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『サクラノ刻 -櫻の森の下を歩む-』感想

 どうもです。

 今回は、2023年2月24日に枕より発売された『サクラノ刻 -櫻の森の下を歩む-』の感想になります。

OP「刻ト詩」 歌唱:Luna、作編曲:松本文紀、 作詞:すかぢ

 ガチ名曲すぎる。前作『サクラノ詩』の「櫻ノ詩」が本当に凄すぎてハードル高かったはずなのに…これ以上ない素晴らしい楽曲だと思います。サウンドもメロディもサビへの繋ぎが滑らかすぎて特別な心地よさがある。クリア後の方が刺さる曲だったので、早くフル尺で聴きたいです。
 プレイしたキッカケですが、もちろん前作『サクラノ詩』が良かったから。つい数ヶ月前にクリアしたばかりなので、記憶が新鮮なまま続けてプレイできたのは良かったなと思います。また、『サクラノ詩』の感想は以下になるので、是非合わせて読んでいただけると嬉しいです。

 では感想に移りますが、受け取ったメッセージと、キャラクターの印象を主に書けたらなと。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。



1.受け取ったメッセージ

 本作から受け取ったメッセージを書く前に、一度前作『サクラノ詩』の感想で書いた事を振り返ってみます。

①自分にとっての美を信じて欲しい
②幸福の瞬間は舞い込んでくるから生きて欲しい
③受け継がれ、生きる意志・意義・意味になるから

『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』感想より

 細かく分けるとこの3つでした。本作『サクラノ刻』は、続編なだけあって、これらの補強的なメッセージを受け取れた印象です。それぞれ対応する番号毎に書いてみると以下の通り。

①´ 美に対して誠実に勇敢であれ
②´ 幸福の瞬間が舞い込んでくる軌跡と奇跡

③´ 希望に満ちた、報われて欲しいと云う祈り

 もちろん、これ以外にも受け取れたメッセージはありましたが、結局この3つの何処かに関係するのかなと。また、本作で主に描かれた物語から最終的に受け取れたのはやはり③´のメッセージでした。とゆーことで、いつも通り順々に掘り下げていきます。

【①‘ 美に対して誠実に勇敢であれ】

 これは主にⅢ章までで描かれた内容。人物で云うと特に、心鈴と麗華、圭、香奈ですね。これでピンと来る方は多いんじゃないかと思います。前作で、"①自分にとっての美を信じて欲しい"と僕は記述しましたが、この"信じる"について彼女達の生き様を通してより強く、より具体的に語ってくれた様な気がして嬉しかったです。また、"美"とは、解り易く言ってしまえば”美学”かなと思っていた認識も大方合っていました。"美学"以外に"美意識"が頻繁に出てきたと思います。なので、この辺りの台詞を振り返っていきます。

 心鈴ですと、以下の台詞が印象に残っています。

「芸術家は芸術で美を示せ!それが我々の使命だ!」
「何も釈明するな! 何もぼやかすな! あるがままを見て、筆で語れ!
ーーだが我々はいつでも、事実に新しい光を当てているものを見る必要がある!」
「ある者は人命のために勇敢に冷水の中に飛ぶ込むかもしれない。
だが画家は、芸術のために勇敢に筆を振るう」
「才能とは、勇敢でなければならない!」
「天才とは、勇気ある才能であるから!」

本間心鈴-『サクラノ刻』

 正確には健一郎が言っていた事らしいですが、脈々と言葉が受け継がれるいくのもまた本作のメッセージの一つでもあります。それは、後々書くとして、この言葉は寧との勝負後に発せられたモノでした。強烈であり、他でも繰り返された”勇気”、"勇敢"が間違いなくキーワードかなと。心鈴は麗華に対しても、同じ様な言葉を投げかけていましたね。

「あなたが、どれだけ美に対して誠実であるか。美に対して勇敢であるかだけです」

本間心鈴-『サクラノ刻』

 こちらの方が解り易く、しっくりくる言葉かなと思います。自分の信じる美に対してどれだけ誠実であるか、勇気を持てるか、勇敢であるか。更に云うと、誰に何と言われようとも、絶対に自分だけは最後まで信じ抜いてあげる。コレが本物の美なんだと。そんな信念を貫く姿が美に対して誠実に勇敢であれ。と云う事なんだと思います。確かに自分が信じてあげなかったら、他の人が信じたり、何かを感じたりする事はあり得ない訳で。個人的にも自分が信じてもいないことに、努力できるはずがないと思っています。

 実際、強く美しい人間に映りまくってました。心鈴も、麗華も、香菜も。雪景鵲図花瓶を巡って、静流と麗華だって最後には、それぞれの美に対して勇敢になる事ができました。静流に対して紗希がこんなアドバイスもしていましたね。

「それぞれが持つ美意識、美学、そういったものの答えは決して一つではない」
「だからこそ、美にまつわる問題は難しいし尊いのだよ」

鳥谷紗希-『サクラノ刻』

 当たり前っちゃ当たり前ですが、当たり前だからこそ難しいと本当に思います。周りの目もそうだし、つい比較してしまう世の中で、何かと言い訳をしてしまうとか色々。これらに誤魔化されず、自らの美に従い、貫く事がやはり美しいのだと思います。千差万別と云うか、100人いたら100通りの美があって良いはずで。そこに良し悪しは無くて。それぞれの環境、日常で出逢った幸福を見失わず、大切にして、強く生きる事が何よりも美しい。それで孤独を感じる瞬間もあるかもしれない。でも根は孤独で良いんですよね、孤独だからこそ人は人の温もりを求めて、何かを感じたり、表現したりしようとする生き物だから。その結果、もし誰かの心を動かす事ができたのなら、それは全て美たり得るのではないでしょうか。意識や概念の話だけではなく、美は"事実として"ただそこにあると。
 もちろん時には柔軟である事も大切だとは思います、見つめ直す時期と云うか。迷う時だって当然ある。でもそれだって結局は自分と向き合う事であり、比較するのは他ではなく、どちらかと云えば過去の自分。迷って悩んだ結果、勇敢に踏み出せた一歩が間違いなく美と言えるでしょう。そんな風に過去の自分よりも強くなる柔軟さであれば良い。アップデートする中で、それでも変わらずに自分にとって好きなモノを好きだと言える人間でありたいなと改めて想いますね。彼女達の様に強く堂々と。香奈の以下のシーンとか本当に好き。

「私の美は、たぶん私だけが信じている!
他が信じなくても、私は信じているんだ!
その美が、必ずお前ら天才どもに追いつき、そののど元に食らいつくと!」

長山香奈-『サクラノ刻』

 あと、前作の繰り返しになりますが、作品と呼ばれているものをこの世に残せずとも、生き様つまり人生こそが作品たり得るのだと改めて思いました。その人の人生がすなわち「物語」であるし、その「物語」は唯一無二であり複製などあり得ないから。人々が美そのものよりも、美にまつわる「物語」を愛するのだから。只々、美に対して勇敢に生きてさえいれば自然とそれは誰かに影響を与えていると信じて良いのだと思います。


【②´ 幸福の瞬間が舞い込んでくる軌跡と奇跡】

 これは、Ⅳ章で描かれた内容から主に受け取っています。ソレっぽく書いてますが、前作で書いた"②幸福の瞬間は舞い込んでくるから生きて欲しい"を更に支えてくれるメッセージで前作よりスッと心に入ってきました。僕はコレについて、”生きる意志の違いでしかなく、その意志による過程こそが何よりも大事である"と記述していましたが、特に"過程"を掘り下げてくださった印象。"過程"とは、「今」と云う連続する軌跡であり、その瞬間が在る奇跡を大切にして欲しいと。以下の台詞から始めていきましょう。

「だから奏でろ!」
「あらゆる、今、という奇跡を!」
「世界の奇跡! 今という奇跡! お前という奇跡!」
「だが、すぐに人はその奇跡を見失う」
「存在の奇跡を忘れる」
「だからかき鳴らせ!」
「世界の果てに届くほど」
「ガンガンにかき鳴らした音楽で、この奇跡を刻みつけるんだ!」
「あらゆる世界に! あらゆる事実に! あらゆる心に!」
「世界の奇跡をかき鳴らせ!」

草薙健一郎-『サクラノ刻』

 ありとあらゆる「今」という奇跡。流れていくもの、通り過ぎていくもの、それら全ては素晴らしく、幸福も苦痛も自身が確かに存在する事を知らせてくれる等しく奇跡であり、生はそんな流れゆく奇跡によって満たされている。本作で一貫して描かれたモノでした(『素晴らしき日々』の"向日葵の坂道"でも少し語られた記憶)。台詞のバイクで駆けるシーン以外にも、美術部での和気藹々とした活動であったり、直哉と藍の家族の様な温かい何気ないやり取りだったりと、ありふれた日常が描かれました。そしてこれらは幼い頃の圭が送る事ができなかった(送らなかった)日常でもありました。独りで大した食事も睡眠も取らず必死に絵に打ち込んできた生活で。それでも圭は健一郎や藍と出逢ってから変わっていきましたね。健一郎からも笑って怒って泣いて、飯食って寝て、人と交わり、人生の楽しさを満喫しろと教わっていました。やはり普段から何気ない事に対して敏感であれと云うか、衣食住などから素直に些細な幸福を感じる事は大切だと思わされます。そして、これは小さな幸福とも称されていました。

「大きな幸せは、それこそ本当に幸せなんだけどさ――、
 大きいが故に、いつでもどこかしら不安がつきまとうんだ」
「大きな幸福は、失う事に耐えられるもんじゃない」
「――小さな幸福は、失っても"そっか"と思える」
「だから大きな幸せって案外重いもんで、つらいんだよ」
「小さな幸せは、それこそ沢山あってさ、日常の中に埋もれている」
「そこに喜びを見いだせば、案外人は生きていけるもんだよ」
「そういう小さな幸せって言うのは、大きな幸せでは埋められない」
「いや、むしろ大きな幸福は、そういう小さな幸福を見えなくする」
「大きなものの中で小さなものを見失い」
「最後にそれを無くしてしまうんだ……」

川内野優美-『サクラノ刻』

 この言葉からは"小さな幸福を大切に"って事を伝えると共に、"大きな幸福を得るための積み重ねは無駄になってしまうかもしれない"、という残酷で不条理な側面を伝えていると思います。積み重ねている「今」が必ず実を結ぶとは限らない。そんな不安が必ず付き纏うと。この事に関連するメッセージは確かに他にもあって、例えば以下が印象に残っています。

「恩田寧の研鑽は決して真実の美が宿る事を約束するものではない」
「だからこそ、努力には価値がある」
「研鑽には価値がある」
「そんな、すべてのものに裏切られても、なおも進む意思を持つ魂にだけ、芸術の道は開け放たれている」

草薙直哉-『サクラノ刻』

 ハッキリと断言された”研鑽は決して真実の美が宿る事を約束するものではない”、でもコレが紛れもない事実だと皆が解っている。ただ、それを解っててもひたすら努力を続ける人間だって大勢いる訳です。だからこそ、本作はそんな人達に対してのエール的なメッセージを多く贈ってくれていた気がしてならないです。"努力には価値がある"、"人の心を打つ魂が宿る"と。

美において、全てが俺を裏切る。
だからこそ、それは信用出来る。
美は不合理だからこそ、俺は美を信じる事が出来る

夏目圭-『サクラノ刻』

「才能に恵まれた画家だけが、人の心を打つわけじゃないんですよ。才能に恵まれない人間の作品だって、人を感動させる事があるんです」

ノノ未-『サクラノ刻』

「人が作品をつくるという行為とは、極限にまで研ぎ澄まされるからこそ、人の心を打つ、そう信じています」

本間心鈴-『サクラノ刻』

人だからこそ! 人の痛さが分かるからこそ! 人を感動させられるのだろう!

草薙直哉-『サクラノ刻』

 喜怒哀楽と云った小さな奇跡を大切にする事、同時に努力に裏付けされた自信と喜びを得ていく事、その過程で美意識を育んでいく事、全ては自身を鍛える事に他ならず、その軌跡が何物にも代え難いその人だけの人生になっていくものです。繰り返しになりますが、その軌跡は大きな奇跡を呼び込み、その幸福の瞬間をつかむ為の準備になるんだと思います。
 更に、その瞬間は誰かにとっての運命的な出逢いになっているかもしれない。真琴にとっての『櫻日狂想』の様な"自分だけの作品"との出逢いです。

「だが名作といわれる文学は得てして読者に、これは自分のために書かれた、自分だけの作品であると思わせる力がある」

草薙健一郎-『サクラノ刻』

 自分の作品、はたまた、人生が誰かにとっての名作と云う名の飛翔《つばさ》になった時、どんな想いが生まれるのか…次に続きます。


"③´ 希望に満ちた、報われて欲しいと云う祈り"

 願わくは報われてほしい…。本作での色んな登場人物に当てはまるし、間違いなく本作がイチバンに描き切ってくれた事だと思います。そして同時に、個人的にも描いて欲しかった事でもあったので本当に嬉しかった。私達プレイヤー以上に、作中のキャラ達の方がもっと望んでいたと思います。主人公である草薙直哉の幸せを。

「だから、氷川里奈はアリア・ホー・インクとして目覚める事が出来たし、長山香奈は俺と同等の力で戦う事が出来た……」
「すべては、俺を再び奔らせるための祈り」

草薙直哉-『サクラノ刻』

 多くの人物を救ったからこそ、彼自身にも救われて欲しい…幸せになって欲しいと云う切なる想い。そして、芸術家としての復活を信じていました。この行為を"祈り"と言わずして何と言うのでしょう。"美"を見出した先に生まれる"祈り"。それが込められた作品の数々も素晴らしかった…。何より圭の『二本の向日葵』ですよね。直哉を奔らせたのは。

限界 超える筆の振動
向日葵 最後に君に届け 約束の軌跡

OP「刻ト詩」

 OP「刻ト詩」の歌詞の"約束の軌跡"が特にクリア後だとより一層グッときます。また、"限界 超える”も重要で、やはり祈りと云うのは世界の限界を超えて、その内側と外側との関係を繋ぐ様なパワーがあるんだと思います。ただ、祈りをささげる前に、そもそもの"美"が発見されなければならない事も本作では描かれていました。

「美しさは、発見されなければならない」
「誰かが発見しなければ、それがどんなに美しくとも誰も見向きもしないわ」
「そもそも、芸術とは、世界から美を発見する事に他ならない」
「そして、批評もまた、その芸術作品を発見する事に他ならない」

中村麗華-『サクラノ刻』

 共感しかないこの台詞。確かに発見と云う段階を踏まない以上は、鑑賞も批評も無いのだから、まずは発見されなければなりません。フリッドマンもまた"芸術の本質は見られる事にある"と言っていました。
 もし一瞬でも魂と共鳴する事ができたのなら、魂の持ち主への想いが生まれるんじゃないかと思います。と云うか生まれて欲しい。②で先述した様に、もしかしたらその人は努力して、同時に苦しんでいるかもしれない訳です。報われない日々が続くかもしれない。約束された奇跡なんて何処にもない。"生きる"意義を見出せず、迷子になってるかもしれない。そんな不安を抱えながらも必死に努力している人と繋がり何かが響いてきたのなら、今度はこちらから祈りをささげる番です。
 その時も美への勇敢さや、積み重ねた軌跡が必ず役に立つと思います。自分の言葉に"勇気"を持って感謝を伝えたり、経験を元に世に広める行動をしたり。居酒屋でノノ未の発言を受けて香奈が涙を流したシーンとか象徴的だったと思います。些細な事がその人にとっては実は大きな幸福になる様に、多くの想いによって、この先ずっと語り継がれていき、あの時は一瞬の体験だったモノが永遠になっていくのです。
 祈りは常に誰かの為にあります。その時、弱き神もまた必ず人のそばにあり、そこにはやっぱり幸福がある。好きな人が幸せになってくれたら嬉しいじゃないですか。そんな風に『サクラノ詩』で受け取ったメッセージに加えて、希望に満ちた"祈り"が持つ力を本作は雄弁に物語ってくれました。

 ここまでの話をまとめます。
前作から精神と肉体の話はあったと思いますが、こう書いてみると、①'と②'がそれに該当する気がします。①'が精神で、②"が肉体でどちらも大切。と云うのも、美意識が高まると日常にありふれた美に敏感になり、多くを発見できます。一方で、日々経験を積んで鍛えていけば、感情や思考が豊かになり、自然と美意識に作用するはずです。なので、両方バランスよく大切。
 そして、③'の祈りへと繋げていく。苦痛と幸福を引き連れた「今」と云う軌跡と奇跡を奏でた人生。それが「永遠」になる様にと祈る。きっとそこにも美は宿るし、お互いにとっての希望が満ち溢れるはずだから。

世界で一番美しい時間というのは、世界で一番短いんだ。

夏目圭-『サクラノ刻』

 「今」は世界で一番美しくて、一番短い。だから、生に対して勇敢に、日常を謳歌し、力強く地に足をつけて歩いていきたい。奇跡としか思えない世界の真実を逃さない様に。さすればきっと、いや必ず、自分の生は満杯の幸福が詰まっていたと思えると、本作で体験しました。

 受け取ったメッセージは以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら、嬉しいです。



2.キャラクターの印象

 前作と同じく、若干各章の話を交えながらキャラクターの印象を書いていこうと思います。※登場キャラ全員いないのはご了承ください

鳥谷とりたに 静流しずる

 Ⅰ章、健一郎から言葉を貰い涙を流したシーンでは思わず貰い泣きしてしまった。彼の作品に一目惚れして、こんな風に自由に作品を作ってみたいと云う純粋な想い。その想いを行動に移せるし、良い意味で変わらずピュアなまま総じて優しさに溢れた人柄が素敵でした。それでいて独特の雰囲気に包まれてもいて、芸術家たる所以を感じる事ができたなと。真作あっての贋作ですし、彼女の作品(雪景鵲図花瓶)は贋作などではなく間違いなく素晴らしい作品です。割る事なんてできなかった、それは自分を裏切る事に他ならないからで。彼女の様にいつまでも素直に正直でありたいなと思います。


中村なかむら 麗華れいか

 弱くて強い人でした。段々と弱さを誤魔化す事なく強さに変えられる様になって、終盤では頼りにもなる存在に。女性らしい強さも垣間見えて。やはり何者でもない事を自覚している故の、自身の言葉や感性、目など美への絶対的自信。批評家として愛する芸術作品を世に広げたい。そんな純粋な想いは、静流の想いと何ら変わらない素敵な美でした。「美しさは、発見されなければならない」と言い切れる麗華が大好きで共感しかなかった。また、圭の才能にブレーキをかけてしまった負い目があったからこそ、心鈴からの「宮崎みすゞは、あなたの勇気が作り上げた画家です」と云う言葉ほど嬉しい言葉はなかっただろうなと。自分に対しても相手に対しても信じ抜くと云うか、見守る力がある人だったなと思います。


鈴奈すずな、ルリヲ、奈津子なつこ桜子さくらこ、ノノ未】

 若干暑苦しかったあの頃の美術部とは打って変わって、みんな可愛らしく個性豊かで、美術部を華やかに彩ってくれる様な存在でした。お蔭様で直哉が教師であり芸術家でいられたので、彼女達に感謝しかないですね。鈴奈は姉譲りの変な部分もあるが何だかんだ頼りになる娘、ルリヲは独特の空気感あるので何か傍にいて欲しい娘、奈津子は実は色々と考えてそうな娘、桜子はいっつも一生懸命で放っておけない娘、ノノ未は香奈を救ってくれて有難うと、一番のしっかり者であり癒し属性のある娘。って感じです。


本間ほんま 心鈴みすず

 圭の意志を継いでるのが本当に伝わってきたからこそ、Ⅳ章の過去回想は感動モノでした。自身の美が綺麗に整理されている、どっと構えられる精神的強さみたいなのが共通してあって。でも、それはガムシャラだったり、迷っていたりした時期…"孤独"を経ての事。だから強い。見つけてくれた喜びや感謝の気持ちが止めどない漲る力になっていたのかなと思います。また、圭に限らず、人と人を繋いでくれた娘でもありました。これもまた、その幸福を知っているからこそですね。お人形さんみたいな可愛さで、恋愛みたいな専門外になると揺らいで、意外と表情豊かなのが良かったです。


恩田おんだ ねい

 弱々しい一面は良くも悪くも母親似。弱い自分が嫌いな、生粋の負けず嫌いで頑張り屋さんでした。悔し泣きや、集中時の真剣な眼差しがそれを物語っていたし、彼女の好きな処です。それだけ責任感も強く、圭から受け取った油彩の美しさを何としてでもモノにしたかった想いもあって。自然と応援したくなる子でした。ただ闇雲に進んできて何処か視界が狭かった頃は圭と被るし、心鈴との修行を経て才能を開花させる事ができて本当に良かったなと思います。眩しい程の笑顔が圭とそっくりなのよ。恋愛になるとギャップが堪らなく可愛い子だと思うので、そんな一面も見てみたかったかも。


鳥谷とりたに 真琴まこと

 大人になった余裕なんかを魅せつつも、焦りみたいなモノは感じていて。ただ視野が狭くなってるかと云うとそうでは無いのが相変わらず彼女らしいなと。色々と取り持って大変な役回りになっても、やはり誰かの為に尽くせる姿が印象的でした。また、前作に引き続き、個別√あり。ただ筆を取っているのが前作と違ってすかぢ先生ですね。描かれたのは、"物語になるまでの"物語でした。取り残され、やり忘れ、失ってばかりの2人が少しずつ取り戻していくものの、最後の最後で幸福への勇気が無い彼女…。でも別に欠けていて良いんだと、贈られたのは不幸と幸福を月の満ち欠けに準えた"再び戻ってくる"と云うエールでした。欠けている事(未完成)を受け容れて初めて舞い込んでくる幸福のラストピースを絶対に離さない様にと。終りは始まりである事を象徴するかの様な告白での終幕も綺麗でした。


鳥谷とりたに 紗希さき

 健一郎と並んで、本作屈指の頼りになる存在。圭の事が語られる以上は、彼女の存在も欠かせないので、Ⅳ章では想像通りの姿を見る事ができて良かったです。紗希さんがいてくれたから、圭は良い意味で未熟でいられたし、愛情を感じれていたと思います。圭の優しさは紗希さん譲りだと思う程に。何事にも動じず、基本的には相手が誰であろうと敬意を払う姿が素敵でした。手を差し伸べるタイミングが解ってる感じ、見守るべきトコは見守る感じもまた人生経験な豊富な印象を持てるし、人望が厚くて当然だよなと。お酒も規格外に強くてイメージ通りでしたw


氷川ひかわ 里奈りな川内野かわちの 優美ゆうみ

 2人の関係は想像通りでありながら、それぞれの在り方は少し想像とは違っていて驚きもありました。優美は更に大人な成熟した考え方になってて、それがリアルである事をあの生活環境が物語っていた気がします。でも見た目や言動は変わってない安心感たるや。一方、里奈は如何にも芸術家なオーラが出てて何だか誇らしいと云うか、実際彼女の作品のインパクトは凄かったし純粋にテンション上がってしまった。また、直哉と会話するシーンは、あの頃と何ら変わらない感じが只々エモーショナルでした…。


御桜みさくら りん夏目なつめ しずく

 出番は少なかったけれど、その分登場してくれた時の喜びもひとしおでした。2人ともガチ美人になって…。前作では別れと言えない様な別れ方をしたので、再会できて嬉しかったです。そんで直接描かれはしなくとも、直哉の為にずっと2人は動いていたのだろうと云うのは想像に容易い訳で…。だから稟が圭の事を語り、フリッドマンを説得するシーンとかは本当に感動モノでした。そんな逞しい稟を支えてくれていた雫も有難う。


長山ながやま 香奈かな

 最高…大好きです。前作から好きで期待してはいたけど、もう軽々飛び越えて想像の何万倍も良かった。まず、Ⅲ章のノノ未からの言葉の時点で涙ぐんだ。やはり理解者が…共感者がいるって嬉しいよなと。間違いなく報われた瞬間だったんじゃないかと思います。そして、何よりⅤ章での勝負。里奈とは白熱した上に、直哉とは回想シーンまで流れて涙腺崩壊。凡人である事に誰よりも自覚的で、その上で絶対に諦めず天才に立ち向かい続けた彼女。その根底にあった想いが届き、苦痛を感じながらも言葉を紡ぎ、筆を取り、笑顔を魅せる姿に涙が止まりませんでした。溢れる気迫に心が震えたし、本当に良かったなって嬉しさがこみ上げてきて。一生届かないかもしれないから、一生を捧げる覚悟と努力ができる娘。人を人たらしめる精神力の強さを証明すると共に、多大なる勇気を与えてくれました。言葉の全てが強烈でカッコよかったです。病室のシーンも好き。


夏目なつめ けい

 遂に語られた圭の生。何がそこまで彼を駆り立てるのか…彼にとって直哉がどれだけの存在なのか…。想像通りの部分とそうじゃない部分、両方含めて、本当に辛くも美しい物語でした。名も無き、存在価値もわからなかった…。だから、ひたすら絵を描き、一心不乱に背中を追いかけ続ける事が彼にとっては何よりも生を実感できる行為であり、故に"自分の力で何とかしてみせる"と云う覚悟も生まれる。尋常じゃない成長速度もこのお蔭でしょう。加えて、吉田さんや紗希さん、健一郎に藍、出逢ってきた人達への親切心や感謝の気持ちも忘れずに持ち合わせており、それもまた彼の原動力になっていました。人の想いを抱えられる凄い子です。そして直哉との約束、魂全てを込めた「二本の向日葵」が完成するまでの生き様が語る、"美は不合理だからこそ、美を信じる事ができる"は彼だからこそ紡げる言葉であり、感動がこみ上げてきた好きなシーンです。圭が幸福の先で待っていてくれたから、直哉は再び奔り出す事ができたし、圭の意志は弟子である心鈴へと間違いなく受け継がれてましたよ。有難う。


夏目なつめ 直哉なおや夏目なつめ あい

 直哉はずっと優しく、芸術家でもあり、教師でもあり、やはり強い神と弱い神の中間的立場で、どちらにも寄り添える人物でした。皆から集まってきた想いを受け取り、もうこの時、この場所に留らなくても大丈夫だと、圭の元へと奔り出す事ができた。彼が芸術家として奮闘する姿や、綺麗な笑顔も見れて良かったです。そして、藍も変わらずこれからも一緒にいてくれて。自分の事以上に直哉を気に掛け、自分の生よりも直哉の生に大切にする姿に胸が締め付けられたし、涙を流すシーンは印象に残ってます。涙を流すべき時に涙を流せる強く正直な処がやっぱり好きです。依瑠も藍みたいな強い娘に育つんだろうなぁ…。家族の幸せを心より祈っています。


3.特典小説「凍てつく7月の空」について

特典モリモリで嬉しいねい

 面白かった。早々あとがきの話をして申し訳ないんですが、すかぢ先生の、"やはり書きたいなぁと思いました。"が全てだなと。嬉しい。先生がこれまで手掛けてきた作品、キャラへの想いが溢れた結果、この特典小説が生まれた事にユーザーとしては感謝しかないですね。まさかのすばひびワールド全開、限界を超えた魂大集合祭りで微笑ましかったです。文字だけでも音無彩名の存在感が凄いのよ…w
 加えて、表紙からも想像できた本編『サクラノ刻』の補填もしっかりなされました。やっぱ吹の存在は偉大。『サクラノ詩』でも吹は稟と雫から生まれた娘の様な印象を持っていたので、この様な形で彼女達の物語、そして祈りを深く覗く事ができて良かったです。"圭を直哉に届けるのではなく、直哉を圭の元へと届ける"、3人分の想いですから強くて当然。一つの想いに至る事できたからこそ、神的存在である彩名から祝福とも思える笑顔が贈られましたね。稟の「私も本当は弱い神と共にいたいのに」と云う言葉を聞けたのがイチバンの収穫でした…。改めて、特典としては満足すぎる内容に感謝。


4.特典ドラマCD「稟と雫の口と口」について

 思ってたより長い!再生時間合計約85分。時系列だとほぼ特典小説後のお話。筆となった吹と、傍で痛みを肩代わりする雫と共にボロボロになりながらも絵を描き続けていた稟。フリッドマンが感情を隠し切れない程に心配してくれてるのがガチで良かったですね。あと裸で驚く稟カワヨ。
 雫の心が戻り、稟が自身の苦痛を愛せる様になる。そして、圭と直哉の為には、私がもっと飛び立たねばならないと魂を注いでいく。稟の空白期間の真相と、直哉が本編Ⅴ章で稟の絵画を前にして「最高傑作であり、最後の作品でもある」と言った意味がより解りました。印象的だった言葉も一つあって、「表現と云う奈落の底まで落ちていく、だけれども、痛みが奈落の底でアンカーとなり、私の心を繋ぎ止める」ですね。苦痛は人を生に繋ぎ止めてくれるんだなと改めて。覚悟を感じる稟の声と、受け容れる雫の息遣いが良かったです。この2人はこの先も一緒にいて欲しいなと願うばかり。


5.さいごに

 前作以上の名作。そして、全ての人に贈られる祈りの作品でした。「受け取ったメッセージ」にも書いた様に。人は作品を産み出さずとも常に言葉や表情など何かを表現しているし、その行為に苦しみ楽しみながら刺激を受けて日々変化して、また何か考えたり、行動に移したりしています。それら全てに美が宿る可能性は秘められている。美は等しく奇跡であるからと。美を宿し「永遠」となった圭と直哉の物語。彼らの幸せを望む真っ直ぐな祈りの数々に、希望を感じずにはいられなかったです。また、大人になった皆が再び集まって、何より直哉が奔り出す事ができて本当に良かった
 また、"美は発見されなければならない"と云うメッセージも個人的にはとても刺さりました。好きな作品がもっと広まって欲しいと想いながら生きている節があるので。広めたいと云う行為にも美が宿る可能性があると信じて、引き続きもっと精進したいなと思います。
 文章的、ストーリー的な処だと、前作よりも読みやすく初速が高くて良かったです。退屈だと感じる部分もなく、Ⅳ章以降は特にノンストップな勢い。"泣き"も変わって最大瞬間風速系に。余韻も気持ちのいいものでした。渾身の出来と云うか、制作陣の皆様方が本当にやり切ったんだなと感じる事はできましたね。重なる延期に不安や心配もありましたが、この素晴らしい作品が世に放たれたので安心しています。加えて、この先も信じていきたい好きなブランドになっています。

 原画は、前作同様、"基4"先生、"籠目"先生、"いぬきら"先生。元々素晴らしかったのに、更にレベルアップしてて只々感動です。単純枚数もだし、構図もだし、描き込みもそうだし、印象に強く残るモノばかりでした。グラフィックも向上しまくっており、エロゲ界でもトップレベルだと思います。お気に入りのCG一枚選ぶなら、Ⅴ章の勝負中の長山香奈…神。あと、劇中絵画すかぢ先生なの凄すぎ…。エンディングのアフター的イラストも良き…。

© MAKURA

 声優さんは、皆様相変わらず抜群。特に長山香奈役の小倉結衣さん。本当に素晴らしい演技でした。表現の振れ幅が凄くて…もう完全に泣きでした。あとは直哉に声が当りましたね。主人公ボイス付きなの全然好きだし、ハマってたと思います。次作ではずっと喋ってくれるのかな…。

 音楽は松本文紀さんメインで、他"おはる"さん、Shadeさん、GOROさん。前作より明るい雰囲気の曲が増え、日常の中でも聴きたくなる曲が多かった。なので、早くサントラが欲しい…。敢えて選ぶなら、「風景はせはしく明滅し」「筆射す光」「天球の大曲線」「夏の夜の展覧会は」「向日葵の嵐が過ぎ去り」「吹き上がる音と言葉」「刻の繭の外へ」「我々は弱いから此処に来た」「刻ト詩/Piano」「羽飾り/Piano」が特に気に入っています。流すタイミング完璧だった「櫻ノ詩」も永遠の名曲です…。

 とゆーことで、感想は以上になります。
改めて制作に関わった全ての方々に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。続編『サクラノ響』を楽しみにいつまでも待っております。

 ではまた!

※すかぢ先生のnoteも一応貼らせていただきます。


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