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長崎伝習所で誕生した童話 中島川のあそびんぼ太郎 3

カナカナ・キンキンと中国伝来の遊びの巻

次にミサキの選んだ花火に、あそびんぼ太郎がさっきと同じ呪文「なんでん いっちょん かんでん いっちょん こんこんこんね!」を唱えながら火をつけました。ミナトとミサキもおもしろがって一緒に呪文を唱えました。すると、今度は白い煙の中からチャルメラ吹きの双子のカナカナとキンキンが現われました。双子の妖怪はチャイナ帽をかぶりチャイナ服を着た中国人の姿で、「♪ぴゅるるーるる るるるるるるー」チャルメラをひと吹きしました。この双子の中国妖怪は不思議なことに、カナカナは顔も手も足も真っ赤で、キンキンのほうは全身黄色い肌の色をしていました。

「わたしの名前はカナカナ。昔唐人屋敷のおばけ堂に棲んでいたカナカナ」
「わたしはキンキン。中国から日本に伝わった遊び道具持ってきたキンキン」カナカナとキンキンはそう言いながら、けん玉とビー玉とお手玉を差し出しました。

そのとき、あそびんぼ太郎が何かを思い出し、「あっ、そうやったばい。そんならちょっと待っとかんね」と言うと、宝箱の底のほうから紫の絹の布に包まれた蚊取り線香のような渦巻きと、紺色の絹の布に包まれた特別長い2本の線香花火を取りだしました。

あそびんぼ太郎が蚊取り線香のような緑色の渦巻きに火をつけると、あたりの景色が少しの間ゆがんで見えました。この渦巻きはときもどしといって、時間を戻したり、止めたりするかわいい妖怪でした。ときもどしは昔からときを打つお寺のつりがね堂に棲んでいましたが、なんでも生まれは江戸だという噂です。

しばらくしてあたりが普通の景色にもどり、ときもどしが短い2本の足でよちよちと歩いて、あそびんぼ太郎が持っていた2本の長い線香花に火をつけました。すると二筋の細い煙の中から、7年前に亡くなったおじいちゃんと、5年前に亡くなったおばあちゃんの姿が現われました。2人はときもどしがこの世に蘇らせたミナトとミサキの祖父と祖母でした。ミナトとミサキにとっては、仏壇に飾られた写真でしか知らないおじいちゃんとおばあちゃんでしたが、その日生まれて初めて2人の声を聞き、話をしたのです。でも、さすがに血のつながった家族ですね。2人の孫はすぐにおじいちゃんとおばあちゃんになついてすっかり仲良くなりました。

おばあちゃんはミサキにお手玉を、おじいちゃんはミナトにけん玉とビー玉の遊び方を教えました。しおふきんとカナカナとキンキンも一緒に遊びに加わることにしました。優しいおじいちゃんとおばあちゃんと一緒の楽しい時間は、あっという間に過ぎていきました。

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