいます.技巧的なテクニックに走れば,楽曲はつまらないものになってしまいます.神々に愛された演奏家の手にかかれば,明るいメロディの中に哀愁と憂いを持った素晴らしい演奏になります.それって,もしかすると人の生き様なのではないでしょうか.嬉しくもあり,悲しくもあり,懐かしくもあり,人は約束されたところまで,彷徨いながら歩む存在なのかもしれません.モーツアルトの楽曲を分析すると「1/fゆらぎ」が見いだせるともいわれています.もし,あなたが疲れて落ち込んでしまったなら,ディヌ・リパッティ(Dinu Lipatti,1917-1950)氏のピアノでモーツアルトの「ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467」を聴いてみて下さい.元気になって,また歩きだせるようになると思いますよ.

 人は海岸に打ち寄せる波の中から生まれ,その存在の中に,海のリズム「1/fゆらぎ」を包含しています.同じ様に「1/fゆらぎ」を持ったものに対して安心した気持ちになるのでしょう.人は人のことが好きなのでしょうね.たぶん.ところでリパッティさん,お会いできませんでしたね.また,いつか.

 魚の群れの行動特性を明らかにするために,流れの速さや水深の異なる場における魚の行動を観察しました.魚の群れの大きさを現わす「魚群半径」を定義して,魚群行動の観察実験によって魚群半径の時系列データを得ました.さらに その時系列データにパワースペクトル解析を適用して,魚群半径のパワースペクトルと周波数の関係を調べました.基本的に魚群の行動,正確に言うと魚群の群れの広がりの時間的な変動に「1/fゆらぎ」を見出すことができました.

 また,観察領域の水深を小さくすると,魚群の群れの変動は「1/f 2ゆらぎ」の傾向が見いだせました.周波数・パワ-スペークトルの関係が縦に立ち上がり,「物理法則」の方向に近づいたことになます.当たり前のことですが,水なければ魚は生きてゆけません.水深が小さくなって,水がなくなってしまう状況は魚にとって死活問題です.魚は水のある領域を見出すために,あせって単調な行動をとることになります.

 観察領域の水深を十分に取り,かつ,流速の小さい緩やかな流れ場にすると魚群の群れの変動に「1/f 0.5ゆらぎ」の傾向が見いだせました.観察領域の流れ場がゆったりしているので,魚の行動も「ランダム性」の方向に近づきます.流れる水に立ち向かうことが出来ないと魚は下流に流されてしまいます.川に棲む魚にとって最下流に流されてしまうことは.浸透圧の調整ができずに,その生存が危うくなってしまいます.流れが緩やかであれば,その心配もないので魚はのんびりとすることができます.

 私は魚道の設計に関する研究者です.魚群の行動特性を研究して魚の動きを再現する魚群行動モデルを作成しました.魚道の設置場所について文献を調べると,魚の集まり易いところを見出して,そこに魚道を作ればよいと書いてあります.魚道の設置場所の選定は,最も基本的な重要なことですが具体的にどうすればよいのかということは研究されていません.もし,魚と話すことができれば,何処に集まるのか聞けばよいのです.魚道そのものについても,上りやすいかどうかを魚に聞けば全て解決します.残念なことに魚と話せる研究者はいません.どうしたらいいのだろう.魚と話すことが出来なければ,人と話せる魚を作ってしまえばよいのです.

   米国のアニメーションプログラマ,クレッグ・レイノルズが考案・作成した鳥の飛ぶ様子を再現する人工生命シミュレーションプログラム・ボイド(Boid)モデルを参考に魚群行動モデルを開発しました.基本的な部分はボイドモデルと同じです.魚は水の流れの中に生息する生き物なので.水の流れに対抗する向流性をモデルの中に組み込みました.魚群行動モデルの基本規則は次に示すとおりです.

 1.仮想魚は他の仮想魚とぶつかることなく距離をとる(分離,Separation)

 2.仮想魚は他の仮想魚と概ね同じ方向に泳ぐように遊泳速度と方向を合わせる(整列,平行,Alignment)

 3.仮想魚は隣接する他の仮想魚の方へ向かうように方向をかえる

 4.仮想魚は流れに対抗する方向を向く.流れが速く仮想魚の遊泳速度より大きいときには,周りのより流れの小さいところに移動する(向流性,rheotaxis)

 私が開発・作成した魚群行動モデルを仮想生息場法と命名しました.仮想生息場法はコンピュータ・プログラムです.仮想魚が生息する領域の形状や,その場における流れの速さは,与えるデータによって観察者(実行者)が自由に変えることができます.与えた条件によって仮想魚がどのように行動したか,時々刻々と変化する仮想魚の位置座標を出力することで魚と話すことができるようになります.

 ダムや堰の建設,河道変更と築堤,河床耕運など河川に施した施策が生息する魚の数量に与える影響を,施策を実施する前に仮想生息場法によるシミュレーションによって事前に評価することができます.未来予測です.

 仮想生息場法はコンピュータプログラムです.現実の世界に時間の流れがあるように,プログラムの世界には計算ステップがあります.現実の時間の流れとは異なり計算ステップは現実より速く進めることが可能です.計算処理能力の高いコンピュータが必要な理由のひとつがここにあります.

 河川に施した施策によって,魚類の生息状況など将来の河川環境がどのように変化するのかを知るため,高速で計算ステップを進めて予測することが可能です.流れが速すぎる状態が長く頻繁に生ずれば,魚は川から海に流されて魚の数(個体数)は少なくなるでしょう.魚の雄と雌が,適切な成長時期に適切な産卵場所に辿り着けなければ,魚の個体数は減少することになります.個体数が増加する傾向にあるのか,減少する傾向にあるのかを知ることが出来ます.未来予測です.

 「過去・現在・未来」と時間は流れてゆきます.誤解を恐れずに言えば私たちには「現在」しかありません.「過去」は現在より前に起こったことの現在の記録です.「未来」は何処にもないものです.「未来」から「現在」になったとき「現在」として接することが出来るのが「未来」です.「未来」は「相互作用」によって変化してゆきます.誰にもどうなるかはわかりません.だから,「相互作用」は大事なものです.

 「ファジー理論」,「複雑適応系」,最近では「人工知能(AI)」が科学的な流行になっています.「未来予測」は経済にとって最も大切なことかもしれません.現在から株価が上がるのか,下がるのかを正確に予測できれば,F1チームのオーナーになれるような莫大な大金を手にすることが出来るかもしれません.ということでブームになると,まことしやかな専門書が出版されたりします.

 そう簡単に教えてはもらえないでしょうが,例えば,釣りの名人に魚が良く獲れる場所を教えてもらったとします.その場所に行って,魚を獲ってみたとします.あまり獲れませんでした.名人は嘘を言ったのでしょうか.違います,名人は嘘は言っていません.獲れる時もあれば,獲れない時もあるのが常です.ある期間,魚を獲ることを繰り返せば,その場所は魚の取れる場所であることがわかると思います.ここでいう「未来予測」とはそういうものです.

 仮に株価が底値になっていることが確認され,次のステップでは株価が上がると予測されれば,多くの人が株を購入するので株価は上がります.次のステップはどうでしょう.株価は上がると予測されても,株を売る人も出てくるでしょう.どのくらいの人が株を売るのかによって,未来予測がハズレて下がります.「未来」はないのです.どうなるかは誰にもわかりません.

 「黄金比」は物を美しくデザインできる人類が最も美しく感じる比率として広く知られています.「黄金比」は古代ギリシャの数学者エウドクソスが発見したと言われています.パルテノン神殿,ミロのビーナス,モナ・リザ,パリの凱旋門,サグラダ・ファミリア大聖堂などの設計にも黄金比が適用されていると言われています.現代では名刺やクレジットカード,タバコの箱の大きさにも「黄金比」が使われています.黄金比だと何故,人は美しいと感じるのでしょうか.

 イタリアの数学者,レオナルド・フィボナッチ(1170年頃 - 1250年頃)が「ウサギのつがい数の増加について研究して求めたフィボナッチ数列(Fibonacci sequence)は,隣接するフィボナッチ数の比率が黄金比に収束するものとして知られています.植物の花や実に現れる螺旋の数がフィボナッチ数列であることも知られています.アンモナイトやオウムガイのうずまきにもフィボナッチ数列が確認できます.なお,フィボナッチ数はフィボナッチ以前にインドのヘーマチャンドラによって和音の研究結果として発表されているそうです.

 少し乱暴な方法かもしれませんが,フィボナッチ数列に高速フーリエ解析を適用して,パワースペクトルと周波数fの関係を求めてみると,「1/fゆらぎ」を見出すことができました.また,隣接するフィボナッチ数の比が,黄金比に収束することもよく知られています.人類が最も美しいと感じる比率「黄金比」は「1/fゆらぎ」であるといってもよいのではないでしょうか.

 目もくらむような途方もない時間をかけて,人は海岸で生まれた細胞から始まり,陸上に上がり進化して現在に至りました.人の体の中には海水とほぼ同じ成分の液体と「1/fゆらぎ」の特性が閉じ込められています.「1/fゆらぎ」は「フィボナッチ数列」を介して「黄金比」と繋がります.人は自分の中にある判断基準によって感情を決めます.人とおなじ「1/fゆらぎ」を含むものに安らぎを感じます.「1/fゆらぎ」を含む「黄金比」に美しさを感じます.理想的な体形が黄金比で構成されているということも納得できます.

 考えてみれば,「目がふたつ,鼻がひとつ,口がひとつ」に人は違和感を感じることはないでしょう.自分自身がそうだからです.もし,夜道ですれ違った人の目が三つだったら驚いてしまうでしょう.テレビのドラマや映画で,お化け,怪物や怪獣など異形の存在を登場させる場合,たいてい,人とは全く異なる姿かたちで表現しています.

 最近は社会にある様々な問題の解決方法になるのではないかと,人工知能(AI)が注目されています.危険で人の行けない火山の火口を人工知能を搭載したロボットが人の代わりに観測をしてくれれば災害を防げるかもしれません.始めがあれば終わりがある.人には寿命があります.誰ひとりそれから逃れることはできません.地球から何千光年も離れた星に,人工知能を搭載したロボットが人の代わりに行ってくれれば,人類の子孫に有益な情報をもたらしてくれるかもしれません.

 理論宇宙物理学者の故スティーヴン・ホーキング博士(1942-2018)が心配されたように,そう遠くはない未来に人工知能は人を越えるかもしれません.ゴースト,魂を宿した人工知能は人類のことをどのように見るのでしょうか.人類は「なんちゃってAI」を懐かしむのでしょうか.どうなるかは,私にはわかりません.ゴーストを宿した人工知能には,人類と同じように「1/fゆらぎ」の特性を持つ機能を搭載することが必要になるでしょう.

 インターネットが普及して,多くの人々がタブレットパソコンやスマートフォンなどの携帯デバイスを操作して,日常のこととして知識を検索しています.そうそう,アップルのロゴマークも黄金比でしたね.意識している人はまだ少ないかもしれませんが,知識を記憶することが人の能力の時代は,既に過去のものとなっています.知識を思考の土台にして新しい事柄を創造することが人の能力となる時代です.検索しても分からなことに巡りあえたら,とてもラッキーなことです.すぐに他の人に聞くのは勿体ない.まず,その問題を自ら考えてみましょう.

 残念ながら私たちが想像するようなタイムマシンは創れないかもしれません.しかし,様々な文献や資料によって,歴史の中の人々と対話をすることはできます.机がひとつあれば思考の翼によって過去も未来も自由に飛ぶことが出来ます.思考の辿り着けるところは,この世です.新しことを創造するために必要なことは何でしょうか.私はそれは「好奇心」ではないかと思います.好奇心は時間旅行,宇宙旅行の切符です.お忘れなく.

 それでは,また,何時か何処かで.

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