サウナ異文化
前回に投稿した、ドイツでの極寒の雪山登山。体感でいえばマイナス20度くらいを経験することもある。
そんな雪山を登った後は、日本だったら温泉に限る。
でもドイツでは入浴の習慣がない。その代わりにサウナの習慣があって、特に冬はサウナを愛好する人が多い。
今回の記事は、ドイツで生活していた時に雪山で登山した後で、山のふもとの地元ディープなサウナに行った時の話を。
なお、ドイツのサウナは施設によってコンセプトがいくつかのパターンに分かれていて、様式もそれぞれに違っている。今回の様式のサウナは、ドイツの伝統的な様式の一つではあるけれど、でもドイツの全てのサウナがこれと同じではないです。
ドイツで経験したサウナ
僕が行ったサウナの日本と違う分かりやすい特徴は、「男女混浴」で、かつ「全裸になる」こと。
これは、日本ではあまり一般的な様式ではないと思う。
ちなみに、ドイツの会社で働いていた時に会社のイベントで同僚たちとサウナに行ったことがあった。男女混合のメンバーで。
ドイツ人男性のうち何名かは全裸。納豆嫌いのCEOも全裸。
その一方で、ドイツ人以外のヨーロッパの人たち、たとえばハンガリー女性も参加していた。そのハンガリー女性は、
「私は会社の同僚の前で全裸にはなれないわねー。ドイツ人とは感覚が違うからついていけないわ」
と苦笑い。
けれど、僕に言わせると・・そう言っている彼女も半裸状態。
ただ、違いはそれだけではなく、そもそもサウナというものの位置付けが、家族や夫婦、恋人同士や、親しい友人たちとリラックスした時間を過ごすための社交の場だった。
そのような『場』を提供するための道具としてサウナが設置されているというイメージ。
ここが今日の投稿の一番のポイント。
もう少し具体的に、僕が登山帰りに行ったサウナがどんなだったかを書くと。。。
(1)年齢制限
16才以上のみ。制限する理由は、子どもが混じることで落ち着いた雰囲気を壊したくないという理由だと思う。
だから、プールに併設されているようなコンセプトの全然違うサウナだったら、子どもでも入場可になっていた。
(2)料金
僕の感覚からすると結構高かった。最短が2時間券で3000円。一日券で5000円超。
現在の価格をみてみたら、5時間券か一日券の設定になっていて、価格は当時よりも上がっていた。燃料費高騰の影響やろね。
(3)敷地内
敷地は湖に隣接して建っている。湖の向こうには山々が見える。
敷地全体の広さはサッカーコートの半面くらい。かなり広い。
屋内エリアと屋外エリアがあって、それぞれにいくつかのサウナ部屋やサウナ小屋が設置されている。サウナは大小合わせて全部で10室くらい。
小さな部屋は10人が入れるかどうかくらい。大きな部屋だと詰めたら100人近く入ることができる広さ。
ただ、サウナは全体の一部だけ。サウナ以外にもいろんな施設があって、それら全体をつかって時間を過ごす場所になっている。
(4)行動
基本は屋内または屋外のオープンスペースでガウンを着てくつろぐ。通常の利用者は、サウナに入っている時間よりも、このオープンスペースにいる時間の方が長いと思う。
そして、このサウナに独りで来ていたのは僕くらい。他はみなグループばかり。
サウナ以外での屋内スペースでは、みんな何をしているかというと、
■ 広いスペースの低温サウナ(トルコ式浴場)でまったり
■ 銭湯みたいなプールに浸かってプカプカ
■ レストランでモグモグ
■ 仮眠室でグーグー
屋外スペースだと、美しい湖や山を眺めながら・・
■ 芝生の上にサンベッドが並べられたスペースでくつろぐ
■ 温泉みたいなプールに浸かって新鮮な空気を満喫
■ 湖に浸かったり、泳ぐこともできる
屋外スペースでは、みんな和やかにリラックスした表情で、美しい湖や雪山の景色を眺めながらお喋り。
(5)サウナに入るとき
前述のように、スペースではガウンを着用している。そして各サウナに入るときには、入口付近に取り付けられているフックにガウンをひっかける。そして、改めて体にタオルを巻いてサウナに入る。
(6)サウナに入ったら
日本と同じように木組みで段になっている。中に入って座る場所を決めたら、おもむろにタオルをほどいて、全裸になる。ほどいたタオルは、お尻の下に敷いて、その上に座る。
ここでのポイントはあくまでも、親しい人とリラックスした雰囲気を楽しむ場ということ。決して、自分の世界に入り込んで熱さの限界にチャレンジする場ではない。
ちなみに一つ大事なマナーがある。
タオルは必ず「縦長に敷いて足元に垂らす」。そしてそのタオルの上に足の裏を載せること。つまり、足の裏を木の床の上に直接置いてはいけない。これには理由があって、ドイツ人たちは素足の裏は菌が繁殖していて不潔だと信じていて、素足が直接に共用の場所へ触れることを嫌悪するため。
まあその割にサウナの中を歩く時は素足でOKなんだけどね。どうやら3秒ルール的な感覚が適用されている様子。
もしマナーを知らずに足を直接木の上に乗せていたら、周りの人がどうするべきか声を掛けて教えてくれる。親切なドイツ人たちのことだから。
(7)サウナの中でのお作法
みな家族や友人などグループになって静かにくつろいでいて、時折ヒソヒソと話をする。良い雰囲気を壊さないことが大事だから、他人に聞こえるような声で話をするのはご法度。
だからみんな無言で笑顔を絶やさずに、一緒に来ている人たちと時々アイコンタクトしながら、素敵な時間ネ、的なメッセージを超能力で飛ばし合って幸せを共感し合っている。
そうそう、あとサウナの中で違うグループの他人を見るときは、相手の「目」を見るのは良いが、それ以外の体のパーツは見ないようにするのが礼儀。
(8)イベント
このサウナでは、30分に1回程度、敷地内のどこかのサウナでイベントが行われる。
例えば「アウフグース」というイベントでは、「主催者がウィットに富んだ楽しいトークを繰り広げながら、アロマオイルを香らせたり、月桂樹の葉っぱを熱湯に浸して参加者に振りかけたり、タオルなどを振り回して熱風を浴びせる」などが行われる。
ポイントは、最初から最後まで楽しいトークを中心に良い雰囲気が維持されること。ストイックで儀式的なものではない。
僕も、アウフグースの行われるサウナ部屋に入ろうとした。ただ、あまりに早くから部屋に入っていたら、のぼせてしまう。時間をみて5分前まで引き付けてから、入室した。
そしたら既にサウナ部屋は満室。入った瞬間に合計100個くらいの青い瞳にギョロっと見られた。そして既に空きスペースがないことを悟り、スゴスゴと退室。
(9)湖ダイブ
サウナを出て、そのまま湖に入ることができる。
僕が行ったときは水温が4度。スネまで入っただけで、あまりの冷たさで痛くて痛くて、それ以上入ることができなかった。
ただ、ドイツ人は日本人と体の造りが違うから、「うわぁ、冷たーい」とか言いながらも、全身ジャボーンって湖に浸かる人も。真似できん。
なお、この時に大事なことは「サウナで体が熱くなった状態から、一気に冷たい湖へ飛び込む」こと。
というのも、熱い状態から瞬時に冷たい水に入ることで「免疫力が高まる」という実利的な理由があるから。だから「湖ダイブで冷たさの限界にチャレンジ!」といったイベント性のあるものではない。
人や社会との関係を大事にするドイツ人
ということで、ドイツの地元ディープなサウナについてのお話、いかがだったでしょうか。
ヨーロッパの人は家族・友人たちと楽しく幸せな時間を過ごす文化をつくることに長けている。ここでは、その楽しく幸せな時間を過ごすための手段として、サウナという場を使っていると言えると思う。
興味深いのが、ドイツ人や北欧の人は、サウナに限らず何かにつけて「人との関係」「社会との関係」をとても大事にする。
一方で日本をはじめアジアの人は、自分の内面に深く入っていくことが多く、日本ではサウナも「自分の内面と向き合う時間」な印象がある。
例えば日本では、サウナについても「サウナ道」としてその道を究めて、完璧に「ととのう」ことを目指す人たちもいると聞く。
よく一般論として、「欧州の人は個人主義、日本人は集団主義」と言われているけども・・・でも実際に欧州に住んでみると、そのイメージとは逆に「ヨーロッパの人は社会に目を向けて、日本人は自分の内面と向き合う」という例がたくさんあるのはなぜだろう。
それぞれのサウナ文化
さて、日本人の目から見ると、ドイツで僕が経験したこのサウナ文化はサウナ道からは外れているのかもしれない。
ただ、思うことは、
日本人が、サウナ道を究めて完璧に「ととのう」こと。
そしてドイツ人が、家族・友人たちとリラックスした至高の時間を過ごすこと。
どちらかが間違っている、という訳ではない。
それよりも、その瞬間、その瞬間を心から満たされた幸せな時間として味わうことができるのであれば、どちらであってもそれに勝るものはないと思う。
by 世界の人に聞いてみた
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