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United States of Division
『Musicology』20周年なのに、このアルバムをあまり聴いていなかったのですが、「United States of Division」(USOD)が再リリースされたので、急遽、Musicology モードになりました。当時、かろうじてアルバム『Musicology』はリリースから何年も遅れずに聴いたと思いますが、NPG Music Club には入っていませんでしたし、その後もこの曲の存在はまったく知らないままでいました。慌てていつもお世話になるサイトなどを読んで、聴いてみて、ズレている感想と妄想を書きます。プリンスの曲は聴く人それぞれに解釈の余地があるということでご容赦ください。読み返してから、さまざまな用語も理解してないまま使ってるのも気になってます…。
プリンスが2004年にシングルのカップリング曲としてリリースした「United States Of Division」がストリーミング解禁 /
Cinnamon Girl / シナモン・ガール ('04) /
As we continue to celebrate 20 years of Musicology, we are excited to shine a spotlight on "United States Of Division," one of Prince's many powerful protest songs that witnessed him boldly confronting several of the the social and political issues that continue to plague us… pic.twitter.com/mgSkEKtKxs
— Prince (@prince) April 5, 2024
感想と妄想
Intro
2004
Still at war
& everybody hates Americans
「2004年/まだ戦争をしている/そして誰もがアメリカ人を憎んでいる」で始まります。
2004年でもこの歌詞はきつい言葉だったと思います。さすがにプリンスでも、例えば全国ネットのテレビで歌ったりはしない曲でしょう。
当時のアメリカの分断というと、非常に大雑把に言うと、子ブッシュ支持者 vs 反子ブッシュと思っていいことにして、深入りせずに進めます。
敵とは戦ってアメリカを守るべしという子ブッシュ支持者の人たちは「誰もがアメリカ人を憎んでいる」なんて言われたら、けしからんから攻撃しようという姿勢になりますが、反子ブッシュの人たちはプリンスのメッセージをすんなり受け入れる側だと思います。
プリンスは、自分の歌が自分への反論となるのは問題にしないと思いますが、聴く人たちの間で喧嘩の原因になるのは望まないのではないかと思います。なので、ヴァーチャルB面で発表したのは、納得できる選択だと思います。
Verse 1
空からアメリカを見て、どうしてこの国が2つに分かれてしまったのだろうと思いを巡らせます。
[eye] guess that once U go
Divide this precious land
This precious land will divide U
「かけがえのないこの国を分断するなら/かけがいのないこの国はあなたを分断するだろう」
最後の「U」は、アメリカ国民一般を指す「あなた」でしょうが、プリンス自身も含めたアメリカ人一人ひとりにも聞こえてしまい、引き裂かれてしまうような苦しさを感じます。
Verse 2
キャデラックで地元を走り、ブラックスプロイテーションの世界になります。「昔と何も変わらないけど、ただ違っているのは、この傷と痛みをすべて取り除くことができたらいいのに、と考えること」
[eye] wish [eye] could
Take away all the hurt & pain
We let Super Fly
Straighten up our curly hair
He took the afro out the game
It's kinda cool
But the guns & drugs
R 2 much 2 bear
10 years later Scarface came
(Who U think U messin' with?)
「僕たちはスーパーフライが/カーリーヘアをストレートにするのを受け入れた/彼はアフロをゲームから追い出した/クールだと思うよ/でも、銃とドラッグは/耐えがたいほどにあふれてしまった/10年後にスカーフェイスが来たよね」と、ブラックコミュニティに存在する問題を歌います。背景をきちんと分かっていませんが、曲全体の中でここだけは、子ブッシュ支持層ではなくて、反子ブッシュ派へ向けたメッセージを届けようとしているように聞こえます。
分断という問題を取り上げるからには、片方だけに味方せずに、どちら側にもメッセージを送る姿勢を示しているのかもしれません。
Chorus 2
Everybody stop fighting
C'mon, disarm
Everybody make love
C'mon, disarm は最初のコーラスにはなかったものです。disarm(武器を捨てろ)は、私にはよく聞こえませんでしたが、歌詞サイトを参考にしました。
disarm が入っていない Chorus 1 の stop fighting は 、「2つに分かれて争うのはやめよう」というメッセージがメインかな、と思いましたが、ここに来て「戦争をやめよう」というメッセージがするっと加わりました。
ちなみに、Chorus 2 から Bridge にかけても、何かボソっとつぶやいてるような気がしますが、空耳でしょうか(2:20くらい)。
Bridge
A united state of mind
Will never B divided (Oh)
The real definition of unity is 1
People can slam their door
Disagree & fight it
But how U gon' love the Father
& not love the Son?
United States of Division
ここが曲の一番の山かと思います。
「マインドの合衆国は/決して分断されることはない/統合とうい言葉の定義は1/ドアをピシャリと閉めてもいい/反論し、争ってもいい/でもどうして、父なる神を愛しているのに/神の子を愛さないの?」
How far from heaven
Must we go
B4 the winds of change
Will blow & show
This world how it's supposed 2 B?
Land of peace & harmony (C'mon...)
「僕たちは、どれほど天国から/遠ざからなければならないのだろう?/変化をもたらす風によって/この世界の本当にあるべき姿があらわになるまでに/平和と調和の土地」
抽象的になってきましたが、分断されたアメリカは本来の姿じゃない、こんなの嫌だ、という強い気持ちを感じます。
Bridge の半ば、曲の3:15辺りで、Bridgeの最初に戻るような形になり、変な音(声?)のフレーズが入ります。ホーンのミュートか、声を加工したのか……。かすかに「ワン」っぽいのと「ハーモニー」っぽいのが聞こえるような、聞こえないような気がします。ただ、Bridgeの最初のフレーズとはぴったりとは重ならず、気になる謎の部分です。
このあとも、Black White Strait Gay Christian Muslim まで、とんでもなくかっこいいです。
間奏
ずっと歌詞を追ってきましたが、演奏についても書いておきます。
2024/4/4の再リリースは、リマスターされたということで、各楽器演奏のすごさが際立っているように思います。音については、聴く環境の影響も大きいでしょうし、好みもありますし、専門的なことは分からないので書くのは難しいですが、うっかりリマスターをお風呂でガンガン鳴らして聴いたら、さすがに響きすぎて、へなちょこな私は疲れてしまいました。このジョンのドラムを6分間まともに浴びるには体力が必要です。
演奏メンバーを Prince Vault から引用します。
Prince - all vocals and instruments, except where noted
Rhonda Smith - bass and background vox
John Blackwell - drums
Renato Neto - keyboards
Chance Howard - keyboards
rad. - keyboards
Greg Boyer - trombone
Maceo Parker - saxophone
Candy Dulfer - saxophone and background vox
まさに Real Music by Real Musicians です。
リマスター音源は、まるで、最高のネタが各素材がどれも際立つように盛り付けられた特大海鮮丼のような音だと思いました。極上ですが、食べ切れるのかな、こんな贅沢な、と感じます。
2004年の配信の音は、同じ素材をプリンスがさささっと、ちらし寿司か押し寿司か、はたまた極上のおにぎりにしてしまった感じです。最高に美味しいけど、この店もっといいネタも仕入れてるよね? ウニか鼻くそか分からないものがペタッとついてる気がするけれど(鼻クソのはずはない)、もはや判別はできない、でも曲としては本当に美味しい!という感じです。各楽器の音が、一度プリンスに向かって集まってから、プリンスの身体の周りでボワっと響いているようなイメージです。キックドラムの響きもまろやかになってるので、食べやすいです(ボヤけているということですかね)。
私は、おにぎりもなかなか好きですが、もちろんどちらも食べたいです。
Verse 3
Y must sing
"God Bless America"
& not the rest of the world?
"Oh say can U C?"
love my country
But love God more
「なぜ歌わなければならない/God Bless America を/アメリカ以外の世界には恵みあれとは歌わずに/君には見えるだろうか/僕は自分の国を愛している/でもそれよりも神を愛している」
ここで、「God Bless America」 やアメリカ国歌の歌詞が引用されていますが、「Call My Name」でもアメリカ国歌が引用されています。これに気づくことができたのは、どなたかの tiwtter か『プリンス オフィシャルディスク・コンプリートガイド』を読んだからでした。「Cinnamon Girl」「Dear Mr. Man」についてもKIDさんの本やサイト必読です。
2004年のカナダのテレビ番組のインタビュー動画を見ました。
アルバムにはラブソングも政治的なメッセージが強い曲も入ってるけど、後者は受け取る人によってはデリケートな問題で、誤解される心配はないかという質問に、「ノー。 僕は言いたいことを何でも言ってキャリアを積み重ねてきたんだよ」と答えます。今の状況は好転すると思っているかという質問には「もちろん。みんなでこうして集まって座り、自分たちが直面する問題について話しあうってことは、いつだって僕たちはみんな one people だということなんだよ」と答えています。One People という言葉は、USOD に通じるものがあります。そして、集まって話し合おうというメッセージは、歌からは直接伝わってきませんが、プリンスはそこに希望を見出しているのかな、と思います。
今回、USOD を繰り返し聴いたり、インタビューをみてやっと気づいたのですが、みんなで集まって話し合う、というのは教会かもしれませんね。プリンスの社会的なメッセージや問題意識は、教会で集まってみんなで話し合うという日常が土台になっていたのかもしれないと、ふと思いました。宗教色が出ると身構えてしまいがちですが、宗教を信仰して何をするかというと、プリンスの場合は、祈る、聖書を読む、働く(音楽)、礼拝に行く(集まってブラザー、シスターと交流する)、献金するということなどです。日々のそういう行動があるから、ふだん考えていることが自然な感覚で曲になっていたんだ、と妄想しました。例えば、slam their door は、布教活動で近所の家を訪ねて断られている風景で、もしかすると、プリンスが実際に自分で見ている風景かもしれません。
今まではもっと理屈っぽいことか思い、入ってこない時があって、よくなかったと思いました。本当によくないです。耳や目が曇っていました。
曲に戻ります。Verse 3は、Bridge に続いて、アメリカが本来あるべき姿から離れていることを、あきらめ混じりで悲しんでいるように感じました。
Every man, women, boy & girl (Ooh)
「男性、女性、少年、少女のみなさん」から次の Chorus 3 への繋ぎで、ウ〜ア〜オオ〜アアア〜アア〜アアと、大好きな慣れ親しんだ感じのプリンス節が強くなります。もう、ロンダやキャンディのバックヴォーカルを振り切ってしまいそうです。
Chorus 3
最後の部分、アルバム Controversy や Prince の頃の若いプリンスが顔を出すせいもありますが、終盤全体の歌い方がもう、私には「 Wonderful Ass」の後半あたりのプリンスに聴こえてしまいます。
「Call My Name」でメッセージソングと愛の歌が融合していることは KID さんの本に書かれていた通りですが、USODも同じじゃないかと思えてしまいます。しかも、この愛の歌い方は、床に寝転がって歌い、相手に思いをぶつけるタイプのもので、NPGをバックにバシッと決まっているMusicology ツアーのプリンスのイメージから少し離れていると思うのですが、ただ、あまりライブをきちんと聴いていないので、曲によっては寝転んで歌っているのかもしれません。でも00年代の色気とUSODの歌い方は少し違うように感じました。
床に寝転がるプリンスについては、よねリーナさんの言い訳コーナーと演奏で楽しんだばかりで、USOD にもとても通じるところがあると思いながら聴きました。
スーパーでお菓子をねだるお子様のようだという喩えはすばらしいです。演奏も、リコーダーで 「The Beautiful Ones」の後半への盛り上がりを再現するってすごいです。
Chorus 3 はヴォーカから愛を強く感じました。政治的なメッセージを歌いながらも、愛に行き着くプリンスに何かとても胸が苦しくなります。
さらに妄想
アメリカ独立記念日に NPGMC で配信され、「Cinnamon Girl」シングルのUS盤には入らず、UK盤に収録されたこの曲は「Cinnamon Girl」とははっきりと届け方を区別したのだと感じました。
「Cinnamon Girl」はMVも作っていて、NPGメンバーを従えた絵面は、有無を言わせぬ安定感、落ち着きを感じさせます。おでこに何か(Prince Vault によるとマタイ5:5)を書きながらも、威厳を保っています。メッセージの焦点がシャープで、とても真摯に歌い、Cinnamon Girl に対するとてつもなく大きな包容力が生まれています。
一方のUSOD は、最初は俯瞰する視点で国の問題を提示しながらも、最後には良くも悪くも馴染みのファンに向けて寝転がって歌うような形になりました。テーマも広くとっています。
「Cinnamon Girl」は鎧をつけていて、どこからかかってきても結構さ、な伝え方ですが、USODは、若いころの脆いプリンスをさらけだしています。そうまでしてでも歌いたかったのかと考えると、聴いていてすごく苦しくなります。
曲や伝え方に優劣をつけようとする気はありません。ただ、2つの曲の伝え方は全く別物なのだと思います。
The sixth track on Musicology is "Cinnamon Girl," a song that Prince released as the album's second commercially available single after the title track. Prince enlisted Rhonda Smith, Chance Howard and Candy Dulfer to contribute additional vocals.
— Prince (@prince) April 8, 2024
The song was listed as #43 in… pic.twitter.com/phVTKWYEQL
ところで、「Cinnamon Girl」の演奏は Prince 1人で、ヴォーカルにキャンディ、チャンス・ハワード、ロンダが入っているだけのようです。USODの後に聴くと、音はしょぼいです。タンバリンはキャンディ(?)が歌いながら叩いているのか、もしかして下手なの?と思いました(ひー、すみません。そんなわけない)。
タンバリンも他の演奏も下手なのではなくて、この曲が悲しいから、こんなにひしゃげた演奏なのだと思います。Cinnamon Girl の美しく哀しい祈りのイメージでしょうか。悲しい音をタンバリンで鳴らすなんて、それこそ激難なのでしょう。演奏と歌い方がうまく噛み合って、Cinnamon Girl への思いとしてうまくまとまっているのだと思います。
逆にUSODは、プリンスの歌やメッセージが、だんだんひしゃげていって、でもNPGの演奏がかっこよすぎて、これもまた絶妙なバランスだと感じます。
メッセージソングということで、やはり、ストリーミングや YouTube で素早く公開した「Baltimore」も聴いてしまいました。USODでは、everybody に make love や make music と強く呼びかけていました。「Baltimore」でも Let's take all the guns away など呼びかけてますが、自分の言いたいメッセージを割と淡々と語ってしまうと、あとは、愛し合う時間だよ、ギターを聴く時間だよ、と、先に進んで行ってしまいます。
『Musicology』から10年少し経ち、マーチの力強いリズムに乗りながら、構えた感じも、力んだ感じもない、ただただ美しいヴォーカル。最後にヴォーカルが最も輝くところは、自分がバックに下がります。こんなに静かにこんなに強いメッセージを伝えられるなんて、どんな進化ですか。そして、あのギター。
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