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私に飼われてしまった、不幸な犬の話……その3

(その2から続く)

 さて、なんでしたっけ……。そうそう、恋活をしていたサーニャさんの3人まで絞られた彼氏候補のお話でしたね。「???」という方は、先に「私に飼われてしまった、不幸な犬の話……その2」にどうぞだワン。

 生粋のダメンズ好きのサーニャさんが最終的に選んだ3人の中には、意外にも結構まともな男性もいました。その代表格が一回り年上のN氏です。なにがまともって、まず「サラリーマン」なのでした。まあ、知人のOLに頼み込んで開催してもらった社会人合コンとやらで出会ったので、素性もしっかりしているし、何より、お散歩の時にラジカセとマイクを持ち歩いていません。

 サーニャさんはケチなので滅多に吾輩にオヤツを買ってくれることはありませんでしたが、お散歩の時にN氏はいつも高級な犬用オヤツをプレゼントしてくれました(おかげで舌が肥えてしまって、いつもサーニャさんがご飯でくれるペットフードは三角コーナーの汚物では? とまで思いました)。

 「ライター」という仕事にも理解を示してくれたのがこのN氏。お散歩デートを約束したのにサーニャさんがドタキャンした時も、「お仕事大変だね」と労ってくれました。実際はお酒を飲みすぎて起きられなかっただけなのに(苦笑)。

 またN氏はサーニャさんのお酒にも寛大でした。お散歩デートの時は、吾輩のオヤツに加えてサーニャさん用の缶ビールも持参。サラリーマンなのでお散歩デートは土曜日か日曜日に限定されましたが、吾輩はN氏に会う度に

(サーニャさん、この人を逃がしたらいけませんよ……)

という気持ちを強くしていきました。

 なぜN氏はサーニャさんにそこまで寛大だったのか。それは、N氏にとって、サーニャさんが「初めて見る生物」だったからだと思います。物珍しさ。会社員として普通に生きていたら、こんなアル中で不潔で自由奔放(に見える)で、ロクに働かない生物ってあまり見ないです。

 しかしサーニャさんがアホすぎるのは、そこで自分を全く変えようとしなかったことです。ただN氏の優しさにあぐらをかいていました。愛はギブ&テイクです。テイク&テイクが許されるのは、吾輩のような犬くらいです。いや~、吾輩すら癒しとかの「ギブ」はしているから、サーニャさんは犬以下ということになります。

 おっと、1人目から長くなってしまいました。2人目の彼氏候補にまいりましょう。

 サーニャさんの2人目の彼氏候補は、mixiのコミュニティを通じて知り合ったS氏でした。S氏は海外在住の日本人DJで、たまたま年に数回の帰国のタイミングの時に吾輩もお散歩デートで接見することになりました。

 なるほど、背も高く、服装もスッキリ爽やかで(海外在住のDJってダボダボした服を着ていないんですね!)、これまでサーニャさんがクラブで出会ってきたエセラッパーたちとは別格の雰囲気。道路ではサーニャさんと吾輩を必ず自分の内側を歩かせてくれるなど、海外仕込みのジェントルさがありました。

 サーニャさん的には、(帰国中の数カ月だけウチに住めばいいじゃん、ウチは渋谷近いしグフフ、私も海外に会いに行ったりして……なんてロマンチック!)という思惑もあったのかもしれません。サーニャさんが海外行ってる間、ワイはどうするんや……とかも思いましたが、まあ、サーニャさんが妄想する分には自由ですので。

 しかし吾輩的にはちょっと納得がいかない点がありました。このS氏、吾輩のオヤツを持ってきていなかったのです。公園のベンチに座ってしまうと、吾輩の存在は無視でサーニャさんばかり見ています。

 ちょうどお昼時になったので、S氏が「何か昼ごはんとお酒を買ってくるね!」と席を外しました。そこで買ってきたのが、ケンタッキー! 吾輩は目を輝かせました。そう、ケンタッキーのチキンには骨がついています。熊から何度か骨をもらったことがあり、それは骨が大好きな吾輩にとって最高のご馳走でもありました。

 2人が食べ終わるのをワクワクして待っていたところ……。なんと、骨ねえじゃねえかよっ!!!!!!!!! 骨なしチキンじゃねえかよっ!!!!!! なんで骨なしチキンを選ぶんだよ!!!!!!!!!!
 
 (こいつ見た目だけだな、気が利かねえな。サーニャさん、海外とかDJとか背格好で男を選ぶなよ、コイツはセンスないぞ……)

とサーニャさんに念を送ったのはここだけの話です。

 そして3人目の彼氏候補が、クラブで出会ったK氏でした。K氏は前述のN氏とは逆に、結構な年下。当時23歳だか24歳といってましたっけ。初めてお散歩デートで公園に行った時、足にまとわりつく吾輩をK氏は「可愛いなあ~」と言いつつ、決して吾輩に触れなかったと記憶しています。

 しかし、関西から出てきてまだ2年だかのK氏は、とにかくサーニャさんに従順。K氏にとってはサーニャさんを「都会の年上の女」として崇め、あまりそんな風に男性から頼られたことがないサーニャさんもまんざらでもないようでした。

 そしてK氏は公園デートの時から「サーニャさん憧れるわ~」「好きだわ~、付き合ってくれへんか~」と口説いてきました。実に直球! 大阪人だから? 若いから? 怖いもの知らずだから? もう吾輩の存在なんて無視です。

 (おい、若いの、ワイの方がお前よりも人間の年齢にだったら年上なんやで……挨拶くらいせえや、メンチ切るでコラ)と大阪弁でワンワンと吠えて反論するも無駄です。

 自称「ベンチャー企業勤務」というこのK氏、若い割にはお金を持っていて羽振りが良さそうでした。着ている洋服もブランドものばかり。しかし! 散歩中に吾輩にオヤツを買ってくれたことはありませんでした。やっぱり大阪人ってケチなんでしょうか……?

(絶対コイツはあかんで、ケチだし、一緒に住むのなんか勘弁やで……)

サーニャさんにそう念を送りました。

 そんなこんなで時は過ぎ、いよいよ同棲している熊が渋谷の霊ハウスを出ていくことになりました。さて、サーニャさんの決断は? 3人の彼氏候補の中で誰を選んだのでしょうか……?

……最悪なことに、サーニャさんの選択は大阪出身のK氏でした(苦笑)。

 理由はいくつかあります。

①吾輩推しのN氏は勤務地が渋谷から遠いからサーニャさん宅に住むことができない

②海外在住のS氏は、実は現地に彼女がいた

と、なると、消去法で年下のK氏しかいなかったのです。しかも……サーニャさんは無類の関西弁好きなのでした……。実はこの選択がサーニャさんの最大の失敗であり、吾輩の命をも左右しました。

 このK氏が、「やっぱりコイツもか……」もれなくだめんずを育ててしまう私 その2」でモラハラの鬼と化したアホです。しかも結局K氏は渋谷の霊ハウスに住んではくれず、2人はペット不可のお家で同棲を始めました。そのため、吾輩はサーニャさんの実家に預けられることになりました。

 なんだか、どこまでも男を見る目がないサーニャさんです。

 すっかり下界は梅雨明けのようですね。現在、吾輩が住んでいるのは遠いお空の上で、暑いも寒いもなく快適な世界なので、下界の梅雨や夏の暑さが懐かしくすら感じます。お散歩の時のコンクリートがクソ熱くて足を火傷するかと悲鳴を上げたのも、訳の分からない男性たちも、今は良い思い出です。
 
 …聞こえますか……聞こえますか…サーニャさん…サーニャさん…天国のマックです……いま…あなたの心に…直接…語りかけています…聞こえますか………男…いい男は、自分をちゃんと確立したら自然と寄ってくるんです…手遅れかもしれないけど自分を磨いて…お酒に逃げるのは…今すぐやめてください……自暴自棄になるのは…やめて……

天国のマックより

(完)


 

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