手術成功から歩行不能へ……理学療法士の"違い"が引き起こしたドラマ
Aさんの転倒骨折とその後のリハビリの顛末
私が子どものころに、お世話になったAさんが、昨年、転倒し、骨折しました。
Aさんは70代です。
元来、Aさんは坐骨神経痛が強く、整形外科を受診していましたが、症状の改善はみられませんでした。
徐々に足のふんばりが効かなくなっていきます。
ふと横に移動した瞬間、足に力が入らなくて、身体を支えきれずに転倒してしまいます。
痛みが強く、自力で起き上がることが出来ない状態でした。
すぐに近くの病院に救急搬送され、大腿骨頸部骨折の診断で人工関節の手術になります。
手術の直後は、両足の痛みとしびれで、まともに歩けない状態だったようです。
しかし、入院中に担当した理学療法士のリハビリが功を奏し、まもなく、痛みもしびれも軽減。
杖も使わず、さくさく歩けるようになりました。
同じ病室の人たちが、「なんでそんなに歩けるようになったの?」と驚くほどです。
退院直前、担当した理学療法士が訪ねます。
Aさんは、もちろん、通うことにしました。
これが運命の分かれ道でした。
退院後のリハビリ担当者が代わり...…
「入院中にリハビリを担当する理学療法士」と、「外来を担当する理学療法士」は、実は違う人なのです。
Aさんは、同じ人にリハビリをしてもらえるものと勘違いしていました。
通院のリハビリに通ってみると、まったく違う理学療法士がリハビリを担当しました。
やり方もまったく違うものでした。
どうやら、このリハビリが、Aさんには、合わなかったようです。
リハビリを続けていくうちに、徐々に両脚のしびれと痛みが強くなっていき、まともに歩けなくなってしまったそうです。
結果、病院に通うことは出来なくなってしまいました。
それからは、知人の評判を聞いて、鍼灸やカイロプラクティック、整体、整骨院など、さまざまな治療法を試してみます。
しかし、症状はあまり改善しませんでした。
私へのリハビリ依頼
そんなとき、私の母に電話がありました。
Aさんは、私が理学療法士として仕事をしており、休みの日に、自宅で整体院を開いていることを知っています。
という電話だったようです。
「う~ん、自宅での整体院は5000円いただいているんだけどなぁ」と思うところもあったけれど、
と、とりあえず、一度、自宅に伺うことにしました。
ゆっくりした施術で改善
Aさんの身体の状態は、芳しくありませんでした。
片手に杖、もう片手は壁や台などを持たないと、歩けない状態だったんです。
立ち上がってすぐに歩き出すことは出来ません。
しばらく立ったまま、体勢を整えて、ゆっくりと歩き出します。
歩く速度もかなり遅くて、トイレまで間に合わないこともあるようです。
というのがAさんの希望でした。
まずは、じっくりと話を聞きます。
今の身体の状態や、どんなリハビリをしてきたのか、どんな治療院に行ってきたのかなど、時間をかけてゆっくりと状況を把握していきます。
そこから1時間30分くらいかけて、身体全体を施術させてもらいました。
施術の後、立ち上がってすぐに歩き出せるくらいまでにはなりました。
歩く速度も、トイレまで普通に間に合うくらいまでは、上がりました。
なんとか、改善して、私もほっとしました。
しばらくは、週に1回、自宅に訪問して、施術をさせてもらうことになりました。
2~3ヶ月くらいで、杖で外出できるところまで回復するのではないかと見通しを立てています。
病院のリハビリでは、これだけゆっくりと話を聞いて状況を整理することは出来ませんし、1時間30分もかけて、身体のメンテナンスをすることはできません。
これが、病院とは離れたところで整体をする魅力でもあります。
実は、外来で受けたリハビリは……
ここまで読んでくださった皆さんは、きっと、気になることが1つあると思います。
ということです。
Aさんからどんなリハビリだったのかを聞くと、
✨重錘を使って脚の筋力強化をした
✨マシンを使って、股関節の周りの筋力を強くしようとした
✨足首のまわりを触って、何かアプローチをしていた
とのこと。
あくまで推測ですが、医師から「足の筋力強化」という指示が出ていたのではないでしょうか。
脚や股関節まわりの筋力を強くしようとするのは、よくあるリハビリの1つです。
足首の周りを触ったのは、足の裏のしびれや坐骨神経痛を軽減しようとしたのだと考えられます。
私なら、マシンを使って股関節周囲の筋力訓練はしませんが、よくある自主トレの一種です。
つまり、外来のリハビリは、明らかに方向性が間違っているとは言えません。逆に、普通のリハビリの風景だったはずです。
話を聞き、Aさんの状態を見ることで、外来のリハビリでAさんの身体にどのような変化が起き、症状が悪化してしまったのか、なんとなく見当はつきます。
そこを改善する施術を行ったことで、Aさんの歩行の状態は、若干ですが改善したわけです。
外来のリハビリを受けて、Aさんが悪化してしまったのは、あくまで結果論です。
外来でAさんを担当した理学療法士も、悪化させようとしたわけではなく、「これからもしっかり歩けるように」と思って、足の筋力を強くするリハビリを行ったのです。
リハビリは、どうしても患者の身体の「負荷」をかけなくてはなりません。
身体を痛めた人に、「負荷」をかけなくてはならないので、リスクと隣り合わせの仕事なんです。
ほんのちょっとしたズレで、これだけ悪化させてしまうことがある、というのは、私にとっても勉強になる出来事でした。
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