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歴史探偵大山嵐次郎③タイムトラベル

 ある日大山歴史研究所に謎の組織「大鴉」(おおがらす)から巨大な段ボールに入った機械が7箱送られてきた。
パソコンに届いたメールにはこれは2013年にロシアで開発されたタイムマシンの改良バージョンとあり組み立てて100年前にタイムスリップして欲しいと書かれてあった。
そして100年前の東京について詳細なレポートを作成してくれれば成功報酬として150万振り込むとも書かれていた。
僕は先生に「これは何かのインチキなんじゃないですか?」と聞いてみた。すると先生は
「うん、実は現代科学で5分ぐらいは未来へタイムスリップすることは可能だと言われている。その装置がロシアで開発されたと聞いたこともある。まあ出所は『月刊ムー』だがね」
「それ、めちゃくちゃ怪しいじゃないですか?」
「まあ論理的には不可能じゃないが未来へ行くのと違って過去へ遡るのは桁違いに大変だ。それに莫大なエネルギーも必要だ」
「こんな組立式の機械で行けるわけないじゃないですか?」
「しかし大鴉がわざわざ送ってきたのだから捨て置く訳にもいかんだろ。それに成功報酬もある。前回のエチオピア行きだって本当に100万円振り込まれて笑島くんにも1万円渡したじゃないか?」
「え?先生100万円も貰ってたんですか?」
「げほっげほっ。いやまあ諸経費掛かってるからね。それより組立組立…」
それから先生と僕で段ボールから出した機械を説明書を読みながら組立た。
ドライバーが合わなかったり接着面を間違ったりで完成するのに3時間も掛かってしまった。
「よし、完成っと。バッテリーの充電が完了したらさっそく100年前にタイマーをセットして起動させようじゃないか」
「先生ちょっと質問です?」
「なんだね」
「タイムマシンで時間を遡るといいますけど100年前の地球はこことは違う場所にあるので、僕たちは宇宙空間に放り出されないのですか?」
「うん、それはもっともな質問だ。たしかに地球は動いてるし太陽系も物凄い速さで銀河系を回っている。なら絶対動かない基準点をどこかに置くことができるかい?」
「う~んどうだろ?」
「物質の運動は相対的だからね。例えば電車に乗ってる人は自分が静止していて周りが運動していると捉えることも可能だ。想像の翼を広げれば地球に住んでいる今の君は超高速で銀河系の周りを運動しているともいえる」
「ということは?」
「つまりこのタイムマシンの置いた場所を不動の一点として周りが運動してると捉えればいい。だから宇宙空間に放り出されることはない」
「なるほど」

 30分後

「さて充電完了のランプもついたしそろそろ行こうか。100年前の東京へ」
「はい」
僕はタイマーに100年後と入力し起動レバーを押した。
するとたちまちタイムマシンがまばゆい光に包まれ目の前に真っ黒い穴が現れてそこへ吸い込まれて行った。


 大山研究所の外に出ると不思議なことに今とあまり変わらない景色が広かっていた。
ただ建物は大分古くなっていたりあったはずの建物がなかったり窓のない不思議な建物がぽつりぽつりする。
そして何より道路に車が走ってないし歩いてる人たちもいない。
これはいったい…?
先生をみるとずっと顎に手を当てて考えている。
「やはりそうか。はじめから過去に遡ることは不可能だったんだ」
「じゃここは?」
「100年後の未来だよ」
「100年後の未来?」
「ああそうだ。さっきも言った通り未来へ行く方が過去へ遡るより遥かに簡単だ。アインシュタインの相対性理論は知ってるだろう?」
「ええざっくりとは」
「なら双子のパラドックスは知っているね?」
「ええたしか双子の片方が宇宙空間を旅して帰ってくると高速で運動している宇宙船の方が時間の進むのが遅いから歳が違ってくるんですね?」
「そうその通りだ。おそらくこのタイムマシンも局所的に巨大な重力を発生させて時間の歩みを遅くしたんだろう」
「じゃ本当に過去じゃなくて未来へ来てしまったんですね」
「うん、とりあえずレポートを書けという依頼だから100年後の東京の様子を観察してみようじゃないか」
それから先生と僕はずっと歩いた。
時々見慣れた建物があるものの廃墟になってたり住宅地の広がっていた場所がずっと更地になっていたりした。
そして何より人がいない。
鍵の壊れたビルに入ってみたが誰もいない。
まるである時を境に人間がいなくなってしまったみたいだ。
先生と僕は歩きながら色々推測をたてた。
戦争で滅んだ?
しかし爆撃などで破壊された跡はない。
疫病が蔓延してみな死に絶えた?
それならどこかで白骨死体の1つや2つ見つかってもよさそうなものだ。
みんなどこへ行ってしまったんだろう。
カラスだけがカーカー鳴いている。
辺りはすっかり夕暮れになっている。
僕は段々心細くなってきた。
先生は黙って何かを考えながら歩いているようだ。
やがてゴーストタウンと化した街を歩いていると突然更地に白いドーム状の奇妙な建物が現れた。

 入り口の門には「note株式会社」と書かれている。僕と先生は顔を見合わせた。
「行ってみようか」
「はい」
エントランスホールに近付くと自動ドアが開いたので中に入ってみる。
すると中は真っ白い広々とした空間であたり一面たくさんの四角いディスプレイが貼り巡らされている。
茫然と眺めているて突然視界の右側から金ぴかのロボットが現れた。
そのロボットはまるでスター・ウォーズに出てくる金のロボットC3POにそっくりだ。
「コンバンハ。アナタ方ハ過去マタハ未来カラノ訪問者デスカ?」
しかも声までそっくりで多分日本語吹替バージョンと同じ声優だろう。
「ええ僕たちは過去からタイムマシンでこちらへ来ました。100年後の東京を調査しに来たんですが人間が1人もいません。それはなぜですか?」
「アナタタチハ今時珍シイ生身ノ人間デスネ」
「え?それはどういう意味ですか?」
「現在2124年デスガ既ニ30年前ノ2094年ニ核汚染ニヨリ地球ノ環境ハ急速ニ悪化シマシタ。ソノタメ主要各国ガ集マリ協議シタ結果、国連ガ主導トナリ人類補完計画ガ実施サレルコトニナリマシタ」
「環境の悪化!人類補完計画だと?」
「エエソレカラ30年アマリタッタ今ホボスベテノ人間ハコンピューターネットワークニ脳ヲ接続シ意識ヲ移スコトニ成功シマシタ。現在スベテノ人間ハコンピューターノ作ッタ仮想空間デ生活シテマス」
「なんですか先生。まるでSFじゃないですか!」
「いやあながち絵空事とも言い切れん。たしかに人間の脳を左脳と右脳に分断し片方ずつをコンピューターに接続して意識を移すという研究があるのは事実だ。それがたった100年以内に実現するとはな」
(※本当にあります)
「しかしいくらなんでも人類すべての脳をコンピューターに繋ぐなんてそんな馬鹿なことができますか?」
「イエ本当ノコトデス。特ニ日本人ノ脳ハココnote株式会社ノ本社ビルニアルスーパーコンピューターニ集約サレテイマス」
「1つ聞こう。我々生身の人間は彼らと会話することはできるのか?」
「ハイ可能デス。現在チャットシステムニヨリ多クノ人々ガ活発ナ交流ヲシテマスノデ、音声入力マタハキーボードヲ使ッテ彼ラト会話スルコトハガデキマス」
「ってそこだけは昔のままなのかい!」
C3POが受付のコンピューターを操作すると空中に浮いてる四角いディスプレイが大きくクローズアップされた。
「デハ彼ラノ会話ヲ覗イテ見マショウ」

梅太郎「よっ、盛さん。どうも暇を持て余してるようだね」
盛夫「そういう梅さんだって暇そうにぶらぶらしてるようじゃないか」
梅太郎「まあぶらぶらって言っても光の速さ。1秒間に地球のネットワークを7周半して来たんだがね」
盛男「暇といや昔の人間は身体なんてもんを持ってたみたいだね。難儀なこった」
梅太郎「ほんとに大変なことをしてたんだねえ。だいたい身体なんてあったら飯を食わなくちゃいけないじゃないか。そして飯を食うために働く。まったくとんだ酔狂だよ」
盛男「俺たちみたいにコンピューターの中に入ってれば何の苦もなく永遠に生きられるのにねえ」
梅太郎「そうそう、挙げ句の果てに寿命がくると死んでしまったんだってさ。大層なこった」
盛男「命あっての物種なのにねえ」
梅太郎「まあ大昔のおとぎ話のようなもんだね」
盛男「今じゃ昔の人がどんな生活をしてたか想像もつかないねえ」
梅太郎「なんでも昔は保険屋さんってのがあったようだけどね。誰も死んだりケガしたりする者がいなくなったからみんな潰れちまったらしいよ」
盛男「ははははは。そりゃもっともだ」


そこでチャットの画面は切り替わった。
「コレガ現在ノ人間ノ姿デス」
とC3POは言った。
「笑島くん」
「ええ先生」
2人同時に言った。
「せーの。なんでやねん!!」


※「なんとなくなんでやねん落ちにしちゃいました」
   「なんでやねん!」


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