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【人生の転機】パワハラ上司(?)H氏との出会い #2  

(その1から続く)

 これまでフリーランスしかしていなかった方は特に企業ライターのメリットを感じると思う。まず私は一般常識を教わった。そして、上司の原稿は完璧だったので、そこも勉強になった。ちなみに、グーグルでの効率的な調べ方を教えてくれたのもこの上司だ(フリーランス時代の私は、やみくもにワードだけ検索していたのだった)。

 この上司は、とにかく家に早く帰りたい人で、打ち合わせと称してはお客さんの企業に行ってそのまま直帰する。しかし、私の原稿をチェックしてくれるのには時間を惜しまず、私のミスで原稿をすべて書き直した時も、徹夜で付き合ってくれた。

 パワハラではなく、教育。大企業で働いてこそ、このような上司に出会えたのだと今は本当に感謝している。上司が徹底していたのは、社内外のプレゼンや打ち合わせなどではとにかく早く帰りたいから完璧で分かりやすい資料を作る、ということだった。

 お客さん目線で企画書や資料を作成するので、文字のフォントやポイント、色にまでとにかくこだわりつくす。それをとにかく「今、すぐ」やる。あとは昼寝しているか帰る。そのマインドは、「定時」という定義がないフリーランスやぬるい編プロでは教われないだろう。

 上司はどうしても17時30分に帰る。そして早く仕事を辞めてセミリタイアしたい。それがゆえに、他人からはパワハラと思われるような教育を私に課したのだ。自分のフェイクをつくるために。私がある程度上司のテクニックを会得した時に、上司は私の原稿をチェックすることをやめ、お客さんとの打ち合わせにも同行しなくなり、会社を退職した。

 パワハラ(?)上司が私と会社から卒業した数か月後、私も職場を後にした。企業ライターのマナーと、原稿を書く基本を彼から教えてもらったからだ。今の自分なら、どんな大企業でも通用できるくらいのスキルを身につけられたと思った。もっと高い時給をもらえるはず、という確信もあった。

  その予測通り、時を待たずして私は大手ビール企業と大手証券会社から職業ライターとして高時給で内定をもらった(派遣社員だけど)。

 その時も相談したのは、このパワハラ(?)上司だ。「証券会社の方が良いよ」とアドバイスをもらい、私は証券会社を選んだ。もちろん金融の知識はない。まあそこでも上司から譲り受けたテクニック=残業はしない、とにかく早く帰るために面倒なことは先にやる、を活かした。正社員にならないかとも打診されたが、アイドルにハマって推し活動を優先するようになったらクビになった。

 結論から言うと、フリーランスは一度大きな企業で社員として働いた方がいい。モラハラ、パワハラ上司にあたると最悪かもしれない。しかし、その山を乗り越えると一生モノのスキルや学びが身につく。修行ができるのは30代までかもしれないが。当たり前だが、若い方がポテンシャルがあるから採用される。私のようにアラ50ともなればどんだけエージェントを通して応募しても全く採用されない。

 現在私はフリーランスのライターと共に、業務委託で若手ライターの原稿チェック(校正・校閲)の仕事もしている。まあ、人のことは言えないが、誤字脱字が多い、レギュレーションを守らないなど、結構手を焼くこともある。彼、彼女たちにも、私の上司のような存在になって、いつか若手を育成する立場になってほしいなあと思う。

 だから私の指摘は時に辛辣かもしれない。だけど原稿の精度が高くなっている若手ライターの姿を見るとやっぱり嬉しい。Hさんもこんな気持ちだったのだろうな。Hさん、あなたのパワハラスピリッツはゆるく、そして確実に私が受け継いでいます。
(完)

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