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享楽の北マケドニア ~バルカン半島で聞いてみた④

北マケドニア人
「北マケドニア人のメンタリティー?パーティー好きよ、とにかく。友達とパーティーしてパーティーして。そうやって盛り上がるのが大好き」

という自称パーリーピーポーの北マケドニア人。その一方で若者の80%の人たちが良い職を求めて国外で働くことを考えているらしく、自国で働いて生活することが当たり前ではない社会。

そんな話をいろんな人から聞いた、北マケドニアの一人旅。

バルカン半島で聞いてみたシリーズの第四回目で最終回の今回は、北マケドニアで聞いた話を。時期は2019年春。

前回投稿した隣国コソボから、バスで陸路移動して北マケドニアへ入国。

地理的な位置はこの赤丸 ↓

国の名前、変えました

「北マケドニア」という正確な名前を知っている人は、そんなに多くないはず。

なぜかというと、この国はもともとユーゴスラビアの一部だった地域で、1991年に誕生した若い国。独立したときはマケドニアという国名だった。そしてつい最近の2019年、国名を北マケドニアに変えた。

このマケドニアという国名は、この地域で紀元前の時代に「アレキサンダー大王」のもとで栄えた古代のマケドニアから取った名前。

でも往時のマケドニアの領土のうち、現代のマケドニアの領土は北部に限られたエリア。南部はギリシャの領土だから、ギリシャがマケドニアに対して「勝手に栄光あるマケドニアの名前を名乗るな」とクレームしていた

そのため、マケドニアがEUへ加盟しようとしても、ギリシャが拒否権を行使。このままではマケドニア悲願のEUへの加盟は絶望的な状況だった。

そんなこんなで永らく揉めた末に、とうとうマケドニアが折れて19年2月に「北マケドニア」に国名を変更。

昔から国名変更の議論が燻っていたことは知っていたけれど、実際に国名を変更することになった、とは知らなかった。

で、僕は旅行中に入国する直前になって、この国の名前が既に変更されたことに気が付いた。僕の経験の中でも、これから入国する国の名前が変わっていた!と驚いた経験は、後にも先にもこの一回きり。

北マケドニア人①(大学生の女性)
「国名を変更したことは、知っている。パスポートやIDカードを変えなきゃいけないからめんどくさいんだよね。実は正直なところ、国名変更については喜んではいない。たぶん国民の多くがそうだと思う。実際、デモもたくさん行われた。

でもEUに加入できれば国にとって良いことで、ギリシャの拒否権を回避するには国名変更が唯一の選択肢みたいだから、まあ仕方ないのよね。それでEUに加盟できるんだったら。。。」

ただしEUに加盟するには、汚職をなくしたり、国をより民主的な制度にしたりといった「文明化」が必要で、現時点でマケドニアはEUに加盟できていない。

さて、そんな北マケドニア。日本人にはあまりなじみのない国だけど、いくつか雑学を。

北マケドニア雑学

(1) マチェドニア(Macedonia)

マチェドニアって、女性は知っている人も多いのかな。いわゆるフルーツポンチのような、たくさんの果物を入れた食べ物。

マチェドニアという言葉は、”たくさんの種類を混ぜたもの”を意味するらしい。由来は、古代マケドニア王国が多民族国家であったこと。

(2) マザーテレサが育った土地

ということで、マケドニアにはマザーテレサ記念館がある。

(3) キリスト教正教の信者が7割

キリスト教正教の教会は、どこへ行っても本当に美しい。

他にも北マケドニアは、数年前に「フェイクニュースの一大発信地」しても注目されていた。フェイクニュースはお金が儲かるものらしい。

さて、それでは北マケドニアで聞いた話を。

北マケドニアの出稼ぎ事情

現地の大学生の女性と話をしていたら、北マケドニア人の出稼ぎ事情について教えてくれた。

北マケドニア人①
「私は大学生で普段は勉強してるんだけど、北マケドニアの国民は、1年間のうち3ヶ月間はEUの国で働くことができる資格があるんだよ。だから私は毎年夏休みにはEUの国へ働きにいっていて、去年はドイツ南部のミュンヘンで働いていたんだ。

そこで学生アパートに住みながら、清掃会社に登録して、毎日夕方に色んな会社の事務所フロアへ清掃に行ってた。ドイツ人は本当に仕事熱心ね。16時くらいにクリーニングに入るんだけど、みんなそんな時間までずっと働いている。北マケドニアだともっと早く帰ってしまう人も多いのに。まあそれでも、ドイツ人は16時になったらみんな一斉にチャッと帰るね」


「僕がいま働いている会社へ清掃に来る人も、セルビア人とかボスニア・ヘルツェゴビナ人とか、バルカン半島の人ばっかり」

北マケドニア人①
「そう、バルカン半島の国から出稼ぎに行く場合は清掃の仕事が多い。国によって結びつきの強い職種が決まっていて、例えばルーマニア人は介護施設との結びつきが強いとか、マクドナルドの店員はブルガリア人の牙城になっている、とか。

休日の朝にミュンヘン中心部のカフェでお茶していると、聞こえてくるのはバルカン半島の言葉ばっかりだった。セルビア語・クロアチア語・ブルガリア語・ボスニア語。みんな似た言葉だから大体理解できる。あとトルコ語もとても多いわね。ドイツ語なんてほとんど聞こえてこなかった」


「北マケドニアから出稼ぎに行く場合は、ドイツが多いの?」

北マケドニア人①
「そう、ヨーロッパに行く人は殆どがドイツ。やっぱり経済が強くて仕事が多いからね。ヨーロッパでない場合は、アメリカへ行く人が多いかな。

アメリカに行く場合は、事前に労働ビザを申し込んで取得してから渡航するんだけど、その際にエージェントに仕事をあっせんしてもらう。渡航するまでに仕事が見つかるケースもあれば、見つからないケースもある。見つからなくても、かなりのお金を払わないといけないこともあるから、行くだけで相当なお金がかかるんだ」


「それでたった数ヶ月だけ働いて、また帰国するの?」

北マケドニア人①
アメリカへ行く人は、そうやって公式ルートで渡航した後で、実はそのまま行方をくらませて帰ってこない人が多いんだ。不法滞在でもなんでも合計でアメリカに4年住んでいたら、それで正式にビザが取れる。基本的にアメリカを選ぶ人は、そのまま住み着くことを目的にしている人が多いわね」

自分の国に住むのが当たり前ではない社会

北マケドニアのように経済的に苦しくてまともな職が得にくい国では、国外へ出稼ぎに行かざるを得ない。前述のように、北マケドニアでは若者の80%が良い職を求めて国外で働くことを考えているらしい。

それによって、彼らが一番大事にしている家族とも離れ離れの生活を余儀なくされるケースも。つまり世界の国々をみると、「自分の国に住む」ことって実は当たり前ではない

日本と北マケドニアの共通点

ちなみに、ここで日本に目を向けてみると、日本は北マケドニアと似たり寄ったりの社会という面がある。

日本は終身雇用の法制度で、その構図の中で企業が従業員の勤務地/居住地を決める権利を持っているという特殊な国。日本も自分の住みたい地域に住むのが当たり前ではなく、また単身赴任も社会の中で一般的なことと許容されている。

また、終身雇用ゆえに、今後も日本企業は従業員の報酬を大きく増やすとは考えにくい。というのも、報酬を増やして従業員に配分するよりも、企業の中に利益を溜め込んでリスクに備えることを志向する。会社が存続する限りは従業員を雇用し続けないといけないから。そのぶん、失業率が低く維持されて社会の安定化に役立つが。

日本はこのような特殊な構造を抱えているので、長い目で見ると日本人も良い稼ぎを求めて海外へ出稼ぎに出ていく人が増えていくと思われる。

北マケドニアの現在は、未来の日本をイメージする上で参考になる部分もあるかも知れない。

それはさておき、話を北マケドニアに話を戻す。

「公正さ」は重要な要素

彼女との会話からすると、北マケドニア人はそもそも働く時間が短いということで、経済的にそれほど豊かでないのは仕方ないのかも知れない。

但し話を聞いていると、一生懸命働いても、結局はコネや個人的な繋がりや裏金がものをいう社会で、自分の仕事が公正に評価されない様子。だからまじめに働くモチベーションが湧かなくて、良い日銭を得るためだけに海外へ出稼ぎに行くという面もあるみたい。

「自分が公正に評価される社会」って、当たり前のことように思えても、彼らと話をしていると実は当たり前ではない。実際に北マケドニアでは、それができていないことが、これだけ人を出稼ぎへ向かわせる要因の一つになってしまっている。

そういう「公正さ」って、社会への信頼感を育む基礎になっていて、そしてそれが人々の幸福度を高めることになる、とても重要な要素だと思う。

北マケドニア人の人生の優先順位は?

さて、そんな北マケドニア人に聞いた「北マケドニア人の人生の優先順位は?」という質問への答え。

北マケドニア人②(30才台くらいの女性)
「まずは家族が第一優先。次が仕事。その次が人生をエンジョイすること。エンジョイって何かって?若い人はパーティー。マケドニアの人はパーリーピーポーなんだ。でもお年寄りは、子どもや孫の成長が一番の楽しみだね」

北マケドニア人③(50才くらいの女性)
「優先順位は人によって違うけど、まあ家族。週末はもちろん、平日でも家族とコーヒー飲んだりして時間を過ごす。そして二番目が友達。でも経済がよくないから、仕事もちゃんとしている」

北マケドニア人④(40才くらいの男性)
「多くの人が何を考えているかと言うと、金、金。仕事で良い金を得ることをポイントに考えていて、仕事の内容は問わない人が多い。それと外国へ出ること。でも、やっぱり家族は大切にしていて、天気の良い日は外へ出たり喫茶店に行ったり、家族と楽しい時間を過ごす行動様式が染みついている」

北マケドニア人①(大学生の女性)
「北マケドニア人のメンタリティー?パーティー好きよ、とにかく。友達とパーティーしてパーティーして。そうやって盛り上がるのが大好き。首都のスコピエの人は特にそんな感じ。家族?もちろんそれはそれで大切にしてる。経済は、、、はっきり言って良くない。同じ仕事をしても外国よりずっと給料が安い。でもみんな明るく優しく笑顔いっぱいで過ごしている」

ということで、ここも家族が一番だけど、でもパーティーやらお金やら、人生を楽しむ傾向が近隣のアルバニアやコソボよりもずっと強いように感じた。

その分、気さくによく喋ってくれるから、たくさんの人と長時間話ができた。国が違うと、やっぱり傾向が違うもんやね。

バルカン半島で聞いた話、おしまい

さて、4回にわたってお届けしたバルカン半島で聞いた話シリーズは、一旦これで終わります。

興味ある人は限られていると思うけど、読んでくださった方やスキを押してくださった方、さらにコメント下さった方々、ありがとうございました。

つくづく思うんだけど、地域や国によって背負っている物語が違う。

今回旅行したバルカン半島の国々が地域として共通で負っている物語は、出稼ぎ、パスポートやビザの取得、汚職、EUへの加盟。これらの話はどの国でも話題として頻繁に挙がった。

一方で国によって独自のキーワードも出てくる。

例えば今回のように、北マケドニアはパーティー。コソボではアメリカセルビア。アルバニアでは過去の共産主義時代の話で一色。

世界のそれぞれの国では、各国の中でみんな似たような物語を共有しながら生きている

世界のいろんな人たちから、そういう話を聞くのは本当におもしろい。

「旅先で現地の人に話を聞く」の舞台裏についての投稿は、以下 ↓

by 世界の人に聞いてみた

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