見出し画像

4-6.和をもって貴しとせず。

 武田薬品工業名誉会長 小西新兵衛

 武田薬品工業には、「和をもって貴しとなす」という考えをベースにした、「規」(のり)と呼ばれる社是があった。 昭和15年に作られたものである。
その2番目に「相和(やわら)ぎ力を協(あわ)せ互いにさからわざること」と書かれていた。

当時の社是は、現在は、企業理念として新しく設定されているが、その基本精神はタケダイズムとして受け継がれている。 しかし小西は、あえて社員には「さからえ」と言うことが多いそうだ。
コンセンサスによるマネジメントは日本的経営の利点だが、場合によっては、火中に栗を拾う勇気を持って体制にさからうことも必要だと言うのである。

 タケダはもともと問屋から出発した製薬メーカーである。
かつて、商品を仕入れていた吉富製薬やチバガイギーから自社販売をしたいと申し入れを受けたことがある。それらの商品はタケダにとっては一手販売を行っている製品ばかりであり、それがタケダの取扱品目からなくなると、売り上げは何百億円も減ってしまう。
当然、その申し入れに対して社内は反対に傾いていたが、あえて小西はそれを許可したという。

「問屋から出発したタケダが純粋のメーカーになるためには、よその品物を売ってその利益に安住しているようではいかん」。というのがその理由だった。
周囲にはドラススティックに映ったかもしれないが、小西から言えば他に選択肢のない当然の決断だった。コンセンサスをとっていたら、こんな損をする決断などできるはずはなかったのである。
「どんな状況でも和がを選択して正しいわけではありません。」と小西は言う。

和をもって貴しとせず、も必要なのです。万人向きの平易な結論を模索しているような経営は通用しません。そのためにも大いに『さからえ』と。沈香も焚かず屁もひらずでは、企業の発展は望めませんからね」。

小西はずっと先を見ていたのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?