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マーシャ戦記②ヴィレ平原の戦い ふぉれすとどわあふ


 マーシャ少将率いる機動歩兵旅団は北西30キロのヴィレ平原に集結中のクマさん星人5万機の大部隊に対し零式機動歩兵、弐式機動歩兵計200機を先行させ光学榴弾砲の支援砲撃を受けながら攻撃を開始した。
クマさん星人もベアスーツ(BS)という巨大ロボットに乗って戦ったのだが防御力に優れる反面機動力が劣るベアスーツは機動歩兵のスピードについて行けず主要兵装のベアキャノンも中々命中せず、逆に機動歩兵の光学粒子砲の餌食になり次々撃破される。
またドローン部隊による電磁パルス弾の投下によってクマさん星人後方の約5千機のベアスーツ部隊が制御不能に陥った。
この電磁パルス弾は半径3キロメートル圏内の電磁機器に障害を与え使用不可能にするという人類軍の秘密兵器であったが味方の装備にも影響を与えるため離れた場所で使用しなくてはならなかった。
「さてみんな順調に進撃してるようだな。そろそろ敵の親玉を捕捉しなくては」
真紅の紅弐号機を上手く操り右へ左へブーストしてベアスーツのクマさんパンチをかわすマーシャ。
そしてくるっと一回転して、振り向きざまにビームサーベルでベアスーツの装甲を切り裂いていく。
「この敵は動きが鈍い。光学粒子砲を使わず近接戦闘で倒した方が効率的かもしれんなあ」
そのとき通信が入った。
「こちらブリューゲルです。どうも素早しっこい敵がいて苦戦中です。既に7機喪いました。可能であれば増援を」
「ほう、あのブリューゲルが苦戦中とはな。面白い。ひょっとすると敵の精鋭かなあ。よしちょっと行ってこよう。マサコさん、ミユさん、そしてビルくん第1機動大隊の指揮頼みますよ」
マサコ「ちょ、ちょっと頼むと言われても」

 マサコとミユは戦場へ向かう前、マーシャにこう助言した。
「できるならばクマさん星人との和平交渉して戦争をやめさせたいのですけど」
と言ったら
「うんうん、実は私もあなたたちにそれを頼もうと思ってたんですよ。緒戦は圧倒するでしょうが戦闘が長引けば弾薬、燃料不足が懸念されます。モンタナ基地を奪取して補給できればいいんですがそれまで持つかどうか。なんで私が合図したらクマさん星人に降伏の勧告をおこなってくださいね。それまで暴れてご覧にいれましょう」
そう約束をしていたのだ。
そして危ないからって零式機動歩兵に乗せられてここまでは自動操縦で進んできたのだけど。
「…って全然操縦分かんなんねぇよ。これを押すと」
マサコが乗った機動歩兵は大きくブーストして宙に浮いた。
「うわ~」そこにベアスーツが撃ったベアキャノンが命中。
「きゃっ。やられた?でも直撃じゃないみたい。冷や冷や」
「オレは何となく分かるぜ。昔プレステ2でアーマード・コアやってたからなあ。基本操作は一緒よ」
ユミ「なんでやねん!」
ビルの操縦する零式機動歩兵は真っ直ぐブースターを吹かして直進するとビームサーベルで目の前のベアスーツを切り刻んだ。
炎上し爆発するベアスーツ。
「ビル、ここはあんたに任せたわ」
「ああ、あんたらは後ろに下がって説明書でも読んでな」
「ええっとバッグはR?りょ、了解」

 そのころ左翼の戦場ではブリューゲル大佐の機動猟兵50機が精鋭ベアスーツ部隊に包囲せれ危機的状況に陥っていた。
円陣防御を組み互いにシールドを出しあってベアキャノンの砲撃を耐えるブリューゲル。
そこへ真紅の弐号機を先頭にマーシャ率いる精鋭10機が駆けつけた。
砲撃に集中するベアスーツ部隊を背後からビームサーベルで次々撃破してゆく。
「マーシャ少将。助かりました」
「うむ、来てやったぞ。ここから一気に反転攻勢に出るぞ」
「はい。ですがあの白いヤツ。手強いですよ」
「ん?」
1機極端に速い白いベアスーツがマーシャの前を横切る。
慌てて光学粒子砲を撃つがまったく当たらない。
逆に肩のベアキャノンを撃ってきて紅弐号機は被弾した。
「くっ。こいつは厄介な敵だ。使いたくなかったんだがしょうがないか。ふぉれすとどわあふ発動!」
マーシャが起動ボタンを押すと紅弐号機の胴体が変形しコックピットの下に巨大な砲門が現れた。
全駆動エネルギーを消耗するため一発しか使えない最終手段である。
しかも紅弐号機にしか組み込まれていない。
このふぉれすとどわあふとは開発者プロフェッサーKが故郷の雑貨店の名前から命名した起動システムの符牒である。
「ブリューゲル。今からふぉれすとどわあふ砲を発射する。敵を引き付けて援護してくれ」
「了解!」
紅弐号機の前でシールドを展開するブリューゲル隊。
殺到するベアスーツ。
「ふっ。この軌道線上に敵の司令部があるようだな。エネルギー充填完了。ブリューゲル退けっ」
「はっ」
ブリューゲル隊が去った後、紅弐式の腹部から青白い閃光とともに粒子ビームが発射された。凄まじいエネルギーの奔流が目の前にいたベアスーツ隊を次々焼き尽くしていく。
後方に密集していた数十機のベアスーツを道連れに。
「ふぅ。これが最後の攻撃。後はないぞ。これでクマさん星人が戦意喪失してくれないと手はないな。ミユさんマサコさん頼みますよ~」
「はい、こちらマサコ。操縦覚えました。ミユ頼むわよ」
ドワーフのミユはクマさん星人の言葉を喋れる。
「おほん。クマさん星人クマさん星人。聞こえますか?」
「ミユ、ミュートになってるよ」
「あ、あれ?あ、この音声ボタン押すのか。ごほん。え~クマさん星人のみなさ~ん。降伏するなら今のうちですよ~。超強力なふぉれすとどわーふ砲このロボットたちみんな持ってますからね~!」
これは事前にマーシャと決めておいたはったりだ。
……暫くするとベアスーツ隊の動きがぱたりと停まった。
「お、これは効いてんじゃね?全軍攻撃停止。その場で警戒態勢に移行…」
暫くすると1機のベアスーツが白旗を持って現れた。
「うむ、地球の国際法を熟知しているようだな。この戦いは我らの勝利だ!」
ビル「なんでやねん!」
マーシャ(いや~薄氷の勝利だったな~)

 約4時間に渡る攻防戦の末クマさん星人は白旗を挙げた。
降伏を申し出たクマさん星人の司令官とマーシャはミユを通訳にして会談を行った。
その結果後日、南極基地において講和会議を開くこととなった。

 新南極条約

 3日後マサコとミユたちは機動旅団の軍用機に乗って南極基地へ向かった。
クマさん星人も宇宙船で飛来し、南極基地の応接室で会談が開かれた。
ミユが通訳である。
「私は銀河方面軍地球攻略軍司令官熊野熊五郎である」
「同じく副官の森野熊三郎です。お見知りおきを」
ビル(なんでやねん!なぜに和名?っていうかまるでリアルくまもんやん!)
「私は急遽地球防衛の任に当たった第666機動歩兵旅団長のマーシャヴェリンスキー少将です」
「同じく副官のブリューゲル大佐です。こちら通訳でドワーフのミユさん。こちらの2人は民間人ながら地球のために戦ってきたマサコさんとビルさん、オブザーバーとして出席します」
マサコ「あ、あの。よ、よろしくお願いします」
熊五郎「よろしクマー」
ユミ「ク、クマー?」
マーシャ「よろフェイス」
マサコ「よろフェイス?」
マーシャ「さて社交辞令も済んだしそろそろ本題に入りましょう」
熊五郎「オッケーベア」
マーシャ「まずは講和の条件としてこちらの要求はクマさん星人の地球占領地域からの即時全面撤退」
熊五郎「そ、それは…」
マーシャ「できないとおっしゃるのか?」
熊三郎「いえ我々も立場というものがございますので」
マーシャ「イエスかノーかと聞いている」
熊五郎「あふがぁ!」「んがんんっ!」
熊三郎「まあまあ熊さん」
ビル (おまえも熊だろ!)
マーシャ「 まああなた方の気持ちも分かりますよ。遥々大軍を率いて地球を攻めたのに手ぶらで帰るというわけにはいかないでしょう。手土産が必要でしょうね。あなたの母星の実情は調べました」
熊五郎「んが?」
ブリューゲル「私が説明しましょう。あなた方の母星のあるM87星系は恒星の活動が低下していますね。恐らく農作物の生産量が著しく低下しているのでしょう。そのため食糧問題の解決のために豊かな地球に攻めてきたのでは?」
熊五郎「ぐ~ぎゅるぎゅる」
どうやら熊五郎は腹ペコのようだ。
マーシャ「手土産というのはこれです」
マーシャが手を鳴らすとかわいいメイドたちが現れ各人のテーブルの上へ何かを置いて行った。
ビル「これは…ミユちゃんが作ったバランス栄養食品じゃねえか!」
マーシャ「クマさん星人のみなさん。ぜひご賞味あれ」
熊五郎、熊三郎「う~?モグモグモグモグ。う、うまい!」
マーシャ「さらに今なら最高級純粋はちみつ付きですよ」
熊五郎、熊三郎「!?ペロペロペロペロ…」
ミユ「もう舐めるのに夢中になってますね」
マーシャ「この最高級純粋はちみつ10トン差し上げます。ぜひ母星に」
熊五郎たちは感激して講和条約にサインした。
地球の占領地域からの全面撤退。
お土産として777個のバランス栄養食品とはちみつ10トン。また定期的に地球と交易を行いバランス栄養食品などの食料品を輸出して換わりにクマさん星人から鉱物資源を輸入すること。
ここでもマーシャは得意のはったり交渉術でバランス栄養食品10ケースまたは純粋はちみつ1キロとダイヤの原石1カラットまたは金1グラムという法外な相場を取り決めてしまった。
手土産のバランス栄養食品はミユとマサコが不眠不休で材料を集めて作り上げた。今後は工場のライン生産に移行する予定だ。
今頃クマさん星人は血眼になって小惑星を採掘してるだろう。
クマさん星人との交易で獲得した金とダイヤなどの鉱物資源はマーシャが管理し表向きは地球復興の財源にすることとなっている。
マーシャは地球防衛の勲功により二階級特進で史上最年少の上級大将に。ブリューゲルは中将になった。
この新南極条約によって地球に平和が訪れた。


 1ヶ月後 モンタナ基地司令部執務室
「あ~あ」
椅子を回しながら首の後ろに両手を当てため息をつくマーシャ。
「どうも私の計画は狂ってしまったよブリューゲル」
「と、いいますと」
「異星人との戦いがあるからこそ地球市民は軍事独裁政権を支持するのだよ。平和になった今頃マーシャが大統領になってもな~」
実は南極会議の後、マーシャは光学粒子砲で帰還するクマさん星人の乗った宇宙船を撃ち落とそうとしたのだ。
「孫子の兵法にも兵は詭道なりってあるしな」
そう言って紅弐号機で光学粒子砲の発射ボタンに指を掛けたのだがマサコとミユとが必死になって引き留めた。
「いけませんよそれは絶対。そんなことをしたら彼ら怒ってまた攻めてきますよ」
「う~ん。…それもそうかな~?」
そう言って珍しく引き下がったマーシャだった。
それからマーシャは執務室に引き籠って地球復興5ヵ年計画を策定した。
激減した地球人類を回復するため月のルナシティなど6都市に居住している月人類120万のうち、志願者を募って地球への移住を促進すること。ちなみに月には原住民であるうさぎさんがいて人間と協調して暮らしている。
そして第666機動歩兵旅団はその貴重な機動歩兵のパワーを駆使して破壊された橋などのインフラの復興に務めることとなった。
マーシャは執務室にマサコを呼び出してこう言った。
「初代地球統一政府の大統領はマサコさん、あなたに頼むよ」
「ええ~!そんな~」
「安心してくれ。ミユさんを秘書に。ビルくんを補佐官に任命するから」
「でもでも~。私にそんな大役務まるかしら?」
「あなたはただにこにこして私の部下の作った原稿を読めばいいんですよ。演説するときは私が台本を書きましょう」
「本当にそれだけでいいの?」
「ええ、平和の象徴ですから市民に好印象を与えられればそれでいいんです」
「マーシャさん、あなたはどうするの?」
「そうですね。私は地球防衛軍の総司令官にでもなろうかな。ブリューゲルは外務大臣にしましょう」
(それに裏からマサコさんを操って闇将軍になったほうが都合がいいもんね。よしっ、この星をマーシャの理想の星にしてみせよう。効率的で簡素な政府を作り、市民は労働の喜びを噛み締めながら文化、芸術、科学技術の発展に力を尽くす。まずは手始めに複合娯楽施設マーシャランドを造ろうか♪おお、神よ。地球はこのマーシャのものに♪♪)


 モンタナ基地で清掃作業のアルバイトをしていたストーンフェイスのおじさんは、休憩時間に売店で缶コーヒーを買って飲んだ。
そしてポツリとこう言った。
「こうして地球人とクマさん星人による長年の戦いに、終止符が打たれたのだった」
ちょうど売店にビルがいた。
「なんでやねん!あんたが締めるんかい!!」


見据茶(みすてぃ)さんのこちらの記事から派生しました🐻

こちらにもマーシャ少将が

三羽 烏さまのこちらの企画に参加します



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