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風に身をまかせ ☆78

風にもいろいろあって、

風呂上がりに当る扇風機の風は心地よいが、

「上州のからっ風」と言って群馬県の冬に吹く風の、厳しくて冷たい風は有名である。別名、「赤城おろし」とも呼ばれる。

私は、それを経験した事はないのだけれど、話には聞いていて、

北国育ちだったから、雪が降り積もる前に自転車をこいだ時に、

向かい風があまりにも冷たくて、手も耳も寒くて限界なのに、それでも歯を食いしばってこぎながら、「上州のからっ風」とはこんなものじゃないかしらと、何度となく思っていたものだ。


私が子供の頃、『木枯らし紋次郎』がテレビで放映されて、大ヒットした。

木枯らし紋次郎は上州新田郡三日月村の生まれである。貧しい農家の6男だったため、間引かれそうになった。赤子にコンニャクを無理矢理飲み込ませて窒息させるのである。

そのトラウマで紋次郎はコンニャクだけは食べる事が出来ないのである。

時代劇の股旅ものは、長谷川伸という人が開拓者で、『沓掛時次郎』『関の弥太っぺ』『瞼の母』など名作があるが、

それらの主人公をもっとハードボイルドにしたのが紋次郎なのである。

いかにも強そうだが、実はそんなに強くない。

いや、強いのだが、それまで私が観ていた王道時代劇の『水戸黄門』の助さん格さんや、『大岡越前』みたいに圧倒的な剣の達人ではなく、普通の人より少しだけ強いかんじなのだ。

だから、殺陣(たて)もあるが、とてもみっともない。泥仕合みたいで、ハアハア息を切らしながらも、やっとこさ勝つ。

それが逆にリアルで良かったのだろう。

そして、時代劇の主人公は正義の味方で、困っている人を助けるのが当たり前なのに、紋次郎はあっさり「断る」のである。

「あっしには、関わりのねぇこってござんす」

ニヒル、シビア、凄くかっこいいのだ。色仕掛けも通じない。


しかし、もともとが貧しい百姓の出で、親に殺されそうになった過去のためか、

貧しい百姓の哀れな訴えには、弱く、「勘弁してくだせぇ」などと断りながらも、何度も泣きつかれて、結局は頼みを承諾し(無償である)、けど最後には裏切られて殺されそうになるのがパターンなのであった。

紋次郎の時代、世の中は荒みに荒んでおり、信じられるものなど、何処にもないのであった。彼自身、何のために生きているやら分からない、悩むのもめんどくせぇ、

名を挙げて、売り出して任侠の世界で名を馳せたい、なんて希望もない、そもそもヤクザの親分なんて好きじゃないし、信じちゃいない、

何もかも、どうでも良いぜ。半分そう思いながらひたすら旅を続ける紋次郎が、あの時代受けたのだ。

紋次郎の、末は旅の空で、野垂れ死にするのだろうか、

あのように生きられたら、良いのにと、憧れる人が多かったのだと思う。



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