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4-4.定期的にナマズを採用する

ミサワホーム社長 三澤千代治

 ミサワホームは新卒の定期採用だけでなく、意図的に中途採用を行っていた珍しい会社だった。なぜ中途採用を行うのか。
 このことを説明するために、三澤がよく用いるエピソードがある。

 ノルウェーの漁村でのことだった。
 多くの漁師が沖に出てイワシ漁をしてくるが、港に着いた時には、ほとんどの船のイワシは死んでしまっていた。そんな中で、一人だけ、生きたままイワシを港に持って帰ってくる漁師がいた。当然、彼の新鮮なイワシは買い手が多くつき、高値になった。

 どうやってイワシを生きたまま港まで運んでこられるのか、漁師仲間で謎となっていたが、彼の死後に調べてみると、船のいけすにナマズが入れられていたという。
イワシは見慣れないナマズがいるために緊張して泳ぎ回り、その結果、いつまでもイキが良く保たれるのだろう……というのが学者の分析であった。

つまり、異分子がいると全員が活性化するという話である。この話がよくできた作り話であることは、ナマズ=淡水魚ということを思い出せばいいが、比喩のうまさでなるほどと思わせてしまうところが、三澤の非凡なところである。

また、三澤はこんな話もする。

 カマスを小魚と一緒の水槽に入れておくと、カマスは小魚を全部食べてしまう。
 そこで、カマスを小さなガラス張りの水槽に入れて、小魚のいる水槽に入れておくと、カマスにとって小魚は目には見えるが食べられない。その習慣がつくと、カマスを小魚と一緒の水槽に入れても、小魚を食べようとはしない。
 そして、今度はそのカマスと小魚が入っている水槽に、そういう経験をしていない新しいカマスを入れると、新入りのカマスは小魚を食べる。それを見て、以前からいたカマスも再び小魚を食べ始めるようになる。

 イワシや古いカマスを「生え抜きの社員」に、余計な経験を積んでいないカマスやナマズを外部からの「中途採用社員」に置き換えてみると、三澤が新鮮な社員を中途採用する意図が説明できる。

 つまり、それまでの社内にはない考え方ややり方を身につけている異分子を、中途採用で定期的に社内に入れることで、社内の活性化を図ろうというわけである。

 異分子の存在で組織は活性化する、というのは生物学の定説でもある。活性化ということ以外にも、異質の有能な存在がうまく組み合わされた時、相乗効果として、組織は予想以上の大きな力を発揮する……ということは注目しておきたい。


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