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「人生を楽しむ心を、音楽で表現する」~スロベニア人と話してみた

2018年当時、家族でスロベニアを旅行した。

当時住んでいたドイツから、スロベニアまではそれほど遠くない。4連休を利用して、オーストリアと合わせて車で訪れた。ドイツから見れば南東の方向にある、小さな規模の国。

因みに、東欧のスロバキア(元はチェコと一緒だった国)と名前が似ているから混同しがちだけど、別の国。

普段、一人で旅行する場合は現地の人とガッツリ話をして、その国のことを知るようにしている。けれども家族旅行では、家族最優先で家族と一緒に行動する。

この時も家族と一緒に行動していたけど・・・、でもスロベニア人の友人はいなかったので、スロベニア人と話をしたいという好奇心が抑えがたく、夜に子どもが寝る時分に少し外出させてもらって、ホテル近くのバーで飲みながら話し相手を探した。

バーで話し相手を探す

ビールを片手に周りを見回しても、あいにく客は殆どいなかった。でもそんな中で、店内で手持ぶさたな様子で客を待つ、ギターを持ったミュージシャンのおじさんと目が合った。年齢は50才台くらいだろうか。

ビールグラスを手に持っておじさんの方へ近づきながら、こんばんはー、僕はドイツに住んでいて、スロベニアに旅行で来たんですが、って話しかけて会話が始まった。

スロベニア人
「キミは見たところ、ドイツ人ではなくてアジア人のような外見だけども、ルーツはどこの国の人か聞いてもいいかな?」


「日本人です。今は仕事のためにドイツで生活しているだけです」

スロベニア人
「そうか、キミは日本人なのか。僕はご覧のとおり、売れないミュージシャンだ。こうやって気の向くままに演奏しながら、生活している。

ところでアジアの人って、音楽を演奏する技術を習得する能力は本当に優れているよね。いやー、技術については、僕らはアジアの人には勝てない。

けどね。僕たち西洋の人は、人生の楽しみ方は知っているつもりだ。そして、その人生を楽しむ心を、音楽の表現に活かすようにしている。

だから、音楽を聞いている人たちに楽しんでもらうという点では、アジアの人に負けてはいないつもりだよ

僕たちは働くために生まれてきたわけではないから、仕事はほどほどにして、人生を楽しまないとね」

と、彼にとって「アジア人といえば」で思うことを話してくれた。

旧社会主義国家だったスロベニア

スロベニアは、最近ではアメリカのトランプ大統領の奥さんの出身地として有名。元々は社会主義国家だったユーゴスラビアを構成する一つの地方だった。

ユーゴスラビアの中では最も西欧に近い場所に位置しており、他の地方と比べると最も経済が発展していた。確かに、その前に旅行した同じ旧ユーゴスラビアだったセルビアで現地の人に話を聞くと、みんな口を揃えてこう言っていた。

「スロベニア人は、ユーゴスラビアの他の地域の人たちと一線を画していた。あの地方は経済的にも文化的にも西欧だよ。だからユーゴスラビアの中では、自分たちだけがたくさん税金を払わされて、ユーゴスラビア内の他の貧しい地方を経済的に支えるためにお金を搾取されている、って感じていた。だから、ユーゴスラビアで内戦が始まったときには、真っ先に独立を宣言したんだ。独立すれば、自分たちが他の貧しい働かない人たちを経済的に支援する必要はなくなるからね」

そういった経緯で、1991年に生まれた比較的新しい国。

僕はそういう話を聞いていたから、スロベニア=ほぼ西欧なんだろうと思っていた。でも実際にスロベニアを車で走ると、たしかにそれまで旅行したユーゴスラビアの他の国(ボスニア・ヘルツェゴビナやセルビア)よりは整った国という印象だが、それでも西欧と比較すると、人々の暮らし向きは決して豊かには見えない。やっぱりどこか他の旧社会主義国と同じ雰囲気を感じさせる。

ということで、ミュージシャンの人に、昔の社会主義時代についてどう思うか、水を向けてみた。

スロベニア人
「スロベニアが社会主義国家のユーゴスラビアから独立したことについて、良いと思うか悪いと思うかは人によって違うけどね・・・。でもだいたい、自分の暮らし向きが良くなった人は資本主義社会の方が良いと言うし、暮らし向きが悪くなった人は社会主義時代の方が良かった、って言う」

これは、どこの旧社会主義国家の人たちも同じ。人は評価する時に、自分にとって良かったか、それとも自分にとって悪かったかで、良し悪しを評価して決めるものみたい。

スロベニア人
「で、僕自身がどう思っているのかについて言えば、僕にとっては社会主義国家から独立して良かったと思っている。というのも、音楽家にとって社会主義国での生活はあまり良い世界ではなかったよ、やっぱり。社会主義国は、あくまでも労働者が主役。音楽家とか芸術家は、社会の発展にとっては不要な『はみ出し者』と位置付けられていたからね」

と、優しい目で話すミュージシャンのおじさんを見ながら、色々と苦労した人なのかな・・・と想像力を掻き立てられる会話だった。

その後もフトした瞬間にこの時の会話をよく思い出すので、なんとなく書いてみた。

by 世界の人に聞いてみた

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