「未視感」 オ・ウン

そんな法があるものですか
泣き叫びながら人がしがみつく

ここにあります
人が淡々と答える

存在しなかった法ができた瞬間

身体が崩れた
心が崩れた
ぽきりと
気持ちが折れた

ここから出たことがないのに
一度だってここに所属したことがなかった気がする

どれもこれも初めてみたいにおぼつかなかった

人が人を取り囲む
囲む人と囲まれる人がいる
口をきかない

人が人にどう対していいかわからない
人なのに人でいることがぎこちない

ここで泣いていた人が
道にしがみつくようにかろうじて歩きだす
家はこの近くなのだろう

帰宅途中 人が人に会う
なじみのある匂い
アンニョン*
元気でなくても言える言葉もある

心が傷ついたのは
表面を傷つけないためだ

冬の間 ようやく自分になったと思っていたのに
春は固く凍りついていた

ずぶずぶへこむ地面に人が立っている
ここに属せなかった人が
ここにいる

こんな人がいるものですか

ここにいます
いるはずです

*アンニョン:もとは安寧という漢字語だが、おはよう、こんにちは、こんばんは、元気か、さようならなど、さまざまな意味の気軽な挨拶として使われる。

(翻訳:吉川凪)


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