営業秘密侵害罪は?
警察庁が発表した「令和5年における生活経済事犯の検挙状況について」を読んでみた。今回はその中の「営業の秘密の侵害」に関する事案について掲載する。
|「営業の秘密の侵害」とは
企業が営業を行う上で外部に流出すると事業の根幹にかかわる内容であることなど、ホストコンピューターなどにアクセスする者を制限・管理しているようないわゆる企業秘密を侵害する行為をいう。
|営業秘密侵害罪
前記のような企業における営業の秘密を侵害する行為、つまり不正に取得した者や不正取得された営業秘密を使用・開示した者、従業員・退職者で任務に反して使用したり、開示した者等は、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪として、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金。
また、刑事訴訟手続きにおいても過程で営業秘密が害されないように諸規定が設けられているのだ。
|営業秘密侵害罪の構成要件
不正競争防止法上の営業秘密として保護されるためには、単に「社外秘」などの取り扱いを促す「ハンコ」を押すだけでは不十分。
社外はもちろんだが社内でも特定の者以外には非公開であるというようなことが必要である。
つまり「営業の秘密」として保護されるためには、
という三つの要件が必要になるのだ。
|秘密管理性
秘密管理性については、過去の判例(東京地裁判決平成12年9月28日)で
秘密管理性有りというためには次の二点が必要とされている。
つまり、社内で公開されているようないわゆる社内オープン情報である場合には「アクセス制限」という要件が満たされていないことになる(判例時報1764号104頁等)のだ。
|有用性
その情報が、生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なものであることが必要とされる。
ただ、有用性は主観的なものでなく、客観的なものでなければならないのだ。
直接ビジネスに活用されている情報に限らず、間接的な(潜在的な)価値がある場合も含まれ、ネガティブ・インフォメーション(失敗情報)、将来(遠い未来も含む)の事業に活用できる情報にも有用性が認められることになり得るとされている。
|非公知性
その情報が刊行物に記載されていないなど、会社の管理下以外では一般に入手できない状態(非公知)にあることが必要である。
同じ情報を保有している同業者がいたとしても、その業界で一般に知られていないような情報の場合には、非公知情報であると考えられている。
|R5年の統計(警察庁資料を引用)
〇 検挙状況
営業秘密侵害事犯の検挙事件数は、近年、増加傾向にあり、令和5年中は、統計をとり始めた平成 25 年以降、過去最多となった前年(29 事件)に次ぐ 26 事件と、前年より3事件(10.3%)減少したものの、依然として高い水準で推移している。
転職・独立時に営業秘密に関する情報を持ち出す事犯がみられる。
〇 相談受理状況
営業秘密侵害事犯の相談受理件数は、近年、増加傾向にあり、令和5年中は 78 件 と、前年より 19 件(32.2%)増加した。
|営業秘密侵害事犯の検挙例
警察庁が公表した統計資料から二つの検挙事例を参考まで掲載する。
<参考:R4年の検挙事例>
|おわりに
以上のように警察庁発表資料を基に解説したが、最近では企業から転職や退職する際などに、ホストコンピューターなどに本来の目的以外で不正にアクセスしての営業の秘密を入手して持ち出すという事案が増えているという。
企業においては保秘やアクセス権限の付与、アクセスログ・軌跡の確認などの管理を徹底することも重要である。
いずれにしても営業秘密の取り扱いには要注意だ。
<参考>警察庁資料「令和5年における生活経済事犯の検挙状況について」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seikeikan/R05_nenpou.pdf
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