アマルティアエイジス 眠りし力の戦い 2話「交わる、三人の宿命」

アスファルトで舗装された道。
そこを、照りつける太陽。
周囲の木々からは、呼応するかのように響くセミたちの声。
遠くには、入道雲が見える。
そんな、眼下に町並みが見渡せる山間の下り道。

ウエット(フル)スーツのような衣服(背中には「地を司る種族ガイア」の赤色の紋章が白く縁どられている)を着た若い女性、エウリュ。
左腕には、青色のアマルティア(ティターンの長を護衛するために創られた鎧。通常は長い腕輪の状態。中央で上下に開く、力を開放するための菱形の装飾が施されている)を装備している。

何かに追われているのを気にして、何度も振り返りながら長い髪をなびかせ走っていた。

同時刻。
その先の下り道を、一台のマイクロバスが走っていた。
そのフロントガラスには「青南(せいなん)高校女子バレー部一同様」の張り紙。

揃いの赤色のジャージを着た、青南高校女子バレー部員が乗って騒いでいた。
部員の彩華(あやか)が、自分のスポーツバッグの中を一生懸命探していた。
それを、隣の席にいる友達の舞(まい)が見ている。

「どうかしたの彩華?」
「(バッグの中を探しながら)ん~、どうも、宿舎にシューズを忘れてきたみたいなの…」
「え~、それじゃあ練習できないじゃん。早く取りに戻ろうよ!」

彩華たちの会話が聞こえ、バレー部の顧問が二人に声を掛ける。

「お~い。舞、彩華、どうかしたのか?」
「先生!彩華が宿舎にシューズを忘れてきてみたいなんです……」

バレー部の顧問、彩華たちに近づいて来る。

「そりゃいかんな。うちのエースアタッカーがいないと練習も始められん。よっし!みんなですぐに宿舎の方に戻ろう」
「先生、ありがとうがございます。でも大丈夫です。ここからなら宿舎までそう遠くないですし、ランニングしながら一人で取りに戻れます」
「しかしな彩華。ここからだと結構あるぞ…。それに帰りはどうするんだ?まさか体育館まで走ってくる気か」
「まあ、トレーニングだと思って、何とかします。私一人のためにみんなの足を引っ張るの嫌ですから」
「……わかった、わかった」

停車する青南高校のマイクロバス。
ジャージを脱ぎ、赤いユニフォーム姿となった彩華が降りる。
見送るため、舞とバレー部の顧問がバスの乗降扉の所までやって来た。

「本当に大丈夫か……?」
「大丈夫ですよ、先生!」
「彩華、本当に大丈夫?私も一緒に行こうか……」
「大丈夫だよ、舞。ほら、先生も!合宿は三日間しかないだから、時間を無駄にしちゃだめですよ!」
「……わかったわ」
「わかった……。彩華!みんなを降ろしたらすぐに戻ってくるからな」

マイクロバスの乗降扉が閉まって、みんなに見送られながらそれに手を振って答える彩華。
道は途中、下りと上りに分かれていてマイクロバスは下って行った。
彩華は気合を入れ、ショートの髪を揺らしながら来た道を走って戻った。

時同じくして、彩華とエウリュより後方の下り道。

オフロードのバイクにキャンプ用の荷物を付け、メタリックブルーのヘルメット、ジーパンにTシャツ。
チェックのフランネルシャツを上着として羽織って走る珪(けい)の姿があった。

「どんだけぶりかな、ここを走んの……」

その遥か後方。
凄い勢いで走る、一台の青いスポーツワゴン。

エウリュの視界に、鬼ヶ口トンネルの下り入り口が近づいてくるのが見えて来る。
しかし、まだ振り返りながら全速力で走っている。
その後方から、二台の車のエンジン音が近づいていた。

宿舎に向かって、一心不乱に上り道を走っている彩華。

エウリュ、鬼ヶ口トンネルの中に入って行く。
更に大きくなる、二台の車のエンジン音。
 
汗を拭いながら、遠くに鬼ヶ口トンネルの上り入り口を見ながら走り続ける彩華。
 
エウリュ、長い鬼ヶ口トンネルを抜けた所で足がもつれてその場に倒れてしまう。
追ってきた赤色のスポーツカーと、黒のワンボックス。
二台が、トンネルの上り入り口付近でライトをつけたまま止まった。
中から、エウリュと同じウエットスーツ(背中にガイアの紋章)のような衣服を着た男と、軍服風の衣服(左胸と右腕にガイアの紋章の刺繍)を着た男が数人降りて来る。

それに驚いて、振り向くエウリュ。

鬼ヶ口トンネルの上り入り口が、近づいて来るのを見る彩華。
そこで、何かが起こっているのに気づく。
 
珪、遠くに鬼ヶ口トンネルの下り入り口が見えてきたのに気づく。

「よっしゃー!懐かしの我が家までもうすぐ!」

その時、珪の後方から凄いスピードで青いスポーツワゴンが抜き去って行っていく。 
その勢いに、思わず仰け反る珪。

「……あっ、ぶねえーな!」
 
青いスポーツワゴンの車窓。
二人の軍服風の衣服(左胸と右腕に「天を司る種族ウラノス」の青色の紋章の刺繍)を着た男が運転席、助手席に乗っていた。
後ろを振り向く、助手席の男。
運転席の男、その行動に気づきバックミラーに目をやる。

「……どうかしたのか?」
「いや……、さっき何か大きな力を感じたもので……」

運転席の男、再びバックミラーに目をやった。
青いスポーツワゴン、さらにスピードを増して行った。

鬼ヶ口トンネルの上り入り口付近。
足をケガして、立ち上がれないでいるエウリュ。
軍服風の男達の手には銃が握られ、エウリュに近づいて来た。

「そこまでだ、そのアマルティアを俺によこしな。エウリュ、お前ではナイアス(アマルティアの所有を許された資格者)になれん!」
「私は……、私は……、あなたたちの兵士なんかじゃないのよ!」
「エウリュ……、どうしたお前らしくないセリフだな。ナイアスに俺も同様、もっとも近いと言われたお前が。訓練が嫌であきらめたのか?だから、パルテノスから脱走したのか?」
「私、知ってしまったの……。今までずっと、こんな格好をして戦うための訓練をさせられていたのかを……!」

若い男性のエリクトスを初め、エウリュの言葉に騒ぎ始めるウエットスーツのような衣服の男達。
軍服風の男達が、持っていた銃を一斉にエウリュの方に向けて構えた。

彩華が鬼ヶ口トンネルの上り入り口が近づき、エウリュが男達に殺されそうになっていると思い大声で叫ぶ。

「キャアー!誰か、誰かいませんか!女の人が殺されそうなんです!」
 
珪、彩華の叫び声に気づき、近づいてくる鬼ヶ口トンネルの下り入り口の方を注視した。

「な、何だ!一体何が起こってんだ?」
 
叫び声に驚き、彩華の方を見る軍服風の男達。

エウリュ、一瞬の隙をつき、左腕のアマルティア中央の上下に開く菱(ひし)形の装飾に右手で触れた。

「テミス・アマルティア!」

エリクトスたち、驚いて少し退く。
しかし装飾は開かず、エウリュに変化は無かった。

「……ククク、やはりな。エウリュ、お前ではアマルティアの力を使うことは無理だったようだな!」

軍服風の男達、エウリュに駆け寄って行く。

その時、後方から凄いスピードで青いスポーツワゴンが近づいて来る。
だが、エウリュたちに構わず抜き去って行った。

 
目の前の光景に、驚くその車内の男達。

「い、今のはガイアたち……!」
「ああ。今、奴等に構っている暇はない。一刻も早く、俺達のナイアスを目覚めさせねば……!」
 
エウリュが捕らわれそうになるのを見て、大声で叫びながら走り寄って行く彩華。

「誰か、誰か!お願いです、女の人が連れて行かれそうなんです!」
 
続く彩華の叫び声に気づき、近づいてくる鬼ヶ口トンネルの下り入り口の方を更に注視する珪。

「オ、オイ!誘拐かよ。そりゃあマズイんじゃないの!」
 
エウリュ、軍服風の男達と争っている。

エリクトスと同じウエットスーツのような衣服の者たちは、それを傍観していた。
軍服風の男の一人が、エウリュが争っているに乗じて銃で動きを封じようとする。
しかし、それを彩華が見つける。

「(少し震えながら)もう……!こうなったら、バレー部のエースとしての意地を見せてあげるわよ!」

大声で叫びながら、銃を構えている軍服風の男に突っ込んで行く彩華。

銃を構えていた軍服風の男は彩華に押し倒されるが、すぐに立ち直ってその銃を今度は彩華に向けた。
彩華、突発的に軍服風の男を睨んで吹き飛ばす。

珪が鬼ヶ口トンネルを抜け、エウリュたちの近くへやって来る。
そして、彩華の行動を見てバイクを降り、彩華の方に駆け寄って行った。

「オ、オイ!大丈夫か?それにしてもナイスタックルだったな。その後の投げ技も見事だったぜ」

珪の、若い男性の声に驚いている彩華。

「お前は、ここでじっとしてな。あの人は俺が、何とか助けて見せるからさ」

彩華をその場に残し、再びバイクに乗って叫びながらエウリュたちの方へ走って行く珪。

「私、何もしてないのに勝手に……」
 
軍服風の男達に、抵抗しているエウリュ。

後方から、珪のバイクが近づいて来て軍服風の男達を蹴散らした。

「(バイクに乗りながら)あんたたち、誘拐はマズイんじゃないの?」

軍服風の男達、珪の行動に一瞬ひるむが、すぐに持っていた銃を構え珪の方に向ける。

「次から次へと、物騒なことをするねえ。あんたらさ、一体何者なの?」

珪の言葉を無視して、構えた銃の引き金を引こうとする軍服風の男達。

「わぁー、危ねーって!」

バイクをジャンプさせ、軍服風の男達の行動を阻止する珪。
着地した後、バイクの向きを変えエウリュの方に近づいた。

「オ、オイ。大丈夫か?」

エウリュは、軍服風の男達の揉み合って動けないでいた。

「ここにいたら危ない、とりあえずこの場を離れよう!」

珪はバイクをその場に止め、エウリュを起こしてバイクの後部座席に乗せようとする。
しかし、今まで傍観していたエリクトスを初め、ウエットスーツのような衣服の男達が手から炎を放って足止めしてきた。

「あ、熱っちーい!一体何が起こったんだ?」
「悪いが、その女の左の腕についている物をこちらに渡してもらおうか!」
「お前ら、さっき何してくれたんだ?火傷(やけど)してねえだろうな」
「さっさとしな。もし、さっきみたいに歯向かえば火傷どころでは済まされないぞ!」

エリクトス、両腕を交差しその両手に炎を宿らせた。

「何だそりゃ、新手のマジックか?」
「なあ、エウリュ。さっき、そいつはお前には不必要なものだということがわかったはずだ。だから、大人しくこっちによこしな」
「……あいつらに渡してはいけません。これはあなたに預かって欲しいのです」

エウリュは、自分の左腕からアマルティアを外し、珪の左腕に着けた。

「オ、オイ、ちょっと待てよ!俺はまだ何も……」
「バカ!エウリュ、何やってるんだ!」

エウリュ、珪の左腕に着けたアマルティアの上下に開く菱形の装飾に両手を添えた。

「……本当の私を知るために、どうか一緒に戦って下さい。あなたならこれを纏(まと)うことが出来ると思うんです」
「そいつは、俺にしか使えん!」
「テミス……、アマルティア!」

装飾が開き、珪の体が光に包まれて辺りを大きく照らしていく。
そして光が徐々に消えると、そこには青色の鎧姿のアマルティアを纏った珪の姿があった。

エリクトスと仲間の男達が、珪の姿に驚いていた。

「バ、バカな……!私が、私がナイアスではないのか……」

珪の変化した姿に驚く、彩華。

「あれは一体……!」

珪、自分の姿に驚いている。

「な、何だ、これは……!」

気が狂い、珪に向かって無数の炎を投げつけるエリクトス。

「俺がナイアスでないのなら、アマルティアなど俺の手で灰にしてくれよう!」

仲間がエリクトスの暴走を止めようとするが、その勢いがは止まらないでいた。
エリクトスが放つ炎で、珪が纏っているアマルティアは煙に包まれていった。

エリクトス、その様子を見守っている。

しかし、煙が消えた後から現れたのは、無傷のアマルティアを纏ったままの珪だった。

エリクトス、愕然(がくぜん)として不気味な笑みを浮かべる。

「……これが、これがアマルティアの力なのか。凄い、凄すぎる……。だがな、これでブっ壊されたら一溜まりもないだろうよ!」

両腕を高く上げ、その上で大きな岩を創り出そうとするエリクトス。

周りの者、恐ろしくなり近づけないでいた。

「俺がナイアスでないのなら、アマルティアなど存在する意味などない!」

エリクトスは、創り出した大きな岩を珪の真上に落とそうとした。

その時、珪のアマルティアの右手に光が集まり、その姿が大鎌に変わる。
珪は、背中に大きな翼を広げて飛び上がり、その大鎌でエリクトスの創り出した大きな岩を真っ二つに切り裂いた。

力の差を見せつられ、戦意を喪失するエリクトス。

他の者も、その光景に呆然としていた。

「これが、アマルティアの力……」

ウエットスーツのような衣服の男達は、その場に座り込んでいるエリクトスを立ち上がらせ、軍服風の男達と共に車に乗り込んでもと来た道を戻って行った。

珪の左腕のアマルティアの装飾を閉じて、解除の操作をするエウリュ。

珪は元の姿に戻った。

「一体、俺はどうしちまったんだ……」

エウリュは、追手から解放され安心して珪に倒れ掛かった。

「オイ、しっかりしろよ!」

珪、エウリュのことを心配しながら周りを見渡し、少し離れた所にいる彩華のことを思い出した。

エウリュをそっとその場に寝かせ、彩華の所へ駆け寄っていく珪。

「オーイ!大丈夫か?」

彩華、呼びかける珪の方へ振り向くが、うつろな目をしている。

「えっ、あ、はい……」
「おい、本当に大丈夫か?さっき、ぶつかってった時、変なところ打ってねえだろうな…」
「大丈夫ですよ。(立ち上がりながら)ほらね……」

立ち上がりながらフラフラと歩き出してしまう、彩華。

珪は、慌てて彩華を支えに行った。

「フ~、弱ったな……」

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