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【人生の転機】パワハラ上司(?)H氏との出会い #1    

 現在フリーランスとして働く人には、①はじめからフリーランス、②副業フリーランス、③出版社や編プロなどでサラリーマンとして働いてから独立など、さまざまなタイプがいるだろう。私の場合は①だ。③が多分まっとうかつ確実なフリーランスへのステップなのだろうが、大学時代の私はとにかく編集・ライター=大手出版社という偏った知識しかなかった。

 一応、就職活動では、3社ほどの大手出版社に履歴書を提出した記憶はあるが、最終まで残ったのが1社、そのほかは書類落ちだった。サラリーマンになるきっかけを失った私は、大学時代にアルバイトをしていた出版社でそのままフリーランスになってしまった。

 しかし、今なら分かる。編集者やライターになるなら、出版社や編プロだけが職場ではない。広告代理店だってあるし、旅行代理店だってあるし、商社もある。要は、「企業ライター」も視野に入れる必要があった。

 企業ライターには、フリーランスでは学べない貴重な学びがある。たとえば、「お疲れさまです」と言う当たり前の挨拶も、私は初期フリーランス時代は知らなかった。「ご苦労さまです」と言っていて、アルバイトからフリーライターに昇格(?)した時に編集さんから「ご苦労さま、ではなく、お疲れさまと言うのよ」と嗜められた。まだ若かったから当時は許されたかもしれないが(実際、へ~そんなうるさいの? と思っていた)、はじめからフリーランスで社会にろくに出たこともないとなると、一般常識がまず分からないのだ。

 私は結婚を機にフリーランスを一旦やめて派遣社員として企業ライターになった。それまで編プロでは業務委託で働いたことはあるけれど、出版社や編プロ以外でライターとして働くことは初めてだった。まあ、それもフリーランスで働くことに限界を感じたから、派遣会社に登録して紹介された案件だったのだが。

 紹介されたのは、いわゆるグローバルな商社というやつで、驚いたことに、そこで働いている人はスーツなどを着た「サラリーマン」なのだった。出版社や編プロで見てきた人たちはなんだったのだろう。スーツ姿などあまり見たことないぞ。ポロシャツが正装、みたいな。

 大きな商社でフルタイムで働くことになった私がまずやらなければいけなかったことは、服や靴を買うことだった。出版社でのアルバイト、フリーランス、編プロでの業務委託契約などでは、スーツを着る必要がなかったからスーツ、いや、ジャケットの1枚も、「ちゃんとした靴」の1足も持っていなかったのだ。

 私の直属の上司だったHさんからまず言われたのが、「腹が見える服を着るな、ジャケットを買え」だった。当時は31歳くらいだったと思うが、私は腹が見えない服やズボンなど持っていなかった。確かに、打ち合わせなどでお会いする企業の担当者の方はへそ出しなんてしていない。いや、もちろん派遣先の商社の同僚もワイシャツくらい着ている。やむなく私は、ネットショップで安いジャケットやらスーツ、靴を購入した。

 フリーランスのままだと、お客さんの前で着る服すら知らなかった、ということになる。

 そして、コンプライアンスとやら変な横文字も企業ライターになってから知った。IRだとかCSRだとかインナーコミュニケーションやら、そんなのもライター歴10年以上にして初耳だった。

 この直属に上司Hさんに常に言われていたのが、「コーヒーを飲んで口臭(酒臭さ)を消せ」だった。コーヒーくらいで酒臭いのが消えるのかと疑問を持ったので、自分なりに口臭を消す方法を調べて、ガムやら緑茶やらリンゴやら試せるものはなんでも試した。風邪もひいていないのにマスクもした。が、この上司は酒をやらないのですぐ酒を飲んだのがバレる。

 生粋のHSS型HSPの私は、この「毎日何かしら注意されること」に恐怖を感じていた。とても尊敬はしているのだが、服をクリアしたら口臭、口臭をクリアしたら、お辞儀の仕方、お茶の入れ方、など罵倒されるのだ。同時に私は上司に原稿をチェックされるのが恐ろしくなり、上司の横に立つと全身が奮えて小鹿のようになった。

 同僚が、飲みの席で「ねえ、サーニャってなんであんなHさんのパワハラに耐えているの? 私なら辞めちゃう、派遣なんだからさあ」と聞いてきた。あっ、これがパワハラなのか? いやいや、愛のある教育なんだろうよ、と反論する考えも当時の私には全くなく、企業で働くことはこんなもんなんだと思っていた。

 しかし、企業ライターにはめちゃくちゃメリットがある。
(その2へ続く→)

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