cvpaper.challengeの6年間を振り返る

筑波大学 ヒューマンセンタードビジョン研究室 D3の中嶋航大と申します.私はかれこれ6年*近くcvpaper.challengeに参加しており,気がついたら学生メンバーの最年長となっていました.6年というのは長いもので,これまで多くの学生と出会い,卒業していくのを見てきました.私も今年度で卒業(予定)となったので,cvpaper.challengeと私個人のこの6年間の変化を私目線で振り返ってみようと思います.本記事は,博士後期課程への進学を考えている人やcvpaper.challengeの研究メンバーに興味がある人を対象としています.

*: 修士2年,産総研テクニカルスタッフ1年,博士3年の計6年


cvpaper.challengeの変化

この6年間でcvpaper.challengeにもさまざまな変化がありました.特に顕著だったのはコロナウイルスの影響によるテレワークの導入です.以前は産総研のリサーチアシスタントのメンバーが産総研に集まって,雑談や研究についての意見交換などが簡単に行えました.しかしながら,テレワークが導入されると,このようなカジュアルなコミュニケーションが難しくなり,メンバー間の対話が以前よりも制限されるようになりました.それにより,前からいたメンバーは新たなメンバーが何をやっているかわからなかったり,逆に新しく入ってきたメンバーは馴染みにくくなっていたかと思います.

また,チーム体制の変化も大きなポイントでした.cvpaper.challengeでは4年くらい前までは,一般的な研究室と同様に個人個人で研究するスタイルでした.現在では,1研究あたり4, 5人程度のチームを組んで協力しながら研究するスタイルに変化しました.例えば,論文執筆は先生方が担当し,実装は実装ができる人,実験は主著といった感じです.チーム体制により,研究のスピードが向上するだけでなく,それぞれの得意なところを分担できるようになり,研究の全体的な質が格段に向上したと感じています.その結果,トップカンファレンスにも採択されるようになってきていると感じています.一方でこのチーム体制というアプローチは,分担方法次第では,個々人の苦手な領域を改善する機会を減少させてしまうことに繋がっていると個人的には感じています.また,研究の大部分の作業を一人でやるというわけではない*ので,主著であったとしても自分の成長を感じにくくなってしまっているのではないかと思います.まとめると,学校的な研究スタイルから企業的な研究スタイルに変化し,それぞれにメリットデメリットがあるわけですが,個人的にはこのチーム体制での研究はメリットの方が大きいと今は考えています.というのも,研究者は基本的に結果で評価されるからです.よほど顔を売る活動を行っていない限り,世間は自分のことを知っていてくれないため,結果で語るしかないからです.

*: 所属するチームや自身の希望次第にはなります.最近では,チーム制を敷きながらも,一通り経験させることが多くなってきているようです.

本章では,私目線でcvpaper.challengeの6年間の変化について書いてみました.何年か前まではcvpaper.challengeといったら論文サーベイ集団という印象が強かったかとおもますが,最近はトップカンファレンスに採択されることも増えてきて研究集団に変わりつつあるかと思います.研究室のボスがあんまりみてくれないと感じている人や計算リソースが足りない人,産総研の研究者と一緒に研究したい人などは,ぜひcvpaper.challengeの研究メンバーとなることを考えてみてください.

個人的な変化

個人的な変化についても書きます.ここでは主に博士後期課程への進学を考えている人を対象としています.

研究テーマの変更 

個人的に大きかった変化の1つに研究テーマの変更があります.修士・産総研テクニカルスタッフ時代は生成モデルや自己教師あり学習の研究をしていました.しかし,これらはどれも大した成果が得られませんでした.そこで,一度しっかりと研究の進め方について学ぼうと考え,片岡さんと密に研究のしやすいFormula-Driven Supervised Learning(FDSL)の研究にテーマを変更しました.ここで,FDSLについて簡単に紹介しようと思います.FDSLでは,自然画像を使うことなく深層学習モデルの事前学習を行おうというものであり,自然画像の代わりに何かしらの規則で自動生成した人工画像とラベルを使います.このような枠組みを考えることにより,AI倫理やバイアスといった自然画像でデータセットを構築する際の懸念点を解消できるとともに,理論上データセットサイズを無限に増やせるようになります.cvpaper.challengeではFDSLに関する研究も多く行っており,私もいくつか関わってきました.中でも,Vision Transformerへの有効性を明らかにした研究(AAAI 2022:主著)や事前学習効果を向上させた研究(CVPR 2022:共著),セグメンテーションタスクのための事前学習データセット構築(ICCV 2023:共著)は,どれもトップカンファレンスに採択されました.トップカンファレンスに採択された研究を間近にみたことで,通る論文・通らない論文の違いがなんとなくわかるようになってきました.具体的にどのような論文が良いのか書けるレベルにはないため,ここでは具体的にどういうものかについては書かないのですが,cvpaper.challengeの研究メンバーになれば見えてくるかもしれないです.

歳をとったことによる弊害

また,歳を重ねたことで身体的にも精神的にも変化がありました.修士1年の頃は22歳だったわけですが,それが今ではもう28歳,アラサーです.この年齢による変化を最も感じたのが体力で,以前であればオールをしようが生活リズムがどれだけ乱れようがだるくなることなどなかったのですが,ここ2年間ぐらいでだいぶダメになりました.体力と回復速度が遅くなった感じです.まずオールから回復するのに3~7日程度の時間が必要になりました.そのせいで,何かの締め切りに追われて1度オールをしてしまうと,そこからしばらく動けなくなることもしばしば出てきました.次に生活リズムの乱れですが,これ最悪です.生活リズムが乱れると朝から寝たり昼から寝たり夜寝たりするわけですが,これを続けると自律神経が乱れるとかで精神的に参ってきます.こうなってしまうと何に対してもやる気が起きなくなってしまうので,この状態には絶対にならない方が良いです.私が生活リズムが乱れるテンプレパターンは,論文投稿前と(締め切りに追われてない時の)週末で,論文投稿前は力尽きるまで作業するため乱れ,週末は遅くまで遊んでしまうためここでも乱れてしまいます.論文投稿前ならまだしも,特に何もない時の週末の夜更かしは絶対にやめた方が良いです.若い時は良いかもしれませんが,歳をとると気分の乗らない辛い1週間になってしまいます.

最後に話しておきたいのは,モチベーションに関してです.自分の研究人生で成し遂げたい夢(cvpaper.challenge advent callender 2022の綱島くんの記事で言えば小さな狂気の閃光ですね)これをちゃんと見つけましょう.これは年齢というよりは,研究期間の方が強く関係しているのですが,小さな狂気の閃光を持っていないとそう遠くない未来で研究に迷走し,モチベーションが低下することになると思います.私は完全にこのパターンで,D1の頃まではトップカンファレンスに通すことが私のなかの目標だったのですが,この目標を達成した移行は次に何をしたら良いのかわからなくなってしまいました.今でも絶対これ!といった夢がみつけられていないため,学術機関の研究所への就職は諦めることになってしまいました.

*: 学術機関の研究所では,自分が成し遂げたい夢を持っていないとやっていくのが大変な気がしています.

終わりに

さて,いかがだったでしょうか?本記事ではD3までの周りの変化や私自身の変化について書いてみました.読みにくいところもあったかと思いますが,何かの参考になれば幸いです.M1からD3の時間は老いを感じる最初の機会になるかと思います.私は老いを舐めており,色々と後悔することがあったため,皆さんは老いを舐めないようにしましょう.

先の文章ではじゃあどうすれば良いのかについて書いてこなかったのですが,私的には規則正しい生活とバランスの良い食事,運動が答えになってくるのではないかと思っています.私はこの3つ全部できていないのですが,私の周りで元気に研究活動している人たちはこれらがちゃんとしています.時には自分を休ませることも大事だと思って,しっかり休むことをお勧めします.

それでは皆さんも体に気をつけて!

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