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019.不二家伊勢佐木町店

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物046/伊勢佐木町周辺≫
*フランク・ロイド・ライトの助手だったアントニン・レーモンドの設計で昭和12(1937)年に建てられた。全面一杯にガラスを使ったデザインで、左のブロックと右の全面ガラスウォールという組み合わせに、洋菓子の新しいイメージが重なって、新鮮に受け入れられたようでした。
⇒2023.08.21から、調査・改築のために休店中で仮店舗で営業を行っています。
 
 ■洋菓子とカーテンウォール工法
 関内駅から伊勢佐木町通りに入ってすぐ、有隣堂、横浜松坂屋の向いあるのが不二家伊勢佐木町店。不二家は、1910(明治43)年に横浜・元町で創業、その2号店として伊勢佐木町に1922(大正11)年にこのお店を開店。
しかし、翌年の関東大震災で被災してしまい、バラックなどでの営業を再開していたが、あらためて昭和12(1937)年に、当時最新の工法だったカーテンウォール工法で鉄筋コンクリート造りの地上6階、地下1階建てビルに建て替えました。それが写真のものです。
カーテンウォール工法は、壁で建物を支えない工法で、全面ガラスを可能にしたのは、そうした工法を採用しているためです。洋菓子という新しいイメージにぴったりの明るい、軽快なデザインで、「え?これが古いビル?」と一瞬思うほど、周囲になじんで、とても建てられて80年以上が建つビルとは思えません。
しかし、この建物は令和5(2023)年8月21日をもって改修工事に入ってしまいました。レーモンドの設計に関して詳細を調査したのち、新しいビルを設計するとのことで、部分的に復元活用される可能性もあるようです。スケジュール等未定ですが、楽しみです。
洋菓子店としての不二家の創業は、明治43年(1910年)に元町で藤井林宇衛門が洋菓子店を始めたものです。その後、アメリカに視察に行った後、帰国後の大正11(1922)年に新規出店したのが伊勢佐木町店でした。不二家は全国に900店舗を展開していて、ペコちゃん、ポコちゃんのキャラクターでもよく知られていることもあって、銀座店などがよくメディアにも登場します。そのため、東京発祥の洋菓子店と思われている人も多く、横浜発祥ということを知っている人がいれば、それはよほどマニアか、洋菓子ファンの方ということになります。
 
横浜発祥の不二家
 ルーツから言えば横浜元町なのですが、洋菓子店として知られるようになったのは、この伊勢佐木町店からです。当時の伊勢佐木町は、横浜でも一番の繁華街、まあ、他の都市ならば「横浜の銀座」と形容するところでしょうが、横浜人は、いや、ハマの銀座ではなく、伊勢佐木町だと声を大きく言うところでしょう。当時、最もモダンな流行の最先端を行く横浜一の繁華街で洋菓子店を開き、生クリームを生かしたシュークリームを売り出したことから不二家は人気になり、昭和12(1937)年に店舗を新築しました。
 設計を担当したのが、フランク・ロイド・ライトの助手として来日し、帝国ホテルの建設・設計の手伝いをしていたチェコ生まれのアメリカ人建築家アントニン・レーモンドでした。最近あちこちで見直され始めている建築デザイナーで、元町公園の「エリスマン邸」(中区元町1)や横浜市認定歴史的建造物の「フェリス女学院 山手10号館」(中区山手町)などの設計者としても知られています。
 ライトの建築群は、アゼルバイジャンで開かれた2019年のユネスコ(国連教育科学文化機関)会議で、世界文化遺産の登録が決まりました。そのライトの流れを汲むデザイナーの作品としてこのビルもまた新たな注目を集めました。
 
 ■モダニズム作家の面目躍如

全面ガラスは表だけでなく裏面もそのまま。裏通りから見る人は少ないとしても、
当時は斬新なビルとみられていたはずです。

 前面はカーテンウォールを採用し、横いっぱいをガラスで覆っています。一般に使われているガラスの強度に関して、それほど信頼度がなかった時代のことなので、ここまでガラス面を表に出していることに対して、当時の人たちはその新しさに驚いたのではないかと思います。シンプルなデザインですが、見た人たちに与えたインパクトは大きかったと思います。
そして、サイドの部分で大きく占める階段スペースは、明り採りも兼ねてガラスブロックを積み上げています。つい10年程前に大震災があって町全体が倒壊したという記憶も新しい時代です。ガラスは壊れやすいというイメージの方が強かったなかで、これだけガラスをふんだんに使っての店舗設計は、最先端の新しい街・横浜というイメージを強くアピールしたのではないでしょうか。 まさに、モダニズム作家の面目躍如たるところです。
 
 戦後は、東日本の占領任務に就いていた米陸軍第8軍に接収されてヨコハマクラブとして利用されました。同時に近くの建物も接収されていたことから、接収解除後もしばらく復興が遅れ、不二家伊勢佐木町店が再び活気を取り戻すのは昭和30年代に入ってからでした。再開後は、物資がまだ豊富に出回らない中で、ハンバーグやソフトクリームなどをメニューにして人気となり、不二家の名を高めました。
●所在地:横浜市中区伊勢佐木町1丁目6−2

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