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バルカン半島で聞いてみた①~常識を覆される国々

とっても久しぶりに「旅先で聞いてみた」シリーズを。

今回の旅の舞台はバルカン半島。2019年の春に旅行して、訪れた国はアルバニア・コソボ・北マケドニアの3ヵ国。

どこやねん、バルカン半島

って思われるかも知れない。地理的にはヨーロッパとトルコの間にある地域。赤丸部分が今回旅行した3ヶ国。

冷戦時代、この地域には多くの民族で成り立つ「ユーゴスラビア」という大国があった。そんなユーゴスラビアは、今から30年ほど前から何度かにわたる血みどろの紛争(ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、コソボ紛争等)を経ていくつかの小国に分かれていって、今に至る。

この地域は、今も経済的にも政治的にも社会がうまく回っているとは言えず今回旅行した国々も様々な課題を抱えている

なぜバルカン半島のことを書くのか

あまりメジャーとは言えないこの地域を、なぜ旅行して、なぜ現地の人に話を聞いてきたのか。前回の「旅先で聞いてみた」シリーズから半年以上の時間が空いてしまったので、改めて僕がなぜこのテーマで書いているのかについて、ざっと書いておく。

僕が根本的に興味あるのは、「人間ってなんだろう?自分って何だろう?」ということ。それを知るために、日本とは文化の根本が異なるヨーロッパのドイツに住んだりした。

この半年間くらい投稿してきた内容は「耳障りの良い、いい感じの話」が多かった。幸せってなんだろう、とか、良い社会ってなんだろう、とか。ドイツをはじめ、世界にはそういう「いい感じの社会」を考えるのに適した国がいろいろとある。

その一方で、社会がうまく回らなくて、苦労している国も世界にはたくさんある。

そういった課題ある苦労している社会も、人間が作り出したもの。人間とは何か、という問いへの示唆に満ちている。

そしてバルカン半島は、歴史的に超複雑。民族・宗教などあらゆるものが混とんと共存している。

そういった地域の人々はとても苦労しているからか、人から聞く話の一つ一つに迫力があって、強く印象に残っている。更に言えば、そんな社会で生きている人たちこそ、逞しくて生命力に満ちている

ということで、日本のような安定した社会とはまた一味違った国を旅行して、自分の常識が覆されるような話が頻繁に出てきた。そうやって現地で聞いた話を書いてみる。

noteでそういう話を読みたい、という需要が少ないことは知っているけども・・・、でも僕としては書きたいことを書くために始めたnote。需要があろうがなかろうが気にせず、書いておく。

これから何回かに分けて投稿する予定だけど、今回はこれらの国々の共通事項について。

共通事項

ここでピックアップした話題は、まるで「バルカン社会の闇を探る」みたいな内容が多いんだけど、別にそういう意図で聞いて回ったわけではない。

「この国の生活って、どんな感じ?」

みたいなざっくりした話を現地の人に聞いてみたら、彼らからこんな話題ばっかり出てきたから。

では、この旅で聞いた共通事項から。

① 多くの若者がドイツに出稼ぎへ

今回旅行した国はどれも経済が良くなく、欧州最貧国グループ。となると、結局若者たちの多くは、より良い稼ぎを求めて海外へ出稼ぎに行く。

行先は、やはり欧州で一番経済が活況なドイツへ集中。

例えば、コソボで乗り合いバスに乗ったら、2人のおじさんがいた。そのおじさんたちは2人とも家庭環境が全く同じだった。いずれも、

3人の息子がいて」

「そのうち2人の息子がドイツへ働きに出かけてコソボへ仕送りする」

そして
1人の息子が残って、両親の面倒を見る。その息子の生活費はドイツから仕送りしてもらったお金で賄う」

この両家族のケースが、典型的なバルカンの家族の形らしい。

残念ながら、家族で同じ国に住むことがままならない。そして国が空洞化していく一方。

② パスポートやビザの発行が乱れている


「コソボの人は、基本的にドイツの就労ビザを発行してもらえないはずだし、更に言えばドイツへ渡航するビザすら発行してもらえないはずなのに、いったいどうやってドイツで働くことができるの?」

コソボ人
「簡単だよ。隣国のセルビアに行って、セルビア政府の人に『袖の下』を払えば、セルビア政府がその人をセルビア人としてドイツへ渡航するビザを発給する。そのビザで働くんだよ。セルビアでは、ビザ発給は大きなビジネスなんだ」

なお、実際はビジネス目的だけではなく、政治目的もある。セルビアはコソボを独立国家と認めておらず、あくまでコソボは自国の領土であり、コソボ人は自国民と見做しているから、セルビア政府はコソボ人に対してパスポートもビザも発給する、という理由もある。

そして北マケドニアでも同じような話を聞いた。


「EUに加盟していない北マケドニア人が、どうやってドイツで働けるの?」

北マケドニア人
「簡単だよ。隣国のブルガリアに行ってパスポートを申請するんだ。そうすれば、ブルガリア人としてパスポートをもらえる。ブルガリアはEUだから、ブルガリアのパスポートがあれば、EU内のどの国でも働けるよ」


「え、なんでブルガリア政府が、他の国の人にパスポートを発行してあげるの?」

北マケドニア人
「ああ、それはね、ブルガリア政府が北マケドニア人へパスポートを発行すれば、ブルガリア政府はその北マケドニア人をブルガリア人として扱うことができるでしょ。そうなるとブルガリア政府は、北マケドニアに対して政治的な影響力を行使しやすくなる。この地域でのブルガリアの発言権が増すからだよ」

って、なんでもありやね。パスポートやビザの常識が覆された

当時はなかなか斬新な発想だと思った。でも残念ながら、現在起こっているウクライナでの戦争で、その具体例を実際に見ることになった。

ここ何年間か、特に2019年以降にロシア政府は、ウクライナ東部の人たちに対して、ロシアの国籍を与えてパスポートを発行してきた。そうすることで、元々はウクライナ人だった人たちを、ロシア人として扱うことができる。

そして今年の2月にロシアのプーチン大統領は、ウクライナへ侵攻するにあたって、以下のような主旨の声明を出した。

「ウクライナ政府は、ウクライナに住んでいる何百万人もの”ロシア人たち”を迫害・虐殺している。そんなロシア人たちを保護するために、我がロシア政府は大胆かつ迅速な特別軍事作戦を行う決断をして、ウクライナにいるロシア人たちを救いに行くことにした」

と言ってウクライナに軍事侵攻した。

つまり、”自国民”が別の国に住んでいれば、正義の名のもとに軍事侵攻する理由になる。そして実際に、一定の割合のロシア人たちはその声明に賛同して、ロシア政府の軍事侵攻を支持している。

つまり、この「パスポートの発行が乱れている」事態は、世界で特殊なことではない。

将来、たくさんの日本人が他国の国籍とパスポートを欲しがるような状況にならないことを願う。

③ 汚職が日常の一部

世界の中でうまく回っていない国々を訪れて現地の人と話をすると、まず間違いなく「汚職が大きな問題で、これが原因で国が発展しない」という話が挙がる。

そのため、EUへ加盟するにあたっては、まずは汚職を減らしてからでないとEUへ加盟できないようにしている。

今回旅行したバルカンの国々は、汚職が多いという理由等によって、まだEUに加盟できない。

という状況なので、この地域の人たちと汚職について聞いてみたら、

「何か仕事に就きたかったら、利害関係者に『袖の下』を払わないと仕事をもらえない。就職は申し込むものではなく、お金で買うものだ

って言ってた。

他にも、コソボの人に

「汚職は多いの?」

って聞いてみたら、相手が一瞬ポカンとした表情を浮かべた。

続いて出てきた言葉が、

コソボの人
「汚職か、、、ああ、確かにうちの国は汚職がひどいね。何するにしても袖の下を払うのがすっかり日常の一部だから。

いや、実は正直言ってね、汚職っていう言葉が一瞬ピンとこなかったんだ。あまりに日常過ぎて。『汚職』っていう言葉をキミから聞いてようやく、ああ、そういえば日常でみんなやっていることが、実は汚職だったってことを思い出したよ」

ということらしい。

④ EUに加盟したい

アルバニア人
「EUに入りたいねえ。そうなったら、EUが国のインフラに投資してくれて、国が発展するよ」

北マケドニア人
「みんなEUに加入したがっているよ。加入したらEUから投資が入ってきて、仕事が生まれて金が入る。そのために国を変えていかないと」

という感じで、EUに加盟すると投資してくれるから経済がよくなる、というロジックでEUに入りたがっている。

EUから加盟を承認されるには、国の制度を民主的にしたり汚職を排除したり、といったいわゆる「文明化」を進めなければいけない。そういう意味では、国を良くするインセンティブになっている。EUはよくできた制度やね。


ということでこれら4点が、現地の人にとって生活の重要なポイントを占めている様子で、こんな内容ばかりが話題に挙がっていた。

う~ん。こう書くと、やっぱりこれらの国にネガティブな印象を与えてしまう。でも、特にコソボとか人は親切で優しいし、食事やお酒はおいしいし、旅行するのにとても良い国だったということを強調しておこう。


さて、次からは今回旅行した各国で聞いた話について、各国別に書いていく。

北マケドニアの街並み。ヨーロッパとトルコの雰囲気が混ざり合う

by 世界の人に聞いてみた

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