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歯車のイタミ 1

彼の名前は、栗田という。

新卒で、とある地方の食料品の
スーパーを運営する会社に
採用された。

見た目は中肉中背、
眼は細めで、眉毛が濃い。

言い方はよくないが、
とりたてて特徴のない、
普通の男性だ。

彼がこの会社を選んだのは、
特に大きな理由はなかった。
なんとなく、就職が決まったからだ。

この会社では、新卒の社員は、
まず店舗に配属される。

そして、たいていの男性社員は、
野菜か魚か肉の部門に配属される。

いわゆる、
『生鮮三課』というやつだ。

いまなら、男女差別がどうのこうの、
あるかもしれない。
しかし、これは少し前の時代の話だ。

実際、これら生鮮三課は、
労働時間も長く、中身もきつく、
体力勝負の面があるから、
ほぼ男性社員が配属されていた。

栗田の配属は、精肉部門になった。
ただ、配属された店舗の精肉部門で、
人手が不足していたからだ。

栗田にとっては、どの部署でも、
別に構わなかった。

ただ、魚はちょっといやかな、
と思っていた。
理由は、魚臭いのが苦手だから。

なので、精肉課でよかった、
と少し思っていた。

しかし、あとから聞いた話だが、
栗田の祖母は、彼が精肉課ときいて、
良い反応ではなかったらしい。

昔の人からすれば、
肉を扱う人に対しては、いわゆる、
そういう昔の地域のことなどが、
思い起こされるそうだ。

当時は、栗田はそういったことは
全く興味がなかった。

ただ、
たまたま精肉課になっただけ、
なのに。

変なことを考えるんだな、
ばーちゃんは。
まぁ、どうでもいいけど。
くらいな感じだった。

さて、栗田がその精肉課に配属して、
2年ほどが経過した。

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