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テレビには「見える人」にしか見えないものが写っている

10年以上前、ある仕事でフリーのディレクターのRockさんという人とご一緒したことがある。もちろんRockというのは仮名で、彼のハンドルネームからお借りしている。


その仕事では深夜まで2人で残って仕事をすることも時々あったので、
なんとなく僕がその頃体験していた不思議な話などを
仕事の合間にするようになっていた。


するとRockさんが、
「紀川さんがそういう話をするから言うんですが、
実は僕の伯母は霊能者なんです」と言った。


時々僕はこういう鉱脈を掘り当てる。
というか、僕の人生においては、
こういう情報ソースと出会うというのは、
もう、運命のようなものなのである。


Rockさんの伯母さんは、
かつては保険の営業のお仕事をしている人だったそうだが、
あるきっかけがあって霊能者になり、
僕がRockさんから話を聞いた頃は福岡市の南区に在住で、
全国各地から予約して相談に来る人がいるくらいの、
有名な霊能者なのだということであった。


Rockさんがその伯母さんとテレビを見ていた時のことである。
その番組は宜保愛子さんの心霊番組だった。
もう故人なので実名をあげてもいいと思うのだが、
宜保愛子さんというのは、僕が高校生、大学生くらいの時、
さかんにテレビに出ていた霊能者の方で、
番組内で超能力者のユリ・ゲラーと対談したり、
世界各地の心霊スポットを訪問したりしていた。


その日の番組では、
宜保さんはヨーロッパにある古い洋館を訪ねていた。
そこは幽霊屋敷として有名なところだったのだが、
その洋館の中でも「出る」と言われている部屋に、
カメラを据えて、宜保さんがモニターを見ていた。


その時テレビを見ていた伯母さんが、
「部屋の奥からドレスを着たお姫様みたいな人が出てきた」
と言ったそうである。その直後、宜保さんも、
「誰か、高貴な身分の女性が出て来ましたね」と言った。


実は僕もこの番組を見た記憶がある。
そして、このシーンのこともなんとなく覚えているのだが、
宜保さんが「誰かが出て来た」と言っているだけで、
画面には何も写っていなかったので、
「インチキ番組なんじゃないか」と思っていた。


しかし、同じ時、別の場所では、
Rockさんと伯母さんが同じ番組を見ており、
伯母さんには宜保さんの言っているものが
見えていたのである。


テレビ番組が、このように、
受け手によって違うものが伝わるような情報を
放送している場合があるということを、
僕はそれまで知らなかった。


番組制作者はそのことを知っていて、
あえて放送していたのだろうか?
それとも、知らないまま、どうせインチキなんだからと、
開き直って放送していただけなのだろうか?


とにかく、数少ない視聴者だけが、
宜保さんと同じ情報を共有していたようなのである。
ちなみに、その伯母さんは相談者の悪い気を受けて、
これまでに三回ガンになっており、
前の二回は克服しているが、
もう高齢だということもあり、
今回のガンは克服できないのではないか、
とRockさんは言っていた。

この件で意気投合して、Rockさんを一度だけ、霊能師匠の家にお連れしたことがあった。その時に霊能師匠の家(普通のマンション)のリビングで、Rockさんが「なんとなくこんな感じの部屋だということは予感していました」と言ったのだが、僕はそれを、お世辞のような、社交辞令のような発言だろうと思っていた。後日一人で霊能師匠に会いに行くと「あの方は前の晩に私の家まで生霊を飛ばして様子を見に来たよ。」と言った。それでリビングの様子を知っていたのだそうだ。僕と霊能師匠とRockさんは、リビングのテーブルを囲んで普通に話していただけだと僕は思っていたのだが、水面下ではこのような高度なやりとりが行われていたのだ。

Rockさんはその後、僕が誘っても、かたくなに霊能師匠の家には行こうとしなかった。霊能師匠の「生命体が存在するのは宇宙で地球だけ」という言葉が、SF好きの自分にはどうしても受け入れられないというのがその理由だったが、「その点に疑問を持ったのなら本人に直接聞けばいいのに」と、僕はとても不思議だった。そしてRockさんはその後何度も、こちらからは聞いていないのに、「何故霊能師匠の家には行かないのか」という同じ話をするのだった。まるで言い訳をしているみたいに。それでだんだんRockさんとは疎遠になって、伯母さんがガンを克服できたのかどうかも聞いていない。

追伸

ところで、つい最近、というか昨日、2020年の12月1日にFacebookでRockさんの消息を知った。なんと2017年に喉頭ガンのステージ4であることが発覚していたそうだ。もう伯母さんの心配をしている次元ではなかった。

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